ヘクトールとぐだ男の短編まとめ2   作:なまきいろ

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ありきたりがしたい

 とあるファーストフード店の一角の席に彼は腰かけバーガーを口にする。街中を見渡せばどこででも見かけるよくありの光景だ。

 彼はどちらかといえば菜食好きな人間である。その年代の男子にしては珍しく「もっと肉を食え」と注意されていたまであったりしていた。

 青春時代は事情により数多のプロ級の料理好きに囲まれて舌鼓を打ってきた環境下に置かれていて、おかげでよく舌が鍛えられた。そんな人たちに料理も習いとりあえずの合格点もいただき、料理という作業も好いているので自炊生活が日常の主流である。

 だがジャンクも嫌いではない。むしろ好きな部類だ。毎日食べたいわけではないが時折発作的に食べたくなる時がある。作るのも悪くないが頼めばすぐに出てくる楽さもよいものだ。むしろこうして気が向いたら気楽に食べられることこそ日常であり、幸福感すら抱いているところがある。

 「相席いいですかい?」

 そんなささやかにもきらめく時間を堪能している中、目の前から降りてくる声に「どうぞ」と微笑み着席を促す。それにコーヒーとバーガーのトレーを持った男、ヘクトールも「ありがとさん」と微笑み返し席につく。

 手慣れた仕草でバーガーにかぶりつくこの男、昔は王子様であったわけだがこの違和感のなさである。

 元々そういう気風なのか王族としてではなくただの一介の戦士として喚ばれたからそう振る舞っているだけなのか。ヘクトールは気品高い食事は好まずこのようなジャンクに高い関心を示しがちなのである。「いつでもどこでも手軽に食事が出来るのはいいことですなぁ。文明様々」などとカップ麺などに丁重に手を合わせる始末だ。まあ、気持ちは彼も分かるけれど。それでも彼との食事の時はそれなりに栄養に気遣ったものを作ってくれるけれど。

 「それでマスター。わざわざ呼び出して何か用かい?」

 気軽に、けれどどこか探るような空気を漂わせてヘクトールは切り出す。

 「内密な話なら部屋ですればいいでしょう?盗聴盗撮の類いは一応毎日チェックしているからないはずですし」

 「大した用事じゃないよ」

 というかそんなことをわざわざしていたのか。そちらのほうに驚いた。こんな何の変哲もない学生と渡航者の生活を探りたがる物好きなどいるように感じられないのだが……。日本国籍だって、色々なご厚意によりいただいているはずだし。怪しまれる要素は然程ないはずなのだけど……。まああの豪華な部屋に暮らすには奇抜な組み合わせだなという気もしないでもないけれど。

 見せているだらけた雰囲気よりずっと生真面目な同居人兼恋人な守護者に申し訳なさを感じつつ本題を告げる。

 「待ち合わせっていうのをしてみたかっただけ」

 「……ふむ」

 「ほら、カルデアでも今でもずっと一緒にいるから、したことないだろそういう……デートみたいなこと」

 「…………ふむ」

 やはり少しくだらなすぎただろうか。

 言葉数少なくバーガーを平らげていくヘクトールを見て気が萎縮していく。

 先ほどの多少なりともそれなりに真剣に来てくれていたヘクトールの雰囲気もあって申し訳ない。ヘクトールに倣って黙とバーガーを食べながら様子を伺っていれば、ことりとコーヒーが入ったカップが置かれる音がした。

 「ならこのままデートといこう」

 「うえっ!?」

 「待ち合わせしたならデートでしょ」

 「それは……」

 「このままふたりで電車乗って海でも見ながら散歩して、適当に胃が空いたら目についた店で食事して帰ろう。そういう普通のデート。オジサンのおごり」

 素敵な提案であるけれど。ただ待ち合わせがしてみたかっただけでそこまで……。自分としては待っている間のささやかな高揚だけで満足だったのに。

 予想外の申し出に追い付けていない彼を見ながらヘクトールは意地悪に「それとも」と付け加える。

 「それとも、オジサンとじゃデート嫌かい?」

 「そんなわけない!」

 「なら決まり」

 「ぐぅ」

 かぶりつくように否定をする彼の姿を見てしたりと笑う姿にそれ以上何も言えなくなり、新たに生じる高揚に胸が痛くなる。

 デートみたいな外出なんて今まで結構してきたはずなのに、改めてデートと言われると改めて……。浮かれておかしくなってしまいそうだ。

 高鳴るテンションを必死に抑えつけ、あくまで平静を装いながら彼もまた手早くバーガーを平らげ「行こう」とふたりで席を立った。

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