モブウマ娘 ドリームダービー -走れ!バイトアルヒクマ- 作:浅木原忍
4月4日、木曜日。桜花賞の最終登録が締め切られ、出走18人が確定した。
そして翌日、トレセン学園にて出走ウマ娘の合同記者会見が開かれた。
事前投票4番人気、阪神JF3着、チューリップ賞2着、エブリワンライクス。
――青森からこのトレセン学園にやってきて、クラシックに挑む、今のお気持ちを。
「いやあ、まさかあたしがクラシックに出られるなんて、夢みたいです。まだ重賞勝ってないのに4番人気なんて、ちょっと畏れ多いというか……」
――過去の重賞3戦、いずれも負けてなお強しという内容でした。
「勝てなきゃ一緒ですって。――でも、だからこそ、今度は勝ちたい……いや、勝ちます」
――日曜は雨予報ですが、道悪には自信があるとか。
「地元で泥んこになって走り回ってましたから。ヤワな都会っ子には負けません! 泥まみれになっても、絶対に勝ちたいです!」
――ファンの皆さんへメッセージを。
「ええ? いやあ、あだしみてっだ地味な田舎モンさファンだなんで……あ、いやいやいや、あのええと、おっ、応援よろしくお願いします!」
事前投票3番人気、ホープフルS4着、チューリップ賞1着、バイトアルヒクマ。
――ドバイシーマクラシック、昨年の桜花賞ウマ娘テイクオフプレーン選手が先日二着と好走しました。来年に向けて、続きたいところですね。
「はい、でも今は、目の前の桜花賞で、勝つことだけ考えてます!」
――ジャラジャラ選手、エレガンジェネラル選手とは、トゥインクル・シリーズ公式戦では初対決となりますが。
「どっちもすっごくすっごく強いけど、わたしもトレーナーさんと一緒に強くなったから、きっと勝てるし、絶対勝ちたいって思います!」
――残念ながら故障で回避となったミニキャクタス選手とは、プライベートでも仲が良いとのことですが。
「えと……キャクタスちゃんの代わりにはなれないし、エチュードちゃんの代わりにもなれないけど、でも、ふたりが戻ってきたとき、二冠ウマ娘として胸を張りたいです」
――エチュードちゃんというのは、同じトレーナーの担当の、リボンエチュード選手?
「うん、ふたりとも桜花賞出られなくて、すっごく悔しいはずだから……ふたりと走れないのは寂しいけど、わたしはわたしのレースをして、がんばります!」
――ファンの皆さんへメッセージを。
「ふえ? ええと……桜花賞、絶対勝ーつ! と、わたしはクマじゃなくてバイトアルヒクマだから、覚えてね!」
事前投票2番人気、阪神JF2着、エレガンジェネラル。
――阪神JFからの直行ですが、調子のほどは。
「万全です。それがレースに臨む者の義務ですから」
――プライベートでも親しいというジャラジャラ選手と2度目の対決。多くのファンもどちらが強いのか、楽しみにしていると思います。
「別にジャラジャラさんと親しいというわけでは……。ルームメイトなだけです。それに、対戦相手はジャラジャラさんだけではありませんから。もちろん彼女が強敵であることは否定しませんが、一緒に走る17人全員がライバルだと考えています」
――では、ジャラジャラ選手の他に注目されている選手は?
「敢えて言うこともないでしょう」
――当日は雨予報ですが、何か勝利への秘策などは?
「戦術に関しては機密事項です。トレーナーを通してお願いします」
――ファンの皆さんへメッセージを。
「この名に誓って、二度続けての敗北はありません。応援よろしくお願いします」
事前投票1番人気、阪神JF1着、ジャラジャラ。
――ジュニア級ではまさに圧巻のパフォーマンスでした。クラシック級でもいったいどんな走りを見せてくれるのか、ファンの期待も大きく高まっています。
「あー、どんな走りも何も、いつも通り逃げるだけっすよ」
――エレガンジェネラル選手もリベンジに燃えているかと思いますが。
「んなこた百も承知っすけど。だいたいあのミニキャンパー……じゃねーや、ミニキャクタスの奴がつまんねー怪我しやがったのが悪いんで。とりあえず、敵はジェネと、あとあのクマぐらいっすかね。これで勝ったらまあ、もう充分っしょ」
――充分、といいますと?
「おんなじ相手何度もボコってもしょーがねーっすから。桜花賞勝ったらそーっすね、とりあえずダービーでも行ってみるかな」
――勝ったら、ですか? トリプルティアラを蹴ってダービーへ?
「何度も言ってんだけどなあ。別に勲章が欲しくて走ってるわけじゃねーんで。もちろん、ダービーにジェネより強い奴がいるならですけど。その後は、ま、宝塚っすかね。さっさとシニア級と戦いてーんで」
――た、確かに、桜花賞からダービー、宝塚というローテの前例はありますが……。
「ん? へー、前にやった奴いんのか。ま、とにかくあたしは強い相手と戦いてーだけなんで、勲章の話とかいい加減やめてくんねーっすかね。頭悪いんじゃないんだったら、おんなじ説明何度もさせねーでくれます?」
――ふぁ、ファンの皆さんにメッセージを……。
「別にあたしから言うことなんざ特にねーけど……強けりゃ応援されるし、弱けりゃバカにされる、それだけっしょ。それで結構っすよ」
* * *
「なんですか、あの会見は。みんな唖然としていましたよ」
ジャラジャラが部屋に戻ってきたところで、エレガンジェネラルは腕組みしてルームメイトを迎えた。「あー?」と頭を掻いたジャラジャラは、疲れたような息を吐いてジェネラルを無視してベッドに倒れこむ。ジェネラルは溜息をついてスマホを置いた。
――チェックしていたSNSでは、ジャラジャラの会見に対する賛否両論が渦巻いていた。「いくらなんでも礼儀がなってない」「他の出走ウマ娘やダービーを馬鹿にしすぎ」といった批判から「実際ダービー出ても勝つだろ」「桜花賞とダービーの変則二冠見たいから勝ってほしい」という外野の勝手な声、「いいぞもっと言ってやれ」「負けたら叩いていいって自分から言うウマ娘初めて見たけどこういう無頼タイプ嫌いじゃない」「これで実際サウジRCも阪神JFもアホみたいに強かったからなあ」といった好意的な反応まで。
注目を集めるウマ娘が好き勝手言われるのは誰しもそうである。あのリードサスペンス会長だって現役時代は他のウマ娘のファンのやっかみから単なるアンチの誹謗中傷までいろいろ言われていたものだ。
ジェネラル自身だって、わざわざ調べるほど暇ではないが、自分がなんやかんやと言われているだろうことは想像がつく。その上で、そんな雑音は気にすることはないと割り切ってはいるが――。
「お前の猫百匹ぐらい被ったつまんねー会見よりはマシだろ?」
「別に猫を被っているつもりなんてありませんが。全て本心ですよ」
寝転がって退屈そうに頬杖をつくジャラジャラに、ジェネラルは嘆息して答える。
「本心、ねえ」
ごろりと仰向けになって、ジャラジャラは天井を見上げた。
「あれが本気で本心だってなら、お前と戦うのは日曜が最後だろーな」
「――――」
「つまんねーレースされんのは、怪我されるより御免だぜ」
「……別に、私は貴方を楽しませるために走っているわけではありませんから」
そう答えて立ち上がったジェネラルは、ジャラジャラが寝転んだベッドに歩み寄った。そしてそのベッドに腰を下ろして――ジャラジャラの鼻をつまむ。
「むがっ、へねっ、あにふんはっ」
「世間に対する礼儀のなっていないルームメイトに対する教育的指導です」
「うるへーよ、お前はあたしのオカンか教師かっての」
「母親にも教師にもなる気はありません。私がなるは、大口を叩く恥ずかしい同期を徹底的に叩きのめすトリプルティアラのウマ娘です」
――その言葉に、ジャラジャラは目を見開いて。
そして、身体を起こして、獰猛に笑った。
「そーゆーことを言えよ、会見でさ」
「外野が既に好き勝手に盛り上がっているのを、わざわざマイクパフォーマンスで煽る趣味はありませんから」
「ほんっと外面だけは優等生だな、お前は」
「どこかの誰かさんのように無頼を気取ったパフォーマンスをするより、この方が何事も円滑に回りますからね」
「うっせーよ。あたしの方が100パー本心だっての。――あたしにダービーに逃げられたくなかったら、せいぜいあたしを楽しませろよ、ジェネ」
「貴方を楽しませる趣味はないです。つまらなくて結構。ただ、私が勝ちます」
それだけ言って、ジェネラルは立ち上がる。
「どこ行くんだよ」
「トレーナーのところです。最後のデータ分析をするので」
「あっそ。意味ねーと思うけどな。敵はあたしだけだ、だろ?」
「――せいぜいそうやって自惚れていてください。足元を掬われても知りませんよ」
そう言い残して、ドアを閉めようとした、そのとき。
「へーへー。……ん? 今からトレーナーんトコ戻るなら、なんでお前この部屋に戻ってたんだ?」
「…………着替えるためです」
「んなもん、トレーナーんトコで着替えりゃいーだろ。なんだよジェネ、ひょっとしてお前あたしに『会見ではああ言ったけどホントはライバルだと思ってるのはジャラジャラさんだけですぅ』って言いたくてわざわざあたしのこと待ち構えてたのか? お前やっぱりあたしのこと好きすぎ――」
ジェネラルは、力の限りに叩きつけるようにドアを閉めた。
桜花賞まで、あと2日。