私は…!良馬場が…!書きたいッ…!!
…取り乱しました。それでは今回もよろしくお願いします。
インタビューとその後の写真撮影をなんとか終え、私は控室に戻っていた。
…体が重すぎてこのあと着替えてウイニングライブやるのとか考えたくないよ。まぁやらなきゃやらないで映像を見たお母様から鬼のように怒られること間違いなしだからやるしかないんだけどさ。
「はぁ…」
目を閉じて今日のレースを振り返る。
…スタートして後ろを確認した時からマックイーンさんのスイーツ発言で力が抜けるまでの暴走。
無様。暗愚。蒙昧。……いや、どんな言葉でも表せないくらいの醜さだったに違いない。
……出遅れた子も、普通に走っていた子も、ベストを尽くしていたんだと思う。予定外のことが起きて勝手に昔のことを思い出して荒れたのは私。悪いのは私なのだ、いつだって。
「………ぇゔッ!!」
思い出しただけでまたあの時の気分の悪さが戻ってきたことにも、あの時のことを乗り越えられない自分にも失望する。
〜〜〜
重たい体に鞭を打ってなんとかライブ衣装に着替え終わると、それを見計らったかのように控室のドアがノックされた。
「…メルクーリ、入っても大丈夫か?」
「…うん」
扉を開けて入ってきたトレーナーにインスタントの紅茶を渡しながら席に着く。
「…足は大丈夫か?爪とかまで確認したか?」
「……大丈夫。爪も割れてないし骨も折れてない。…多分」
「ライブが終わったら一応医者に診てもらうからな。…ったくうちは怪我しても素直に言わない奴が多すぎる。テイオーとか俺が医者に見せなかったらあのまま隠してたんだろうなぁ」
ぽりぽり頭を掻きながら愚痴るトレーナー。そしてお茶を一口。…アメとは飲み合わせが悪かったかもね。
「……」
「……」
……。
「………」
「………」
…………はぁ、根負け根負け。
「……はぁ、聞きたいことがあるんでしょ?」
「…パドックの時からずっと調子悪かったろ」
「なんでわかったの?」
「なんとなく、トレーナーの勘って奴だけどな。今思えば表情が少し固かったし、お客さん多くて気負ったか?」
「……うん」
入れたお茶を飲む。暖かい液体が私の心の震えまで解してくれるような気がした。
「…怖かった。四方八方から聞こえる
「……」
「……わからなかった。みんなが私によくしてくれる
…言うまでもなくこれは私の弱さ。私の脆さ。私の……後悔。覚悟を持って走ってるウマ娘とそうでない者との差って奴を痛いほど感じた。……あんな大きな声援を受け止められるほどの力は、今の私にはなかったわけで。
……今は決断できなくても、そろそろピリオドを打つ場所くらいは決めなきゃダメなんだと思う。あの声援はきっとそういう次元に私がもう立っているということの証左。
「……ねぇトレーナー。私がチームに体験加入してすぐのこと、覚えてる?」
「目標を見つけろって話か?」
「そう。……ここまでみんなとトレーニングして、レースも三戦も出してもらった。だけど、まだ私の中に目標と呼べるようなものは見つけられない。……まぁ目標なんてものが元々なかったのか、それとも失くしてから再発見できてないのかは置いといてね」
私は真っ直ぐにトレーナーを見る。…私の決断を伝えるために。
「だから、半年。来年の6月末までにしっかりとした目標を見つけられなかったら、トゥインクル・シリーズでの成績に関わらず辞める。チームスピカも、トレセン学園も。そこまではマヤノとの約束もあるし走るよ」
「んなっ!?おい、メルクーリ!「もしかして食い扶持とか気にしてる?それなら大丈夫。…ほら私銀髪じゃん?銀髪のウマ娘ってあんまり生まれなくて、生まれたら吉兆の
ま、神様なんてカケラも信じてないけどね。信じてる人を否定する気も無いけど。
沈黙が支配していた控室を破ったのはドアをノックする音だった。
「すみません、スバルメルクーリさんはいらっしゃいますか?」
「……はい」
「ウイニングライブのステージの準備ができたのでリハをしたいのですが…」
「…わかりました。わざわざありがとうございます、もう少しだけ準備が必要なのでそれが終わり次第行かせていただきます。……てことで話はおわり。半年で終わるかそれ以降も続くかはわからないけど、そこまではひとまずよろしくね、トレーナー」
外していた耳飾りを左耳に付け直し、椅子から立って軽く柔軟しながらトレーナーに話す。こういうのなんて言うんだっけ…。神のみぞ知る?……はぁ、皮肉な表現ですこと。
「なぁ、メルクーリ。2つだけ聞いていいか?」
「…いいけど、変なことだったら答えないよ?」
「このタイミングで変なこと聞く奴がいるか!……ったく、1つ目だ。ゴール直後にツクツクホーシの所に行って何か話してたろ。あれは何を話してたんだ?」
「多分右足のどこかにヒビが入ってるだろうからその喚起。最後競り合った時に異音が聞こえた」
「じゃあ2つ目。……本当に良いのか?」
「…??半年で終わるかどうかってこと?」
「あぁ。メルクーリはそれで納得できるのか?」
「……………うん。そこまでで出なかったらきっとずっと出ないから、そこで終わり。それで良い…いや、それが良いと思う。タイミング的にも体験加入から大体1年くらいだしね」
思いっきり伸びをして両頬を叩く。重い話はここまで。体も重いけど、ウイニングライブはしっかりやらないとだし。
「…行ってくる。職員の人待たせるのもあんまり良くないし」
「…おう、笑顔でやってこいよ」
「うん」
今日の曲は…そうか、また『Endless Dream』か。…終わらない夢を連れてどこまでも、ねぇ…。まぁ歌いますけど。
〜〜〜〜〜〜
「……はぁ〜」
スバルメルクーリが去った控室に残ったトレーナーは思わず深く息を吐いていた。
大体今の会話で
「見え見えの痩せ我慢をするのはウマ娘共通の特徴か何かかねぇ」
スバルメルクーリが部屋を出る前に伸びをした時、袖が僅かに濡れていたのをトレーナーは見逃していなかった。それ以外にもサインは出ていた。
ウマ娘にまつわる諺として『耳は口ほどにモノを言う』というものがある。ウマ娘の耳はそのウマ娘の感情をよく表すという意味だが、スバルメルクーリにももちろんそれは当てはまった。
それはトレーナーが一つ目の質問をしてスバルメルクーリがそれに答えた時。スバルメルクーリは無自覚だろうが耳を忙しなく動かしていた。…おそらく“ケガ”というものに反応していたのだろう。返答も彼女にしては珍しい早口での返答だった。
あとはレース中に包囲された時の対策についてだが…追込も逃げもスピカにはプロフェッショナルがいる。あいつらに任せておくのが解決への最適解であろうことをトレーナーは感じていた。2人とも自分の
「…まずはあいつの資料を全部確認するかぁ」
何をするにせよ、彼女のことをしっかり知る必要がある。彼女の過去に、彼女の禁忌に触れる必要がある。
当たり前といえば当たり前だが、チームスピカのトレーナーにスバルメルクーリを見捨てると言う選択肢は始めからあろうはずもなかった。ひとまずはおハナさんあたりに頭を下げるところから始めようか。
残り半年。トレーナーにとっても、スバルメルクーリにとっても大切な6ヶ月が始まろうとしていた。
次かその次くらいで2章は終わりです。ちなみに本作は3章か4章構成を予定しています。予定は予定なので変わる可能性も大幅にありますが。
お気に入り、評価、感想、誤字報告等々いつもありがとうございます。誤字に関してはよく無言で直してるのは許して…許して…。なんならたまに勝手に直してるところあるのも許して…許して…。
UAも6万を超えててびっくりしました、本当にありがとうございます。
それでは次回もよろしくお願いします!