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「ただいま」
優等生の仮面を外し、無機質な顔で家に呼びかける。暫くすると、台所から自身の母親が返してくれた。…この感覚は、未だ慣れない。
「おかえりなさい。…いつもお疲れね、
母からの問いかけに頷く。此方の目を合わせて暫くした後、母は自分の趣向に一息を吐いた。どうやら此方の観察をして真偽を確認したらしい。
「ならよかった。それとβ版参加者当てに来てるわよ…たしか…」
「ユートピア・オンライン」
「そうそれ」
「分かった。ご飯食べた後に遊ぶよ、課題も授業中に終わらせてあるし」
ユートピア・オンライン。VRブームの中でディティールの作り込みとスキルのやり込み要素によってβ版の地点から根強い人気を誇るゲーム。…そう言えば、今日が発売日だったか。
「そういうと思って、もう作ってあるわよ。父さんは夜勤だから遅くなるから先に食べてて、ですって」
「…うん、そうする」
口下手な自身に小さく自己嫌悪しながらも、鞄を背負ったまま台所へ向かう。夕食はありふれた事をぽつぽつと話すだけだが、これが何故か無性に嬉しかった。
夕食後、風呂に入って甚兵衛へと着替える。どうにも、自分は和服が好きらしい。室内だと大概これで過ごしている程度には、気に入っていた。
ソフトをヘッドギアに入れた後に被る。β版のサービスが終了した時から一度も触れなかったその感覚に、自分の中から欠けた何かが忙しなく反応している。
こめかみ辺りに存在するヘッドギアのボタンを押す。
―――β版終了ぶりの意識が遠のく感覚は、何処か心地好かった。
画面に並ぶ、合計13のキャラクターアカウントをみて
「またよろしく、皆」
そう言いつつ、今回は刹を選択する―――刹は言うなれば魔法戦士であり、
Name:剣御霊 刹
称号:軍勢/獅子座(通常時ギルド内のみ保有キャラクターアカウントをNPCとして使役可能/イベント時のみ保有キャラクターアカウントをNPCとしてフィールドに使役可能/Str+30%/Agl+30%) Lv40/40
耐久:2050/2284
M P:2000/2169
Str:180 Dex:150
Vit:0 Agl:130
Int:130 Luk: 0
Min:0
《スキル》
【浸蝕[盲目白痴]】P
[異形(浸蝕)]をベースとして[豪力][技巧][神速][叡智][輪郭を暈すモノ]を合成した物。
【闘争の獣】P
[異貌(浸蝕)]をベースとして[筋力強化(極)][器用強化(極)][敏捷強化(極)][魔法威力強化(極)][物理威力強化(極)]を合成した物。
【剣霊】P/A
[抜刀術(極)]をベースとして[動作制限開放][刀射程延長Ⅲ][抜刀納刀速度上昇(極)][杖術(極)][刀聖の神髄]を合成した物。
【
[魔眼]をベースとして[心眼(偽)][不屈(狂)][攻撃軌道予測][回避軌道予測][空間認識能力]を合成した物。
【】【】【】【】【】【】
―――
「…まだ、
黒染めとなった化け物の左腕を見つつ、ぼやく。そして視界が白く染まっていき―――
β版から変わらない中世ヨーロッパを彷彿させる街並み。見麗しいないしは格好の良い人々が街並みを賑やかに彩る。その中では一般的な顔の作りをした、初心者装備のまま目の前でぶつぶつと呟く青年がいた。
「うわ、おっそ…」
「…ステータス割り振りを間違えたのか?」
「あ、いえ。そういうわけではないのですが…えっと、どちら様でしょうか?」
思わず声をかけたが、確かに見知らぬ人から声をかけられたらそう反応してもおかしくはない。
「口調については、これが一番慣れている故許してほしい。我は刹という」
「ああ、いえお気になさらず。俺はユキと言います」
「よろしく頼む、ユキ。…その様子だと初心者と見える。もしも良ければ、我も同行して良いだろうか?」
「構いませんけど…見ての通り遅いですよ、俺」
「我は構わない。β版での違いを歩いて探し回るのには丁度いい」
そう返すと、ユキは小さく溜息を吐いた。
「…刹さん、押しが強いと言われたことありません?」
「特には。気にしたことも無い故」
「ですよねぇ…あぁ、其れなら歩きながらで良いので話を聞いても?」
「我が答えられる範囲であれば構わない」
そうして彼との対話をしながらも街の東へと歩いて行く。話す内容はゲームのシステムについて。幸いなことに我自身は刀による接近戦と魔法による中遠距離戦を主体としていた為にそれなりに具体的な事例を絡めて答える事が出来たと思う。
話していれば時間が過ぎるのも早く。彼の目的地である初心者向けのモンスターが出る街の東へとたどり着いた。
「…うーん…」
「どうした?」
「ああ、いえ。少し一緒に居るのは不都合と言いますか」
…そう言えば、歩くのが遅いと言った事例はβ版でも多発していたか。何れも極振りというとんでもない集団だったが。
「少しばかりフレンド申請を掛けるがいいか?」
「?構いませんが…」
フレンド申請を送り、受領してもらう。
その後に片手でタップしてメッセージを送る。
「…β版と言ってましたが、もしかしてかなりやり込んでます?」
「そうだな。βテスターの中では、それなりにやっていたと思う」
ぴろん、と彼の通知が響く。それを開いた後、彼は此方に何とも言えないような目を向けてきた。内容は単純だ。
『極振りならば問題ない。β版でも縁があった故。もしも不安ならば我のステータスを晒すが』
「…随分と物好きな」
「他の者に然程興味はないが、あの中では珍しい容姿だったのでな。随分と浮いていたぞ」
「顔や腕が中々なことになっている貴方に言われるとは思いませんでしたよ…」
漸くユキは気の緩んだ様子を見せた。然ししばらくすると再度周囲を見回す。…この辺はまだプレイヤーが多い。そうなると極振りだとばれたくない彼には不都合が多い。
「ならば奥へ向かうか」
「そうしてもらえると助かります」