今日は朝から検査で何も食べれていない。
空腹でもある程度問題ないよう動けるようになっているけれど。廊下にまで漂う香ばしさに耐えられる訓練までは受けていない。
ので
「腹減りです!」
「お疲れさん」
いつもより賑わう食堂を掻き分けヘクトールの座る席を見つけてマスターである彼が訴えてくる。それにヘクトールはにこやかに返して自身の皿にある芋煮を箸で一口分切り分け彼に差し出す。勢いよくそれを飛び付き「美味しい!」と元気良く声が上がり「そうかそうか」とまた運んではパクついていく。
恋人同士の睦まじい一幕というより親鳥の餌付けだな……。相席のサンソンは苦笑う。もちろんそれはそれで微笑ましい光景と思っている。
「カウンターで好きなのもらってきな。まあ今日は全部芋だろうけど」
「そうなの?」
好きだからいいけれど。
頬張りながらわずかに首を傾げる。
「どこかの風習かお祭り?」
「いんや、ただのプラントの調整ミス」
「まずいのでは?」
「もう修正済みだから大丈夫。倉庫に溢れた芋の処分だけで解決しますよ」
魔力で生きているサーヴァントたちと違い生身の彼からしたら食糧プラントの壊滅はそのまま死に繋がる。
まさかと口を引きつらせる彼だが何でもなさそうなヘクトールの調子に息をつく。見渡せば賑わいの中に人間のスタッフもいる。本当に大丈夫なのだろう。
「マスター!」
では自分は何を食べようか。芋は好きだから味や種類が多種多様ならばいくらでも食べられそうだ。
そう心置きなく浮き立とうとしていた時、小さな影に囲まれた。
「すごいですマスター!お芋祭りです!ポテトサラダもコロッケもポテトグラタンもポタージュも食べ放題です!」
「ポテトチップスもフライドポテトもハッシュポテトも食べ放題だよ!」
「本当に!?」
主食副菜のみならずジャンクまで食べ放題とは!
子供たち同様揚々と目を輝かせてカウンターに駆けていく彼の背をふたりは見送った。
「こりゃ珍しくマスターが食べ過ぎで胃と胸を痛めちまうかもねえ」
「しれませんね」
普段は菜食を好み素材の味を楽しむ薄味派の彼である。しかし味の濃いジャンクを嫌っているわけではない。むしろそちらも好物だ。嬉々としてトレイに様々な芋が乗せられていく様をヘクトールとサンソンは微笑ましく眺め、自身の皿にある芋料理を平らげていく。
基本自制的な彼ではあるが、たまにはそんな年相応にはしゃぐ日があってもいいだろうと。
「それでさ先生」
皿を空にさせてからヘクトールはこっそり持ちかける。
「一回分でいいんで胃薬分けてくれんかね。俺じゃなくマスター用に調合したやつ。まあそういう時ってマスターは俺のとこに顔出さないんだがね。あれで見栄っ張りだから」
「……ええ、貴方ならばすぐに許可は下りると思いますよ」
どこかいたずらめいたヘクトールの要望にサンソンも柔らかに了承する。医療に関してはこと厳格な現在の医務室の主たちではあるが、彼とヘクトールとの間柄であるならば。ヘクトールという人柄であるならば。問題は特にないだろうと。
それにヘクトールは持つべきものは日ごろの行いだと笑い、次の祭り参加者のためにも揃ってトレイを手にして席を立った。