「お買い物たのしーね!」
「ふふ、そうだねー」
活気のある商店街を、鹿毛の母娘が歩いている。母の手を引きながら、人参の入ったビニール袋をぶんぶんと振り回し、娘が早く早くと急かす。誰に似たんだか、とその積極性に苦笑いしていると、「おうそこの別嬪さん二人!」と、豪快に笑う魚屋の親父に手招かれた。
「こんにちは、おじちゃん!」
「おう、ちゃんと挨拶が出来て偉いな!」
「えへへー」
「やー、相変わらず元気ですな」
わしゃわしゃと頭を撫でられて照れる娘を、微笑ましく見守りながら、ナイスネイチャは魚を選定する。
「このアジとシャケとマグロのお刺身、くださいな」
「さすがネイちゃん、いい目してるねえ!」
「ふっふっふ、こやつらと同じで活き活きしてるでしょ!」
違ぇねぇ、と親父が笑う。
「この辺歩いてて活き活きしてねぇネイちゃんを見る方が難しいってもんだ! よし、その目に免じてついでにこのイカもくれてやるぜ!」
その言葉にきょとん、と娘が首を傾げた。ピンと立った耳がぴょこぴょこと動き、結ばれたリボンが揺れた。
「イカはいかが、ってこと?」
「ハッハッハ! これは一本取られたな! 流石嬢ちゃん、よし、このタコももってけドロボウ!」
「わーい!」
「もー、そんなこと言って昨日もおまけくれたじゃん。慈善事業じゃないんデスヨ?」
「いいんだよこんくらい、毎日来てくれるおかげでこちとら商売右肩上がりだからな!」
顔を一層くしゃくしゃに歪めて、店主は笑った。どこに行ってもその調子で、気づけば母娘の両手は袋でいっぱいになってる。
「大丈夫、重くない?」
「ぜんぜんへいき!」
そう言って娘は腕をぐっと曲げる。ほんのちょっとだけ力こぶが見えた。力持ちですなー、とナイスネイチャは温かい目を向けた。
「相変わらずすごい荷物だねえ!」
「あ、キミエさん!」
「キミエさんこそ、相変わらずすごいファッションだねえ。流石オシャレレベル80!」
そりゃ年齢だろ! と豹柄の派手な服に身を包んだ老婦人が、呆れたように笑った。よく見ればその背後にあるブティックにも、似たような服が無限に並んでいる。
「アタシも、なんかあげようかい?」
「や、まだアタシには似合わないから! 三十年後くらいにお願いします!」
「その頃にはレベル110だねえ、長生きしなきゃだ!」
「とはいえ本当にありがたいよ、家族共々いつも温かく見守ってもらっちゃって」
「お礼を言いたいのはこっちの方もだよ!」
あの名ウマ娘、ナイスネイチャが懇意にしている商店街ということで、現役時代から今に至るまで、一種の観光地として中々の客足がある。そういった事情もあって、お礼の一環とでも言うように、いつも何かしらの品々を貰ってしまっている。
「最近旦那さん見ないけど、元気?」
「うん、担当の子と頑張ってるよ。この前インタビューでもチラッと映ってたなー」
ナイスネイチャの旦那──彼女の元トレーナー──は今、地方レースでトレーナーをしている。中々忙しいようで、週末も長期休暇も会えない時が多く、この辺りでレースが開催される時くらいしか帰ってこられない。
「まったく、こんないい奥さんと娘を放っておいてひどい旦那だねえ!」
「ほんとにね!」
話に反して、二人は明るく言う。彼への信頼の表れであった。
「でもまあ、誰かをキラキラに後押ししてるなら、アタシはそれを応援していたいから」
それに、とネイチャは続ける。
「あの人にとっての一番は──絶対にアタシだから」
「お母ちゃんずるいー! あたしがいちばんー!」
「ふふ、ごめんごめん。よーし、それじゃあ競走だー! 」
二人は夕陽に向けて、とことこと走り始めた。週末の今日は、一家水入らずである。