今回もよろしくお願いします。
東京 芝 1600m
『さわやかな秋晴れが広がる東京レース場から本日のメインレース、サウジアラビアロイヤルカップをお送りします。かの無敗三冠ウマ娘、皇帝シンボリルドルフや女帝エアグルーヴも名を挙げた超出世レースです』
ターフの上で軽く弾んだり軽く踏み込んでみたりして芝の状態を確認しているとどうやら中継が始まったらしい。
にしても芝も良し、天気も晴れ。……絶好のレース日和だなぁ、スズカさんなら『気持ちよく走れそうね』とかなんとかいってどっかに走っていくかも。
『例年にも増して観客の多い東京レース場GⅢサウジアラビアロイヤルカップ、間もなくファンファーレです!』
あ、そうですか。耳を塞いでおかないと。数瞬後にやってくる音の波に備えて耳を塞いで、ついでに目を瞑る。
…自分のいつも通りの心臓の拍動が耳に刺さる。この拍動を聞く度に私がまだ生きている…生き永らえていることを突きつけられる。
15秒くらい経っただろうか、少し歓声が落ち着いたので私は目を開けて耳を元に戻す。全くもって本当に賑やかだねぇ。
1番の子がゲートインを始めているから私もゲートの方に行こう。
……既に心拍数が上がって緊張真っ盛りっていう子が多いね。まぁゲートインでぐずらないでくれればなんでもいいけど。
〜〜〜〜〜〜〜
「なぁゴルシとマックイーン。メルクーリに何した?」
「
「いやぁ、パドック行く前にアイツと少し話したんだがな。マヤノの応援に行く前と少し変わってたからお前らがなんかやったのかと思って」
メルクーリがゲートインしている頃、スピカのトレーナーはマヤノトップガンのケアを終えてチームの元に戻っていた。当のマヤノトップガンは『ウイニングライブのためのお色直しをするからメルちゃんのレースはテレビで見るね!みんなはメルちゃんの応援に行ってあげて!』と言って1人で控室に残っていた。
当の質問をされたゴールドシップとマックイーンは2人で顔を見合わせ、そして吹き出した。
「何したって…フルーツパフェと緑茶じゃね?」
「ですわね、どこからどう見てもパフェと緑茶ですわね」
「……はい?」
「ほらほら、もうレースが始まりますわよ!トレーナーさん、メルクーリさんを応援いたしましょう!」
「お、おう…」
狼狽えるトレーナーをよそに、サウジアラビアロイヤルカップの始まりを告げるゲート音が響いた。
〜〜〜〜〜〜
『各バゲートイン完了。……スタートしました!!全員目立った出遅れはありません!』
ゲートが開くと同時に飛び出した私はあえて最後方に下がり、相手の出方を耳で伺うことにした。緊張してる人たちが揃って掛かる可能性が高くて、新潟の時みたいな逃げだと呑まれる可能性が高いからね。
案の定、我先にとハナを取り合う逃げウマたちが突っ込んで行った。アレに追いかけられるのは流石に気分が悪くなりそうだ。
前に突っ込んだのが10人のうち3人、中段が5人。後方が私ともう1人って感じかな。……さて、どう出ようか。
『さぁ先頭から最後尾まで7バ身ほどで第3コーナーに入ります。最初の600mのタイムが34秒9!この馬場らしい速いタイムで入りました』
…34秒9?思ってる以上に速いな。ジュニア級限定とはいえ流石重賞レースってことだね。…まぁ想定内だけど。私が逃げるならテン3のタイムは34秒前半を出す。
…最初の600mを過ぎる頃に下り坂があり、息をつくことが難しいのがこのコースの特徴。そしてその下り坂でスタミナを使い果たすと、最後の直線の上り坂バ群に呑まれてしまう……らしい。座学でマックイーンさんがなんか言ってた気がする。横でゴルシが『いいか?中山の直線は短いぞ!いいな?』って連呼してたからなんとなく覚えてる。そしてその時にマックイーンさんとこんなやりとりもしたな。
〜〜〜〜〜〜
『いいですかメルクーリさん、この特徴から差しや追込みが勝ちやすいって思われがちですが実際は違いますの。実際には先行や逃げの方が勝ちやすいのでしてよ。なんでかわかりますか?』
『…マイルの距離の短さでは差し切れないから?』
『それもそうですがもうひとつ。レース中盤までにスピードが緩んでしまうと先行や逃げが一息つけてしまい、彼女らが最後まで保ってしまうのです』
なるほどな、と思うと同時になんでマックイーンさんがこんなにマイル距離のレースのことに詳しいのか少し気になった。…ちょっとカマかけてみようかな?
『……へぇー。マックイーンさんよく知ってるね』
『当然ですわ!各レース場の特徴を理解することがメジロ家としての当然の嗜みですもの!』
『…ちなみにどちらのイクノさんから教わったの?』
『もちろん同室のイクノさんですわ!……あっ』
『………』
『………』
マックイーンさん、語るに落ちる。……暴いたら暴いたでちょっと気まずくなるのやめない?
『…マックイーンさん』
『お、おっほん!ともかくもし追込で勝とうと言うなら、私達から授けられる策は1つですわ!ゴールドシップ!』
『んあー?なんだー?』
『貴女のロングスパートをメルクーリさんに見せてあげるのですわ!』
『????』
〜〜〜〜〜〜
『おっとここで最後方からスバルメルクーリが一気に突っ込んできた!中段のバ群をまとめて抜き去って前の集団に迫っています!!』
下り坂を利用してまとめて中段を抜き去る。ごめんね、君たちと遊ぶ予定はないんだ。
「ふッッ!!!!」
マックイーンさんが提示して、私がOKを出したレースプランがこれ。最初から全開で走り通して、中頃で息を入れようとしていた逃げ組に最後方からロングスパートで突っ込むことで息つく暇を与えずに抜き去る。その後は後ろから来るであろう他の娘に気を取られずに一気に突っ切る。
その時の状況を再現するために
「「「む、無理ー!!」」」
第4コーナー手前でさっと先頭グループを捕まえて一切ならぶことなくハナに立つ。後ろの娘たちの心臓の拍動的にここからさらに踏み込むには少し時間がかかりそうなのでコーナーを利用してそのまま一気に引き離す。
『一気にまとめて薙ぎ払ったスバルメルクーリ!脚色は衰えるどころか鋭くなる一方!後続はついて来られるでしょうか!』
「「「「「「いっけーー!!」」」」」」
……思ったよりもコーナー明けの上り坂がキツいな。苦しいまではいかないけど、こんなことを毎回やってるゴルシってやっぱりすごいんだなって再確認するくらいにはキツい。
『さぁスバルメルクーリの後ろからは5番の……が追ってきていますがまだ5バ身以上離されています!』
新潟の時より距離だけでいえば200m短いんだけどこれ絶対嘘っぱちだよ。これかなり体力使う!!キッツい!!!……でも、アイツなら!!
『脚色が衰えないスバルメルクーリ、今ゴーーール!!!初めての重賞レースを見事に勝利で飾りました!2着は5番……』
…まだ届かないとしてもッ!!
「おぉーーい!メルクーリ!終わったぞ、勝ったんだぞー!」
「どこまで行くのメルちゃーーん?」
「……えっ?」
遠くに聞こえたトレーナーとテイオーの声にふと我に帰ると、ゴール板を遥か遠くに置き去ってしまっていたらしい。気づいたら掲示板の方も全て確定してしまっていた。…小走りで戻ろうか。
「あのー。はい、ただいま。宣言通り勝ったよ」
「おかえり〜メル。1600mプラスアルファのレース、楽しかったか?」
「かなり恥ずかしかったからやめて…」
チームメンバーの元に戻ったらほぼ全員にニヤニヤされてました。ゴルシとかテイオーは全くニヤニヤ笑いを隠そうとしないし、マックイーンさんは笑いを隠そうとはしてるけど全く隠せてないし。ウオッカさんとスカーレットさんだけだよ、普通ににっこりしてくれるの。普段からジト目って言われがちな目がもっとジト目になりそう。
「改めて、初めての重賞制覇おめでとうメルクーリ。脚は大丈夫か?ライブそのまま出来そうか?」
「大丈夫。…みんなも応援ありがとね」
「おいおい、それをいうのはアタシたちじゃないだろ?カッコつけて来い!…ププッ」
「ゴルシは笑いすぎ!まぁ言ってることは間違いないんだけどさ」
それだけ言うと私は観客席の方に改めて向き直った。それで盛り上がる観客を見ても実感は全くないけど、これが私の重賞初勝利の景色なんだよね。そう思うとなんとなくこの景色が大事な気はした。
同じレースに出てる子の名前が出ないのはまぁそれなりの理由があったりなかったり。
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