そのウマ娘が“白銀の突風”と呼ばれるまで   作:乃亞

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難産。この一言に尽きました。
それではよろしくお願いします。


第15話 (心)技体:Without pride

 取材が終わった直後、チームの部屋に戻った私はとりあえずトレーナーを正座させていた。

 

「……トレーナー()()、私がなぜこれ程まで怒っているか、わかってる?」

「ヒィィィィッ!」

「…メルちゃんって怒ったらあんな感じなんだね。ボク知ーらないっと」

「銀髪がふぁぁって広がってて見た目だけならキレーなのが余計怖いね…。マヤもすぐメイクデビュー控えてるし、トレーニングしてこよっかなー」

「あっおいお前r「よーしそういうことならアタシたちが特別稽古をしてやろーう!行くぞみんなー!」……」

 

 

()()()()()()()()()()()()、チームメンバーがみんな部屋からはけてくれたので改めてトレーナーに向き直る。いやー、持つべきものは理解力のある仲間だよなぁ。

 

 

「さて。さっきの質問の答えは出ましたか?言っておくけど、理由は一つとは言ってないからね?」

「ええっと…取材の予定を入れたことを言い忘れてたからか?」

「はいまず1つ。もう少し報告早めにしてもらわないと対応考える時間とかも欲しいから困る。次」

「…サウジアラビアロイヤルカップの出走申請を出したのを報告してないことか?」

「それも本当は文句言いたいけど、前に出すぞって言ってたから良い。そうじゃなくて」

「……わからん」

 

 マジか、マジで言ってるのかこの人。本当にわからない顔してるけど……そっかぁ。

 

「勝手にクラシック三冠路線確定させて、挙げ句の果てに通過点って言って他の娘を煽るとか何を考えてんの???そもそも私はそこまで走るとは言ってない!!!」

「走るよ」

「はい?」

 

 

 わたしの剣幕にも全く退かず、真っ直ぐに私の目を見て言い切るトレーナーに逆に私が怯んでしまった。

 

 

「スバルメルクーリはクラシックを走って三冠を取る、いや俺が取らせる。これはお前がチームに入ってきた時からの俺の目標だからな。そのためにお前にトレーニングさせるしサポートもする。それがトレーナーってもんだ」

「そんな勝手な…」

「勝手も勝手さ、俺はお前たちウマ娘に夢を見てるからな。……なぁメルクーリ、()()()()()()()()()()()()()?」

「……ッ!!……いいよ、わかった。今回のサウジアラビアロイヤルカップは乗せられてあげる。朝日杯もどうせ出走登録するんだろうから走ってあげるしそれまでのトレーニングは付き合う。…けど、クラシック三冠路線はしばらく保留にしてほしい」

 

 

 その言葉を最後に私はトレーナーに背を向ける。…怯えてる、ねぇ。トレーナーってやっぱり凄いな。

 確かに、私は走る…もっといえばレースのターフに立つことに怯え、レース中は異様に焦っているんだろう。

 

 

 …自分で言うのもおかしな話だけど多分間違ってない。私はきっと、あの時から一歩も進めてないまま。言ってしまえばそこに立ち尽くしてるだけ。そこから一歩踏み出すには、私は多くのものを見過ぎたし、何よりも聴きすぎた。

 

 …ホント、バカみたい。

 

 〜〜〜〜〜〜

 

 同時刻、生徒会室では先程の会見、つまりスバルメルクーリとそのトレーナーの会見がテレビに映し出されていた。

 

 

『……しっかり実力を発揮できれば三冠だって通過点になりうるくらいの優秀な子なので、俺はその個性を支えてやるのが仕事だと思ってます。クラシック三冠路線、こいつから目を離さないでください!』

『えっ待っ……』

 

 

 わずかに目を見開くスバルメルクーリと笑顔のスピカのトレーナー。その対比を見ながらエアグルーヴはシンボリルドルフに質問を投げかけた。

 

 

「…スピカのトレーナー、随分と大きく出ましたね。スバルメルクーリにそこまでの才能が…?」

「可能性があるかないかでいえば……ある、な。エアグルーヴ、あの時なぜ理事長はスバルメルクーリ君を捕らえ、選抜レースに出させるように言ったと思う?」

「それは…入学試験でトップだったウマ娘をそのままにしておくのはもったいなかったからでは」

「そうだが、それだけじゃない。言い方は悪いが、トレセン学園はレースをより一層盛り上げるための偶像(アイドル)が欲しいんだ。かつて私やテイオーがそうだったように、クラシック戦線を駆け抜ける一条の光が現れることをファンは待ち望み、その光が他の光(ライバル)と交差することでさらに大きな光が生まれることに焦がれている。ただその偶像を作るにはクラシック三冠という響きは想像以上に大きく重い。何せ人生で一度しかないクラシック、ウマ娘なら誰しもが目指す檜舞台(ひのきぶたい)だ。まず出走できるだけで一流という舞台で三度頂を取ることは並大抵の器では不可能なのは言うまでもない」

 

 

 目を伏して語るシンボリルドルフ。その脳裏にあるのが彼女のクラシック戦線の記憶であろうことはエアグルーヴにも理解できたが、その道がどのくらい辛く険しい道なのかまではわからなかった。

 

 

「言ってしまえばトレセン学園の入学試験というのは中央でそのウマ娘がどれだけ輝けるかを測るためのもの。その試験で最も優秀だったものを神輿に担ぎ上げるのは至極真当ということだ。まぁ、チームスピカのトレーナーはそういった事情とは関係なく、ただ自分のチームのウマ娘をファンに向けてアピールしようというだけだろうがね」

「なるほど…。ただ、スバルメルクーリ本人はそのクラシック三冠に関して全く乗り気でないように映りましたが」

「そうだな。スバルメルクーリ君はいわゆる心技体のうち、技は私にも真似が難しいような天性のものを持っているし、体も悪くはない。ただ彼女は心、すなわち中央のウマ娘として走る矜持が全くもって欠けている。あれでは勝てて1つ、ともすれば3レース全て掲示板すら怪しいかもしれない。彼女の事情は知っているが、そこで足を止めてしまうようなただ速いだけのウマ娘が勝ち抜けるほど中央のクラシックは甘くない」

「…なかなか手厳しいですね、彼女に」

「期待の裏返しと言ってくれ。チームスピカのトレーナーはアレで担当のウマ娘のことはしっかり見ている。本番までにどのくらいスバルメルクーリ君の心をレースに向かせるか見ものだな」

 

 

 いつのまにかスバルメルクーリの会見のニュースは終わり、テレビ画面は最近の特集が映し出されていた。どうやら巷では4色に光る液体を用いた謎のパーティグッズが流行り出しているらしい。アグネスタキオンが裏で手を引いてたりしないか密かに懸念するシンボリルドルフであった。

 

 




レオ杯の準備?知らない子ですねぇ……。
お気に入り、評価、感想等いつもありがとうございます。
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