ユキが始まりの街で蘇生されて戻ってきた。そのローブの肩口には白い球体の装飾品が1つ*1ついている。
「おかえり、ユキ。初戦闘はどうだろうか?」
「極振りだから…というのが大きいんでしょうけど、大変ですねこれ」
そういう割には、その顔に疲弊は見えない。どちらかと言えば――楽しい、のだろう。口角が微かながらもつり上がっていた。
「そうか。楽しそうなら何よりだ」
「ええ。俺はしばらくベル君を時間まで狩り続けるつもりですけど――」
「それなら、その時間までは付き合おう」
「…いいんですか?22:00手前まで暇になると思いますけど」
頷く。既に上限に達したレベルである以上、経験値効率の良い狩場に移る必要も無い。特に必要としている素材も無い以上、そのモンスターを追う必要も無い。その上で言うのであれば我から同行を申し出た以上、相手から断られない限りは付き合うのが良いだろう――そう、なんと無しに感じた。
「それじゃ、お言葉に甘えて。エンカウントするまでの間に質問とかしても?」
「構わない。我が分かる範囲であれば、スキルについても答えよう」
「それじゃ、早速。付与魔法の暴発について聞いてもいいです?」
ここで軽く魔法について振り返る。魔法の発動率は[状態異常:封印(魔法)]等を始めとした[発動率に直接影響する効果]を受けない限り、常に100%となる。それはM Pを消費する事は失敗しないからだ*2。消費したM Pを対象となる魔法に従って形を成す事で効果を発揮するが――ここで正しく発動するかの判定が行われる。暴発はこの判定を失敗した時に引き起こされる。
「暴発はM Pを消費した後に魔法が正しく発動するかの判定に移る。その判定が失敗した時に暴発という形で対象にダメージを与えられる…というのが先ほど説明した概要だな」
「えぇ。その言い方からするとM Pの消費が出来ない時もあるのでしょうけど、それは後で聞きますね。引き続きお願いします」
頷き返す。
「魔法が正しく発動するかどうかは装備した魔法具*3に保有される[基本発動率][発動関数]と術者の知力が関わる。知力が高いなら魔法具が無くともそれなりの成功率となるが、知力が低ければだいたい失敗する」
「成程…因みに長杖の[基本発動率]はどれぐらいなんです?」
「8割だという見解だ。あとは[基本発動率]には幸運が補正に入る。だから知力に振っていないユキでも一度とて付与魔法を失敗していない」
そう考えると幸運の代用判定の幅は非常に広い。成功率や付与率に直接関わらないが、代用判定で幸運を用いれると考えれば非常に有用だ。とはいえ火力や命中率には一切関わらない以上、それ一本で戦うのは難しいだろうが。
「…そうなると、俺は杖を装備しなければ付与魔法を暴発させられます?」
「ああ。威力は最低となるが、最低威力は魔法毎に設定されている。その上で言うとクリティカルも発生する故、"必中の低威力魔法"としても扱えるな。知力が高いとそのような扱い方は出来なくなるが、上昇量に知力の追加補正が乗るようになる」
「…暴発自体はかなり広い認知だったりするんです?」
「認知はされているが、それを主な火力とする人はいないだろう。それに対象へ付与魔法のような相手に直接付与する魔法ならともかく、それ以外の魔法で暴発すると術者自身がダメージを受ける」
そう話しているうちに草原が微かに揺れた。ユキと共に目を向けると新手のレッサーラビットが居る。それを見た後ユキは左手をポケットに入れたまま立ち上がった。右手には杖を持っていない。
「《フルカース》!」
一瞬紫の魔力の膜に覆われたレッサーラビットに7回の爆発が発生した。単発の威力は先程の《吸撃》より微かに高い程度、だがステータス7つを対象とした魔法である以上、7回の発動判定が発生する。
…一を聞いて十を理解する、というのはこういう事なのだろう。少しばかり頭の回転の速さに嫉妬しそうだ。
「《吸撃》!」
暴発によって発生した7回のダメージでレッサーラビットの保有する強靭値が切れたのか、硬直する。そこへ足蹴にする事で宙へ持ち上がった杖を片手で掴み、突くようにスキルを発動させた。スキルのアシストもあってか、レッサーラビットへと綺麗に直撃しそのまま吹き飛ばした。
「良いですね、これ」
その言葉に続きポケットから数個の礫を取り出し、地面に転がるレッサーラビットへと投げつける。その追撃は綺麗に相手の目元を貫き―――クリティカルヒットの音と共に、レッサーラビットは白い球体を残してポリゴン片と化した。
「そうであれば何よりだ。続いてM Pの消費ができない時についても話そうか」
「お願いします」
「M Pの消費ができない時は2つある。発動させようとする魔法の使用コストが足りない場合、そしてM Pの消費がそもそもできない状態異常となっている場合だ。前者の場合は使用コスト以上まで回復するか、そもそも使用コストが現在M P以下の魔法を使用するという対策が楽だろう。後者は状態異常そのものを解除する必要がある」
「状態異常、というと…沈黙*4とかですか?」
「そうだな。沈黙の他にも盲目*5でも一部の魔法は使用できなくなる。我が持っている魔眼がいい例だな」
「…目からビームって「出せない事も無いだろうが、我の魔眼はその方向性ではないな」…マジですか…」
…眼からビーム…カルナだろうか。真の英雄は目で殺す。或いはメンチビームか。
「どちらかというと、こんな感じだ」
眼を閉じ、2回
「
いう必要も無いが、小さく呟き――草原そのものの動きが完全に止まった。舞い落ちようとしている葉もその場にとどまっている。
「…
「それに近いな。我もそれを想起して使った故」
睨んだまま草原へすたすたと歩き、右脚を叩き落とす。
ビキリという音。
さらさら…と砕け散り、草原がポリゴン片へと還った。
「…魔眼ってそこまで強いので?」
「癖は確かに強いな。視認秒数に消費M Pをかけたものが使用コスト故。M Pさえあれば発動させ続けられるか、と言えばそうでもない」
「…もしかして見失ったら魔眼の効果は発動できない?」
頷く。「…確かに癖が強いなぁ」とユキがぼやいた。