断章その2、スピカのトレーナーがメインになる話…のはずです、うん。
それでは今回もよろしくお願いします。
「マヤノは併走メインで…んでメルクーリは水泳トレーニングを…っと」
スピカの新年会が終わった後、トレーナーがPCを叩いて今月の練習予定表を作成しているとトレーナー室のドアをノックする音がした。
「失礼するわよ」
「おっ、来た来た。あけましておめでとう、おハナさん」
「はいはいおめでとう。…で、これでいいのかしら?」
「おっ、どれどれ…。いいねぇ…」
部屋に入ってきたおハナさんから渡されたのは表紙に『スバルメルクーリ 極秘資料』と書かれた紙の束。
「あの子、本当に大丈夫なの?朝日杯の走り、とてもじゃないけど平静ではなかったわよね。それでも勝っちゃうのは流石だけどね」
「…それをなんとかするためのコレってわけよ。おっ!さっすがおハナさん、欲しい情報が揃ってるわ」
「…変わらないわね。それじゃ私もダンスレッスン見なきゃいけないから帰るわ。貸し1で」
「…変わったさ。貸し了解っと」
紙をひらひらさせておハナさんを見送るとトレーナーはもらった資料を読み始めた。
「…生まれが日本で、途中でフランスに移住…ねぇ」
日本の小学校に入学後、半年ほどでフランスに移住してそこからの記録が一切なし。5年でフランスの小学校を卒業したらしいことのみが書かれている。
次の詳しい記載はトレセン学園の入学試験。
(筆記試験と実技試験が首位…芝2000mの上がり3ハロンが34秒2ってマジかよコレ。下手すりゃ入学時からG1レベルじゃねぇか。多少面接試験に難があったらしいが、帰国子女なことを考えれば充分。これなら当然新入生代表になる……んん?入学式は飛行機の都合が合わずに欠席、新入生代表スピーチを実技2位のピスタチオノーズが代行って……アイツなぁ…)
思わず呆れた顔をしていると、再びドアをノックする音がした。
「お忙しいところ失礼します、駿川です」
「あーたづなさんか、鍵は空いてますからどうぞ」
ドアを開けて入ってきたのはお正月なのにも関わらずお馴染みの緑の服を纏った駿川たづな。せっかくのお正月なのにこの人も忙しい人だなぁとトレーナーは思っていた。
「スバルメルクーリさんは…いませんか。では後ほど彼女にもお伝えしていただいてもよろしいですか?」
「ん?メルクーリがなんかしましたか?」
「いえいえ、悪い話ではなくむしろ朗報です。実はこの度、スバルメルクーリさんのジュニア級での活躍が評価されまして、URAよりスバルメルクーリさんを『最優秀ジュニア級ウマ娘』として表彰するという通達がございました!」
「…えっ?本当ですか!?」
「こちらがその通達書です♪」
たづなの発表に思わず目を丸くして通達書を受け取る。全くそのことを考えていなかったが、確かに3戦3勝、うちG1を含んだ重賞2勝はジュニア級の成績としてケチのつけようがないものである。
「いやぁ、ありがとうございます。メルクーリの奴にもちゃんと伝えときますんで日程はいつになるか教えてもらっていいですか?」
「表彰式は今週末になりますので、コメント等をあらかじめ準備しておくようにお伝えください!あ、あと」
「…あと?」
「 絶 対 にサボらないようにキツく言いつけて下さいね?」
「ヒッ、ワカリマシタ」
「ふふっ。では、失礼しますね。改めておめでとうございます!」
たづなの笑顔の裏にある底知れない圧に冷や汗が止まらないトレーナーであった。
〜〜〜
『……わかった。式典用のドレスがあるからそれを準備しておく』
「おう、よろしくな。…台本もしっかり練っとけよ?たづなさんめっちゃ怖かったからな?」
『………うん』
「…はぁ」
スバルメルクーリへの電話を切って息を吐く。さきほど神社までトウカイテイオーやマヤノトップガン、ゴールドシップたちに引っ張られてげんなりとした表情をしていたウマ娘と同じ、銀髪をたたえたウマ娘の声はいつもなんら変わりが無かった。
…朝日杯で彼女が見せた脆い面は、それ以降は表面上顔を見せていない。逆にいうと、あの朝日杯のレースは彼女の
おそらく鍍金が剥がれる原因となったトリガーは2つ。
1つはレース序盤、バ群の中で見せた彼女の脆さ。…そしてもう1つ、最後の三つ巴での競り合い。
トレーナーがパソコンを操作すると1つのニュース記事が現れた。
▼朝日杯FS3着ツクツクホーシが右脚骨折…復帰戦は青葉賞か
〜〜
『……ったく、1つ目だ。ゴール直後にツクツクホーシの所に行って何か話してたろ。あれは何を話してたんだ?』
『多分右足のどこかにヒビが入ってるだろうからその喚起。最後競り合った時に異音が聞こえた』
〜〜
「あのウマ娘が骨折、ほぼ4ヶ月休養ねぇ…」
結果的にあの時スバルメルクーリが話していたことがそのまま的中した形となっていた。
…いくら耳が他のウマ娘よりもいいと言えど、レース中の競り合っている相手の怪我の位置まで特定するのはとてもじゃないができない…はずだ。
「…まさか、な」
脳裏に浮かんだとある可能性をそのまま記憶の箪笥にしまっておく。きちんとした証拠がない限りとてもじゃないが信じられない。だがそれでも彼女の耳なら、というくらいの可能性論。
…その可能性を確信に変えるために、“スバルメルクーリ”を知る必要がある。このデータ群よりも深い領域で。
となればまずやる事はひとつ。
「…いきなりで申し訳ございません、チームスピカのトレーナーと言えば分かっていただけるでしょうか」
『…インタビューと同じ声ですね。娘がお世話になっております』
〜〜〜〜〜〜
「……やっぱり人混みは嫌いだ」
なんで新年早々、うるさいところに顔を出さなきゃいけないんだか。マヤノとテイオーに貰った耳カバーはある程度の効果を発揮してくれてるけど、それでもうるさいものはうるさい。
今はチームメンバーと別れ、1人でおサボりスポットその2こと河川敷で寝転んでぽーっと空を見上げていた。さらさらと流れる川のせせらぎがとても心地よくてついつい寝てしまいそうになる。
「…はぁ」
ふと目を開いて空を見ると、新年でも相変わらず通常運行中の雲がそよいでいて、その雲の隙間に、ふと今にも消えそうなほどに痩せ細った月が浮いていた。
夜の月とくらべたら余りにも弱々しくて青白く見えるそれに手を翳して掴み取ってみようとしたけど、その行為が完了する前に既に月はまた雲に攫われて姿を隠してしまっていた。
…今年の6月までに目標を見つけるとトレーナーに啖呵を切ったのはいいけど、どうすれば見つかるのか、見つけられるのか。…全然見当すらつかない。
……。
…………。
………………。
昔はなんで走ってたんだっけか。
〜〜
『ルゥ、次は左周りで1600m走ってみない?』
『はぁ…はぁ。…うん、やろ!今度はメルちゃんでも最後まで抜かせないくらい早く走るから!』
〜〜
「ぅっ」
……軽忽に“昔”なんて言葉を出すからすぐこうなる。
鼓動がイヤに早くなって心臓がキュッと痛くなるような感覚に苛まれ、私は伸ばしていた手を地面に叩きつけた。ぱふ、という軽い音と一緒に雑草が少し舞ったのが目の端で見えた。
…何はともあれ、とりあえずは表彰式用のコメントを考えることから始めようかな。たづなさん、怖いし。
ジャパンカップ、海外G1の子も来てるみたいでなかなかに配当がおかしいことになってますね。
海外G1勢vs歴代ダービー馬は中々に熱い気もするけど個人的にはグランドグローリーが怖いです。Cデムさんだし。
またランキング載せてもらったみたいです。いつもありがとうございます。お気に入り登録、感想、評価等々も本当にありがとうございます。
それでは次回もよろしくお願いします!