モブウマ娘 ドリームダービー -走れ!バイトアルヒクマ-   作:浅木原忍

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第118話 挑戦者は諦めが悪い

「おふたりとも、今日はゲームをしましょう! バイタルレクリエーションです!」

「はい?」「は?」

 

 相変わらずブリッジコンプとチョコチョコの冷戦状態が続く、西棟225号室。双方の休日が重なったその日、朝一番でバイタルダイナモがそんなことを言い出した。

 

「なに、委員長。藪から棒に」

 

 胡乱げに問い返したチョコチョコに、ダイナモは「ですからゲームです!」と言って、ドンとその場に置いたのは、何かと思えば最新の家庭用ゲーム機である。なんで合宿所にそんなものを持ち込んでるんだ、とチョコチョコは眉を寄せた。

 

「ええ? なにこれ、委員長の私物ぅ? 学級委員長が合宿所にゲーム機持ち込むなんて不良じゃん」

「いえ! これは昨晩レイさんがサドンアタックさんからお借りしてきたものです!」

「よーっす、おはー」

 

 ダイナモの返事とともに、部屋にソーラーレイが姿を現す。

 

「レイ? なにこれ、なんの企みよぉ」

「まーまー。チョコもそっちのコンプも今日は休みなんしょ? いつまでもいがみあってないでさー、するなら口か足以外で喧嘩しなって。平和的にー、ってやつ?」

「仲直りにはレクリエーションです! バイタル和解です!」

 

 ――ああ、要するに委員長がいい加減この対立をなんとかしようとしたわけか。

 チョコチョコは溜息をつき、ブリッジコンプの方をちらりと見やる。あの栗毛チビも仏頂面で腕を組んでいた。

 

「あのさー、委員長さぁ、仲直りってのは喧嘩した友達同士に使う言葉じゃん? あたしとこのチビにはそもそも直す仲がないの。わかるぅ?」

「では、友達作りのレクリエーションです! バイタルフレンドシップです! いかがですか、ブリッジコンプさん!」

「――いや、あたしもコイツと友達になる気なんざないんだけど」

 

 ジト目でじろりとこちらを睨んでくるブリッジコンプ。その点に関してのみ気が合うことを認めることはチョコも吝かではない。

 しかし、双方の塩対応にもバイタルダイナモはめげる様子もなく。

 

「おふたりとも、そう仰ると思いまして、バイタル豪華景品を用意しました!」

「景品? チョコチョコさんはにんじんハンバーグとかに釣られるほど安くないよぉ?」

「どうぞ、お入りください!」

 

 ダイナモが部屋の外へ声を掛ける。――と、部屋のドアを開けて顔を出したのは。

 

「――――ムニっち!?」

「!」

 

 不思議そうな顔をした、ユイイツムニだった。

 

「チョコチョコさん対ブリッジコンプさん、ゲーム対決! 景品は、本日夕方のユイイツムニさんとの1200メートル右回り併走の権利です! あ、双方のトレーナーさんの許可も取ってあります! バイタル準備万端です!」

 

 ドヤ顔で胸を張るダイナモに――チョコは思わず、ブリッジコンプと顔を見合わせた。

 

 

       * * *

 

 

 そもそもの話、チョコチョコはユイイツムニと併走しようと思えばいつでも出来るのである。同じトレーナーの担当なのだから当たり前だ。

 だから、ムニっちとの併走の権利なんて、本来チョコにとっては景品になりはしない。

 なりはしないが――かといって。

 自分のそれを、あの栗毛チビに奪われるのは我慢がならない。

 

「まったく、こんなゲーム、勝ってもあたしにいいことないじゃんさぁ」

「ふうん、負けたときの言い訳は準備万端ってこと? 用意が良くて助かるわ」

「――そっちこそ、フラグ建築ご苦労さん。きっちり回収してあげるよぉ」

 

 そんなわけで、ブリッジコンプとゲーム対決することになっていた。なんで委員長に乗せられてるんだろあたし、と疑問に思いつつも、チョコはコントローラーを握る。

 ゲームはおなじみ、アイテム妨害ありのカートレースゲームだ。国民的タイトルなのでチョコの実家にももちろんこのゲーム機と一緒にあるし、チョコ自身も腕に覚えはそこそこある。トレセン学園に入ってからは遊んでいないから、多少腕は錆びついているだろうが、少し遊べば勘は取り戻せるだろう。

 

「コンプちゃん、ファイトー!」

 

 マルシュアスがギャラリーから手を振り、「まー見てなさい」とブリッジコンプが不敵に笑う。チョコはそれを横目に、最高速トップのキャラを選択。コンプは加速力と小回りに秀でたキャラを選んでいた。チョコは小さく鼻で笑った。確かに扱いやすさはそちらが上だが、テクが同程度なら、最高速に秀でるこっちが勝つ。論理的帰結である。

 画面の中でレースがスタートする。スタートダッシュを決めて飛ばしていくブリッジコンプのカートを、チョコチョコのカートはゆっくり加速しながら追いかける。ダッシュが鈍い分、最初のアイテムでいいものを取りやすい。首尾良く前方追尾アイテムをゲットしたチョコは、発射のタイミングを伺いながらコンプのカートを追う。

 ――しかし。

 

「…………!?」

 

 速い。1周目が終わろうとする頃には、チョコはそのことに気付いていた。

 こっちも大きなミスをしていないのに、コンプのカートとの差が詰まらない。最高速ではこっちが上回っているのに――。

 間断なく繰り出されるミニターボと、的確なコーナリングで最短距離を最高速で駆け抜けていくコンプのカートに、チョコの最速のはずのカートはついていくだけで精一杯だ。

 

「――あんた、まさか、このゲーム……やりこんでる!?」

「答える必要ある?」

 

 ニヤリと笑うコンプ。くそっ、とチョコは歯がみしながらコントローラーを握りしめる。想定外だ。でも、こっちも感覚は戻ってきた。確かにブリッジコンプは上手いが、こっちもこのゲームはそれなりにやりこんできた。まだ決定的な最高速度の差でなんとかなる部類の差だ。それに向こうのカートは軽量、妨害からの復帰も早いが、その分吹っ飛ばされやすい。重量差でコース外に弾き飛ばしてやる!

 ファイナルラップでようやくコンプを射程距離に捕まえたチョコは、大事に抱えてきた妨害アイテムをここしかないタイミングで発射した。ここなら絶対に当たる――!

 だが、次の瞬間。

 コンプのカートは、ジャンプからの華麗なドリフトで、追尾アイテムを壁にぶつけて排除、全く減速することなくかわしきっていた。

 

「なっ――」

「1周目のアイテム溜め込んでたことぐらい、そっちの音聞けばわかってんの! あとはこのコースで撃ってくるならここしかないことなんて、小学生でもわかるっての!」

「――――――ッ」

 

 完璧に読み負けた。決定打を逃したチョコは逆に自分が壁に当たって減速してしまい、あとはコンプのカートの背中を見送るばかりの2着でフィニッシュ。

 

「勝者、ブリッジコンプさん!」

「っしゃあ!」

 

 ダイナモが笑顔でそう宣言し、ブリッジコンプが力強くガッツポーズ。

 ――馬鹿な。それなりにこのゲームには自信があった。まさかこんな……完敗を。よりにもよって、ムニっちの前で、あのチビに……!

 

「…………チョコ」

 

 背後から、景品にされたムニの声。

 チョコは奥歯を噛みしめて、コントローラーを握り直した。

 

「いぇーい!」「いぇーい!」

 

 ハイタッチをしているコンプとマルシュアスを横目に、チョコは大きく息を吐く。

 

「……委員長、まさかこのゲームで一本勝負とか言わないよねぇ?」

 

 チョコの言葉に、ダイナモは目を見開き、それからソーラーレイと何か目配せして。

 

「もちろんです! バイタルレクリエーションです、たくさん遊びましょう! まずはこのカップ4コースの合計ポイント勝負です!」

「上等」

 

 ダイナモの言葉に頷いたチョコに、コンプがにやりと笑う。

 

「へぇ、いいの? 今ので実力差は弁えたものだと思ってたけど。大好きなそこの三つ編み眼鏡の前でわざわざこれ以上恥かく必要ある?」

「――やられ役の台詞じゃんそれさぁ、吠え面かかせてあげるよチビ」

 

 第2コースのレースが始まる。チョコとコンプは画面に向き直り、コントローラーを強く握りしめた。

 

 

       * * *

 

 

 ――数時間後。

 

「勝者――ブリッジコンプさん!」

「っしゃああああああっ!」

 

 結局、収録48コース全てを走破する死闘の末、僅かなポイント差で軍配はコンプに上がった。いつの間にか色んな部屋から集まってきたギャラリーからも歓声が上がる中、コンプは高々とガッツポーズし、チョコはコントローラーを握りしめたまま畳の上に突っ伏した。

 勘が戻ってからはほぼ互角だっただけに、序盤、勘を取り戻すまでにつけられたポイント差が痛かった。収録コース全部をぶっ続けでプレイし続けて指が痛い。

 ――ああもう、なにやってんだか、あたし……。

 ふと冷静になって、チョコは溜息をつく。何を熱くなっていたのだろう、たかだか1回の併走を賭けたゲームなんかに。こんなレースゲームであの栗毛チビに負けたからって、何の意味があるわけでもないのに――。

 

「というわけでブリッジコンプさんには、賞品のユイイツムニさんが進呈されます! バイタル祝福です! おめでとうございます!」

「いや別にこの三つ編み眼鏡自体が欲しいわけじゃないけど!?」

 

 ダイナモとコンプの声に顔を上げると――ダイナモに背中を押されたユイイツムニが、ブリッジコンプの後ろにちょこんと座っていた。小首を傾げたムニは、

 

「……じゃあ、併走、しないの?」

「いや、それはする! してやろーじゃないの!」

 

 ムニの問いに、コンプは慌ててそう答え。

 ――ムニがその答えに、ふっと嬉しそうに微笑んだのが、見えた。

 

 

 なにさ、その顔。

 なんでその栗毛チビに、そんな――そんな嬉しそうな顔、するのさ。

 なんで、なんで、なんで――っ!

 

 

「~~~~~~っ、待ったぁぁぁっ!」

 

 咄嗟に。冷静になる間もなく、気付いたときにはチョコはそう叫んでいた。

 ギャラリーの、ダイナモの、――そしてコンプとムニの視線が一斉にこちらを向く。

 こんなのみっともない。格好悪い。情けない。――そんな声が脳内に響く。

 だけど、それ以上に。

 あのチビが、自分に勝ったことを、ムニっちが喜んでいるのが――納得いかない!

 

「まだ終わってない! DLCの追加コースあるでしょぉ! もういっぺん勝負しろブリッジコンプ! ムニっちと一緒に走るのは――あたしだっ!!」

 

 勢いのままに、そう叫んで。

 ――直後に冷静になったチョコは、我に返って固まった。

 一瞬の静寂。――そして。

 

「……ふぅん? いいじゃない、もっぺん返り討ちにしてあげる!」

 

 コンプが再びコントローラーを握ると、ギャラリーから歓声があがる。

 

「おーっと今度はチョコチョコ選手からブリッジコンプ選手へリベンジマッチの申し入れだー! ブリッジコンプ選手もこれを受け入れたー! 勝負続行! バイブス上がるぜFuuuu!」

 

 ノリノリで実況するソーラーレイと沸くギャラリー。その中で恥ずかしさに頭を掻きむしりたくなって、「あああああ……」と呻いたチョコに。

 

「……チョコ」

 

 歓声の中、ムニの声が届いて、顔を上げると。

 

「……がんばって」

 

 ほんの少し――嬉しそうに、ムニがそう言った。

 

「――――あああああっ、もうっ、やってやろうじゃんさぁぁぁぁっ!」

 

 ヤケになってチョコチョコはコントローラーを握る。ブリッジコンプも少し楽しげに横目でそれを見やり――そして、第2ラウンドが始まった。

 

 

       * * *

 

 

 そして、夕刻。

 

「……なんで最終的に勝ったのあたしなのに、あんたがいるのさぁ」

「勝ったのはあたしでしょーが。あんたは勝手に延長戦挑んできただけでしょ」

 

 第2ラウンドは結局僅差でチョコチョコが勝利し、ユイイツムニが双方と1回ずつ併走するということで落ち着いた。合宿所のグラウンドでウォーミングアップしながら、チョコとコンプは視線を合わせることなく、先にグラウンドに出たユイイツムニを見ている。

 

「――あんた、あの三つ編み眼鏡のどこがいいわけ?」

 

 不意にコンプからそう問われ、チョコは小さく唸って押し黙る。

 ダイナモ委員長には何か誤解されている節があるが、別にそういう感情のつもりはない。ただ――。

 

「……なんか誤解されても困るんだけどさぁ。自分より強い同期のルームメイトが気にならないウマ娘なんざいるぅ?」

「ま、それもそーね」

 

 コンプは嘆息し、それからちらりとチョコの方を見やる。

 

「……言っとくけど、今後もあんたと仲良しこよしする気はないから」

「そんなの言われるまでもなくこっちも願い下げよぉ」

 

 鼻を鳴らすチョコに、けれどコンプは小さく笑って。

 

「――まあでも、ムカつくだけの奴でもないってことは認めるわ」

「は?」

「うっし、んじゃ併走はあたしが先だかんね! 大人しく見てなさいよ!」

「あっこらちょっと――つーか、なんであたしがあんたにそんな上から目線で認めてもらわなきゃいけないのさぁ、おいこら栗毛チビ!」

 

 ユイイツムニの方へ駆け出していくコンプに、チョコは吼える。

 黄昏時の合宿所に、ウマ娘たちが駆ける足音が軽快に響いていた。

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