今回もよろしくお願いします。
ゴルシとマックイーンさんのしごきを乗り越え、私はジュニア級とはいえ中央の重賞レースを制覇したウマ娘になった。あんまり自覚ないけど。これがどういう意味を持つのかというと……。
「スバルメルクーリさん!サウジアラビアロイヤルカップ勝利おめでとうございます!今のお気持ちを一言でお願いします!」
「次の出走予定はもう決まっていますでしょうか!出来れば教えていただきたいのですが!」
「年末のジュニア級のG1レースに出走という噂が出ていますが、G1レースとなりますと勝負服のデザインなどが気になるところです。スバルメルクーリさんは勝負服のデザインについてもう注文等は済ませたのでしょうか!」
「チームスピカはG1を制したウマ娘が多く所属しておりますが、そのことに関して気負いのようなものなどはありますか?」
「………えーっと」
有り体にいえば囲み取材を受けています。勝利ウマ娘インタビューというヤツで、雑誌の他にも何やらテレビのインタビュアーもいるっぽい。新潟の時もあったことはあったけどここまでじゃなかった。流石にシャッター音を鳴らして撮るような人はいないけど、それを差し引いてもうるさいし気疲れしちゃうんだけど。
…どうにかならないかな、これ。って思ったらトレーナーがゴルシに俵担ぎされながらこっちきてくれてるけど、これじゃお姫様抱っこじゃなくてお米様抱っこだね。あんまりな光景にインタビュアーの人たちも揃ってトレーナーの方に向いてるんだけど、このトレーナーに尊厳はないのかな。…無いか、可哀想に。
「あーすんません!こいつまだこういうの不慣れでして!出走予定等は後ほどスピカの公式ウマッターで投稿します!メルクーリはとりあえずここのインタビューは『今の気持ち』だけ答えとけ!」
「あ…うん」
トレーナーの声に再びカメラがこっちに向くのを感じた。…物好きだなぁ、世間も。重賞初めて勝っただけのウマに関心なんてないでしょ…。
「えっと…勝ててよかったです。次も頑張ります、よろしくお願いします」
一礼して控室に向かって歩を進める。勝負服、かぁ…。って待ってゴルシ、なんで私も俵担ぎするの?右にトレーナー、左に私でこれでバランスが良いな!じゃないのよ。いやホントに待ってホントにこのまま戻るの?待って待ってマックイーンさんとかテイオーも笑ってないで助けてお米様になっちゃう!!!!
後日発刊された新聞やら雑誌やらに勝った時の写真と同じくらいゴルシに担がれた写真が使われていて、ゴルシと
〜〜〜〜〜〜
「ん〜、疲れた体にはにんじんスープが染みるなぁ」
レースの後のアレコレを全て終わらせて寮に戻る頃には辺りはすっかり暗くなっていた。秋分の日をとうに超えてどんどん夜が長くなる時期だからまぁ当然なんだけど。
そしていつものように寮長のフジキセキさんの目をかいくぐって屋上に出てぼんやりとしていた。うーん、やっぱり静かなところが私の性に合う。…別にスピカの面々の騒がしさが肌に合わないわけじゃないけど、やっぱりこっちのほうが好きなのかもしれない。
「………」
目を閉じて今日のことを思い返す。東京レース場に集まった沢山のレースファン。彼らがあげる歓声やカメラのシャッター音。初めてのレースにドキドキしてる娘たちや重賞レースに挑む娘の緊張した拍動の音。スタートを告げるファンファーレ。そしてそれを見る小さな黄金色のウマ娘のキラキラした瞳。
誰も彼も全て輝いていた。輝きすぎていて…やっぱり私には不釣り合いだと思った、思ってしまった。
例えるなら、完璧なフレンチのフルコースの
そのハエがレースに勝って、あまつさえ次はG1レースに出るというのだ。憤懣やるかたないとはこのことを言うんじゃないだろうか。
「…ホント、なんでなんだろうなぁ」
「……メルちゃん、何がなんでなの?」
誰に届けるでもなかった言葉に返答が来たことに少し驚いて後ろを見る。そこにはマヤノが少し肩で息をしながら立っていた。バレないように気をつけて抜けたのになぁ。
「…今日はお疲れさま、マヤノ。なんで私が屋上にいるのがわかったの?」
「寮のキッチンから少しにんじんスープの匂いがしたから」
「にんじんスープの匂いがしたら私が屋上にいるの?他の子がにんじんスープ作ってたかもしれないよ?」
「他の子はみんな寮の晩ご飯の時間に間に合って晩ご飯を食べてるか遠征で今日は帰ってこないかのどっちかだから。それにメルちゃんは今日晩ご飯食べてないからメルちゃんだなってわかっちゃった」
「……降参。マヤノは鋭いね」
言われてみればまぁ確かにと思えるけど、それでも普通は気付かないでしょ。すごいなぁと思いつつ、私はマヤノをこっちに呼び寄せた。
「正解商品というにはちょっとチャチだけど、このにんじんスープいる?」
「…いる」
予備のマグにスープを注いでわたしながら私は夜空を見上げる。秋星の代名詞、フォーマルハウトが輝いていた。秋のただ1つだけの一等星。孤独な秋の1つ星。
「…それで、何がなんでなの?」
「答えないとダメ?」
「ダメ」
マヤノらしからぬ強い言葉に思わず横を向く。思えば最初、屋上に来た時からちょっと怒ってたのか。ちょっと語気が荒かった気がしなくもない。…もっとも、私の横で頬を膨らませているマヤノは怖いというよりはかわいいの方が強い気がするけど。
「…教えなきゃダメでも教えない。私1人のナイショ話って奴だよ」
「……どうしても?」
「どうしても」
にべもなく言い切る私。それでもマヤノは私から目を逸らさない。少し強い風が私達の髪を揺らしながら吹き抜けていった。
「…メルちゃんってさ。冷たいようで優しいけど、色々隠してるよね」
「……あんまり人付き合いが得意じゃないからね」
「それも嘘。何かを隠すためのタテマエだよね」
……マヤノは鋭いなぁ。さっきのスープの件といい、周りをよく見てるしそこからよく考えてる。今のやり取りだって即答してきた。
「今日のレースだってそうだよね?マヤの走りを見ててくれてて、その上で走り方を変えたよね?」
「…アレは元々追込でプランを立ててたから追込で行ったよ」
「逃げのプランも立ててたよね?メルちゃんは準備はちゃんとするタイプだもん」
「……なんでそこまで知ってるのよ」
「わかるよ、メルちゃん友達だもん!」
……なるほどね、マヤノがここまでプリプリしてる理由がわかった。マヤノは悩んでる人を見逃せないんだ。そんなマヤノの目に私は『何か悩んでいるのに誰にもその悩みを打ち明けずにずっと抱えて悩んでる人』みたいに見えてるっぽい。それでなんで打ち明けてくれないの?って怒ってるんだ、きっと。
「…メルちゃん」
「ん?」
「メルちゃんが逃げるなら、マヤが絶対に追い込むから!メルちゃんが追い込むならマヤは逃げるから!だから…マヤとライバルになって!そしたら絶対マヤもメルちゃんもキラキラなウマ娘になるから!」
「…はぁ」
マヤノはこういうことスッと言えるんだもんなぁ。そんなに真っ直ぐ私を見て言ってくれるのにここで突っぱねたら私が悪い人みたいになるじゃん。
……いや私は間違いなく悪い人だけど。
「………」
「………」
全然目を逸らす気配がないなこの子。ウマ娘の子って変な所で意固地な所ある子、多いよねぇ。
………はぁ、負け負け。根負けだよ。
「……私は好きなようにしか走らないよ」
「うん」
「走りたくなかったら走らないし、そうじゃなくても走らないこともあるかもよ」
「うん」
「それでいいなら、マヤノも好きなように走りなよ。……その、友達でもライバルでも良いからさ」
「……!!うん!うんうん!よろしくね!メルちゃん!!」
「…はぁ」
ニコニコしながら擦り寄ってくるマヤノを宥めながらポットの中身を確認したら中身がもうほとんど残ってなかった。…まぁ元々1人分と思って作ってたしなぁ。仕方ないか。
メルは押しに弱い!(素振り)メルは押しに弱い!(素振り)
ヨカヨカ…スプリンターズSを駆け抜けるあなたが見たかった…。
いつものことながらお気に入りやUA等々感謝です、ありがとうございます。