そのウマ娘が“白銀の突風”と呼ばれるまで   作:乃亞

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今年の阪神内枠はやっぱりダメですわ!ダメですわ!早く京都を改修してくださいまし!
…ふぅ、落ち着きました。ジェラルディーナ…。

ここまでを断章に入れるかどうか迷ったんですけどメルちゃん視点だしいっか、ということで第3R開幕です。
それでは今回もよろしくお願いします。


第3R 月乙女に差す陽光
第37話 表彰式:ceremony


「……んんぅ」

 

 

 カーテンの隙間から差し込む、どこか霞んだ陽の光にゆっくりと目を開ける。……眠い…。

 

 ……すぅ、すぅ。

 

 

 

 ……カーテン開けなきゃ。

 

「……んにいぃ

 

 

 …寝起きで力の掛け方がよろしくなかったらしい。少しだけ開けようとしたカーテンは私の意思を一切無視して端までレールを転がっていき、結果白く強い暁光が私の視界を覆うことになった。

 

 

「…………まぶし」

 

 

 …二度寝しよっかな。というかそもそもなんでこんな朝早く起きたんだ、私。新年最初の週末だしゆっくり寝たい……週末?

 

 …記憶に何か引っかかるものがあるんだけど……週末……あっ。

 

 

『台本もしっかり練っとけよ?たづなさんめっちゃ怖かったからな?』

 

 

 …年度代表ウマ娘の表彰式って今日じゃん。はぁ…起きるかぁ。笑顔の裏にハンニャを飼ってそうな秘書の顔を思い浮かべたら目も覚めてしまった。

 

「…はふ」

 

 欠伸をしながら軽く目を擦り、机の上に置いてた耳飾りとペンダント、あと耳カバーを身につける。

 化粧?しないよそんなの。そもそも道具を1つも持ってないしね。ドレスだけ持っていけばそれでいいんじゃないかな、多分。

 

 

 〜〜〜〜〜〜

 

「…♪…♫」

 

 

 私は控室で衣装チェックをしていた。…表彰式に出たいとは全く思わないけど、綺麗な服を着れるのは嬉しいよね。

 

 今日の私の服は瑠璃色ベースのレース柄をあしらえた長袖のワンピースドレス。昔お母様に駄々をこねて買ってもらった私のお気に入り。

 

 …式典用だから滅多に着られないんだよねぇ、これ。ちゃんと着こなせてるかな?

 

 あんまり行儀は良くないけど、気分が良いから着衣の乱れの確認も兼ねて黒のヒールのリフトで回っちゃおうっと。あくまで乱れの確認だからね、他の意図はないからね。

 

「……♬…♪…♫」

 

 

 一回転、珍しく纏めた髪型が変に崩れてないか確認。二回転、ドレスにほつれがないか確認。三回転、明るい紫の髪色のウマ娘が私を見てニコニコしているのを確認。……ってえっ??

 

「ふふっ。上機嫌ですわね、メルクーリさん」

「……にぇッ!?マ、マックイーンさん!?……一体いつからそこに?」

「メルクーリさんが鏡でドレスの確認をしている時からですわ。そんなに気にしなくてもちゃんと着られてますわよ」

 

 

 そういうマックイーンさんはいつもの緑色をベースにしたドレスとそれに合わせた羽織り物を完璧に着こなしている。マックイーンさんはシニア級の受賞だったよね、確か。

 

「……そう。…こほん、マックイーンさんも似合ってると思う」

「ふふ、ありがとうございます。鼻歌でも歌いたくなる気分ですわね♪」

「やめてよ!」

 

 

 マックイーンさんの話を聞くと、そろそろ表彰が始まるから呼んでこいとトレーナーに言われたらしい。そういえばジュニア級から登壇してクラシック、シニアって順番に表彰するんだっけ。

 ……トレーナーが直接来なくて良かったってことにしよう、そうしよう。

 

「思ったより緊張してないようで良かったですわ」

「…私ってそんなに緊張しいに見える?」

「まぁその……マイペースではありますわね」

「…じゃあさっきの見なかったことにできる?」

「交換条件として私にロールケーキを作ってくださいまし♪」

「……買った方が多分美味しいよ?」

「メルクーリさんの作ったロールケーキが私は食べたいのですわ」

「……そう」

 

 

 てこでも引かなさそうなマックイーンさんに思わずため息をつく。そんなにクリスマスの時作った奴が羨ましかったのかこの人。

 …まぁ、背に腹はかえられないから従うしかないんだけど。

 

「…わかった、今度作るからさっきのは忘れて。それでいい?」

「えぇ、ええ!私は何も見てませんわ!ささ、表彰式の方に行ってくださいましね!」

 

 

 あからさまに調子があがったマックイーンさんに見送られて控室を後にする。…まぁケーキ1つで醜態をチャラにできるなら安い…ってことにしとこう、そうしよう。せっかくドレス着てるんだし。

 

 〜〜〜

 

「…で、なんでトレーナーはいつもの服なのさ」

「なんでって、あくまでお前らの表彰だしな。俺たちトレーナーは付き添いでしかない」

「…リギルのトレーナーはちゃんとスーツだけど」

「おハナさんはいつもスーツだろうが!よそ(リギル)よそ(リギル)うち(スピカ)うち(スピカ)!」

「……はぁ」

 

 

 …せめてヒゲくらいどうにかしなよ、もう時間的に無理なんだろうけど。今だけはピスのことが少し羨ましい。…たまたま視線があったピスにあっかんべーしてやろ。

 

「なっ!?」

『さて、次は『年度代表ウマ娘』の表彰に移ります。まずはジュニア級で選出されましたお二人に登場していただきましょう!年度代表最優秀ジュニア級ウマ娘のスバルメルクーリさん、年度代表最優秀ジュニア級クイーンウマ娘のピスタチオノーズさんです!』

「……ふぅ、よし」

 

 

 これ以上ないくらい素晴らしいタイミングです司会者の方。ピスの表情が微妙に歪んだタイミングで呼んでくれてありがとうございます。

 

『改めまして年度代表最優秀ジュニア級ウマ娘の紹介です。新潟レース場でのメイクデビュー戦ではコースレコードを記録しての圧勝。そこからサウジアラビアロイヤルカップ、朝日杯フューチュリティステークスを連勝しG1を含む無傷の三連勝を記録しましたスバルメルクーリさんです!』

「……ありがとうございます」

「おめでとうございます。でも朝日杯はどったんばったん、ギリギリでの勝利でしたわね」

「あ?」

 

 ピスの奴、小声で私を煽ってきたな?いいよ、アンタがそのつもりなら私も考えがある。

 

『続きまして年度代表最優秀ジュニア級クイーンウマ娘の紹介です。デビュー戦こそ2着でしたがそこから2連勝!阪神ジュベナイルフィリーズでは衝撃的な末脚を見せての勝利、ピスタチオノーズさんです!』

「光栄ですわ、ありがとうございます!」

「マヤノトップガンデビュー戦、6バ身差の衝撃」

「なんですの…!?」

 

 …ぷぷぷ、怒った怒った。煽られるのに弱いんだから煽らなきゃいいのにね。まぁ私は煽るんだけどさ。

 

「お前らなぁ…」

「…はぁ」

 

 

 後ろのトレーナー2人がため息ついてるのはまぁいいとしてインタビューに集中しなきゃ。…あらかじめ用意したコメントでなんとかなるかわからないけど。

 

『まずはこのお二人からコメントを頂こうと思います。まずはスバルメルクーリさんからお願いします』

「……あ、はい。スバルメルクーリです。……えっと、この度はこのような栄誉ある賞に選出していただいてありがとうございます」

 

 

 インタビューは長すぎず短すぎず、だったよね確か。…どれくらいが長いのか良くわからないけどこんなもんじゃないの?お辞儀したら拍手してくれたし、間違いではない…はず。

 

『メルクーリさん、まずは年度代表最優秀ジュニア級ウマ娘に選出されたと聞いた時の感想をお聞かせください』

「……あー、えっと……その、ちょうどお外で日向ぼっこしてる時にトレーナーさんから電話が来て知ったんですけど。……その、まさか私が選ばれるとは思っていませんでしたのでびっくりしました」

 

 

 私の返答にちょっと笑いが溢れてるんですけど。…なんかおかしいこと言ったかな?

 

『ファンの間ではメルクーリさんと隣にいるピスタチオノーズさん、そしてメルクーリさんのチームメイトのマヤノトップガンさんの3人で今年のクラシック三強という声が出ています。メルクーリさんから見てこのお二人はどんなウマ娘ですか?』

「…ぁぅ……えっと……マヤノさんとはとても仲のいいチームメイトとして、ピス……タチオノーズさんとは他のチームとして、それ以外の方も含めてその………せったさくま?していけたらなって思ってます」

切磋琢磨(せっさたくま)ですわね、さくまって誰ですの?」

「…うるさい、噛んだだけだし。いーッ!」

「…貴女って人は…!」

 

 

 ……うるさいもん、噛んだだけだもん。そんなに笑うことないじゃん記者の方も。バ鹿にした笑いじゃないからいいけどさ。

 

『それでは次にピスタチオノーズさんにお聞きします。最優秀ジュニア級クイーンウマ娘に選ばれた率直なお気持ちをお願いします』

「とても光栄でありがたい気持ちでいっぱいですわ。この栄誉ある賞に恥じないよう、これからも頑張りたいと思いますわ」

 

 

 私と入れ替わるように前に出て受け答えをしているピスをじっと見てみる。…ちっ、煽られなきゃ外面はホントいいんだよなピスの奴。堂々とした受け答えだし、つっかえないし。……背も高いから見栄えがいいし。

 

『ピスタチオさんにもメルクーリさんと同じ質問をしたいと思います。お隣のメルクーリさん、そしてデビュー戦では惜しくも敗れてしまいましたマヤノトップガンさんのお二人はどのようなウマ娘ですか?』

「2人とも私にはない才能を持っている方ですの。とても高い、超えるべき壁であり、得難いライバルですわ」

「んー??」

 

 

 …なんか調子のいいこと言ってるよあの良い子ちゃん。ってあれ、記者の視線がこっちに向いてるんですけど。…もしかして声に出てた?あ、あはは…。澄まし顔しとこっと。

 

『えーー、最後にお二人には今後の目標を書きたいと思います。まずはピスタチオノーズさんからお願いします!』

「もちろんトリプルティアラですわ!そのためのステップレースとしてまずはチューリップ賞に出ますので是非応援のほどよろしくお願いいたしますわ!」

 

 

 ピスの宣言に場内がおお…というどよめきに包まれる。…私も同じこと思ったけど。ていうかこの後に私喋るの?ハードル上がりすぎじゃない?

 

『それではスバルメルクーリさん、今後の目標をお願いします!』

 

 …うっわー、記者の目が大きいこと言えって目になってるよ…。具体的にいえば三冠?やだやだ、こんなことになるなら先に言いたかったんですけど。

 

「……えーっと、私は私の思う理想の走りができるように頑張りたいと思います。……はい、なんかピス……タチオノーズさんとは規模が違うかもしれないんですけど、はい。…えっと、次走はチームスピカの公式ウマッターで発表させていただきますので、そちらの方をお待ちください」

『はい、ありがとうございました!登壇いただきましたのは最優秀ジュニア級ウマ娘のスバルメルクーリさんと最優秀ジュニア級クイーンウマ娘のピスタチオノーズさんでした!皆様改めて拍手をお願いします!』

 

 

 …なんとか乗り切った、かな。記者の方の拍手に答えるようにお辞儀をして壇上からゆっくりと降りる。

 

 

 表彰式の会場から出てしばらくすると、頭をポンポンと軽く叩かれた。

 

「おつかれさんメルクーリ、前よりは話せてたんじゃないか?」

「…本当にそう思う?」

「…まぁ最後はもうちょっと具体的に言えたらなお良かったかもしれないけどな」

「……かもね」

 

 

『私の思う理想の走り』…ねぇ。言った自分が思わず笑っちゃうくらい薄っぺらい発言。ホントはピスぐらい愚直に『クラシック三冠取ります!』とか『G1を10勝します!』とか言えたら良いんだろうけどね。

 

 …私にはそんな絵空事を描く資格はないよ。

 

 

 〜〜〜

 

『メジロマックイーンさん、昨年も“名優”の名に恥じない堂々とした走りでした!今年はさらにライバルが増えると思いますが、どのような走りを見せてくれますか?』

『もちろん、メジロ家の名に恥じない走りを皆様の前でお見せいたします。可愛い後輩も増えたことですし』

 

「……音量2でちょうどいいな、これ」

 

 表彰式でどっと疲れた私は控室のテレビをなんとなく流しつつ、紅茶を飲んでぽーっとしていた。マックイーンさんはさすがと言うかなんというか、取材慣れしてる感じがすごいなぁ。直に会って話す時よりなんとなく輝いて見える。

 

 

 …この後受賞者全員でURAに載せる用の写真撮影あるんだっけ。マックイーンさんはシニア級での受賞だからそろそろ準備しなきゃ。この次にドリームシリーズのウマ娘の表彰があってその後すぐだもんね。

 

 とか思ってたら控室のドアをノックする音が響いた。…トレーナーやマックイーンさんはまだテレビ画面に映っている。……誰だろ、心当たりがないんだけど。ちょっと泳がせてみるか。

 

 しばらくじっと見ているとまたノックが2回…と今度は声も聞こえてきた。

 

「メルクーリさん、いるんでしょう?出てきなさいな」

 

 

 ピスじゃん、はい解散。出る意味ないから無視無視。

 …さーて準備しよっと!ドレスに変なシワ寄ってないかな、ヒールは大丈夫かな、身だしなみはっと…。

 

 ガチャリ。控えめに開けられたドアから緑の目が2つ覗いて私を確認した…と思ったらずんずん入ってきた。遠慮のない奴め。

 

「こら、メルクーリさん!いるなら返事しなさいな!」

「…しーっ、まだ表彰式は終わってないからね。お静かに」

「あ・な・た・ね・ぇ〜!!!!」

 

 

 …アホのピスが騒ぐからマックイーンさんが何喋ってたか聞こえなくなったんですけど。テレビ画面を見たらお辞儀してるし、どうやら終わったらしいのは見てとれた。

 

「年明け早々なんなのさやかましい。…てかこの前マヤノを私のおサボりスポットに誘導したでしょ、ほっぺ膨らませながら来たんだけど」

「アレは私は河川敷としか言ってませんわ。そこからはマヤノさんが探し当てたんですわ」

「そこまで言ったらマヤノはわかっちゃうの知ってて言ったでしょ。…あぁ無理か、ピスは頭カッチンカッチンだからわからないかもねぇ。じゃあしょうがないから許してあげよう」

「……ふぬぬぬ…!!」

 

 

 ホントに煽りに弱いなこのウマ娘。……そんなんでトリプルティアラ取れるの?とは言わないでおいてあげよう。

 

「はいはい、ふぬふぬ言ってないで正気に戻りなよ。この後写真撮影だから呼びにきたとかでしょ?」

「誰のせいで…はぁ、まぁいいですわ。…そこでちょっと回ってみなさいな、身だしなみの確認をしてさしあげますわ」

「アンタが?…まぁ別にいいけどさ」

 

 

 ピスから少し距離を取って障害物がないか確認する。……そうだなぁ、軸足は左でいいかな。よいしょっと。

 

「ほら、どう?」

「…身だしなみの確認で回りなさいって言って高速でグランフェッテをするおバ鹿さんがどこにいるんですの!!やけに軸がぶれなくて綺麗なのが腹が立ちますわね……じゃなくて止まりなさい!!」

 

 

 …へぇ。グランフェッテ知ってるんだ、たまにはやるじゃんピス。仕方ないからゆっくり回ってあげようか。

 

「……はぁ、問題ないですわ。そろそろ出ます?」

「どうせすぐトレーナーと合流するけどね。……一応見てもらったお礼は言っとく、ありがと」

 

 

 テレビの電源を切ってさっさと部屋を出ると、ピスは「あっちょっと!」とかなんとか言いながら着いてきた。

 

「いいこと?来年、私はトリプルティアラを携え、貴女にも勝ってここに戻ってきますわ。吠え面かく準備はできていて?」

「ほえー」

「もう!!…ともかく、負けるときになって泣いても知りませんわよ」

「ふーん。……じゃあ、今試してみる?」

「…はい?」

「私に一度も勝ったことのないピスに突如降りかかる初勝利のチャンスです。さーいしょはグー、じゃんけんほい」

「!!!」

 

 

 いきなりのじゃんけんに慌てたピスはチョキ、それに対して私はグー。言うまでもなく私の勝ち。

 

「残念でした〜、初勝利はまたもやお預け!」

「…くっ!」

 

 

 こんな調子でピスをおちょくっていたらトレーナーに見つかって軽く頭を小突かれました。…解せぬ。

 

 

 

 




表彰式はプロ野球のゴールデングラブ賞とかの授賞式をイメージしたらわかりやすいかもしれません。(独自設定)

次話ですが、諸事情により少し更新間隔が開く可能性が高いです。
登場人物紹介の更新(ピス)や細かい部分の手直し等はする予定なのでちょこちょこと覗いてみたら少し変わってるかもしれません。
毎度のことながら、感想、お気に入り登録、評価等々いつもありがとうございます。
それでは次回もよろしくお願いします!
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