最近マスターとメディア(リリィ)の様子がおかしい。
ふたり揃って時間の合間を縫うように顔を合わせる時間を作ってはふたり揃って困った様子で首を傾げるばかりの日々を送っている。
気付かれない距離を置きつつ物陰からイアソンはじとりとその様子を伺う。それだけで首筋が嫌な予感でひりつく。
事の始まりは恐らくメディアのほうだろう。
サーヴァントの相談に応じるのもマスターの役割だ。よりよい環境でサーヴァントたちに力を発揮してもらえるよう気を配るのもマスターの役割だ。それ自体に特筆すべき問題はない。
しかしその相談主がメディアとなると……色んな意味で難易度が跳ね上がるだろう。メディアだもん。
普段からサーヴァントたちには世話になっているからと。何も出来ない自分が少しでも頼られて少しでも役に立てるなら嬉しいと。身を粉にして、時には鼓膜を犠牲にしたりして尽くす姿に思うことが全くないわけではない。だが結構な心構えとは思っている。
しかしメディアだからな……。しかも大人ではなく子供のほう……。イアソンはひたすらに目をそらす。
「そんなに気になるなら直接聞きに行きゃいいじゃないですか」
「やだよ。絶対ろくでもねえ」
背後からぬるりと声をかけるヘクトールに即座に断固な拒否を告げる。
立場的にも個人の性格としても面倒事や厄介事への嗅覚が鋭く出来ているヘクトールだ。いても驚く要素はどこにもない。
気配は消していたつもりだったんだけどなあ。と、やや残念そうに肩をすくめつつ「違いない」と返し「それじゃあ」と背を向け去ろうとする
「待てや」
ヘクトールの服をイアソンは全力で掴む。
「両方お前のマスターだろ。お前見に行けよ」
「残念。俺はあの海より先にカルデアに召喚されてるんでお姫様とは無関係なんですぅ。マスターはマスターオンリーワンなんですぅ。まあ神殿での縁はあるにはあるんですけどねえ?」
「関係ねえよ。別人だろうとてめえはてめえだろ」
どうせ無駄に律儀で真面目で義理堅いこの男なのだ。あの海にいなかったとしてもあの海の記録を見て一通り頭を抱えた後にメディアのことも影ながら気にかけていたに決まっているに違いない。何より現在相思相愛最上最愛のマスターが困っていることをほっとける性格ではないことは確定なのだ。過度に甘やかしてはならない、彼の役に立ちたい触れ合いたいとわずかな隙を伺っている他サーヴァントたちと角が立たないようでしゃばりすぎてはならない。しかし気になるものは気になると出方伺いたさに人をけしかけるなら自分で行けというものだ。
全体重をこめて引き留めながら声を殺して必死の攻防は繰り広げられ
「……うーーーーーーん、仕方ない」
そんな男たちの気配すら感じられていないまま彼は苦渋に呻く。
「あまり甘えたくなかったけどヘクトールの意見を聞いてみよう」
「まあ、確かにいい案を頂けそうですね」
「うがっ!」
「はい、ご指名~」
無邪気に繰り出される全力の信頼の声が突き刺さり崩れ落ちる様に、イアソンは黒い笑みで祝福した。
そして
「ヘクトールー。忙しいとこ悪いんだけどちょっと相談したいことが……」
「はいはいマスターにお姫様。ふたり仲良く暇をもて余してるオジサンに何のご用かな?」
内包する厄介事の威力はさておき、仲良く手を繋いで現れたふたりをどこか引きつった笑顔でヘクトールは茶と茶菓子と共に受け入れる。
その一見微笑ましく見える光景をイアソンは笑いをこらえながらやはり遠巻きから眺めていた。出来ることならこちらを巻き込んでくれるなと祈りながら。
が、この後間もなく一番悲惨な形で巻き込まれることは、言わずもがななお約束と言ってもいいだろう。