その光の名は   作:名無なな

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ヴァルゴ杯育成難しい……。
逃げウマがいないので、差し3人で行こうかなー。


光は陰り、最強は輝く

 

 皐月賞から数日が経ち、日本ダービーまで日数的に余裕がないため、俺とエイシンフラッシュは特訓を開始していた。

 

 日本ダービーは2400メートルのレース。本番で2000メートルまでしか走ってこなかったエイシンフラッシュにとっては体力的にかなりキツいレースになることは間違いない。だからトレーニングメニューはスタミナ中心で組み立てている。

 

 しかし嬉しいことに、彼女は俺と組む以前からスタミナに関しては基準を超えていた。自主トレでひたすら走り込みしてきた成果なんだろう、長距離でも戦える素質は充分に秘めている。これなら2400メートルでも戦える……と思っていたんだが。

 

「はぁっ……はぁっ……!」

 

 今やっているのは日本ダービーを想定した2400メートル走。2400メートルでの仕掛け時なんかを試行錯誤してもらっている側面もあり、この時期にまだ好タイムは求めていない。

 

 ……そう思ってストップウォッチを握り締めていたのだが。

 

 俺の前を駆け抜ける瞬間ストップウォッチの時計を止める。良バ場基準にはなるけど、前回の勝ち時計が2分26秒。高速レースになると23秒台のときもある。それと比べるとエイシンフラッシュのタイムはかなり悪いと言わざるを得ない。

 

 皐月賞直後のコンディションや試行錯誤などの前提を取っ払っても、自身のタイムを知ったエイシンフラッシュの苦しそうな表情を見れば、理想とするタイムと程遠いということが容易に分かる。

 

 歯車がかみ合わない原因は1つ――皐月賞での敗戦だ。表面上は取り繕っていても時々沈んだ風な顔をすることがある。纏う雰囲気もどことなく重い。

 

 膝に手をつき、肩で息をしながら俯くエイシンフラッシュ。疲労はある、だけどそれ以上に思いつめた表情をしている。

 

 俺は日頃の練習データを記したメモ帳を閉じる。

 

「よし、今日はここまでにしよう。クールダウンはいつも以上に入念にして終わりだ」

 

「えっ……。ですが、予定ではあと2本2400メートル走をするはずでは」

 

「今の状態のまま走り続けたって仕方ないよ。2400メートルに苦手意識を持つ方がマイナスだ。キミも分かっているだろう?」

 

「はい……。申し訳ありません」

 

「謝ることじゃないよ」

 

 そうは言うものの、エイシンフラッシュは力なく頷くだけだった。早急に何とか力になってあげないと日本ダービーでも皐月賞の二の舞になってしまう。

 

『結局クラシックではそいつと5回戦って1度も勝てなかった。……心が折れたんだろうな。結局そのときの担当ウマ娘とは3年間もたずに契約解消になって、その娘は実家に帰っちまった』

 

 園部トレーナーの話をふと思い出す。ヴィクトリーピザとの間で格付けが完全に済んでしまえば、もはや彼女に勝つことができなくなる。そうなればエイシンフラッシュが失意のあまりトゥインクルシリーズをリタイアする可能性だってある。

 

 どうする? 頭を悩ませていると、不意にコースの外が騒がしくなった。何事ぞ、と見やるとそこにはヴィクトリーピザが記者たちに囲まれている光景があった。

 

 

「ヴィクトリーピザさんっ! 皐月賞、素晴らしいレースでしたねっ!」

 

「どうも。ま、ある程度納得のいくレースだったかな」

 

「あのレース内容である程度ですか? それでは次走も期待が持てますねっ! やはり次走は日本ダービーですか?」

 

「当然だとも。日本一を決める戦いに世界を獲ろうってあたしが出ないわけないだろ」

 

「その自信――素晴らしいですっ!」

 

 ヴィクトリーピザは取材慣れした様子で対応している。熱心に答えるでもあしらうでもなく、ただ思ったことを口にするだけといった感じだ。

 

 コースに向かってくるヴィクトリーピザと目が合った。そこへちょうどクールダウンを終えたエイシンフラッシュが戻ってきた。

 

 エイシンフラッシュは考え事をしているみたいで、ヴィクトリーピザが間近に迫ってきても気付かない様子である。

 

「よおフラッシュ。今日はもう上がりか?」

 

「っ……! ヴィクトリーさん、でしたか」

 

 声をかけられたエイシンフラッシュが驚いた風に肩を震えさせる。いつも意識しているヴィクトリーピザが視界に入らないほど、今の彼女は思い詰めているのか。

 

 皐月賞の敗北からまだ日が浅い。ヴィクトリーピザと関わらせるのはメンタル的にまずいかもしれないけど、俺はひとまず静観することにした。つまるところ、これはエイシンフラッシュが乗り越えないことには先に進めないのだから。

 

 ヴィクトリーピザについてきていた記者たちは遠巻きに2人のやり取りを窺っている。切り出したのはヴィクトリーピザだった。

 

「次の日本ダービー、当然フラッシュも出るんだろう? 皐月賞3着だったし条件的には問題ないはずだけど」

 

「……はい。ヴィクトリーさんは……聞くまでもないですね」

 

「もちろん出る。同世代のウマ娘たちを全員直接ぶっちぎらないと最強証明できないし、1度勝った程度で諦めるタマじゃないだろ? フラッシュは」

 

「……っ!」

 

 ビシッとエイシンフラッシュを指差すヴィクトリーピザ。夕陽を浴びたヴィクトリーピザは眩く輝いて見えた。

 

 そうだ。元来エイシンフラッシュは負けず嫌いな性格をしている。1度負けた程度ではへこたれないし、「次は絶対に勝つ」と静かに闘志を燃やすタイプのウマ娘だ。

 

 そんな彼女でさえ、皐月賞での負けは未だに尾を引いている。「どう足掻いてもヴィクトリーピザには勝てない」と思い始めていて、それを懸命に振り払おうとしている。理性と本能のアンバランスさ。それが今の不調に結びついているのだろう。

 

 何も言い返さない――否、言い返せないエイシンフラッシュを見て、ヴィクトリーピザは察した風に大きく呼吸をした。

 

 

「そうかそうか……。だけどあたしはもう誰にも失望したりしないよ。あたしはあたしが最強であることを疑わない。クラシック級はいずれ世界へと飛び立つ助走に過ぎない。だからこんなところで立ち直るまで待ってやることなんてできない」

 

「…………、」

 

「――――それでもあんたに関しては心配していないよ。エイシンフラッシュがどんなウマ娘かだなんて、間近でずっと見てきたんだからさ」

 

 

 そう言い残してヴィクトリーピザは記者たちを連れて離れていった。記者の内何人かは話を掘り下げたいという想いが透けて見えたが、ヴィクトリーピザの方を優先し離れていく。

 

「エイシンフラッシュのことを間近でずっと見てきた」とヴィクトリーピザは言った。エイシンフラッシュの口からはさほど詳しく聞いたことはなく、留学した頃親しくしていた程度しか知らない。ヴィクトリーピザのあの口ぶりだと、俺が思うよりももっと親密な間柄だったのかもしれない。

 

 ヴィクトリーピザの遠ざかっていく背中を目で追いながら、エイシンフラッシュはぎゅっと自身の手を握り締めた。

 

「ヴィクトリーさん……。残念ですが貴方の期待に応えられる保証はありません。だって、私は貴方に遠く及んでいないと気づいてしまったのですから」

 

「フラッシュ……」

 

 俺の位置からではエイシンフラッシュの後ろ姿しか捉えることはできないけれど、彼女が今どんな表情をしているのか想像に難くなかった。

 

 

 




日本ダービー編まで結構間が空くと思います。
ダービーはこの物語の1つの山場なので、じっくりと描写を積み重ねていきたいです。

あと、明日は仕事なので投稿できない可能性があります。
頑張って今日執筆しますが、遅筆なので間に合わない可能性が高いです。
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