誰も彼もが身を縮めて急ぐ冬の道。
少年の面影をほんのりと残す青年もまた足早に帰路を行く。
彼をよく知る者ならば笑いながら「もっと寒いところでいくらでも駆けていただろう」と言うだろう。彼としてもそう思っているところだ。昔はもっと、極寒と言っても生ぬるい、吐く息すら凍りそれを伝って口内もその奥もたちまち凍ってしまいそうな世界を駆けて戦っていた自分であるというのに。情けないったらありゃしない。
けれど今はそんなことを気にしている場合ではない。家路の先には大切な大切が待っていてくれるのだから。
「ただいま~~~」
「おかえりマスター。寒かったろ」
「寒かったぁ」
玄関を開けると同時に奥から彼を出迎えにヘクトールがやってくる。ちょうど夕飯でも作っていたのだろうか。玄関までいい香りが漂い愛用のエプロンも安心するほどよく似合っていた。
「本当に寒かったんだねえ、わあ冷たい」
「寒かったんだよぉ」
両頬を包んでくれる両手にもにもにと心地よく身を委ねる。両手から伝わってくる暖かさが幸せで仕方なかった。こんな風に温めてもらえるなら弱くなってしまった自分で十分で結構だと思えるほどに。
しかしヘクトールのほうは少しばかり不服そうというか、なんだか惜しそうというか。
「うーん、マスターやっぱり育ったなあ」
「そう?」
「前よりふにふにしてない」
「ふぅん?」
出会った頃は少年で、今は成人を迎えているのだ。そういうものであるだろう。
ヘクトールも分かっているだろうにこの口惜しさっぷり。なんだか少し意地悪を言いたくなる。
「それならもちもちの頃に堪能しておけばよかったのに」
「いやそれは無理」
「ぅぇぇ?」
他の仲間たちがいる手前、このような接触にも気を遣わねばならなかったのは理解している。
けれどこんな風に触れられていたらどれほど幸福であっただろう。
そんなささやかな願望込みの言葉が秒もなく両断された。至極に真面目な声と顔で。その心は分かっていても少しばかり悲しい気にもなる。
「マスター。確かにオジサン防衛戦とか得意だから忍耐力もそれなりに自信はあるつもりだよ。けどな。それでも限界ってのはあるの。マスター相手だと特に」
「……………………」
可愛い人だなあ。
その真正直な告白に出てきたのは今まで考えたこともなかった感情だった。
彼にとってヘクトールとは、常に余裕を保つ大人で素敵な人だったから。自分は暖簾に腕押しで空回っているばかりの恋に浮かれた子供だとばかり思っていたから。一方的に救われてばかりで眩しい人に見えていたから、
こんな余裕のないヘクトールもいたことにずっと気付けていなかったなんて、随分もったいないことをしてきたものだ。常日頃愚か愚かと思い続けていた自分に対し、一番に近いくらい愚かだと思えるほどに。
そんな惜しさとようやく気付けた新たな一面に痛むくらいの愛しさを胸一杯に広がっていく。その愛しさの衝動のまま言葉なくねだるように瞳を閉じれば、自慢の忍耐力が切れたかのように唇にもぬくもりが渡された。