ママ娘 ビューティーダービー!   作:織葉 黎旺

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誤字報告、感想、評価ありがとうございます。クリーク二本目です。


EX.R ウルトラクリーク

 

 

「はいあなた、あーん♪」

 

「あーん」

 

「美味しいですか〜?」

 

「うん、めっちゃ美味い」

 

 妻お手製のクッキーは、甘すぎない夫好みの味付けであり、彼は笑顔でサムズアップした。それを聞いた妻は嬉しそうに微笑んで、「よかったです〜。喉に詰まらせないように落ち着いて食べてくださいね♪」と、夫の少し薄くなった頭を撫でた。

 

「.....................」

 

「おういたのか、お帰り」

 

「お帰りなさい〜」

 

 リビングの扉が開いた。両親の方を一瞥した息子は、すぐさま目を逸らしてキッチンの方へと向かった。

 

「クッキー焼きたてだから、おやつに食べてくださいね〜?」

 

「.....................」

 

 サクサクと焼き菓子を齧る音が、キッチンから微かに聞こえてくる。「どうだ、ママのクッキーは美味いか?」と父が聞くものの、返事の代わりに冷蔵庫の開閉音が返ってきた。父が体を起こして見れば、息子はごくごくと牛乳を飲んでいる。

 

「こら、最近冷たいじゃないか。どうしたんだ」

 

「どうもこうもねえよ」

 

 ようやく口を開いた息子は、呆れたように言った。

 

「帰ってきて早々いい歳した両親がイチャついてたら、閉口する他ないだろ」

 

「別にイチャついてないぞ?」

 

「イチャついてませんよ?」

 

 甘やかされてる(甘やかしてる)だけ、という回答は目に見えてたので、「どっちにせよおかしいんだよ!」と息子は声を荒らげた。

 

「普通はもっと冷めてくもんだろ! なんでこう……永遠に熱いんだよ!! 親父、男としてそれで情けないとか思わないのかよ!」

 

「息子よ、その通りだ。俺もそうだと思っていた」

 

「なら!」

 

「だがそれは、かつての話だ」

 

 父の目は、キッチンの上の写真立てに向いた。そこに移る夫婦の姿は若々しく、URAファイナルズのトロフィーを片手に、寄り添って微笑んでいる。

 

「俺が新米の、二十数歳の頃に初めて担当したのがママだった。右も左も分からなかった俺に、ママは栄光をくれた。そして同時に、甘やかしてくれた」

 

「────は?」

 

「二十数歳の俺と、まだ学生だったクリーク。その立場と年齢の差にも関わらず、トレーニングの度、作戦会議の度、レースの度によしよしと甘やかしてくる。いい子ですね、頑張って偉い偉い♪ と愛情いっぱいに抱き締めてくる」

 

 父は、腕を組んだ母に向かう。

 

「初めは戸惑った。次に、羞恥の感情が湧き上がった。俺は大人だ、責任ある、この娘を守らなければいけない立場だ。その彼女に甘えるなんて、身を委ねるなんて、本末転倒であり大変恥ずべき行いだと。だが彼女は、俺が断る度にとても悲しそうに肩を落とすんだ。耳は倒れ尻尾はへなり、調子も崩す。丁度、今みたいに」

 

 クリークは、不安そうに夫と息子を見つめていた。私が何か至らなかったからこんなことに、とでも言いたげに。

 

「彼女のためだと言い訳して、甘やかされるようになってからは早かった。羞恥の感情も、責任感も、蕩けるように消えていった。立場などハナから関係なかったんだ、俺らは比翼連理、一心同体だったんだから。ウマ娘とトレーナーは、共に努力し、結果を残すことが本懐。その過程で信頼関係を築くのは当然のこと。これも、一つの関係の形なんだと、後ろ指さされることではないのだと、そう理解したんだ」

 

 父の頭が、母の膝に吸い込まれていった。そこでピンと耳を立てた母は、尻尾を靡かせ、父の頭を優しく撫で始めた。

 

「そうですよ。誰だって、甘えたい時も甘やかされたい時もあります! 恥ずかしがることなんてないんですよ〜?」

 

「いや、でも.......っ!」

 

「ほら、おいで?」

 

 空いている膝をぽんぽんとクリークは叩く。息子の目は一度そこに向かって、しかしぶんぶんと頭を振って、「勝手にイチャついてろ! 今日は夕飯はいらないからな!!」と扉を開けて出ていった。クリークは不安げに聞く。

 

「私、何かしちゃったんでしょうか〜.......?」

 

「反抗期ってやつだろう、多分」






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