そのウマ娘が“白銀の突風”と呼ばれるまで   作:乃亞

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お久しぶりです、リハビリがてら間話の投稿です。本編はもうちょっと待ってくださいな。

え、エイプリルフールはもう過ぎた?そんなぁ。

時系列的には本編のかなり後の話になります。
それでは今回もよろしくお願いします。


間話 エイプリルフール:April FOOL

 春眠暁を覚えず、という言葉がある。元々は孟公然(もうこうねん)の春暁という詩の一節で、春の朝の暖かさについつい寝過ぎてしまうというような意味だったような気がするけど…それはさておき。

 

「……さて、やりますか」

 

 

 今日は4月1日。二度寝ができるほど暇じゃないのだ。

 

 

 〜〜〜

 

 軽く体を伸ばしながら食堂に行くと、見慣れた薄紫の長髪がコーヒーカップ片手に読書していた。…あっ、目があった。

 

「あら、メルクーリさん。珍しいですわね、こんな朝早くに」

「……おはよ、マックイーンさん。ジャージってことはこのあとトレーニング?」

「えぇ、テイオーとこの後併走の予定ですわ。……当のテイオーはまだ寝てるようですけど」

「……あー、テイオーの同室はマヤノだしなぁ。こりゃ2人ともお寝坊かもね。……相席してもいい?」

「えぇ、もちろん」

 

 

 

「朝ごはん、朝ごはんっと……あっ」

 

 カフェオレをもらってきてマックイーンさんの隣に座りつつ、ポケットから朝食用のビスケットを取り出してからジャムを持ってくるのを忘れたのに気づいた。……貰いに行くのも面倒だしこのまま食べよっと。

 

 ビスケットをひとかけら食べてからカフェオレをひとくち。うん、おいしい。そこまでしてから怪訝そうな目で見てくるマックイーンさんに気づいた。

 

「……マックイーンさん、どうしたの?」

「その…朝からビスケットですの?」

「……おいしいよ?」

「いえ、そうではなくて…。食べ合わせとか」

「欲しいの?」

「は、はぁ!?欲しいとかそんなことは全く考えてま「でもこれ甘くて美味しいし腹保ちもいいよ?」……」

 

 

 片目を閉じていたずらっぽくいうと、マックイーンさんは露骨にソワソワし始めた。…なにこの可愛い芦毛。

 

「……これ1人で食べきるのはちょっと多いかもなぁ」

「ひ…1人分じゃないならしょうがありませんわね。私でよろしければお手伝いさせてくださいま」

「まぁ、明日食べればいっか。……ん、マックイーンさんなんかいった?」

「……いえ、なにも」

 

 ……ふ、ふふっ。

 露骨に耳が立ったり折れたりするマックイーンさん、わかりやすすぎる。

 

「……なんてね。どうぞ、マックイーンさん」

「いいんですの?メルクーリさんの朝ごはんでは…?」

「さっきも言ったけど、これ1人の1食分じゃないから。朝ごはんたくさん食べる習慣もないし、何よりマックイーンさんも食べたいんでしょ?」

「…では、お言葉に甘えてさせていただきますわ」

 

 

 お澄まし顔してるのはいいけど尻尾振ってたらバレバレなのよ、マックイーンさん。というかそもそも貴女が甘いもの好きなのは公然の事実じゃんか。

 

 

 

 ビスケットもカフェオレもすっかり食べきって早15分。ちらほらと生徒が朝食を食べに来てはいるものの、長髪をポニーテールでまとめた流星が目立つ奴もオレンジのふわふわ髪も来る気配が全く感じられない。ちなみにさっきスペさんがグラスさんと信じられない量のご飯を積み上げて通って行った。なにあれ……?

 

 

 

 それはそうとして…。

 

 

 

「…来ませんわね、テイオー」

「……寝坊だねぇ。春休みだし、2人で夜遅くまでおしゃべりしてたんじゃない?」

 

 

 2人してため息を吐く。…このままマックイーンさんを放置するのもなんか違う気がするしなぁ。しょうがない。

 

「……その、私で良ければ併走つきあうけど?」

「いいんですの?」

「…朝ごはんいっしょに食べてくれたお礼ってことで。部屋に戻って準備してからになるからついでに2人も起こしてみる。ちょっと待ってて欲しい」

「よよよ…!メルクーリさん、貴女って方は…!」

「……なんか違くない、それ?ともかくちょっと待ってて」

 

 

 マックイーンさんの背中をそっと叩いて部屋に急いで戻る。

 

 

 …よし、まず一つ。

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜

 

 ささっとジャージに着替えた私は、シューズを片手に隣部屋の前に立っていた。

 

「……おはよー。お2人さん、起きてる?」

 

 

 ………。

 

 ……………。

 

 …………………。これ、起きてないよね。

 

 思いっきり耳を澄まして周りに誰かいないか確かめる。……いないね、ついでに目の前の部屋からは規則正しい寝息が2つ。

 

 ……よし、やるか。

 

 小袋からそっと針金2本を取り出して鍵穴に差し込む。ここを押して…ここを…よしっと。んでここを回せば……開いた。雑音を極限まで減らして…っと侵入完了。

 

「「もう食べられないよぉ…」」

 

 

 …2人とも何の夢を見てるのさ。だいたいわかるけど。いやはや、こんなに気持ちよさそうに寝てるのを起こすのはちょっと気がひけるけど…。カーテンを開けながら少し大きな声を張ってみるか。

 

 

「……スゥゥッ。おはようございまーす

「「わわわっ!?」」

「……うるさ」

 

 

 強烈な音波に耳をやられる。……やるんじゃなかった。

 

 

 

 

「……テイオー、なんか忘れてない?」

「ん?なんかって……あっ!!」

「…そういうこと。マヤノは完全にとばっちりだけどね」

「……むー」

「ごめんってば。……もとはといえばお寝坊さんが悪いと思うんだけどね」

「あはは…ボク、準備してくるね」

 

 まだ半分くらい夢の中にいるままほっぺたを膨らませるマヤノの髪を撫でる。

 

「…ってことで私は今からマックイーンさんと併走するんだけど、マヤノも来る?」

「…うん、マヤもいく〜」

「……先に顔洗っておいで。眠いんでしょ?」

「…うぅん。ちょっと待ってて〜」

 

 

 先に洗面台に行ったテイオーについていくようにとことこ歩いていくマヤノを見送って一息つく。…あ、LANEでマックイーンさんに報告しなきゃ。

 

 

 5分後…。

 

「お待たせ、メルちゃん!待った待った??」

「……かなり待った」

「ぶっぶー!こういう時は『待ってないよ』って答えるのがオトナなんだよ!」

「待ってない待ってない」

「もー!メルちゃんのいけず!」

「………なんでさ」

「あー、昨日マヤノとオトナ談義してたからマヤノはしばらくそういうモードだと思うよ」

 

 

 洗面台で髪をまとめているテイオーの声に思わずこめかみに手を当ててしまう。

 いつも思ってるんだけどオトナ談義って何なんだ…。マヤノと会ってから随分長くなるけどこればっかりはちっともわからない。マベさんのマーベラス並みにわからん。

 

「っとと、おっまたせ〜!行こっか!ひっさしぶりのマックイーンとの併走だぁー!」

「……待たせてるんだから早く行こ」

 

 

 テイオーとマヤノの背中を軽く押して部屋から出る。

 

 

 

 これで3つか。

 

 〜〜〜

 

「…遅くなってごめん。……ところでマックイーンさん、それはどういう状態なの?」

「…私が聞きたいところですわ…」

「やぁやぁメルさんや、朝早くから人員集めご苦労!」

 

 

 3人でマックイーンさんに指定されたコースに着くや否やマックイーンさんの隣でセグウェイに乗っているゴルシを見つけ、呆れた目で見る。どういう立場なのさ、それは。

 

「それじゃみんな集まりましたし、併走しましょうか。ゴールドシップさん、ゴール判定は任せましたわよ」

「あいわかったマック婆ちゃん、白とか黒とか紅とか全部つけちゃうぜ!」

「「「……婆ちゃん??」」」

「気にしないでくださいまし!どうせエイプリルフール特有の奴ですわ!」

「そんなこと言うなよマックちゃんや、寂しい……どうした、メル?」

「……えっ?あっいや…あははは。はやくやろ?ね?」

「…むむむ〜?」

 

 

 ……やばいやばい、危うくバレるところだった。胡乱げな目で見てくるゴルシとマヤノを手でひらひらとかわしてコースの中に入る。……外からでいいや。

 

 

「よーし全員入ったな。位置について…用意、どん!」

 

 

 

 

 

 

「……はぁ、はぁッ…マックイーンさぁ…!」

「いきなり3600mは聞いてないよ…マックイーンちゃぁん…」

「……私とマヤノに関しては巻き込まれただけだし、そもそも私にはちょっと長すぎるし……なんで…」

「あら、私を待たせたんですから走る距離くらいは私の自由になって当然でしてよ」

 

 

 ……あー。内心ではしっかり怒ってたのね。とはいえ流石にこの距離は……キツい……。

 

 思わず大の字で寝転がって他の3人をチラッと見る。最強ステイヤーの名を欲しいままにしてるマックイーンさんは当然として…意外とマヤノもそこまで消耗してないのね。んでその2人に比べるとテイオーが少し消耗してる感じかな、大の字にはなってないけど。

 

「おーい、大丈夫かぁメル?」

「……大丈夫…じゃない…って言ったら…どうなるの?」

 

 

 セグウェイに乗りながら寄ってきたゴルシに減らず口を息も絶え絶えに返す。そういえばゴルシも長距離走れるタイプだったよね。……はぁ、ステイヤーは毎レースこんな距離走ってるのかぁ…。

 

 なんてぼんやり倒れて眺めていると、セグウェイを降りたゴルシがマックイーンの背後に立って髪の下に手を入れてごそごそ。

 

 …あー、これはまずいかも。

 

「…どうかしましたの、ゴールドシップ?」

「ちょっとそのまま動くな…よっと!」

「ひゃんっ!いきなり何してくれますの!?」

「あーいや、これこれ。お前たちが走ってる時にチラッと見えてな…って何だこれ」

「これは……魚のシール?」

 

 ゴルシの手でひらひらしているのは魚のシール…というよりは魚の紙切れにシールを貼り付けたやつ。

 

「あれ、テイオーちゃんもなんかついてるよ?」

「えっ!?取って取って!」

「そう言うマヤノさんも何かついてましてよ、取って差し上げますわ」

「マックイーンとテイオーとマヤノにはついていて、メルにはついてないな」

「「「メルちゃん(メルクーリさん)……?」」」

 

 ……あー、これは撤退したほうがいいかも。ちょっとまだ息戻ってないんだけど、これから起こるであろう悲惨な未来を回避するために体にムチ打たなきゃ…!

 

 

「……飲み物買ってこようかなぁ。ってことでまたッ!」

「「「……逃がすなッ!!」」

 

 

 〜〜〜

 

「………」

「「「……ジーッ」」」

 

 

 すぐに捕まりました。疲れが取れてない状態じゃ面白半分に追ってきたゴルシを含めたステイヤー気質3人と無敵のテイオー様には勝てるわけありませんでした。四方を囲まれて逃げるに逃げられません。助けてください。

 

 

「メルちゃん」

「…はい」

「説明、して?」

「…エイプリルフールなので、イタズラしてみました。他意はありません。ホントはスピカ全員に貼ろうなんて思ってません」

「どうやって貼ったんですの?私、全く気づきませんでしたわ」

「…マックイーンさんは食堂の別れ際に、2人は部屋を出る時に。…こんな感じで」

「…うおっ!?マジかよ」

 

 

 手品にもならない小細工で素早くゴルシの背中に魚の紙切れを貼り付ける。…みんなに見られてる前じゃさすがに気付かれるけど、そうじゃなきゃ意外とバレないんだよね。

 

「……ちなみに。魚の裏側はもう見た?」

「「「裏側?」」」

「なになに……ふむ、『17:30分、栗東寮キッチン前にお越しください』……?」

「……まぁ、そのまんまだよ。キッチン借りて料理作るから来て」

 

 

 そう。この魚はただの魚ではないのだ。イタズラに付き合ってもらったお礼として晩ご飯の招待状も兼ねてるってわけ。元々は実家での慣習みたいなものだけどそれはおいといて。

 

「…スピカのみんなは元々呼ぶ予定だったから、それ以外で呼びたい娘いるなら呼んでいいよ」

「…いいんですの?材料費とか出しますわよ?」

「…暇つぶしみたいなものだしいいよ。ほかにお金使うことあんまりないし」

「ねね、マヤはメルちゃんのお手伝いしたい!いいでしょ、ね?」

「…じゃあお願いしよっかな。マヤノはセンス良いし、楽させてもらうね」

「ホント!?やったー♪」

 

 

 喜ぶマヤノに尻目に、脳内で2人で作る時の料理工程を思い浮かべる。……多分調理時間は1時間くらいは短くなるかな。

 

 

 

 ……そう思っていた時期が私にもありました。

 

 

「今日はここに来ればおいしいフレンチを楽しめると聞いたのだが」

 

 

 

 その日私は思い知った。芦毛の怪物の脅威を。提供(サーブ)した瞬間に空き皿になってくることの恐ろしさを…。

 

 

 

「…トレセン学園でやろうと思ったのが間違いだった」

「…メルクーリさん、本当に材料費はいいんですの?結構な量作ってましたわよね?…あ、あとソルベのおかわりってございまして?」

「……これで最後ね。あと材料費は…少しだけお願いしてもいい?」

 

 

 なんとか死守した私の分をちょもちょもと食べながら、ため息をつかずにはいられなかった。

 

……二度とやらない。




キルロード君、パドックで良いなって思って仲良い人にオススメしたらとんでもないことになって笑ってしまったの巻。

お気に入り登録、感想、評価等々いつもありがとうございます。
それでは次回もよろしくお願いします!
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