ヘクトールとぐだ男の短編まとめ2   作:なまきいろ

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秘密のレッスン

 マリーの夜会に稀に誘われる縁もあり、マスターである彼もほんの少しだけ踊れたりする。ほんの少しだけ。

 人理のための訓練だ勉強だで元々それほど自由に出来る時間は多くない彼なので、練習の時間もそれほど取ることは出来ない。だから踊れるのはほんの基礎だけ。踊れると言うのもおこがましいくらい、リズムに外れないようステップが踏める。くらいのものだ。相手の足を踏まないだけ及第点。というところではないだろうか。

 だから招待されるがままに夜会に行ったところで相手を優しくエスコート、なんて出来ないけれど。むしろいつだってリードされてしまうわけだけど。

 それでも笑顔で「楽しかったわ」「またいらしてね」と言われれば頷いてしまうし招待状が届けばその通りに向かってしまうのだけど。

 かといって彼も付き合いだからとかマスターとしての勤めだからとかで通っているわけでもない。純粋に楽しいと思っているから喜んで応じているところだってもちろんあるのだ。

 だって、絶対に普通に過ごしていたら体験できないキラキラなのだ。間違いなく縁のない優雅で高級で夢のような場所なのだ。体験出来るうちにしなければと浮き足だってしまうのだ。あんな不恰好な踊りの自分でも嫌な顔せず誘ってくれているのだってとてもありがたいことし嬉しいことであるのだから。

 けれどちょっとは上達したいという気持ちももちろんある。ちょっとはかっこいいテレビやポスターみたいになってみたいだとか、優雅にリードだってしてみたいという気持ちもあるのだ。どう頑張ってもちょっと背が足りないのはどうしようもないけれど、ちゃんと雰囲気に見合う自分になりたい。くらいの欲があるのだ。

 だからせっせと訓練や作戦や勉強の合間を縫っては時間をこじ開けて、練習に勤しみたいというのに

 「わっ、わわっ、わっ、とぉっ!?」

 気まぐれな練習相手が出鱈目なステップで翻弄しては急速に切り返されたりテンポを変えられたり。転ばないようにするのがやっとで、身体はがっちり支えられているので転ぶことも許されていない気がする。こんなところでサーヴァントと人間の体格差と力の差を叩きつけないでほしい。

 「ちょっ、ちょっとヘクトール!真面目に、」

 「いーじゃん今日くらいは」

 「良くないよぉ!?」

 辛うじて出した抗議の声は容易く笑い飛ばされて回される。

 今日のヘクトールはいつになくご機嫌だ。

 いやむしろ不機嫌なのか?回されすぎてくらめく脳に可能性がふとよぎる。

 実はヘクトールは練習のためとはいえ女性型のステップを踏むのは嫌だったのではないのかと。

 決して拝み倒して強制したわけではないのだけど。むしろ誰に頼めばと考えていた時に「練習相手だけなら」とひょこりと立候補されたくらいなのに。座に登録されている知識の流用だろうとはいえ、それはそれはしなやかに女性型をこなしてくれていたというのに。大変感謝はしている。

 ならば男性型も踊れるだろうと一緒に夜会に誘ってみても「オジサンああいうきらびやかな場所はちょっと」だとか「オジサンの時代にはなかった文化ですから行ってもみっともないだけですよ」とかのらくらと断るばかりだというのに。(ならばみっともなくとも参加している自分はなんなのだ)

 「はい、くるくる~」

 「ヘクトールーーー!」

 乱雑なリズムの足音ととびきりに上機嫌な声と届かない怒号だけが練習場に響く。

 

 結局この日は練習にならず、三半規管がおかしくなって体力が全部削げ落とされるまで振り回されて終わってしまい、次の夜会でもやはりリードなど夢のまた夢というほどにたどたどしくい足取りのままなのであった。

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