「そうだ。マスターの新しい礼装はどんな服がいい?」
定例の会議の終わりに投げかけられた問いにプロトクー・フーリンの眉根が大きく歪む。
ただでさえ押し付けられた全サーヴァントのリーダー役として面白さの欠片もない中間管理職を日々嫌々こなしているというのに、まだくだらない話を積んでくるというのか。
「そういうのは俺に聞く必要はねえだろ」
マスターが問題なく使えて守られていればそれでいいのだから。デザインなど過度におかしくなければそれでいいだろう。
ありありとそう顔に浮かべるプロトクー・フーリンにダ・ヴィンチは「もちろん」と胸を張りながら語る。
「この天才にかかればデザインも性能もお手のものさ」
ならいつも通り勝手にやっててくれ。これ以上の戦闘以外の仕事を増やさないでくれ。
送るジト目など意も介さずにダ・ヴィンチは続ける。
「だがそれに慢心しないのもこの天才だ。参考は多ければ多いほど越したことはない。私よりマスターに近しいお父様ならではの視点ってのも十分加味したい案になりうるのさ」
「お父様言うな」
まったく誰が言い出したのか。いつの間にか出来てきた己への通称に苦虫を噛む。
確かにマスターである彼とプロトクー・フーリンの縁は他より強く見えるだろう。何せ彼の召喚の声に一番最初に応えたサーヴァントなのだから。彼からの強い信頼をプロトクー・フーリンもまた悪いものとは思っていない。むしろ何かと危うい彼の兄貴分面で面倒を見るのだって楽しく思っているくらいなのだ。
だがだからといって何故兄を通り越して父。
漫然と存在し続ける不服を今日も色濃く残しながら「まあ頼むよ」の一言で打ち切られ、本日予定していたレイシフトへと向かうのだった。
とはいえ。機能性さえあればいいが絶対的な第一条件であることは変わりはしないが、マスターが洒落た服を着てもいいんじゃないかという気持ちもないわけでもない。自覚はないが素材はいいのだから。それなりにいい育ちをしてきたようで姿勢もいいし振る舞いにも静かな品もある男だ。何を着せても大体はその通りに着こなして似合うことだろう。
遊びたい盛りの年頃であるわけだし、人理だ監査だ仲間内だと面倒なことさえなければふたりで街に繰り出したりするのも悪くない。若いうちだからこそやれる遊び方のひとつやふたつ教えてやりたいところなのだ。初召喚サーヴァントだからと何かと押し付けられて自重しているが、本来なら多少やんちゃにはしゃいで怒られている側のはずなのだ。
だというのに、
この一年強、どれほどの面倒ごとを押し付けられ我慢を強いられたことか。もう何度目かも今更な憂鬱と共にレイシフト先の街を歩く。
「クーもさ、」
そんな気分を露も知らずにマスターである彼は言う。
「アロハ似合いそうだよね」
「アロハぁ?」
いきなりの発言にあからさまに怪訝になれば彼は笑顔のままショーウィンドウを指を向ける。確かにアロハシャツがそこにいた。
まあ似合わなくもないだろうなとプロトクー・フーリン自身も思う。以前特異点修復としてこの街を駆け回っていた時も黒の王がいつかのいくらか年上の自分を指して「軽薄であるゆえに軽薄に似合っていた」と証言していたわけだし。(言い様に引っ掛かりがあるが今は関係ないので流すことにする)
まあ今は着る気はないけれど。
余所見はそこそこにして歩き出すプロトクー・フーリンに続きながら彼は繋げる。
「ヘクトールも着てたしさ、いいと思うんだけどな。カルナも入れて3人でさ。お揃いで浜辺歩いたらきっとモテモテだよ」
「どうだかねえ。あいつあれで結構かてえしなあ」
へらへらと人当たりよく対応しつつも、結局そのままお流れになるのが常になるのではないだろうか。逆にカルナは深く考えずに付いていきかねない。目を光らせていないとまた疲れることになりそうだ。適当に相槌を打ちつつそういえばアロハで撮影なんてこともあったなと思い出す。
夏の撮影をするとヘクトールがアロハを着てパラケルススがかき氷を作って。別に食べなくていいのに律儀に差し出されたかき氷を食べてやっては虚無顔になっていたりして。今となっては随分と懐かしい。
が、
「……………………アロハか」
ふと思い至る。
「じゃーん!というわけで新しい礼装のお披露目だよー!真夏の海を存分に堪能したまえ!」
「アロハ!」
それからしばらく。レイシフト帰りの報告がてらに提案しておいたアロハが季節が近いことも相まって「それだ」と即採用となった。
「クー!クー!クー!クー!アロハ!!」
そのテンション隠さず嬉々として尻尾を振るように一番に報告にくる彼の頭を「良かったな」と雑に撫で回し
「夏が海でヘクトールもまた着てたらさ、お揃いでデートしてこいよ。それくらいの時間は作ってもらえるだろ」
「デー!」
意地悪に笑ってからかってやれば勢いそのまま茹で上がって爆発する。
それから遅れて照れ隠しで殴りかかってくる彼を受け止め声を上げて笑いながら間もなくやってくる夏に思いを馳せる。今まで頑張ってきた彼なのだから、これくらいの特典は許されるだろうと。