ヘクトールとぐだ男の短編まとめ2   作:なまきいろ

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君と一番の綺麗を

 カルデアのシミュレーターに日時と国を指定すると空模様まで再現してくれるらしい。流石表向きは天文台。こだわりがある。

 というかそのようなデータを収集して再現することから観測出来る事象とか立てられる理論とかもあるのかもしれない。

 詳しく知る暇も、ひょっとしなくでも権利もなさそうだけど、本来ここはそういう真面目な魔術の研究施設であるらしいのだから。

 「それでマスターはどうして日本の9月にオジサンをご招待してくれたんだい」

 「じ、自分が知っている一番綺麗な夜が、9月の夜だから……」

 「そっかあ。楽しみだねえ」

 だから決して、今の自分のように訓練のついでにちょっと景色を楽しもうなんて邪さのために存在している機能ではないのだ。

 マスターとしてもっと真面目にやらなくてはいけないのに。大いに反省するもそれでもどうしても一緒に月が見たかったしこれからへの高鳴りは止まらなかった。悪い子であると重ねて反省する。

 特に咎めることもなく笑顔のふたつ返事で許可を下ろしてくれた皆に感謝である。せめて後で差し入れをしよう。

 設定の通りの晴れ渡った夜に煌々とした月がぽっかり浮かんでいる。故に夜だというのに闇を感じない、黒を感じながらもとても明るい世界だった。

 「月を見ながら団子を食べるのが習わしなんだ」

 「へえ、月を。……神さまへの供物を人が食べちまっていいのかい?こういうのって大体儀式でやるもんだろ?」

 「人が月を楽しむための行事で神さまは関係ないんだ。咎められるような問題はない」

 「ただただ風流のためにってか。日本ってのはマイペースでいいねえ」

 開けた草原にシートをひいて持ち込んだ団子を並べる。「いただきます」とふたりで手を合わせる。

 一口大のまんまるの団子を仲良く頬張っていく。柔らかさともちもちとした歯ごたえが同居する程よい出来映えであった。急遽作ったにしては上々だ。隣のヘクトールも美味しそうに食べてくれている横顔に見えるから、きっと大丈夫なやつだ。内心でほっと胸を撫で下ろす。「本心ならもう少しこだわりたいところだが」と眉を寄せつつも「及第点だ」と送り出してくれたエミヤにも感謝だ。お礼は…………お礼は何を喜ぶ人なんだろう。あまりにも常に誰かの面倒を見ている人なので、エミヤ自身の求めるものとなるとよく分からない。直接聞いたら「ならばマスターとしてもっと腕を磨きたまえ」と訓練と課題を山にされそうだ。大変だ。

 

 さておき

 

 少しばかり肌寒いが厚着するほどでもない。そんな空気の中で並んで食べる団子の味付けは、エミヤの言う通りもう少しこだわろうと思えばこだわれるごくごく普通のものであった。けれど雰囲気というのはやはり重要なもので、極上の幸福を得るには十分な味だった。

 何もかもを置き去りにしながら生きている自分だけど、本当に、本当に今日を覚えていて良かった。そう思うには十分の。過ぎるくらいに幸福な時間だった。

 「月が綺麗だねえ」

 団子を食べ終え温かな茶の湯気を揺らせながらヘクトールはつぶやき

 「本当に、綺麗だね」

 もう死んでもいいくらい。

 そんな想いを噛みしめながら、彼もそう返した。

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