「随分レトロな船使ってるねえ。何シーズン前だい?」
補給のために立ち寄った少し大きめの惑星で知り合い、話しているうちにエンジニアとして迎え入れることにした男がしげしげと船を眺めて声を上げる。
少し伸びた茶色の髪を青のリボンで結んだ、彼からしたら父親よりかは少し下くらいの風貌をした男。エンジニアと言われれば確かに歴戦の貫禄を感じたので是非にとお願いしたものの、
「ごめんね、クラスも明かさずに買える安いのってこういうのしかなくて。ガッカリした?」
黒髪の少年は申し訳なさそうに眉を寄せる。
「いや全然」
いくら気があって頼もしいと思って誘ったにしても、契約金は支払うとはいえ無理強いはさせられない。
前説もなく博物館に展示されているレベルのおんぼろな船を任せてしまう彼の負い目とは逆に男はやはり悠然としていた。
「オジサンも昔はそれなりに頑張って勉強してたけどねえ、今の最新機器にはついていけてないよ。こいつとおんなじおんぼろだからさ、むしろ相性抜群。まかせてくれよ」
そうからからと笑ってくれる姿に「そっか」と彼は安心の息を吐く。
話して感じた通りにいい人そうで良かった。そう頬を緩める彼に「そういえば」と男は問う。
「目的地はあるのかい?」
「うーん、特別どこって場所はないんだけど」
地図を広げて根を持たない流浪の少年はトンと指を置く。
「とりあえずトロイアに行こうかなって」
「トロイア」
無邪気に指された惑星に、一瞬わずかに男の瞳が揺れる。
「嫌だった?とりあえず遠いところに行ってみようってだけだから変えてもいいよ?」
「いいや。嫌とかじゃないさ」
その一瞬を彼は見逃さなかった。
気遣うように彼は伺い首を傾げ、それに男は誤解なきよう首を振った。
「随分前に滅んだ惑星だから、今さら何にもない場所に何でかなあって思っただけ。異論はない。行こう」
その言葉に、彼はまた安心したように笑みを浮かべる。
「そう?ならいいけど。行きたい場所が出来たら言ってよ。状況にもよるだろうけどいつでも変えれるからさ」
一応、とりあえずは、最低限の了承は確認出来たと彼は機嫌良く船内に向かう。停泊期限までの短い間に追加の準備だ契約書だと細かな作業を済ませねばならないのだから。
一人旅から二人旅に。
気ままさはいくらか減ってしまうのは仕方ない。でもきっとその分賑やかで楽しい旅になる。そんな楽観さ溢れる彼の背中に男は音なく「やれやれ」と息を吐く。
「こんなところで逆戻りになるとはねえ」と。
だがそれも、彼とならば悪くないと思っているのは事実で、
「そうそう、言い忘れてたけど」
男の真意を知らぬまま彼は告げる。
「オレのクラスは『マスター』だから」
「へ?」
またも思わぬ虚を突かれて目を丸める。
「絶滅危惧種じゃん」
「うん。だから。あんまり言えなくて」
おかげで船の購入の際にクラスも明かせなかったと語るのも納得がいく。
この宇宙で力を持たずサーヴァントに力を与える能力に特化したサーヴァントではない存在。人間。
マスターの支援による上昇値は定かではない。だがその無力さと希少さ故に鴨にされる可能性はいくらでもある。
大いに納得はある。
「なんでオジサンにそんなこと言うの?」
黙っていればいいものの。
船を買うときだって言わなかったのに。
人の良さそうなふわふわとした雰囲気の彼に念のために問うてみる。
「だって一緒に旅をするんだもの。これくらいは言っておかなきゃ」
そりゃあそうかもしれないけれど。
ほぼほぼ予測通りの返しを掛け値も屈託もない善意しかない笑みで告げる彼に男はまたやれやれと内心で息を吐く。
これはまた、ほっとけない奴にひっかかってしまったものだ。
彼の中でどのような確信が得られたのか分からないが出会ったばかりの男によくもまあ。
「まあそういうわけで、何かあったらエンジニアってだけじゃなく頼っちゃうこともあるかも。オレも微力ながら手伝いはするからさ」
「へいへい。オジサンもしがないランサーとして頑張りますよ。そんときゃ特別手当てでもお願いしますかね」
「うん、よろしく。お願いね?ヘクトール」
かくして放浪のエンジニア兼ランサーのヘクトールはこれまた放浪のマスター藤丸立香と契約し長いような短いような旅に出ることになる。
その道中はのんきでもありせわしなくもあり、騒動に巻き込まれたり飛び込んだりと日々目まぐるしく
「ヘクトールぅ!大丈夫!?大丈夫なの!?計器全部赤いんですけど!?」
「大丈夫大丈夫。これで駄目ならふたり仲良く捕まるか爆発するかってだけだから」
「それ大丈夫って言うかなあ!?」
彼の思い切りにヘクトールが振り回される時もあればヘクトールの大胆不敵に彼がしがみつくしかない時もあり
「さあマスター、行くも戻るも地獄しかないこの局面。オジサンに全額賭けてくれるかい?」
「勿論!全部あげちゃう!突っ切って!」
「了解!」
結局最後はふたり揃って限界振り切って駆け抜けて、ボロ雑巾のようになった心身その辺に転がすハメになることも多々にあり、それでも「悪くない」と笑いあう日々が重なっていく。
遥かに広がり多くのシーズンを迎えていくサーヴァントユニバース。彼らの旅と成したことは、その中にある数多のきらめきの誰も掬うこともないたった一粒でしかない。
けれどそんな一滴の思い出だって確かに幸福であった。そう言っても差し支えはないのだ。