ママ娘 ビューティーダービー!   作:織葉 黎旺

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第4R ダイワママーレット

 

 ジリリリリ、と目覚ましが鳴り響く。それから目を背けるように、少年少女は寝返りを打った。放置しづけること数十秒、慌ただしく階段を上がってくる音が聞こえた。

 

「こらー起きなさい! あんたたち今日も学校でしょ!」

 

「んーあとごふん……」

 

「きょうはじしゅきゅーこーで……」

 

「何偉そうなこと言ってんの! ご飯冷めちゃうわよ!」

 

 ご飯という単語を聞いた瞬間、少女の耳がぴくぴくと動いた。

 

「ほら、おきて。ごはんだよ、ごはん!」

 

「もうおなかいっぱいだよぉ……」

 

「もー、またねぼけてる!」

 

 ひょい、と軽く弟の体を抱えて、姉が部屋を出ていく。そんな様子を見ながら、母──ダイワスカーレットは肩を竦めた。

 

 

 

「おう、ようやく起きてきたな。寝坊助どもめ」

 

「おはよう、パパ!」

 

 母に似た栗毛のツインテールを揺らして、娘ははにかんだ。腕に抱えた弟を椅子に座らせると、己もその隣に座る。がくん、と机に倒れ込んだことで、弟はようやく起き上がった。

 

「んあ、ママパパおはよう」

 

「おはよう。ほんとにお寝坊さんね」

 

 目覚めると同時にいただきますと手を合わせ、子どもたちは箸を持つ。朝ご飯は和食である。たどたどしく鮭の骨を掻き分ける弟に対して、姉は骨など意に介さずにバクバクと食べ進めていく。

 

「おかわり!」

 

「はいはい、ほんとによく食べるわね」

 

 小さな茶碗いっぱいにご飯を盛っていると、娘が不思議そうに言った。

 

「だって──いっぱい食べないとイチバンになれないんでしょ?」

 

「ああそうだな、今のうちにバクバク食べないと、ママみたいに一番のウマ娘になれないぞ!」

 

 父が嬉しそうに笑う。娘の夢は、「イチバンすごいウマ娘になること!」である。そのために、日頃から(トレーナー)の言葉をよく聞いて、公園で練習に励んでいる。

 

「食べ過ぎるのもよくないのよ、よく噛んでゆっくり食べなさい」

 

「ママも昔、食べ過ぎてお腹が大きくなっちゃって、減らすのに苦労したんだからな」

 

「やめなさいよ!」

 

 大袈裟なジェスチャーでお腹を張って見せた父を、母が小突いた。「いでっ」と小さな悲鳴が上がる。

 

「そんなに太ってなかったでしょ! しかもアレは、優勝祝いでアンタが食べ放題なんかに連れてくから!」

 

「食べ放題がいいって言ってたのはスカーレットだろ! しかも(トレーナー)からのそんなに食べて大丈夫か? って注意に、『アタシを誰だと思ってるのよ? 一番のウマ娘なんだから、多少食べ過ぎても簡単に減量してみせるわ』って笑って、適正体重に戻すまでに一月かかったじゃねえか!」

 

「アレはアンタも悪いでしょ! なんで減量中のウマ娘に手作りお菓子を持ってくるわけ!?」

 

「それは、ほら……上手くできたからお前に食わせたくて……」

 

「あー! また朝からのろけてる!」

 

 娘に指をさされて顔を見合わせた夫婦は、バツが悪そうに目を逸らして、赤くなった顔を隠した。

 

「ただの喧嘩よ! こら、もう時間なんだから早く学校行っちゃいなさい!」

 

「はいはい」

 

 姉を伴って部屋を出ていく息子が、去り際に「……痴話喧嘩」とだけ言って、場の空気を乱していった。再び顔を見合せた二人は、睨み合って数秒、困ったように笑い始めた。

 

「何が痴話喧嘩よ」

 

「まあ、犬も食わない夫婦喧嘩よりいいだろ」

 

 残っていた味噌汁を飲み干すと、夫は立ち上がってネクタイを結んだ。

 

「よし、行ってくるよ。天皇賞を控えた大事な時期だから、今日は帰れないかもしれん」

 

「ええ、わかってるわ。はい、お弁当──と夜食」

 

「いつもすまないな、本当に助かる」

 

 靴の踵を直したところで、彼は振り向いた。

 

「──スカーレット」

 

 そっと彼女を抱き締めて、言う。

 

「ずっと、お前が俺の一番だ」

 

「──ふふっ、当然でしょ。その座は誰にも渡さないわ」

 

 ダイワスカーレットは、とびきりの笑みを浮かべた。

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