そのウマ娘が“白銀の突風”と呼ばれるまで   作:乃亞

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年始早々ワグさんで横になり、ロンちゃんの屈腱炎で天地が逆になってスノフォさんで地面に頭が刺さりました。
早すぎるよ…
弥生賞は前後編でやります。
それでは今回もよろしくお願いします。


第42話 弥生賞:Japanese2000 Guineas Trial(前)

GⅡ 弥生賞

 中山 芝 2000m

 

 

『春の青空が広がる中山レース場、皐月賞のトライアルレースとなる本レースに今年も10人の優駿が集まりました!』

『本日の中山レース場は絶好の良バ場、速い展開が予想されますよ!』

 

 

 ファンファーレに向けて絞っていた耳をゆっくりと戻し、じっと目の前を見る。係の人が準備しているゲートのその向こう、まるで緑の壁のような中山の急坂がそこには鎮座していた。

 

『3番人気はこの娘、シレーヌボイスです』

『年明けから調子を上げてこの弥生賞の舞台まで来ました。初めての重賞となるこのレースでも実力を発揮できるか、注目ですね』

 

 

 ……私はなんでまだ走り続けているんだろう。負けてないから?チームスピカにいるから?それとも…。

 

 

 あの皇帝サマ(シンボリルドルフ)に選抜レースに引き摺り出されてから元々おかしかった私の人生がさらにおかしくなった気がする。

 

 

 マヤノとテイオーと出会った。そこからチームスピカのみんなと出会った。……それとあわせてピスの奴が突っかかってくる回数が増えた気がするけどまぁそれはいいや、ピスだし。

 

 

 交友関係の広いマヤノたちに引っ張られてネイチャさんとかマべさん、ボノさんと出会ってクリスマスパーティまで一緒にした。マヤノとテイオーにはオーダーメイドの耳カバーまでもらっちゃったし。

 

 

 ……正直、誰も彼も優しすぎ。そんなに優しくされたら誰だって勘違いするよ、ここにいて良いんだって。……そんなわけないのに。

 

 なんというかこう…暖かい夢。…それも自分の罪過にすら向き合えていない愚か者が見るには充分すぎるくらいおめでたい夢でも見てる気分になる。

 

 

 

 …そういえば、3月って夢見月って言い方もするんだっけ。今見てるのは現実?夢?それとも……悪夢?

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

『2番人気は…おっとここで1番人気のスバルメルクーリにアクシデントか?ゲート入りを促されても一歩も動きません!』

『これまでのレースではゲートを嫌がっている印象はなかったんですがねぇ、どうしたんでしょうか』

『これは発走が少し遅れるかもしれません。早くも波乱の展開となりそうな今年の弥生賞、今しばらくお待ちください』

 

 

 

 

「……リ選手。メルクーリ選手」

「…………!?はっ、はい」

「まもなくスタートですのでゲート入りをお願いします」

「…はい。すみません」

 

 

 強めに肩を叩かれてふと我に返ると既にゲートインが始まっていた。…これ、私のせいで偶数番の子のゲート入り遅れてる?ちらっちらっと見られてるんだけど。

 

「…皆さんもすいません」

 

 

 一言謝ってからそそくさとゲートに入ると観客席からなぜか拍手が送られてきた。もしかしてそんなに時間かかっちゃった…?

 ……じゃないじゃない、レースに集中しなくちゃ。

 

 

 隣の10番(大外)の娘がゲートに入るのを確認して体勢を低くし、同時に目線を足元に落とす。……ゲートが開く瞬間にその音をしっかり耳に捉えるために。

 

『少し時間がかかりましたがスバルメルクーリもしっかり入りました!他の娘もしっかりとゲートに入っていきます。最後に10番のギャグナンテが入りまして各ウマ娘ゲートイン完了……G2弥生賞、今スタートしました!』

 

 

 ゲートの開く音と同時に思いきり飛び出す。そう、今日の作戦は逃げ。

…それも多分大逃げに分類されるような後先のない逃げ。

 

 

 結局、中山の急坂への確かな対策は最後の最後まで作れなかった。作れなかったからこそ発想を転換することにした。

 …つまり、最後の急坂に入る前に2位との差を大きくつけることでレースを終わらせる。そのために返しウマでゆっくりと歩いて内ラチ側の芝の確認もした。

 

 

 ……スタートから第3コーナーに入るまでで大体1200m。そこまでを69秒台で一気に突っ込む。あとは芝のいいところ、いわゆる経済コースを使って一息ついて最後の急坂をなんとか越えればいい。

 

 

 

『スタートと同時に一気に前に出たのは1番人気、9番スバルメルクーリ!今日のメルクーリは前!前です!どんどん加速していますがこれは最後まで保つのでしょうか』

『これは大逃げでしょうか、非常に思い切りましたね。まるで短距離かのような加速です』

 

 

 スタートから1ハロンを思いっきり出た後、聳え立つ急坂を一気に駆け上がる。……これは、想像以上にキツいかもしれない…。

 後ろの集団は…少し控えてるのか、はたまた逃げウマがいないのかはわからないけどちょっと距離空いたな。

 

 

『勢いよく突っ込んでいったスバルメルクーリを追うバ群という形になりました今年の弥生賞。スバルメルクーリ、前年度の最優秀ジュニア級ウマ娘がハイペースの大逃げを打ちました!』

『スバルメルクーリは去年の新潟レース場のデビュー戦を逃げに逃げてレコードを出してますからその再現になるか、注目ですね』

 

 

 ……走ってみてしっかり体感できたけど、中山レース場の坂のキツさには数字以上にキツく感じさせるカラクリがある。

 

 それは……一言でいうなら登り坂の緩急。

例えばゴール板直前100mは坂が比較的緩くなったり、かと思えばゴール板から1コーナーまではかなりキツくなったり…といった風に登り坂と一口にいっても種類があって、ずっと同じ角度の坂を登るよりもずっとペース配分が難しいし、余計に体力を使わされる。

 

 さっきあげた第1コーナーなんかは登り坂な上にコーナーだしで正確なペースを刻んで走るのがかなり難しい。

 

「……っくぁ…はぁ…」

 

 

 …というかそもそも私の体格と走り方がこの登り坂にあんまり合ってないんだよね。

 

 トゥインクルシリーズに出走するようなウマ娘の中で私はあんまり恵まれた体格じゃない。

 その差を補うために歩幅を大きくして半ば跳ねるように走ってるんだけど、これで中山の急坂を登るともろに足に負担がくる。

 

 …じゃあ歩幅縮めればいいじゃん、って思うかもしれないけどそんなに簡単じゃない。普段の走り方と歩幅がまるっきり違うからスピードが全然出ないし、そうなったらバ群に飲み込まれてしまう。一回飲み込まれたらずっとダメになることくらいは私が1番分かってる。

 

 

 急坂を一気に走りきることによる足への負担と慣れない走りで凡走をしながら心に負担をかけることのどっちを天秤を取るかで足への負担を取った、ただそれだけのこと。

 

 

 後ろは…ホントに来ないな。6バ身くらい離れてない?コーナーだから正確な距離はわかんないけど、多分それくらいの足音の遠さ。

 

 

 最初の3ハロンは体内時計で大体35秒くらい。登り坂で、これならかなりいい……とおもう。ここから下りだから……もっと差をつけなきゃ。

 

 

『さぁ向こう正面に入って依然として先頭はスバルメルクーリ!中山の登りをものともしない走りでテン3ハロンを……35秒1!後続とは早くも6バ身、7バ身ほど突き放しました!中山のビジョンには異様な光景が写っています!』

『前と後ろで随分と離れましたね。これは後続のウマ娘はいつ勝負するのか、難しいレースとなってきました』

『2番手争いは3番シレーヌボイスと7番イニシエイトラブ!それに続いて6番エンプレスビー、2番人気4番ラモールはバ群後方で足を溜めてます!』

 

 

 当然だけど、レース場を1周するときに急な登り坂があれば、それと同じような下り坂がある。

 

 

 中山レース場でいうなら、私がいま走ってる2コーナーから向こう正面、バックストレッチまでが下り坂になる。

 

 

 

 ……この3ハロンを34秒で、はしりきる。走って……逃げて……

 

 

 

 

 

 

にげきれる?ほんとうに?

 

 

 




重馬場的なタグつけた方がいいかなって思ってこのサイトの検索に『重馬場』って打ち込んだらほぼ全部『愛が重馬場』というタグだった件。『愛が重馬場』タグの作品は読むけど今回に限っては違う、そうじゃない。恋愛要素は(現状)ないです。

評価、感想、誤字報告等本当にありがとうございます。
それでは次回もよろしくお願いします!
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