そのウマ娘が“白銀の突風”と呼ばれるまで   作:乃亞

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ということで予告通りホープフルです。レース描写は難しいなぁ(白目)
それでは今回もよろしくお願いします。


第36話 太陽は誰がために輝く:Why the Sun Shinin'_For?

「…体調は??」

「ばっちり!体も軽いし、どこまでも走るよ!」

 

 

 クリスマスパーティが終わって数日。年末の祭典(グランプリ)が終わった中山レース場に私たちは来ていた。…っていっても用があるのはマヤノだけで私たちはその付き添いだけど。

 

 ジュニア級最後、そして今年最後の芝のG1レース、ホープフルステークス。中山レース場の2000mコースを使うこのレースはクラシック初戦の皐月賞と同じコースであることも相まって有望なウマ娘が多数出てくる……らしい。中山の短くてキツい坂を最初と最後の2回も登ることになるし、見た目以上にスタミナを使うんだろうなぁ…って想像はつく。

 

「……本当に寒くないの??」

「もう〜、メルちゃんは心配性だなぁ。大丈夫だから見てて!それに…」

「それに?」

「マヤがみんなを照らす太陽になるから大丈夫!あっ、ケーキのこと覚えてるよね?」

「…はいはい。約束したからね」

 

 

 勝負服に着替えたマヤノを改めて見る。おへそも出てるし、やっぱり寒そうな格好……じゃなくて、本当に調子は良さそうだ。

 にしても、マヤノが太陽かぁ。…まぁ合ってる気はする。元気だし、みんなに平等に優しいし、何より色も近いしね。

 

「…それじゃ、私は観戦席戻るから。…頑張って、応援してる」

「うん!マヤちん、テイクオーーフ!」

 

 

 マヤノとハイタッチしてから控室を出る。…どうせクリスマスのあとだし、未開封の生クリームくらいあるだろうし、果物を買えばまぁ普通に作れるかな。

 

 〜〜〜〜〜〜

 

 

『年末の中山レース場に新しい風が吹く大一番、ホープフルステークス。このレースでの勝利を来年のクラシックに繋げたいところ。ピスタチオノーズ、スバルメルクーリに続くウマ娘はどの子か!』

 

 

 うわっ、もう中継始まってるじゃん。早めに戻らないとスタートを見れないかも。人混みになるべく入らないように色々考えてたのが完全に裏目に出ちゃったわけだ。

 …っていうか正直少し迷ってます。みんなが喋ってる声の方に進んでるんだけど、観客が多くて思ったように進めない。

 

すいません、ちょっと失礼します

「おっと、ごめんねお嬢ちゃん…ってえっ!?」

 

 

 多分ここを抜けて本バ場の方に出ればいるはず……わわっ、と。なんかすごい沸いたな。

 

『注目はやはりこのウマ娘でしょう!堂々の1番人気!1枠1番マヤノトップガン!』

「マヤちゃん来た!」「マヤノだ!」「頑張れーー!!マヤノー!!」

 

 

 ……静かなところ行きたい……。マヤノが応援されてるのは嬉しいし、私も応援してるけど。それでも耳元の近くで大きい声を出されると頭がクラクラしてしまうのだ。

 

…ごめんなさい、通してください

「マヤノ頑張……ええっ!?」

 

 

 ……観客のボルテージが上がってるからちょっと場所が分かりづらいけど…多分、この辺!

 

「…やっと出れた、って痛っ。ごめんなさい、人混みから抜けたばっかりでぶつかっちゃいました」

「いたた……って、メルクーリさん?」

「……はぁ???」

 

 

 やっと開けた場所に出られたと思ったのも束の間、濃い茶髪に緑の目を湛えたウマ娘とぶつかってしまった。ってか知人じゃんか。

 …なんでピス(ピスタチオノーズ)がここにいるんですかね。

 

「…何をしているんだピス。……ってその子は」

「…………Pourquoi(なんで)?」

 

 

 …ピスの奴から距離をとって周りを見てみると、パンツスーツを着こなしたメガネの女性を中心にたくさんの視線が私を貫いていた。

 

 ……えーっと。

 

 ……この人たちって、言うまでもなくチームリギルだよね??奥の方にいるの会長サマ(シンボリルドルフ)だし、ピスの隣にいる2人は確かスペさんの同期で…えーっと、グラスワンダーさん?とエルコンドルパサーさんだし。

 

 ………お母様、スピカの皆様、どうやら私の生涯はここまでらしいです。助けてください。

 

 〜〜〜

 

「…はぁ、そういうこと。ピス、グラス。スバルメルクーリをスピカのところに連れて行ってやれ。ほら、あそこだ」

「「はい!」」

「…スバルメルクーリ」

「……はい」

「…色々言いたいことはあるが、来年の中山(ここ)で待っている。それまで首を洗って待ってなさい」

「……はぁ」

 

 

 …なんとか死なずにスピカの所に戻れるようです。怖かった、すっごく怖かった。

 だってしょうがないじゃん。暇潰しで適当に参加したレースがトレセン学園の最強チームの一角の入部レースだとか知らなかったもん。それを知らずに勝って入部しなかったらそりゃ多少は気まずくなるって訳で。元々チームなんて興味もなかったし、入ろうとすら思ってなかったもん。

 

 ピスとグラスワンダーさんに挟まれて歩く。2人とも私よりは大きいからすぐに道が開いて歩きやすい。特にピス、なんでアンタが身長162cmもあるんだよ。

 

「あーそうそう、メルクーリさん」

「何」

「私、トリプルティアラを取りますから。来年の中山…つまり有マまで直接対決はお預けですわ。せいぜい有マに出られない〜なんて泣き言を言わないくらいには頑張って下さいまし」

「…アンタには重いんじゃないの、トリプルティアラなんて。ってかない、ありえないわ。冗談は笑える範囲だけにしときなよ、被られるティアラが可哀想だから」

「な…なんですってぇ…!!?」

 

 

 ピスの奴を見上げながらあっかんべーをしてやる。…にしても、来年の中山ってそういうことだったんだ。多分あのトレーナーからの指示か提案なんだろうな。

 

「…ふふっ、ピスちゃんはスバルメルクーリさんと仲がいいんですねぇ」

「えっ…そ、そんなわけないですわよグラス先輩!このあんぽんたん銀髪と仲良くなる要素なんて0ですわ、0!」

「…私の銀髪でアンタの顔が反射した?だとしたらごめんね、ここにはあんぽんたんに相応しいウマ娘は1人しかいないっぽいよ」

「な!に!を!言ってるのかしらこの方は!私たちがここまで連れてきてあげたのに!」

「私はグラスワンダーさんに付いてきただけ。……何しにきたの?」

 

 

 私の煽りに顔を真っ赤にして怒るピスとそれを見てニコニコするグラスワンダーさん。…っとと、やっとトレーナーが見えた。

 

「…ただいま、トレーナー」

「ったくやっと帰ってきたか、どこ行ってたんだ?」

「…人が多すぎて戻るのに時間がかかった上に戻った場所がリギルの所だった。向こうのトレーナーの計らいでグラスワンダーさん……とピスタチオノーズに送り返してもらった」

「はぁ!?」

「どうも〜」

「…ご機嫌よう」

「あー、悪いなグラスワンダーにピスタチオノーズ。もう始まるしここで見てくか?…メルクーリは今後しばらく誰か一緒についてもらって行動すること」

「……えっ?」

「しっかり見とけよ?何せ皐月賞と同じコースなんだ、得られるものは多いぞ。ゴルシ、メルクーリを見張っとけ」

「あいよ」

「ぁぅ…やめてゴルシ、歩けるから…」

 

 

 …納得がいかない、私はちゃんと戻ろうとしたのに…。てかゴルシは私を片手で担ぎ上げるのをやめてほしい。もう片方の手でルービックキューブを回してるのは一周回って器用だけどさ。グラスワンダーさんはもうスペさんと合流して何か話し込んでるし。

 

「ほいっと、ここなら見えるだろ」

「…むぅ」

「おかえりなさい、メルクーリさん。なんていうか…その、災難でしたわね」

「…ただいま、マックイーンさん」

 

 

 マックイーンさんの気の毒そうな視線がちょっと刺さって泣きそうになったのを振り払ってターフを見る。マヤノは…いた、髪色が明るいから目立つね。

 

「今日はマヤノさんはどんな走り方をする予定ですの?」

「……さぁ、マヤノの心次第だろうし。…というかまだいたんだピス」

「もうその挑発には乗りませんわよ。…私、あの子に逃げられて負けましたの。それの対策をするために末脚を磨いて…」

 

 

 なんか語り始めたピスを無視してマヤノを注視する。…ゲート入り直前に周りをよく見てるし、多分バ群の前目につけようと思ってる気がする。

 

 逃げなら相手とか一切気にせずに走るだろうし、追込ならレース中に相手を確認できる。つまり今確認する必要があんまりない…と思う。私は逃げか追込しか出来ないからどっちみちあんまりああいう確認を取ったことないなぁ。

 

 

 …もっとも器用なマヤノのことだし、周りの様子を確認してから走り方を変える可能性も全然ありえる。1枠1番で最初にゲートに入るから見れるうちに見ておこうってことなのかも。

 

『さぁゲートインが始まりました。1枠1番のマヤノトップガンから順にゲートインしていきます』

「…なぁメル?そろそろ横にいる奴紹介してくんね?」

「……?あぁピスタチオノーズ、ただのアホ。それだけ」

「なっ!もうちょっとマシな紹介はないのかしら!……失礼いたしました、ピスタチオノーズですわ。チームはリギルですの、よろしくお願いいたします」

 

 

 …外面(そとづら)だけはマシなんだよね、ピスって。まぁ別になんでもいいけど。…どうやら全員ゲートに入ったっぽい。さぁマヤノはどうするのかな。

 

『各ウマ娘、ゲートイン完了。スタートしました!!』

 

 思ったよりまとまったスタートでマヤノは…前の方にやっぱりついたね。7番と16番が先頭争いで思いっきり前に行ったけどそれについて行かなかったのは間違ってないと思う。逆にいうと最初坂なのにあの2人よく行ったなぁ。コーナーまで少し距離があるからそこまでに先頭を取り切りたいんだろうけど、あのペースで出たら最後の坂きつそうじゃない?

 

 

 第2コーナーに入って逃げ2人との差は大体8バ身くらい。マヤノは思ったよりペース抑えて入ったね。これ以上離されると危ないかも…ってラインギリギリを走ってる。

 

 ……いや追込の時の私はもっと離されてるって言ったらそうなんだけど。

 

「よーしアタシたちと練習した通りのペースだな、マックイーン!」

「ええ、さすがマヤノさんですわね。メルクーリさんといい飲み込みが早い子たちですわ」

「……教育熱心な夫婦かなにか?」

 

 

 ゴルシとマックイーンさんの漫才を聞き流しながらレースを見守る。…ずっと思ってるけどこの2人ってすごいよく似てるよね。

 

…レースは前半の1000mを1分1秒ペースか。相変わらずマヤノはバ群の1番前について逃げた2人を冷静に見てる。…かと思ったらバ群から出そうな子を目で牽制してる…のかな?ちらっと見てる。見られた子は少し怯んだのかバ群の方に戻っていく。

 

 …うわぁ、ほんとに器用だなマヤノ。いつそんな技術覚えたんだか、あるいは無意識なのかな。

 

 …今のやりとりでわかったことは、あのバ群をマヤノが管理してレースを進めてるってこと。バ群から出たくてもマヤノのせいで出辛い他のウマ娘はだんだんとストレスが溜まってちゃんとした実力が出にくくなりそうだ。

 

 

「マヤノさんはあれが厄介なんですのよね、前に出ようとする時にちらっと見られると気になりませんこと?」

「…さぁ?」

 

 

 ピスの渋面を見る限り、どうやらデビュー戦でピスはマヤノの視線に怯まされたらしい。なんだかんだ言ってコイツ(ピス)の実力は低くないし、コイツがそういうならそうなんだろうけど、こればっかりは実際にレースしないとなんとも言えないかな。

 

『さぁ先頭は悠々2人旅のまま第3コーナーへと差しかかります。後ろから9番マスターオブタイムが前へ進出を始めたか?バ群が崩れそうです!』

 

 …そろそろ動き出さないと逃げられるけど…わかってるなぁマヤノ。実況の声を聞いてか元々その予定だったかはわからないけどコーナーに入る前にバ群からうまく飛び出して追撃体勢に入った。ギアが明確に一段上がったのが見て取れる。

 

 中山の直線は短くて険しいってのは有名な話。早めに距離を詰めておくに越したことはないだろうし、マヤノはそれが出来るだろうしね。

 

「いい位置ですわよー!」

「よーし行けー!マヤノー!…ほらメルもボーッと見てないでなんか言ってやれ!」

「…えっ?あっえっと…」

 

 

 じーっとレースを見ていたら、突然ゴルシからキラーパスを出されたんですけど。ええっと…。

 

 マヤノはうまく第3から第4コーナーを曲がってるけど、逃げてる7番と16番が思ったより垂れてこなくてまだ5バ身くらい差がある。そんで逆に後ろの9番が良い位置に付いてるからこれも怖い。

 …うーん、坂の前で逃げてる2人の後ろにつけるくらいしないと流石に間に合わない…と思う。

 

『さぁ7番フレームタイタンと16番ナイトマチルダ逃げる逃げる!それに追い縋るのは1番マヤノトップガンですが2人との差はまだある!さぁ、中山の坂は短いぞ!後ろの子は間に合うのか!』

 

 

 …マヤノの表情もちょっと苦しくなってきたかも。前との差を少しずつ詰められてはいるけど、後ろからもまだ来るかもしれない。

 

「…ばれ」

 

 

 必死に前を追いかけるマヤノに、私は自然と声が出ていた。

 

 

 

「頑張れ!!マヤノ!!行きなさい!!」

 

 

 

 

 私が言う資格があるのかはわからないけど。それでも友達の応援くらいはしっかりやりたいじゃん?

 

「いっくよー!マヤちん、テイクオーフ☆」

 

 

 私の応援が聞こえたのか、それとも単に仕掛けどころだと思ったのかはわからないけどマヤノの口元が少し引き締まった。かと思うと、これまでよりさらにマヤノの体勢が低くなって一気に加速をした。相手も登り坂も関係なしといった感じの思い切った加速で前の2人を一気に捉え、競り合いすらさせずに前に飛び出した。

 

『マヤノトップガンが来た!マヤノトップガンだ!中山の登り坂を一気に登った登った!そしてそのままゴールイン!お見事マヤノトップガン!1番人気に見事応えて王道のレース運びで1着!!2着は16番ナイトマチルダ、3着は9番マスターオブタイムが入りました!!!』

 

 

 …あの加速方法。マヤノの体格に合うように変えられてるけど、基礎的な部分は多分私のスパートの掛け方だよね。10月のデビュー戦の時はただのモノマネだったのにいつのまにか自分のものにしてるよ。……すごいなぁ。

 

「マヤちん大勝利☆みんな応援ありがとーー!」

 

 

 雲一つない青空の下で観客席に向かってニッコニコで両手を振るマヤノ。それに盛り上がるファンの人たち。

 …本人が目標にしてる通り、まさにみんなを照らす希望に満ちた太陽(Hopeful Sun)といった感じがして……私にはそれがすごく(まばゆ)く見えた。

 

「…はぁ、マヤノさんは本当に強いレースをしますわね」

「…強いよ、マヤノは。それは私が1番分かってる」

 

 

 普段絶対に意見が合わないであろうピスとも意見が合うくらい強くて堂々としたレース運びだった。おめでとう、マヤノ。

 

 

 〜〜〜〜〜〜

 

 ホープフルステークスの次の日。私とテイオーとマヤノの3人は寮備え付けのキッチンに集まっていた。マヤノの前には沢山の料理が並べられていた。…並べたの私だけど。

 

「わぁ…!これ全部食べていいの!?ホントに?」

「いいよ、約束したしね。…マヤノから見て右から順にニンジンのポタージュ、エビのマリネ、鶏肉のコックオーヴァン。まぁ、名前なんてなんでもいいんだけど」

「つまみ食いしたけど、どれもホントに美味しかったからね!マヤノも早く食べなよ!」

「……テイオー、つまみ食いしたの?」

「…あっ」

 

 

 …テイオーはあとでこちょこちょの刑ね。なんかごそごそやってるとは思ってたけどさ。

 

「……それはともかく。ホープフル勝利おめでと、マヤノ。クリスマスパーティの時我慢させちゃったから、実家で食べてたクリスマス料理を用意したよ。今は冷やしてるけどケーキも用意してるから後で用意するね」

「これ全部メルちゃんが用意したの?」

「聞いて驚かないでねマヤノ、メルちゃんってば実は昨日の夜からこっそり仕込んでたんだよ?」

「えっちょっと」

 

 

 なんでそれを知ってるのさテイオー。一言も言った覚えがないんですけど。ていうかそれ分かっててつまみ食いしてたのかこのウマ娘。油断も隙もないっていうのはこういうことを言うのかな。

 

「そりゃ朝手伝いに来た時からあれだけ準備できてたらわかるよ〜。おかげでボクがやることがあんまりなかったんだからさ」

「……ッ!そ、それはなんでも良いからともかく早く食べなマヤノ!私が料理なんてやるの滅多にないんだから!」

「えへへ〜、いただきます!」

 

 

 ニヤニヤしてるテイオーは後で本格的になんか仕返ししてやる。…テイオーの方が絶対に力が強いからやり返されるかもしれないけど。

 

「…あっこのスープ美味しい!何使ったらこんなに美味しくなるの?」

「……出来合いのものだよ」

「あーっ、メルちゃん尻尾揺らしてる〜!照れてるんだ〜!」

「テ   イ   オ   ー  !! !!」

「あはは!メルちゃん怒った〜、にっげろ〜!!」

 

 

 …とりあえずあの大あんぽんたんをひっとらえてから私たちもご飯食べようかな。もちろん、意地悪するテイオーは少なめで。

 

 

 数十分後、疲れ果てた顔をしている2人と満面の笑みを浮かべているマヤノが仲良く切り株のようなケーキ(ブッシュドノエル)を食べているのを見て、たまたま通りかかったマックイーンさんが羨ましがるのは別の話。




第2Rはここまで!
この後は断章的なものをいくつか挟んでから第3Rに入ろうと思ってます、よろしくお願いします。
毎度のことではございますが、お気に入り登録、感想、誤字報告、評価等々いつもありがとうございます。励みになってます。
それでは次回もよろしくお願いします!
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