そのウマ娘が“白銀の突風”と呼ばれるまで   作:乃亞

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新しいライダーが始まると季節が変わったなぁって感じる今日この頃。これも全部ディケイドって奴のせいなんだ、おのれディケイド!
…取り乱しました、今回もよろしくお願いします。


第18話 10月の風:The Oct. Wind

 10月のターフの上はみんなが思っているよりもかなり寒い。春夏の時期は心地よかった風が9月くらいから段々冷たくなっていき、10月にはもう肌を突き刺してくるかのような寒さに変貌しているというわけだ。今日は晴れているからまだ良いが、これが雨やら雪やらが降ってしまうともうやってられない。寒い、濡れる、走りにくいの3拍子揃って良いところがない。

 

 ……ともかく、肘まで覆う大きめな手袋を持ってきていてよかった。寒さが少しだけ解消され、指先も冷えなくてちょうどいい。

 

「……ふッ!!」

 

 軽く息を吐いてギアを上げる。私が思っているように加速していき……私が思った通り、()()()には届かないままゴール板を駆け抜ける。……やっぱり届かなかったか。

 

「そろそろパドックだぞ」

「あ、トレーナー」

「…どうだ、行けそうか?」

「……大丈夫。勝ってくるよ」

 

 

 いつのまにか来ていたトレーナーに水とタオルをもらって息をつく。……そっか、もうパドックの時間か。思ったよりも時間が進むのが早いな。

 

 

「そういえば、マヤノ速かったね。あの走り方はトレーナーの指示?」

「…いや、あいつの意思だ」

「……そっか。慣れない走り方でほぼ確実に足先とかふくらはぎとか色々なところが張っちゃってるだろうだから、私がパドック行ってる間にしっかりケアしてあげな。…タオルと水ありがとね」

「おう。しっかりアピールしてこい」

 

 

 トレーナーにひらひらと手を振ってパドックに赴く。……とりあえずお疲れ、マヤノ。

 

 

 〜〜〜〜〜〜

 

『3番人気は8枠9番、スバルメルクーリ!』

『前走のメイクデビューでは他の娘に影すら踏ませない圧倒的な走りを見せてくれました。初めての重賞レースということで人気こそ3番ですが、十分に勝利を期待できますよ』

 

 パドックに現れ、前回と同じアクロバットを綺麗に決めるメルクーリを見ているテイオーとウオッカ、スカーレット。3人ともマヤノのメイクデビューの調整につきっきりでメルクーリをしっかりと見るのは実は久しぶりだったりするのだが、メルクーリの僅かな変化に気づいていた。

 

 

「……メルちゃんなんか良いことあったのかな?少し雰囲気が柔らかい気がするんだけど」

「そうかー?俺にはいつも通りのメルクーリって感じしかしないけどな。少し尻尾振ってるくらいか?違いと言えば」

「…アンタも違いわかってるじゃない。それはそうとして2人ともメルちゃんの方見てみたら?」

「「…えっ?」」

 

 スカーレットの言葉で再びパドックの方を見たテイオーとウオッカ。するとそこにはこちらを突き刺すように睨むメルクーリの姿があった。

 

 

「げげ、聞こえてんのかよ!なんつー地獄耳だメルクーリの奴!」

「と、とりあえず手を振っておこっか…。メルちゃんがんばれー!」

「「がんばれーー!!!」」

 

 

 推しのアイドルにするかのように手をブンブンと振る3人を見て、控室からチームに合流するために戻ってきたゴールドシップは呆れながら呟いた。

 

 

「何やってんだ?おまえら…」

 

 

 〜〜〜〜〜〜

 

 

 …。

 ……。

 ………。はぁ。

 

 雰囲気が柔らかくなった?好き勝手言ってるテイオーたちには後で軽くお仕置きをプレゼントしようかな。

 

 パドックから出ながらさっさとジャージの上着を羽織る。重賞レースだからか、カメラの数も観客の数も段違いに多くなって本当にうるさいったらありゃしない。G3でこのレベルなんだからG1になると………。考えるのはやめようか…。

 耳カバーを付ければこの騒音も少しは軽減されるけど、あくまで気休め程度。そして騒音の代わりに耳カバーの衣擦れの音が耳に入ってきてイライラするからつけるのをやめた。

 

 

「………はぁ」

 

 

 賑やかなパドックから離れ、ぼんやりと空を見上げてみる。もしかしたら今晩は寮の屋上から良い感じに星が見えるかもしれない。温かいにんじんスープでも作って見るのもアリかもね。

 

 

「みてみてママ!あの銀色のお姉ちゃん、きれー!」

「そうねぇ、綺麗ねぇ」

「……?」

 

 

 意識を観客席側に移すと、何やら最前列の黄金色のウマ娘の親娘が私の話をしているらしい。……ちょっと悪戯しようかな。

 

 

「こんにちは、観戦?」

「わ、銀色のお姉ちゃんこっちにきてくれた!すっごいねママ!」

「こーら、挨拶してくれたんだから挨拶を返しなさい!」

「こんにちは!さうじあらびあろいやるかっぷを見に来ました!」

「そっか」

 

 

 ……私も小さい時は多分こんな感じだったんだろうなぁ。母上に『レース見たい!』ってせびって連れてきてもらったっけ。…まぁでも母上は私の耳が良すぎるのがわかってたからほとんど連れて行ってくれないか、行っても個室がほとんどだったけどね。

 

「…レース前なのにわざわざすみません」

「いえいえ。…将来はトレセン学園ですか?」

「トレセン学園!絶対行く!それで1番のウマ娘になるの!」

「…娘がこう言って聞かなくて。努力しても届くか届かないか、ってくらいレベルの高いところなのに…」

「あはは…」

 

 

 ……金色の髪といい、親御さんを困らせるところといい、アイツにそっくりだなぁ。

 もう一回娘さんの方に目を合わせる。願わくば、その希望の瞳が曇らんことを。

 

「…トレセン学園に行きたいの?」

「うん!」

「そっか。…何か聞きたいこととかある?1個だけ答えてあげる」

「うーん……。あ、お姉ちゃんがトレセン学園に入ったコツを教えてほしいな!」

 

 

 トレセン学園に入るコツって…難しいことを聞くなぁ。……うーん、これかなぁ。

 

「よく勉強して、よく走る。それで…自分の体のことをよく勉強することかなぁ」

「自分の体のこと?」

「どんな走り方が合うのか。どのくらいの距離でちゃんと走れるのか。あとは……どうすれば怪我しにくくなるかとかかな」

「うーーん???」

「つまり、体を大切にしてあげてってこと。先生とかお母さんとかに言われてない?」

「あ、よく言われる!わかった!からだ、大切にする!」

 

 

 素直ないい子だなぁ。でも走ってたら楽しくて忘れるんだよね、多分。そこで大事なのが親御さんだったり先生っていう管理してくれる人の目。

 

「娘さんのこと、しっかり見てあげてください。私から言えるのはこれだけですから」

「本当に…ありがとうございます。レースの方頑張ってくださいね!」

「あはは…。ではそろそろ失礼します」

 

 

 ……本当は『夢はきっと叶いますよ』だとか『絶対合格できますよ』みたいな歯の浮くような言葉をかけてあげられたらいいんだけどね。私にはそんな言葉を口にする資格がないから、他の人に言ってもらいな。

 

 さて、パドックも終わったっぽいしそろそろレースか。出るからにはまぁ頑張ろう。少し元気出たし。




サトノレイナスさん秋華賞回避が非常に悲しい…。
UA、お気に入り、感想などなどいつも励みになっております。ありがとうございます。


もしかしたら夜に2回目の更新あるかも…?
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