海が見える海岸の手摺に寄りかかる全身黒ずくめの金髪の女。
その手には、以前クリスが持っていたノイズを使役することの出来るソロモンの杖が握られており、上空には、まるで女を守るかのように飛行型ノイズが旋回している。
「フィーネ・・・!?」
『フィーネ?』
(フィーネ・・・・終わりだと・・?)
フィーネ・・・それは、音楽用語で終わりを意味する終止記号の名であり、音楽を携わる者として、その意味を知っていた奏はその名前を聞いて訝しんでいた。
クリスは抱き留めていた響を一瞥し、拒絶するように突き放し、イフにも一瞬視線を向けると、フィーネに向かって叫ぶ。
「こんな奴らが居なくたって、戦争の火種くらいアタシ一人で消してやる!そうすれば、アンタの言うように、人は呪いから解放されて、バラバラになった世界は元に戻るんだろ!?」
(呪い・・・・?)
その言葉に、イフは首を傾げた。
「・・・・・・・はぁ。もう貴女に用はないわ」
溜息を吐いたフィーネは、ゆっくりと手を翳す。
「なっ・・・!?何だよそれ!?」
叫ぶクリスに何も語らず、フィーネは翳した手を青白く発光させる。
すると、周囲に散らばっていたネフシュタンの鎧の破片が粒子となってフィーネの手に集まり、消えた。
そして、フィーネが杖をイフ達に向けると、上空を旋回していた飛行型ノイズ達が身体を独楽のように高速回転させて突撃してくる。
『ちぃ!』
イフは咄嵯の判断で響を抱えていた奏の前に立ち、突撃してきたノイズを迎撃する。
だが、その隙にフィーネは何処かへと消えてしまった。
「待てよ!フィーネぇ!」
姿を消したフィーネを追ってクリスもその場から駆け出していく。
イフも翼を広げて飛び上がり、その後を追おうとするが、目の前に飛行型ノイズが立ち塞がる。
『邪魔だ!どけぇ!!』
イフは両手をガトリングに変えて飛行型ノイズを一掃するが、ノイズを全て殲滅した時には、既にクリスもフィーネもその姿が見えなくなっていた。
『(逃げられたか・・・・・しかし、あの女の声何処かで・・・・)・・・そっちはどうだ?』
「・・・・駄目だ。指令達も反応をロストしたってさ」
『そうか・・・・・・』
結局、新たな謎が残ったまま、戦いは終わったのだった。
戦いの後、二課の本部に戻った響はメディカルルームで了子に体の検査をしてもらっていた。
「外傷はそこそこ多かったけど、深刻なものが無くて助かったわ」
「えっとつまり・・・すっかり平気ってことですか?」
「まーねー。常軌を逸したエネルギー消費・・・・要するに過労ね。少し休めば、またいつも通りに回復するわ。でも、今日一日だけは大人しくしていてちょうだい」
「は~い!」
響は元気よく返事をした。
「ところで、了子さん・・・・私の友達は・・・・未来達はどうなったんですか?」
先程までとは打って変わって少し影のある表情を浮かべた響は、ベッドの隣にある椅子に座っている了子の顔を真っ直ぐ見つめながら訊ねる。
響の質問を聞いた了子は普段通りの笑顔で響に優しく微笑みかける。
「心配しなくても大丈夫よ。緒川君達から事情の説明を受けている筈だから」
「そう・・・ですか・・・・」
「機密保護の説明を受けたら、すぐに解放されるから安心して」
「はい・・・」
だが、響の表情は暗いままであった。
機密保護の説明を受け終わり、解放された隼人は竜馬達と分かれ、街灯が照らす夜道を一人歩いていた。
家には帰るのが遅くなる事を伝えているため、その辺りに関しては特に問題は無かった。
(まさか、響さんがあんな事に巻き込まれていたとは・・・・)
以前、響が未来の誘いを断った事があった。
その時は、あの響が未来の誘いを断るとは珍しいとは思っていたが、今思えばそれは響が巻き込まれていた事が原因だったのだろう。
(それでも、国家機密レベルの事だなんて、誰が想像できますか・・・!)
世間一般の認識としてノイズへの対抗手段は無く、シェルターなどに避難して一定時間が経過して炭素化して自壊するのをただ待つしかないというのが常識である。
だが、響が纏ったあの鎧はそれを覆せるのだろう。そして、恐らくあれは外国には存在しない。
でなければ、外国政府などへの漏洩が発覚した際の罰則内容があそこまで厳しい訳がない。
(僕たちはそれを守ること自体に不満はないし、納得も出来ますが・・・・問題は未来さんですね)
当然未来も、国歌特別機密事項とあれば、それを知る人物は少ない方が良いと思っているだろう。
だが、親友が危険な目に遭っていると知って黙っているような性格ではない。
(それ以上に、響さんが自分に隠し事をしていたという事実の方がショックでしょうね・・・・。隠すなというのにも無理があると思いますが、こういうのは頭では理解出来ても感情では納得できないでしょうし・・・・・)
そんな事を考えながら歩いている内に、隼人は自宅の近くまで来ていることに気付いた。
「おいこら、弱い者虐めるな!」
「虐めてなんかいないよ! 妹が・・・・」
「・・・・おや?」
ふと隼人は足を止める。
隼人の視線は、自宅の近くにある公園に向けられている。
その公園のベンチに一人の少女が座り込み、その近くで男の子とワインレッドのドレスを身に着けた少女が何やら言い争っていた。
「何をやってるんでしょう・・・?」
不思議に思った隼人は、少年達の方に駆け寄っていく。
「虐めるなって言って「どうしたんですか?」うわっ!?」
隼人が声をかけると、二人は驚いた様子で隼人の方を見る。
「ああ、驚かせてしまいましたか?すみません」
「い、いや、こっちこそすまねえ・・・・って、お前は・・!」
銀髪の少女ことクリスは、隼人の顔を見て、驚きの表情を浮かべる。
「えっと・・・何処かで会いましたか?」
「い、いや・・・・何でもない」
「?」
隼人は気づいていなかったが、クリスは先の襲撃の際に隼人や未来達の顔を見ており、それが目の前にいる青年と同一人物であることに気付き驚いていたのだ。
「それで、どうしたんだい?」
隼人はその場に跪き、少年と目線を同じ高さにして訊ねる。
「父ちゃんがいなくなったんだ。一緒に捜してたんだけど、妹がもう歩けないって言ったから。それで・・・・・」
「迷子かよ。だったら、端からそう言えよな」
「だって・・・だってぇ・・・・・」
「オイこら泣く―――」
「ストップ」
呆れたクリスの言葉に再び泣きそうになる女の子を強い口調で止めようとしたクリスだったが、隼人は優しく微笑むとポケットの中からハンカチを取り出して女の子に差し出す。
「はい、これで涙拭いて下さいね。それから、これをどうぞ」
「ぐず・・・ありがとうございます・・・」
「良いんですよ。困った時はお互い様です。ここで会ったのも何かの縁。このお姉さんと一緒にお父さんを探そっか。大丈夫、きっと見つかりますよ」
「うん・・・分かった・・・」
隼人は笑顔を崩さず、優しい声で女の子を安心させるように話しかけると、女の子は素直に隼人の言う事を聞いてくれた。
「こら待て! アタシは別に一緒に探すなんて―――」
「探してくれないの?」
「うぐっ・・・・」
女の子の涙目の問いかけに、クリスは言葉を詰まらせる。
「あ~、ったく! しょうがねえなぁ!」
「良かったですね」
「うん!!」
隼人の言葉に、女の子は嬉しそうに肯いた。
「それでは行きましょう。っと、その前に、貴女のお名前を伺っても?」
「・・・・・クリス。雪音クリスだ。お前は?」
「天道隼人です。よろしくお願いしますね」
そうして、クリスと隼人は、兄妹の父親を捜索するために街へ繰り出していった。
夜の明るい街並みを、隼人とクリスは迷子の兄妹を挟むように手を繋ぎながら歩いていく。
「♪~♪~♪」
そんな中、クリスは一人鼻歌を歌いながら歩いていた。
「~♪・・・な、何だよ?」
隼人達から視線を向けられている事に気づいたクリスは、怪しむような視線を向ける。
「お姉ちゃん、歌好きなの?」
「・・・・・歌なんて大嫌いだ。特に、壊す事しか出来ないあたしの歌はな・・・・・・」
「そうでしょうか?僕はクリスさんの歌、とても綺麗だと思いましたよ」
「なっ・・・!?」
隼人の言葉に、クリスは顔を真っ赤にする。
「お姉ちゃん、お顔が赤いよ?」
「う、うるせえ!」
「ふふっ、可愛いところがあるんですね」
「ううっ・・・!?」
隼人は思わず笑みを零すと、クリスはさらに顔を赤くした。
その姿を見て、まだ幼い兄妹は首を傾げていた。
「あ、父ちゃん!!」
それからさらに歩き、交番の近くまで来たところで、一人の年配の男性が交番から出て来たのを見つけた兄弟が、二人の手から離れて男性に駆け寄っていく。
「お前たち、何処に行ってたんだ?」
「おねえちゃん達が一緒に迷子になってくれたの!」
「違うだろ?一緒に父ちゃんを探してくれたんだ」
「そうだったのか・・・・すみません。ご迷惑をおかけしました」
兄妹から事情を聞いた父親は、クリスと隼人に頭を下げた。
「い、いや・・・成り行きだったから・・・・」
「気にしなくていいですよ。無事に再会出来たみたいですから」
「本当にありがとうございます。ほら、お姉ちゃんとお兄ちゃんにお礼は言ったのか?」
「「ありがとう!」」
父親に促され、兄弟は元気な声で二人に感謝の言葉を述べた。
「仲良いんだな・・・・・そうだ、そんな風に仲良くするにはどうすれば良いのか教えてくれよ」
クリスは仲の良い兄妹を見て、そう尋ねた。
その質問に対して、二人は揃って不思議そうに首を傾げると、妹が兄に抱き着いて、兄の方は妹の頭を撫でた。
「そんなの分からないよ・・・・・何時も喧嘩しちゃうし」
「喧嘩しちゃうけど、仲直りするから仲良し!」
2人は自分たちなりの答えを出すが、クリスの顔は曇っていた。
「・・・・・こういうのは、理屈とかそういうのじゃないのでしょう」
「・・・どうしてそう思うんだよ?」
隼人の言葉に、クリスは疑問を抱く。
「僕だって、時には親友たちと喧嘩をします。僕の知人に仲良しな2人組が居るのですが、その2人も、色々なすれ違いから衝突してしまっていて・・・・・・。
でも、その度によりお互いの事を理解し合って、より絆を深めていけるように思えるんです」
「・・・・・・」
「クリスさんも、誰かと仲直りしたいのでしょう?だから、きっと貴方も大丈夫だと思いますよ」
「そっか・・・ありがとよ」
クリスは少し照れくさそうな表情を浮かべると、兄妹と別れを言ってその場を去っていった。
隼人も兄妹と別れた後、家へと帰っていったが、その途中である事が頭をよぎっていた。
(雪音クリスさん・・・・・・あれ?そういえば何処かで聞いたことがあったような・・・・・?)
深夜。二課本部にある自身の部屋に、櫻井了子はいた。
(装着した適合者の身体機能を引き上げると同時に、体表面をバリアコーティングする事で、ノイズの侵食を保護する機能を作り。更には、別世界にまたがったノイズの在り方を、インパクトによる固有振動にて調律、強制的にこちら側の世界の物理法則下に固着させ、位相差障壁を無効化する力こそ、シンフォギアの特性である。同時に、それが人とシンフォギアの限界であった。
シンフォギアから解放されるエネルギーの負荷は容赦なく装者を蝕み、傷つけていく。その最たるものが、『絶唱』・・・・人とシンフォギアを構成する聖遺物とに隔たりがある限り、負荷の軽減はおよそ見込めるものではない。それは、私の理論でも結論付けている。
唯一理を覆る可能性があるならば、それは・・・・)
彼女は紫の蝶の絵柄のマグカップを片手に持ちながら、部屋の壁に貼られているいくつもの響の写真を見つめた。
(立花響・・・・人と聖遺物の融合体第一号。天羽奏と風鳴翼のライブ形式を模した起動実験でオーディエンスから引き出され、さらに引き上げられたゲインにより、ネフシュタンの起動は一応の成功を収めたのだが、立花響は、それに相当する完全聖遺物『デュランダル』をただ一人の力で起動させる事に成功する・・・・人と聖遺物が一つになる事で、さらなるパラダイムシフトが引き起こされようとしているのは、疑うべくもないだろう。
人が負荷なく絶唱を口にし、聖遺物に秘められた力を自在に使いこなす事が出来るのであれば、それはあるけき過去に施されし、【カストディアンの呪縛】から解き放たれた証。
真なる言の葉で語り合い、【ルル・アメル】が自らの手で未来を築く時代の到来。過去からの超越・・・!だが・・・・・)
了子の視線は、一枚だけ貼られている響以外の写真に移る。
(イフ・・・・聖遺物の力を模倣し、代償も無く複数同時に行使する
己がまったく知らない存在に、了子の中に苛立ちが募っていく。
(初観測はツヴァイウィングのライブ会場での惨劇となっているが、
彼女は知らない。彼がイレギュラーなどという言葉では言い表せれない存在であることを。
どうも、邪神イリスです。
ようやくアニメの半分まで到達しました。まだ半分も残っていると考えると、無印最終話までまだまだ時間が掛かるなぁ・・・・と感じます。
さて、今回のクリスと隼人の絡みについてなんですが、カイトのヒロインじゃないの?と思った方も居らっしゃると思うので、ここで説明させていただきます。
まず、ヒロイン複数でハーレムやりたいなと自分も最初の頃に思ったのですが、それだとそれぞれのヒロインの魅力を自分の文才では書ききれないなと思い、カップリング先として考えたのが、隼人達オリジナルキャラクターでした。
ハーレムは好きなんですけど、書く立場になるとヒロインが多すぎると大変なんですね。身に染みました。
なので、今話が投稿された後に、タグにオリキャラ×原作キャラが追加されていると思います。
誰が誰とくっつくのかはもう考えているので、楽しみに待っていただけると嬉しいです。
批判が無いか内心かなりビクついていますが・・・(・∀・; )
それと、感想でセリフの前に無駄なヒトマスがあって読みづらいという意見があったので、セリフ前のヒトマスを削る事にしました。
改めて自分で読み返してみると、確かに読みづらかったですね・・・・
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。