ネフシュタンの少女との戦闘で重傷を負った翼は、リディアン音楽院高等科と隣接し、装者含めた特異災害対策機動部関係者の治療も請け負っている、市が運営する《律唱市立市民総合病院》に緊急搬送された。
「状況は想像していたよりもかなりいいです。重傷ではありますが、すぐさま命に関わるほどではありません。ですが、それでも無視することはできないダメージですので、意識を取り戻してもしばらくは絶対安静ですね」
処置が終わり、源十郎には執刀医から説明がなされていた。
「よろしくお願いします」
そう言い、弦十郎は頭を下げると、後ろに控えていた黒服の集団に指示を飛ばす。
「俺達は鎧の行方を追跡する。まだそう遠くには行っていない筈だ。どんな手掛かりも見落とすな!」
一方響は、病院の休憩室のソファに座っていた。
「翼さん・・・」
「大丈夫か?」
そこへ、奏がやって来た。
「はい・・・」
「心配なのは分かるけど。あまり気負い過ぎない方がいいぞ?」
「ありがとうございます・・・・・・」
それからしばらく沈黙が続いた後、響が口を開く。
「私・・・・見ている事しかできませんでした・・・」
「・・・・」
「手伝うどころか、むしろ足を引っ張っちゃって・・・・・・」
そう話す響の表情は暗く、目から涙が溢れ出していた。
「お前のせいじゃないさ。あれはどうしようもなかった」
「でも!私がもっとしっかりしてれば、こんな事にはならなかったんです!」
奏の言葉を聞いても、響の気持ちは晴れなかった。
そんな響を、奏は抱き締める。
「だからと言って、一人で抱え込む必要もないだろ?あたしだって、もっと早くあの場に来てれば、翼が重傷を負う事も無かったかもしれない。でも、今は自分を責めてる場合じゃ無いだろう?翼が目を覚ますまで、元気付けてやらないとな」
「・・・・・・・・・はい・・・!」
「よし、良い返事だ!」
そう言って、奏は響から離れる。
「あの・・・」
「ん?なんだ?」
「えっと・・・その・・・」
「はっきり言ってくれ。遠慮はいらねえよ」
「・・・」
少し躊躇った様子を見せたが、意を決して言葉にする。
「私・・・・強くなりたいです・・!奏さんや翼さんの足を引っ張らないように・・・・!」
「・・・そうか。なら、うってつけの人がいるぜ」
「・・・・えっ?」
「たのもーー!」
翌日、響は弦十郎宅を訪れて弟子入り。猛特訓を受け始めた。
一方その頃、眠っているカイトは夢を見ていたが、いつもとは光景が違った。
「ここは・・・・・」
長い廊下の様な場所を歩いていると、レントゲン室などの部屋がある事から、病院の中だと思われる。
部屋の中を見る際に、体が扉を透けた事から、ここが夢の中だとカイトは気付いた。
すると、背後から物音が聞こえた。
後ろを見ると、ストレッチャーに乗せられて何処かへ連れて行かれる少女の姿があった。
看護婦の人が2人と、少女の保護者らしき私服姿の女性がいた。
女性が少女の手を握りながら声を掛ける。
「日本で、一番のお医者様だって言うの。また素敵な物をいっぱい見られるわ・・・・お花だって・・・海だって・・・・」
その言葉と、少女の眼の焦点が合ってないことから、カイトは少女の眼が見えていない事が分かった。
そして、少女を乗せたストレッチャーは手術室の前まで運ばれる。
そこで、女性と別れ、少女が手術室に運び込まれる。
場面が切り替わると、手術室前の廊下に、先程の女性と、医師らしき男性と看護婦が居た。
「誠に・・・・残念なのですが・・・・全力は尽くしました・・・・・ですが・・彼女の視力が回復する事は・・・・」
「そんな・・・・アッコちゃんはもう絵が描けないって事なんですか・・!?大きくなったら絵描きになって・・・綺麗なお花をいっぱい描きたいんだって・・・!」
「・・・・手遅れだったとしか・・・・・・・」
その会話から、カイトは手術が失敗したという事を察した。
再び場所が切り替わると、今度は何かの車の中に居た。
運転席と助手席には、それぞれ赤と白を基調とし、『DASH』と書かれた隊服の様な物を着た男女がおり、女性の顔をよく見ると、先程の保護者の女性だと言う事がわかった。
「(名前は・・・・コイシカワ・ミズキとトウマ・カイト・・・カイト?俺と同じ名前なんだな)」
そう思いながら2人の会話を聞く。
「お父さんもお母さんも居なくて・・・・一人ぼっち・・・・なのに・・アッコちゃんたら偉いの。見えなくても聞こえるんだから、音楽家になるよ。・・・って、絵と音楽とどっちにしようか迷っていたからちょうど良いよ・・・だってさ。それでピッコロを始めてね。一生懸命練習をして・・・その発表会が明日あるの」
「(眼が見えなくなっても、音楽の道に進んだのか・・・ツラい中でも、他の生きる目的を見つける事が出来たんだな)」
カイトはその話を聞き、強い心を持つ子なのだなと思った。
やがて、車が止まり、2人は外へ出る。
「それでどうしても休みたいって言ってたのか」
「うん。私よりずっと小さいのに・・・ずーっと偉い・・・・ここが発表会の会場なの」
ミズキは笑顔を浮かべながら、目の前の音楽堂に視線を向ける。
『こちら本部。緊急事態発生。応答を願います』
車の中から、通信機越しに女性の声が聞こえた。
「こちら、カイトですけど?」
『今、そちらの近くの海岸に、正体不明の落下物がありました。現場に急行してください』
「了解」
カイト(以下トウマ)とミズキは現場に向かうと、カイトもそれを追う。
到着した場所は、人通りの少ない砂浜で、周囲には誰も居なかった。
そこに落ちていた物は、4メートル程の大きさの巨大な白い物体だった。
「(何だこれ・・・・と言うか、どこか見覚えがあるような・・・・・)」
その後、害は無いが、場所的にも邪魔になる為、焼却処分する事が決まった。
そして、トウマとミズキが現場周辺の封鎖を終えた頃に、赤い戦闘機のダッシュバード1号と青い戦闘機のダッシュバード2号が現れて、白い物体目掛けてナパーム弾を発射する。
ナパーム弾は命中し、白い物体は炎と煙に包まれる。
しばらくして、消火の為にダッシュバード2号が水を大量に放出して鎮火させる。
すると、禍々しい黒に近い茶色の物体へと変化した物体の姿があった。
その光景を見たトウマは呟く。
「(あれは・・・?)」
物体は先程まではなかった突起があり、そこからダッシュバード1号目掛けて誘導式の火炎弾を放つ。
「ミサイル・・・FIRE!」
危険と判断したダッシュバード2号が物体にミサイルを撃って命中するが、今度は全身から大砲が生えてきて、ミサイルを発射。さらに顔と長い二本の足が生えた怪獣へと変化する。
「(これって・・・・俺の能力と同じ・・・?)」
反撃したダッシュバード1号とダッシュバード2号からレーザーを受けると、今度はレーザーも放てるようになり、まるで要塞の様に全方位にミサイルとレーザー、そして火炎弾を連射していく。
ダッシュバード1号と2号は、DASHの隊長のヒジカタが撤退する様に指示を出し、二機はその場から撤退していった。
「・・・・はっ!」
そこで、カイトは目が覚め、勢いよく起き上がる。
カイトは自分の手を見て、先程の夢を思い出す。
「(あのデカブツ・・・・俺の力と同じような事をしていた。あの夢を見続ければ、俺の力の正体がわかるかもしれないな)」
そう思ったカイトが時計を見ると、時刻は朝5時少し前と言った所だった。
「・・・朝ランでもするか」
そう言ってベッドから出て着替えると、家を出てランニングを始めた。
東京近郊にある森の中の豪邸。そこでは、一人の女性が流暢な英語でどこかと連絡を取っていた。
「
「
「
長い金髪女性の姿はハイヒールの靴に黒いニーソに黒のアームカバーのみと言う露出度の高い服装で、そのグラマラスな体が完全にさらされていた。
「
「
「
その言葉を最後に、彼女は通話を切る。
「・・・野卑で下劣。生まれた国の品格さのままで辟易する・・・そんな男に、既にソロモンの杖が起動している事を教えてあげる義理はないわよね?クリス」
女性は電話を机の上に置くと、椅子から立ち上がってある装置に拘束された服装をボンデージにされている、クリスと呼ぶ銀髪の少女に歩み寄り、頬を撫でる。
「うぅ・・・・・」
「苦しい?可哀そうなクリス。貴方がぐずぐず戸惑うからよ。誘い出されたあの子をここまで連れてくればいいだけだったのに。手間取ったどころか、もう1人の捕獲対象に返り討ちだなんて・・・」
顎を持ち上げ、女性は見下すようにクリスに言う。
このクリスこそが、響達を襲った、ネフシュタンの鎧を纏った少女の正体であった。
「これで・・・いいんだよな・・・?」
目を開けたクリスが、女性に弱々しく尋ねる。
「何?」
「あたしの望みを叶えるには、お前に従っていればいいんだよな・・・?」
「そうよ。だから、貴方は私の全てを受け入れなさい。でないと嫌いになっちゃうわよ」
クリスから離れ、女性は近くにあるレバーに手をかけて降ろした瞬間、クリスの全身に強力な電流が走る。
「うあぁああああああああああっ!!」
「可愛いわよクリス。私だけが貴方を愛してあげられる」
発生した電流がクリスの全身の筋肉を痙攣させ、激痛を与える。
数秒後、女性はレバーを戻して電流を止める。
「はっ・・・はっ・・・はぁ・・・!」
息を荒げながら、なんとか整えようとするクリスに、女性は密着する。
「覚えておいてねクリス。痛みだけが人の心を繋いで結ぶ、世界の真実だと言う事を・・・・・さあ、一緒に食事をしましょう?」
その言葉に、クリスが僅かでも安心して、小さく笑みを浮かべた次の瞬間、クリスはまた電流を流されるのであった。
どうも、邪神イリスです。
時間が出来たので、一気に書き進めました。
今回初めて挑戦しましたが、英文へのルビ振り大変・・・・ルビ文字が二十文字までなのもちょっとした苦労の一つでした。
カイトの夢の内容に関しては、無印終盤で明かす予定です。