そのウマ娘が“白銀の突風”と呼ばれるまで   作:乃亞

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菊の前に出したかったんです。本当はもうちょい早く出せる予定だったんです。私は弱い…。

それでは今回もよろしくお願いします。


第31話 出走直前:11th-hour running

『本日のメインレース、朝日杯フューチュリティステークス!7枠14番からは注目のこのウマ娘が出走です!堂々の1番人気、スバルメルクーリ!』

『デビューから2戦、いずれも違う作戦を取ってきましたが今日はどういう作戦で走ってくれるのか。目が離せませんね』

 

 

 幕が開くと同時に見えた光景は阪神レース場のパドックを埋め尽くす勢いの人、人、たまに小さなウマ娘の子。

 

 いつものように軽くアクロバットをこなし、最後にマントをさっと放り投げるとどっと歓声が湧き上がった。…あーもう、耳が痛くなるってば。ホントに。

 

「メルクーリ!やったれ!」

「行けぇぇぇっ!」

「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」

 

 

 …えーっと。阪神レース場に来る人がすごいのか、G1という大舞台がそうさせるのかわからないけど熱気がすごい。

 

 一礼してマントを回収し、台から降りる。…マヤノから聞いたテイオーのアドバイスのおかげで変な所に飛ばさずに済んだし、後で感謝しとこ。

 

 

「あっ!銀色のお姉ちゃんこっちきた!わーい!」

 

 

 …ん、この声は…。目を向けるとサウジアラビアロイヤルカップの時に少しおしゃべりした黄金色のウマ娘の親子がいた。前回は東京で今回は阪神なのにまた会えるとは思ってなかったんだけど、冬休みで遠征したのかな?

 

「…こんにちは。また会ったね」

「銀色のお姉ちゃんこんにちは!今日はあさひはいひゅーちゅりてぃーすてーくすを見に来ました!」

「フューチュリティステークスね、ちょっと難しいけどね」

「それでねお姉ちゃん!今日も勝てる?」

「…それはどうかなぁ。レースに絶対はないからねぇ」

 

 

 目線を合わせてあげると、とんでもないことを聞いてきた娘さんに思わず苦笑いをしてしまう。隣の親御さんも少し困っちゃってるじゃん。

 

「…実はですね、うちの子ったらすっかり貴女のファンになっちゃって。『月刊トゥインクル』も欲しい!って言って聞かなくて、買わせていただきましたよ」

「あはは…ありがとうございます。かなり恥ずかしいんですけどね…」

「いえいえ、隣のマヤノトップガンさんと一緒に綺麗に写ってましたよ!……それでなんですけど、もしよろしければここの空いたスペースにサインとかいただけたりしませんか?」

「ぁ……はぁ」

 

 

 親御さんからペンと一緒に渡されたのは私とマヤノが表紙の『月刊トゥインクル』。

 

 …実は実物を見たの初めてなんだけど、こんな感じに写ってたんだ。マヤノが可愛いからなんとか私も誤魔化せてる…誤魔化せてるのかなぁ。

 

「えっと…私の写ってるとこの空いてる場所に書けばいいの?」

「そこ!そこに書いて!」

「………よし。これでいい?」

「やったぁ!ありがと、銀色のお姉ちゃん!」

「…今日は寒いからあったかくするんだよ。じゃあ、そろそろ行ってくるね」

「うん!がんばってね!」

 

 

 ぴょんぴょん飛び跳ねてる娘さんに苦笑いしながら親御さんに会釈する。……若いっていいなぁ。世間的には私も全然若いんだろうけどね。

 

 〜〜〜

 

 時計の針は少し巻き戻ってパドックからスバルメルクーリが出てくる時。トレーナーとスカーレット、ウオッカの3人はスバルメルクーリのパドックの状態を見に来ていた。ちなみにスペシャルウィークは我慢できずに食べ物を買いに行ってしまった。

 

『7枠14番からは注目のこのウマ娘が出走です!堂々の1番人気、スバルメルクーリ!』

「おっ、メルの番だな!」

 

 

 幕が開いていつものように軽快なアクロバットをするスバルメルクーリを見て、しかしトレーナーは眉を顰めた。

 

「…んんん?」

「なによトレーナー、いきなりメルちゃんを見て唸っちゃって」

「…あーいや。なんでもねぇよ」

 

 

 トレーナーから見たスバルメルクーリの調子は、正直なところ普段とそこまで変わりのないものだった。

 ……変わりのないはずなのに、どことなく違和感があるように見えてそのチグハグさがなんとも言えなくトレーナーには不気味に映った。

 

 

 〜〜〜〜〜〜

 

『曇り空が広がる阪神レース場、なんとか天気はもちこたえて良バ場発表となりました。本日の阪神レース場メインレース、朝日杯フューチュリティステークス!まもなくファンファーレです!』

 

 

 もうファンファーレね、耳塞いでおこう。

 ……ふぅ、レースももう3回目になるのかぁ。しかも今日は日本国内最高ランクのG1。…よくもまぁここまで走ってるよ、ホント。心からそう思う。

 

 耳を塞いでいても聞こえる拍手と歓声が落ち着いた所で耳を戻す。さすがG1と言うかなんというか、拍手の音が段違いで耳を塞いでなかったらふらっとキテた、危ない危ない。

 

「……ふっ」

 

 

 軽くジャンプしてから思いっきり踏み込む。白いローカットパンプスの裏に感じる芝の感触。肌全体に当たる冷たい風。そして阪神レース場の景色。……きっとスズカさんなら『晴れてる方が走ってて気持ちいいわね』とか言ってるに違いないね。

 

 ……にしてもさっむい…!ちゃんとアップしたんだよ?アップしててなお寒いってどんだけ寒いのさ…。こんな日にここでレースやるとか考えた人、正気じゃないでしょ絶対。ウマ娘をなんだと思ってるんだろう。

 

 元々寒いのに、そこに山から吹き下ろす冷たい風まで加わるとかなんで昔の人はここにレース場建てたんだろうって感じは否めないよね。どういう仕組みなのか全然わからないけど、意外と高い勝負服の防寒性能がなきゃ指先凍っちゃうよこれは。

 

 ゲートインしてる子の中には私より薄着のウマ娘もいるけど、もしかしてロシア出身だったりする?寒くないの?

 

「「「「「たこ焼き〜!お好み〜!かにど〜〜ら〜く!」」」」」

「……で、なにやってんだろあの人たちは」

 

 

 もう今日はそれ言い続けるのね。…というか屋台で買ってきた食べ物持ちながらそれ言うのはどうなのスペさん。

 

『次々とゲートインが進んでおります阪神レース場。先週の阪神JF(ジュベナイルフィリーズ)ではここ阪神レース場で注目のピスタチオノーズが見事に勝利を飾りました。さぁジュニア級のG1勝利に向けて2人目の勝ち名乗りを挙げるのは誰か!』

 

 

 係の人に促されてゲートの中に入る。…ゲートの中はちょっとはあったかいかなって期待した私がバ鹿だった、網目だから風なんか入り放題じゃんね。

 

 

 ゲートの中で目を瞑る。……初めてのG1レース、そのゲートが開くのはもう寸前に迫っていた。




次回、メル出走。
私がダービーの時から推してたレッドジェネシスさんはなんでいきなり1番人気になってしまったのか…。
いつの間にかお気に入り900件超えてました。本当にありがとうございます。感想、評価、誤字報告もいつもありがとうございます。
それでは次回もよろしくお願いします!
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