その光の名は   作:名無なな

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ルドルフは見た。


皐月賞、舞台裏で

 皐月賞が終わり、中山競バ場は未だ激闘の熱が冷めやらぬ状態にあった。

 

「いやあ、ヴィクトリーピザ強かったなぁ! これはもう3冠確定じゃないか?」

 

「確かに! 他のウマ娘たちも前評判通りの強さだったけど、やっぱりヴィクトリーピザが1つ抜けてるよなぁ」

 

 そんな声が至る所から聞こえてくる。新世代によってトゥインクルシリーズが盛り上がるというのは我々としても歓迎するところだ。それこそがウマ娘たちにとっての幸福へと繋がるからである。

 

 かく言う私もまた、先ほどのレースの余韻に僅かながら浸っている。それほどまでに素晴らしいレースだった。

 

 

「――会長? シンボリルドルフ会長?」

 

 

 そのせいで何度も名前を呼ばれていることに気付くのが遅れてしまった。生徒会副会長のエアグルーヴがやや心配そうに顔色を窺ってくる。

 

「どうかされましたか? 最近は多忙を極めていましたから、少しお疲れなのではないですか?」

 

「いや、大丈夫だよ。心配をかけてすまない。先ほどのレースを振り返っていたんだ」

 

「皐月賞、ですか。確かに最強の世代と呼ばれるに相応しい、まさに原石同士のぶつかり合いでしたね」

 

 ターフ全体を見渡せる屋外席からだとレースの戦況が読みやすい。故に今回のレースがいかにハイレベルかがダイレクトに伝わってきた。

 

 私はエアグルーヴに問いかける。

 

「キミはこのレースをどう分析した? 聞かせてほしい」

 

「はい。勝者のヴィクトリーピザを中心としますが、やはり光ったのは彼女の戦術眼です。今回のバ場は稍重。それにより内側の芝は通常よりも荒れていた。まだ身体の出来上がっていないクラシック級ではまず内を避け、綺麗な外側の走路を選ぶことがセオリーでしょう。ヴィクトリーピザはそのことをレース前時点で既に分析していた。だからこそ外枠スタートにもかかわらず終始内側を走っていたのです」

 

 

 私は肯定と続きを促す意味を込めて静かに頷く。

 エアグルーヴの言う通り、ヴィクトリーピザは誰も走らないであろう内側をあえて走ることでスピード、スタミナ面においてアドバンテージを得た。確かに大外になればなるほど他のウマ娘たちに道を塞がれないが、内側を走ることが最短最速なのは間違いない。その代わり最終的にはバ群を抜けなければならないという難題が付きまとうが。

 

 エアグルーヴはなおも続ける。

 

「しかし他のウマ娘に真似できるかと言われればそうではありません。荒れた芝を走破するだけのパワー。最後の直線を抜け出す思考の正確性と身のこなし。そのいずれかが欠けると敗北するという、言わばハイリスクハイリターンな作戦です。クラシック級で同レベルの走りができるのはそういないでしょう」

 

「なるほど。さすがの観察眼だ、勉強になったよ」

 

 エアグルーヴは「ご冗談を」と笑った。

 

 このレースで光ったのはヴィクトリーピザの総合力の高さ。聞くところによれば彼女は世界を視野に入れているという。私が勝つことのできなかった世界。時代が変わりつつあるのだと実感する。

 

 私は背もたれに身体を預け、少しだけ目を閉じる。

 

 

「トゥインクルシリーズは今、大きな転換期に差し掛かろうとしているのかもしれないな。去年ティアラ路線で活躍した現女王、世界を見据えるヴィクトリーピザ、そしてジュニア級には怪物と評される暴君が現れた。これからはより群雄割拠の時代となるだろう」

 

 

 すると私の独り言に反応したのはやや離れた位置に座っていたナリタブライアンであった。

 

「はっ。強い相手が現れるというなら大歓迎だ。そうだろ、元女王サマ?」

 

 かつて『女帝』と言われたエアグルーヴに対し、挑発気味な発言をぶつけるナリタブライアン。強い相手に飢えているナリタブライアンも、先ほどのレースでうずいているのかもしれない。

 

 エアグルーヴはふん、とあしらうように鼻で笑った。

 

 

「女王は常に一人だけだ。彼女が私と同じ舞台まで登ってきた時、どちらが女王と呼ぶに足るかはっきりするだろう。それに白黒つけるというのなら貴様も同じではないか? 元怪物」

 

「怪物は一人だけとは限らないが、どちらが強いかはっきりさせたいのも怪物の性だ。そいつが本当に私の渇きを満たしてくれるか、今から楽しみで仕方ない」

 

 

 やる気が溢れてしまったのか、ナリタブライアンは手の平を拳で力強く打った。怪物と呼ぶに相応しい獰猛な笑みを浮かべている。

 

 彼女たちがここまで刺激されているというのも珍しい。頼もしい様子を見て、つい微笑がこぼれてしまう。

 

 

Eclipse first,the rest nowhere(唯一抜きん出て並ぶものなし)。彼女たちがトレセン学園のスローガンを体現する者であれば、遅かれ早かれ我々の前に現れるだろう。――ドリームトロフィーという舞台で」

 

 

 それにまだ他にも楽しみなウマ娘が多くいる。たとえば皐月賞3着だったエイシンフラッシュ。ヴィクトリーピザに敗れたとはいえ彼女にも光るものを感じた。彼女たちが切磋琢磨し合えば、トゥインクルシリーズはより盛り上がることだろう。

 

 そう遠くない輝かしい未来に思いを馳せ、私は独り静かに頬を緩めていた。

 

 

 




というわけで生徒会3人の皐月賞所感でした。
ヴィクトリーさんが本当にそんな思惑で走ったのかは知りません。話の流れでそうしたまでです。

ルドルフ会長はギャグマシーンも好きなんだが真面目なのもかっこよくて好きなんだ……。
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