A.この先、クロスオーバーがあるぞ
「お疲れ」
「お疲れ、様です」
会釈した後、相互に小さく会釈する。それは互いに見えており、動作が一致したことに藜は小さく笑みを浮かべた。此方も、微かな笑みを返す。その後彼女はインベントリを確認し――小さく「ぁ」と呟くのが耳に入った。
「…どうだろう?」
「えっと、はい…入ってました」
その言葉にあわせて此方もインベントリから使わなくなった装飾品だけを取り出し、彼女の前に一つずつ並べて置いて行く。…そのたびに小柄な彼女が縮こまっていっているのは気のせいだろうか?
「ぁ、えと…これって…」
「…あぁ、気にしなくていい。我々からしたらDに然程の価値が無い故」
「ど、どれも、相場が…」
…鈍っていたから分からなかったが、よく考えたら
「言っただろう?我々からしたら、物々交換が基本故Dの相場は気にしなくてもいい。とはいえ今だけだが」
「…」
その言葉に、何処か畏縮したまま置かれた装飾品を見ていく。彼女の戦闘スタイルに合わせてクリティカル発生率/クリティカル威力を底上げする物、及びクリティカル時に追加効果を発生させるものを主としたが…急かすようで悪いが、数点にまで絞ってもらおう。
「ただ、余りこれらを他者に見せたくはない。ある程度候補が決めてくれ、それ以外は手元に戻す」
「ぁ…そう、ですね…では…」
そう言って選んだのは[撃鉄の卜占杖][星滅流の残光][残響華]。何れもクリティカル威力上昇を+10%したうえでクリティカルで追加の効果が付与される物だ。前記から[威力の30%で追加爆発(5回まで)][MPを「減少したMPの10」%回復][10秒間自身のAglを+5%]となる。暫く悩んで彼女が手にしたのは――追加爆発の装飾品。
「それでは、此方を」
その後に彼女のインベントリから出た蒼銀の甲殻を受け取る。普段なら5回ほど倒さなければ出ないのだが、彼女のお陰で既に1つ手に入ったのは運が良かった。
「有難い。これで互いに利のある交渉になったな」
「…私ばかり、貰ってばかり、ですけど…」
「気にするな…我としては、少しばかり気恥ずかしい故」
どこか遠くを見るように目を背けると、小さく彼女の笑う声が聞こえた。
「いつか、恩を返します、から…」
「楽しみにしていよう」
そうして彼女はそのまま第3の街へと向かっていく。我は再度ヘイル・ロブスターに挑むために魔法陣へ向かい――
「そこの御仁、少しばかりいいだろうか?」
後ろから、何処か荘厳な男性の声。振り返り、姿を確認すると我が少しばかり見上げる程の背丈。…自身が2.1mに対して彼は3m程度だろうか、下手な巨人より背丈がある。
「…何か用か?傷痕」
「少しばかり、此処のボスで行き詰まっててな。街でギルドを組もうにも、異形の影響で他プレイヤーに狙われ続ける故単独できたが」
「…やはり、その背丈は異形で獲得した物か…頼み、というのは?」
「此処のボス討伐を、手伝ってほしい…とはいえ、何も返せる物はないが…」
…無償の善意で頼む、という事だろうか?それとも…ある程度此方で条件を提示してほしい…という事だろうか?
「…無償でか?或いは此方からの条件を提示か?」
「後者だ。俺の憧れている存在が、無償の善意に甘えるとはとても思えない」
そう言いつつ、身の丈ほどの大曲刀を二本背から抜いて地面に刺す。手に纏われるのは紫の気――恐らくは重力の魔力。痩せ馬までは流石に再現しきれなかったのだろうが…成程、極振りと同じ
そう思いつつも、地面に刺さった大曲刀が引き抜かれるのを見る。某ソフトウェアに住むもののデミゴッド、そのうちの最強とよく似ている。恐らくは媒体無しでの魔法発動の為に、知性にかなりな量割り振っているだろう――そして筋力と体格、そして曲刀の性質上それなりの技量をも必要とするそのステータスは、並大抵ではなし得ない再現。
「…そうだな。我と傷痕で蒼銀の甲殻を5つ獲得できるまで…でどうだろうか?」
「…寧ろ助かるが、いいのだろうか?」
「構わない。ただ、我は余り他の人に技術を然程見せるつもりがないことは了承してくれ」
「それこそ、望むところだとも」
手を抜くと明言したにも拘らず、傷痕は豪快に笑う。それに対し、此方はPT申請を返し―――下に新たに追加された傷痕のHP/MPバーを確認する。
「では刹殿、よろしく頼む」
「此方こそ頼む、傷痕」
◇
先ずは結論を述べさせてもらおう――初回は我が介護したような状態だった。だが、大半の状態に何らかの手を取ろうとし、不可能なものを斬り捨てて徐々に成長するありさまは確かに英雄のそれに近い。レベルも20から24へとなっており、スキルも獲得して近づいているとは当人の談。
「刹殿は強いな」
「傷痕も恐ろしいほどの成長速度だ――まさか、
「「…出ないな…」」
…インベントリのあと1つで終わる蒼銀の甲殻を睨むようにして呟き、相互に溜息を吐いた。どちらもLukは低い*1為、予想は出来ていたが…実際に起こられると遣る瀬無さに近い何かを覚える。時間も既に02:00を超えようとしていた。
「…取り敢えず、俺はそろそろ時間になってしまう。…すまないな、刹殿」
「気にするな、其方の体を無視してまでするつもりはない。…もしも良ければギルドに仮所属でもするか?」
「…いいのか?」
「構わない。異形を取得しているなら、我々のギルドに向かうのも問題ないだろう」
「…ご厚意に甘えさせてもらう。ありがとう」
どうにも、傷痕は憧れた存在と性格が似ているらしい。無垢、無邪気、そして憧れに手を伸ばすあり方。このようなプレイヤーがこれからも来てくれるのであればいいが――
「いたぞ、経験値だ!」
「隣に見覚えのない奴がいるぞ!」
「構わん、ぶち殺せ!」
――どうにも、救えない愚か者たちはいるらしい。叫び声と共に追ってくる1PTを見つつ溜息を吐く。Lvは26,32,30,25,23,27。40を最大として見るなら何れも中堅以上の強さにあたる。
「…これらの事か?」
「ああ。…まあ、未だ倒されてはいないが」
「…殆どが中堅以上にも拘らず、倒せていないのはどうなんだろうな…まあ、向こうから喧嘩を吹っかけてきた以上、粉微塵になっても本望だろう」
「…禍根しか残らない気がするんだがな」
我は刀と鞘、傷痕は大曲刀を双手に携えて構え。尤も素早い回避盾であろうアタッカーの接敵と同時に戦端は開かれた。
「そぅらッ!」
迫る短剣を鞘で殴り、強引にかちあげる。威力は此方の方が上である以上、相手は空中へと打ち上げられ――既にラプラスで解析し終えているが、スキルに空中機動を保有する者が存在しない以上、それは明確な隙となる。後ろから迫る重兵士とも呼べる存在の大盾へ踏み込む。
「こんなことに巻き込んですまないな…」
「遊ぶ相手は選ぶべきだと思うぞ。ギルドの面子を保つためとはいえ、貧乏くじを引いたな」
そんな短い会話と共に大盾と蹴りがぶつかる。その蹴りによってノックバックが発生し、後衛たちが射程へと入った。
「■■■■ォォオ!」
「な、ちょ――!」
そして後ろから響く咆哮と――自身の背より微かに後ろで発生した引力。直後に地面にたたきつけられる音と二つの轟音。
「ひぃっ!?」
「…次は、当てる」
…まあ、あの巨躯を横に倒れた状態で見たらさらに巨大に見えるだろう。無様にその場から這うようにして逃げ――
「見逃すはずもないだろう」
その横姿を縦に[抜刀・鎌鼬]でエフェクトで斬りつけ、複数のガラス片が砕ける音と共にその場から散らせる。装備は全て壊れた以上、修理できるまではあれが来ることは無い筈だ。
「《エンチャント・カース》!」
「――なんで、効いてないんだよ!?」
紫色のまがまがしい光を
「ッ、下がれ!」
その声と共に重騎士が前に出る。直後その巨躯が眼前に着地しつつ、双手に持つ大曲刀で袈裟十字に斬りつけた。重力魔法――それは土属性魔法の派生であり、
それを、重騎士は十全に受け止め――盾スキル[バッシュ]で強引に距離を取らせた。…此方は恐らくβ版参加者、且つそれなりのプレイヤースキル持ちだろう。
「ぉおッ!」
「こっちには効く筈だ、《エンt――」
傷痕の巨躯によって生まれた死角から、再度[抜刀・鎌鼬]で装備を破壊しつつ死亡させる。…戦端を開いたのはほんの12秒前だろうに、この様ではたかが知れる。何処か落胆を覚えながら、此方に迫る掌底を
「ぐッ!」
そのうめき声と共に踵を上げて振り下ろす。…手ごたえはない、回転して起き上がると同時に落ちてきた踵を鞘で受け直しつつ納刀する。…此方もそれなり以上のプレイヤースキル持ちか、素手で戦う高レベルプレイヤーとなると翡翠とレン位しか心当たりはない。…尚デュアルは除外する、一応盾で殴る故。
「くそっ、何でこいつ此処まで――!」
「《重力弾》《割断の斧》」
紫色の弾丸が生き残った魔術師へ向かい、直撃することによって
数の利は既になく、2人はβ版からのそれなり以上のプレイヤー。残り4人はパワーレベリングで付いてきただけのお飾り。1人はこの様を察して逃げたが――逃げた先にはボスの魔法陣がある。それによって動きが止まったところで[残響]を撃ち込み、選択が解除されたと同時に残響の停滞継続ダメージでそのまま砕け散った。