翌日。今日はトレセン内にあるフィットネスルームへと足を運んでいた。
多くの生徒が利用できるよう、器具は最新鋭かつ多数用意されている。加えて50メートルプールも併設されており、受付で簡単な手続きさえ済ませればトレーナーがいなくとも利用できる。
エイシンフラッシュは体操服姿でスタンバイしており、骨盤周りの股関節を中心に手首、足首など入念にストレッチをしている。
「昨日も思ったけど、随分とストレッチに詳しいみたいだな? 独学か?」
「はい。筋肉トレーニング前にストレッチを行うことで関節可動域が広がり、より効率的に筋肉を鍛えることができます。そして正しい方法でなければ100%の効果を得られることができません。同じ時間をやるなら最大効率で。時間は有限ですから」
教科書通りのやり方。思えば昨日の彼女の走りもお手本になりそうな綺麗なフォームをしていた。背中をピンと張りながら前傾姿勢になって腕を振る。日頃から意識づけしているのか、彼女の姿勢は背筋が伸びていて美しく見える。
必ずしも教科書が正しいとは言えないが、彼女の独学のおかげで土台がかなり固まっている。今後上積みをしていきやすいということだ。
ストレッチを終えて、まず最初にエイシンフラッシュにトライしてもらうのはランニングマシン。しかしこのマシンにはAIが搭載されており、算数・国語・社会などの基礎学問からクイズを出し、答えることで賢さを鍛えようというマシンなのである。
俺も去年試しにやってみたが、平生なら難なく回答できるレベルの問題でも、有酸素運動をしながらだとまともに答えることもできなかったのを思い出す。
「算数だと四則演算、国語だと四字熟語とかことわざ、社会だと簡単な歴史や地理とかが出題されるからね。まあどれも小・中学生レベルだからそこまで気にしなくていいよ」
「へえ。こういう機械があるんですね。なかなか面白そうです」
心なしかエイシンフラッシュはウキウキした様子で、踏み台の上に立ちスタートボタンを押す。すると踏み台がベルトコンベア式に回転を始め、徐々に速度を上げていく。
『サンスウ ノ モンダイ デス。11×11ハ?』
「121!」
『セイカイ。259+34ハ?』
「293!」
『セイカイ。――――』
このようにAIが出題していく。最初は簡単なように思えるが、速度が上がり息切れしてくると脳に酸素が回り切らず、ケアレスミスや回答に時間がかかっていく。
走ることに賢さは必要ないと思うかもしれないが、そんなことはまったくない。1人だけならまだしも、レース本番ともなれば10人以上のウマ娘が出走するわけで、どこに身を置くべきか? 仕掛け時は? 他のウマ娘の様子は? など、気を配る箇所は無数にある。それらに適切な対処をするためには、走りながらも考える力を養わなければならない。
走り始めて10分経過すると、目に見えて彼女の回答時間の長さやミスの多さが顕著になっていく。一朝一夕に身に付くものではないが、このメニューは今後も継続して続けるべきだな。
エイシンフラッシュの走りを見守っているなか、ちょんちょんと左肩を軽く突かれた。誰ぞ、とその方向を見やる。そこには既に一汗かいているヴィクトリーピザが立っていた。
短いですが本日はここまで。
次話はヴィクトリーピザとの絡みになります。
今回の賢さトレーニングは宇宙〇弟を参考にしました。