モブウマ娘 ドリームダービー -走れ!バイトアルヒクマ-   作:浅木原忍

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第16話 世代2強の平凡な日常

「あ~~~、疲れた」

 

 トレーニングを終え、シャワーを浴びて汗を流し、寮の部屋に戻ってきたジャラジャラは、そのままばったりと自分のベッドに倒れこんだ。ベッドの柔らかさが睡魔を誘う。目を閉じてその誘惑に身を任せていると、無粋な声が自分を呼んだ。

 

「ジャラジャラさん、課題ちゃんとやりました?」

「……ジェネ、人がせっかく開放感に浸ってるところに水ぶっかけないでよ」

「何が開放感ですか。貴方を縛れる人なんて誰もいないでしょうに」

 

 腰に手を当てて呆れ顔でジャラジャラを見下ろすのは、ルームメイトのエレガンジェネラルである。ジャラジャラは寝返りを打ってジェネラルを見上げた。

 

「後でジェネが写させてくれりゃいいじゃん」

「ダメです。課題はちゃんと自分でやってください」

「ケチー。だいたいなんで課題なんか出るんだよ。あたしらトゥインクル・シリーズで走るためにこの学校来てるってのに」

「トゥインクル・シリーズで走る前に、私たちは中学生。義務教育の身ですよ」

「真面目かー! この優等生ー!」

「ジャラジャラさんが不真面目なだけです。ほら起きて。写すのはダメですけど、手伝うぐらいはしてあげますから」

「ひゅー、さすがジェネちゃん優しい」

「……やっぱり全部自力でやってください」

「ああん将軍閣下、ご慈悲を~」

「将軍って呼ばないでください!」

 

 口を尖らせるジェネラルに、ジャラジャラは笑ってベッドから身を起こす。

 

「わかったわかった。じゃああたしが課題終わらせたらなんかご褒美くれ、ご褒美」

「……ご褒美って、なんですか?」

 

 訝しんで眉を寄せるジェネラル。その短くした前髪の下、広く露わになったおでこに、ジャラジャラが手を伸ばすと――ジェネラルはびくっと身を竦めて、その手から逃れるように身を引いた。ほのかに顔が赤い。ジャラジャラはにやりと笑う。

 

「な、なんですか、ジャラジャラさん」

「そのおでこ、いっつも気になるんだよなあ。ちょっと触らせて」

「いっ、嫌です! ジャラジャラさん、何か目つきが怪しいですよ!」

「ふっふっふ、よいではないか~」

 

 顔を赤くして逃げるジェネラルの反応が面白くて、ジャラジャラはわきわきと手を動かしながらジェネラルに迫る。狭い寮の部屋の中、追いかけっこはそう長く続かず、

 

「うりゃっ」

「ひゃっ」

 

 ジャラジャラがジェネラルをベッドに押し倒して、「ひっひっひ、捕まえた」と覆い被さる。「こ、これじゃレースと立場が逆です!」とわけのわからないことを言うジェネラルを押さえつけ、その短い前髪に手を伸ばし、

 

「もしも~し? 何の騒ぎかしら~?」

 

 その瞬間、ガチャリと部屋のドアが開いた。

 ジャラジャラが鍵をかけ忘れたドアの向こうに現れたのは、隣の部屋のウマ娘、オータムマウンテンである。オータムは、ジェネラルをベッドに押し倒したジャラジャラの姿にその目をまん丸に見開くと、頬に手を当てて「あらあらあら~」と微笑んだ。

 

「お邪魔してしまいましたか。どうぞごゆっくり~」

「ちっ、ちが、誤解ですー!」

 

 笑顔で立ち去ろうとするオータムの背中に、ジェネラルの悲鳴が響き渡った。

 

 

       * * *

 

 

「オータム、隣の部屋なにしてたんだ?」

「スヴェルちゃんは知らなくていいことですよ~」

「なんだよそれー!」

 

 頬を膨らませるデュオスヴェルに、オータムマウンテンはただ笑っていた。

 

 

       * * *

 

 

 昨日のドタバタ以来、ジェネラルが口を聞いてくれない。

 翌日のトレーニング後。寮の廊下を歩くジェネラルの背中を、ジャラジャラは小走りに追いかける。

 

「おーい、ジェネ」

「…………」

「ジェネちゃーん、昨日は悪かったって」

「…………」

「なあ、謝るからさあ」

「…………」

「なんか答えてくれませんかね、将軍閣下」

「…………」

 

 どうやらわりと本気で怒っているらしい。今朝は自分を起こさず先に行ってしまったし、将軍という女の子としては厳つい名前を気にしているジェネラルが、その呼び名に対しても反応しないのはよっぽどだ。どうしたもんかなあ、とジャラジャラは頭を掻く。

 やっぱりアレか、押し倒したのがマズかったか。いやしかし、おでこぐらい触らせてくれてもいいだろうに、あんな過剰反応されたら弄りたくなってしまうではないか。自分のことは棚に上げてジャラジャラは思う。

 しかし、無視されっぱなしも癪に障る。謝罪もさせてくれないのではどうしようもない。

 よし、くすぐってやろうか、とジャラジャラは両手をわきわきと動かし、ジェネラルの背後からその脇腹に、手を――。

 伸ばそうとしたところで、不穏な気配を感じたジェネラルが足を止めて振り返る。

 

「…………」

 

 ぱっと両手を後ろ手に組んで、視線を逸らし口笛を吹くジャラジャラ。

 それを軽く半眼で睨んで、ジェネラルは再び前を向く。

 ジャラジャラは再びその脇腹に狙いを定め、

 振り返る。口笛。ジェネラルは「……ああもうっ」と大きく息を吐き出した。

 

「ジャラジャラさん」

「お、やっと口聞いてくれた」

「何をしようとしてるんですか。小学生ですか貴方は」

「童心を大切にしてるんだよ、あたしは」

「そんな童心は中学生になったときに捨ててください」

 

 嘆息して首を振るジェネラル。自分よりやや背が高いジェネラルから、そういう風に言われると、なんかますます癪に障る。同い年のくせして年上ぶってこの、とジャラジャラは頬を膨らませ、

 

「隙ありっ」

「ひゃっ」

 

 そのジェネラルの顔に手を伸ばして、頬を両手で挟み込んだ。

 

「な、なにするんですか、ジャラジャラさん」

「ほらほらジェネ、怒ってばっかいるとシワが取れなくなるぞ? 笑って笑って」

「誰のせいだと思ってるんですか! 放してくださいっ」

「ほれ、にーっ」

 

 ジェネラルの口角を持ち上げるように、その柔らかい頬を両手で弄り回しながら、こいつのほっぺためっちゃ柔らかいな? とジャラジャラは思う。

 

「ジェネ、誤解は解いておきたいんだけどさあ、あたしはいっつもジェネに感謝してんだよ? ジェネのおかげで遅刻しないで済むし」

「自分で起きてくださいよ……」

「つまり、これはあたしなりの感謝と親愛の表現なわけ」

「……ジャラジャラさんは距離感がおかしいんです」

「そうかあ? このぐらい普通のスキンシップだろ?」

「まずスキンシップを普通だと定義しないでください。欧米じゃないんですからっ」

 

 ジャラジャラの腕を掴んで、ジェネラルはその手を引き剥がそうとする。ジャラジャラはそれに抗うように、ぐっとジェネラルの顔に自分の顔を近づけた。

 間近に迫ってきたジャラジャラの顔に、押さえたジェネラルの頬が赤くなる。

 

「あの、ジャラジャラさん、近いですからっ」

「いや、こーして見るとジェネも可愛い顔してんなーって思って」

「なっ――――~~~~~ッ」

 

 息を飲んで、ジェネラルは真っ赤になって身じろぎする。

 

「じゃっ、ジャラジャラさん! いい加減にしてください!」

 

 ぎゅっと目を瞑るジェネラル。いやホントに可愛い反応するなあ、とジャラジャラがそれを楽しんでいると、

 

「――あ」

 

 ばったり、その場に見覚えのある顔のウマ娘が現れた。

 ――いつぞや、ネレイドランデブーから預けられて併走した、マルシュアスである。

 マルシュアスは、真っ赤な顔で目を閉じたジェネラルと、その頬を両手で包んで顔を近づけているジャラジャラという、その場の光景に目をまん丸に見開くと、

 

「お……大人だああああああああ!」

 

 口元を両手で覆って、そんなことを叫びながら、真っ赤になって脱兎のごとくその場を走り去っていった。

 

「…………」

「…………」

 

 ジャラジャラとジェネラルは、固まったままその背中を見送って。

 

「ごっ、ごごごっ、誤解ですってばー!」

 

 エレガンジェネラルのその悲鳴は、やっぱり相手に届くことはなかった。

 

 

       * * *

 

 

 リボンエチュードが寮の部屋で課題をやっていると、ルームメイトのマルシュアスが息せき切らせて部屋に駆け込んできた。エチュードは目を丸くする。

 

「ど、どうしたの、マルシュちゃん」

「え、エチュードちゃん……や、やっぱり、大人って進んでるんだね……」

「???」

 

 真っ赤になってベッドに倒れこんでじたばたするマルシュアスの姿に、リボンエチュードはわけがわからず、首を捻るしかなかった。

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