ヘクトールとぐだ男の短編まとめ2   作:なまきいろ

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色に惚けた子供の戯れ言

 いつからか。何故なのか。

 分からないけれど心に住み着いていた感覚がいくつか存在している。

 

 たとえば雨。雨が苦手だ。

 しとしとと降りしきる雨音を聞いていると落ち着かなくなる。

 誰かが来てくれるような気がして。優しい声で暖かく包んでくれるんじゃないかと、雨音の中に足音が混ざっていないかと必死に耳をすませてしまう。

 けれどその誰かが来てくれたことはない。ひとりでずっと寒いまま。だから、苦手。

 

 雨上がりも苦手だ。

 足音なんてなかったのに探してしまう。

 それでもやっぱり誰かが迎えに来てくれているんじゃないかと探してしまう。冷えた手を繋いで一緒に歩いてくれるんじゃないかと思ってしまう。

 だけどやっぱり誰もいなくてがっかりしてしまうから、苦手。

 

 虹も苦手だ。

 見つけてしまうと苦しくなる。

 美しければ美しいほど、今日も自分の隣には誰もいないと崩れ落ちたくなるほど泣きたくなる。

 どこへ行っても自分はひとりなのだと痛感させられるから、苦手。

 

 誰か。誰か。

 その誰が、誰を指しているのかなんて分かってもいないのに。ひたすら誰かを求めてやまない自分は酷く惨めで情けない。

 けれど誰かを待っている。会いに来てくれるとすがってしまう。

 一体いつから自分はこうなってしまったんだろう。どこで何があったんだろう。何も分からない。何も覚えていない。それでも焦がれるほどに誰かを待ち続け、ただひたすらに途方に暮れている。

 

 「お、そろそろ止んできたかな?マスター。行けそうだぜ」

 雨宿りに潜った洞穴の奥で休むことしばらく。雨音がしなくなったと外を伺いに行ったヘクトールの声が響いて出口に向かう。

 ゆるく笑うヘクトールの先に差し込んでいる陽光が見え、目を細める。

 

 いつからだろう。

 気付いたらもう平気になっていた。

 雨が降っても雨が止んでも、悲しくも寂しくも辛くもならなくなっていた。

 足音を聞き分けようと耳をすまさなくなった。誰のことも探さなくなっていた。誰のことも待っていなくなっていた。探さなくても満たされていた。

 会いたい人はいるままだったけど、いてくれていると思うようになっていた。

 すぐそこにいると会いに行けるようになったから。

 ……まあ単に、そんな個人の感傷に気を回せるほどの余裕がなくなっただけという気もするけれど。

 

 「なあにマスター。虹でも見つけた顔しちゃって」

 そんな奥からじゃまだ見えないでしょと、いたずらっぽく笑うヘクトールに「うん」と小さく頷く。

 

 うん。だけど、だけどねヘクトール。聞いてほしいんだ。

 色に惚けた子供の戯れ言だと、誰が聞いても自分で言っても思うんだけど。だからすごく、恥ずかしいのだけれども。

 

 「虹を見つけたんだよ」

 

 自分がずっとずっと探して待ち続けていた人は、貴方なんだと思っているんだよ。

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