構内にあるレース場にたどり着いて真っ先に目に付いたのは、外ラチに張り付く大勢のトレーナーたちの姿だった。
ある者は俺と同じくウマ娘たちをスカウトするために。
ある者はスカウト済みだが将来の強敵となり得るウマ娘を見定めるために。
発バ機とは離れた位置に陣取り、常備している双眼鏡で選抜レースに参加するウマ娘たちを眺める。
どのウマ娘たちもトレーナーたちに良いところを見せようと引き締まった顔付きの娘たちが多い。しかしそんな中、一人だけが余裕綽々といった様子のウマ娘がいた。
若干茶色がかった黒髪に、160半ばの体躯。勝ち気そうな瞳は自信家な一面を窺わせる。
彼女には見覚えがあった。園部トレーナーも口にしていたヴィクトリーピザ……デビュー前から世代最強と謳われるウマ娘だ。直に見てみると強者特有の風格があるように映る。
そして個人的に気になったのはもう一人いる。艶やかな黒のボブヘアー、ジャージの上からでも分かる豊かな胸元にくびれのある腰部。けれど細いだけの肉体では届かない、鍛えられたが故の美しさも兼ね備えているように見えた。
黒髪のウマ娘(名前はパッと出てこないが)は緊張感に呑まれている周囲とは、ましてや自信に溢れたヴィクトリーピザとも違う。待機時間を無為に過ごすのではなく、教科書通りの深呼吸をしたり股関節のストレッチをしたり、自分のペースをちゃんと持っている姿に感心したのだ。
あんな娘がいたのか、と俺は急いでタブレットを操作して黒髪のウマ娘を調べる。名前順に登録していたため、彼女の名前はすぐに出てきた。
「エイシンフラッシュ……」
そうこうしているうちにウマ娘たちが発バ機に収まり、いよいよレースが始まる段階まで来てしまった。一旦タブレットから意識を外し、レースに注目する。
――――ガコッ。ゲートが開き各ウマ娘が一斉にスタートを切った。
経験不足からかスタートダッシュに失敗する娘が数人いたが、さすがと言うべきかヴィクトリーピザは良いスタートを切り、自らの意思で中団へと身を置いた。
一方のエイシンフラッシュもまずまずのスタートからヴィクトリーピザのすぐ傍で様子を窺っている。
今回の選抜レースは1600メートル。デビュー前の身体が出来上がっていないウマ娘たちにはキツイ距離である。その証拠に先頭を走っていたウマ娘がスタミナ切れか、3コーナーを過ぎた辺りで明確にスピードが落ち始めている。
それを好機と見たか、ヴィクトリーピザが早くも勝負をかける。7番手の位置からぐんぐんと追い抜いていき、最終コーナーを回り切ったときには既に先頭に立っていた。驚異的な加速力だ。
おおっ! とトレーナーたちが湧く。優れた勝負勘に加え伸びのあるスピード、それにあの体躯からしてパワーもかなりあるだろう。世代最強という触れ込みにも頷ける強さである。
そして300メートル少々の最後の直線に入る。その頃にはヴィクトリーピザが2着以下を引き離しにかかっており、「何バ身差で勝つか」が見もののようにも思えてくる。
――しかしそんな意識の外側から、大外から抜け出してくる一人のウマ娘の姿が目に入った。エイシンフラッシュだった。
未だ中団にいたはずの彼女は最後の直線に入るや否や、切れのある末脚を使って瞬く間に2着まで順位を伸ばしてくる。さらにはヴィクトリーピザとの距離も僅かずつだが狭めてきている。
「まるで閃光だ……!」
あたかもエイシンフラッシュそのものが光と化したかのように、鮮やかな末脚につい見惚れてしまう。
しかし一時7バ身差以上離れていたヴィクトリーピザとの距離は最後まで詰め切ることができず、結局およそ3バ身差でヴィクトリーピザの勝利に終わった。
「ヴィクトリーッ!」
勝った彼女は嬉しそうにⅤサインを天に突きつけ、己が強さをアピールしている。それを観戦していたトレーナーたちもヴィクトリーピザに群がり、熱心にスカウトをおこなっている。
ヴィクトリーピザに注目が集まる中、2着でゴールしたエイシンフラッシュは肩で息をしながら、その人の輪を悔し気な表情で見つめていた。
②へと続く。
ヴィクトリーピザは原作に出てくるウマをモチーフにしていますが、性格面が分からないので何となく想像で書いています。(原作ファンの人がいたらごめんなさい。)
ちなみに感想受付が一部不可になっていたみたいなので、全受付可能に変更しました。
気まぐれでもいいので感想くれると嬉しいです