あ、今更ながら「シリアス」タグ追加しました。
それでは今回もよろしくお願いします。
ーー分かってるつもりだった。
小さい頃…それこそ生まれた時から、珍しい銀の
『佐目毛の子は三女神様の御使いの子。お祭りの時に祈りを捧げる
なんてことを神社とかお寺の人に言われたのも一回じゃない。そのたんびにお母様が鬼のような殺気を出して「この子は三女神様の子じゃなくて私の子です。お引き取りください」って言って追い払ってたっけ。
やがて私は日本の小学校に通うようになった。日本の小学校でもウマ娘、それも明るめの銀髪の子なんて私以外にはいなかった。だからまた注目された。
…注目されること自体は昔は嫌いじゃなかったし、その注目に見合う努力をしようと思った。だから勉強もそれ以外のことも一生懸命頑張った。
半年くらいで小学校で習う内容がなんとなくわかるくらいにはなったし、お母様とかその友達のウマ娘の方から走りの基礎を教えてもらったりもしてた。
…私の耳が他の人よりいいのを自覚したのはその辺りだった。なにしろ授業中に椅子に座ってれば授業をしている先生の声も体育の授業で歓声を上げる生徒の声もだいたい聞こえたから。
『1キロメートルは1000メートルだったよね。じゃあ2キロメートルは2000メートルになるよね』
『はーい、じゃあ県庁所在地を覚えたかテストするよ〜。地図帳しまってね〜』
『じゃあ『追』って漢字を使う熟語がわかる子!』
1学年に2つクラスがあったから合計12クラス。その全部のクラスの声を聞き分けて何をやってるのかぼんやり聞いてた。
そんなことを半年くらい続けてたある日。私は3個隣の教室のひそひそ声を聞き取った。
『一年生のウマ娘の子にメルクーリちゃんって子がいるじゃん?あの子勉強もできるし走るのも速いんだってね』
『ママが言ってたけど、あの子はウマ娘の三女神様のお使いなんだって。大切にしないといけないんだって』
『えっ、そうなの?じゃあ大切にしてたら何かいいことあるかな?』
そんな噂が学校全体に行き渡って、周りの私を見る目がちょっと変わった。具体的にいうと友達に向ける眼差しから何かをありがたがるかのような眼差しに。……正直に言うとアレはちょっと気持ち悪かった。私を見てるようで私を見てないのが分かったから。
そのあたりからだろうか、私が人の目……特に知らない大人の目を避けようと心がけながら行動し始めたのは。まぁ銀髪のウマ娘ってだけで注目されちゃうし、当時は身の隠し方とか理解してなかったからあんまり効果はなかった気がするけどね。
結局そんな目で見られることに身体よりも先に心が疲れちゃったらしく、学校の日の朝は目覚める度に微熱が出るようになった。
そのことを不審がったお母様から普段学校で何をやってるのかを詰問されたから全部正直に話した。
『メルクーリ、私の仕事の都合で来週引っ越すことになったからお友達と挨拶してきなさい』
『えっ?どこに行くんですか?』
『…その、フランスよ。実家でお仕事をすることになったわ』
次の週、私は小学校を辞めて
フランスの実家はパリとかマルセイユみたいな都会からは離れた、少しのヒトとウマ娘が生活してるようなのどかな村の近くにあって耳のこととか学校のこととか一切気にせずに生活できた。
執事のおじいちゃんとか教育係のお姉さんとかからは勉強とか料理を、お母様とかお婆様からは走りとかダンスを教えてもらってた。
アイツと会ったのもフランスに行ってからのこと。日本で見た誰よりも優しく、誰よりも速く、そして…誰よりも波長があったからすぐ仲良くなった。…ライバルっていうのはきっとアイツみたいなのを言うのかもしれない。
……私の良すぎる聴覚の矯正みたいなこともした。『知ってる人の声』と『それ以外のうるさい声』くらいのフィルタリングはできるようになったのはこの矯正のおかげかもしれない。あんまり効果があったとは思えないけど、それでも昔だったら自分の理解できるほぼ全部の情報をそのまま処理してて今よりもストレスで爆発してたに違いないから。
日本にいた時から色々教えてくれてたお母様の友達も暇を見てわざわざフランスの実家まで来て、お菓子をくれたり遊んでくれたりした。お母様は友達が来る時には決まって張り切ったご飯を作ってたからそれを楽しみにしてたのもあるけどね。
ご飯が終わった後は決まってお母様とその友達がお酒を飲みながら昔のことをおしゃべりしてるのを聞いてた。その時のお母様とその友達の顔がみんな楽しそうだったから、私も自然とトレセン学園に行きたいなと思った。
そこから私のとった行動は至ってシンプルでわかりやすかった。まず走る技術を上げようと思っていろいろ本を読んだり実際に走ったりした。フランスの実家は結構広かったし、学校にも通ってないし、それを試す相手もいた。…だから自分の思うがままにやりたいことをやれた。
幸いなことにお母様もその友達もG1を勝ったことがあるウマ娘だったらしく、勉強の材料にも困らなかった。
『メルクーリちゃんはせっかく耳がいいんだからわざわざ顔上げなくていいんじゃない?目じゃなくて耳で相手を確認する練習してみよっか。…ちょっと見ててね』
『ボクみたいな怪我をさせたらキミのお母さんからしこたま怒られちゃうからね。コーナーを曲がる時にやっちゃいけないことは教えてあげる』
『うーん、メルちゃんみたいなタイプでしたら競り合うことを考えるよりも自分のペースで正確に走れるようになった方がいいかもしれませんわね。…ケーキでも作ってみませんか?』
『……アンタら、私の子に変なことは教えないでよ?あとリンちゃんはケーキ食べたいだけでしょ』
そんなことをしてたらあっという間に5年なんか過ぎて日本のトレセン学園の入試を受ける年になっていた。
久しぶりに日本に帰って受けたトレセン学園の入試も普通に終わって帰ってきた。……これもまた久しぶりに聞いた喧騒の音でちょっと疲れたけど。
実家に帰ってしばらく後、トレセン学園から合格通知が来てお母様と一緒に見たら首席合格と書かれていたのには思わずびっくりしてしまった。帰国子女だからテストが多少甘めの採点だったのかもね、知らないけど。
多少は浮ついた気持ちもあった。久しぶりの日本への長期間滞在に、久しぶりの学校。…しかもいつもお母様たちが楽しそうに話してたトレセン学園。
もしかしたら私が生きてる中で1番喜んだのはこの時かもしれない。
そんなに浮ついてたからなのか。はたまた好事魔多しってやつなのか。
……その後のことは、思い出したくない。
ともかくアレからどうしようも無くなって逃げるようにフランスを後にした。…ハネダ行きの飛行機の中で毛布を被りながら私は痛感していた。
人より耳が良くなければ。人の目を私が気にしなければ。
…私が光に触れ、そして消さなければ。
ーーだから、分かってた。
光を消した本人である私が…私なんかが今更勝利だとか栄光だとか求めても与えられるわけがないことくらい、分かってた。
……その、つもりだった。
〜〜〜〜〜〜
「……ん」
目を覚ますと見慣れない白い電灯が目を刺した。…あれ、何で寝てるんだ私。枕とかベッドの感覚もちょっと違うし。
確か弥生賞を走ってて…。
〜〜
『先頭はラモール!ラモールです!イニシエイトラブはわずかに届かず2着!3着になんとかスバルメルクーリが入りました!1番人気スバルメルクーリは3着!無敗のジュニア級最優秀ウマ娘は3着!三冠路線にニューヒロインが現れました!』
〜〜
……そっか。負けたんだ、私。そしてそのまま倒れて医務室か病院に搬送された、と。
ふと左腕に重みを感じて視線を向けると、見覚えのある明るいオレンジの癖っ毛が私の腕を枕にしていた。
「……何やってんの、ホント」
寝てるマヤノを起こさないようにゆっくりと起き上がっていると、その物音を聞きつけたのかトレーナーが部屋に入ってきた。
「おはよう、メルクーリ。ほら、これでも飲め」
「……ありがと。…ウイニングライブは?」
「もう終わってるよ」
「……そっか。これは一体どういう状況?」
「1人にしたらダメ、私がついてるって言って聞かなくてな。起きたら優しくしてやってくれ」
「……うん」
トレーナーからにんじんジュースの缶をもらって開ける。…これ『冷た〜い』じゃないの?ちょっとぬるくなってる。
…あぁ、そっか。買ってから時間が経ってるってことか。
マヤノの反対側に座りながらトレーナーは私に紙を渡してきた。なになに……診断結果ってこと以外は全然わかんないや。
「発作性の心房細動、つまり心臓の不整脈だそうだ。これまでで1番長い距離を1番速いペースで走ったことで心臓に強い負荷が掛かったことが原因っていう診断だ」
「……心臓」
目を閉じて耳を傾ける。……とく、とくという鼓動が3つ。1つだけ…トレーナーだけ少し音が速いあたり、ここまで走ってきたらしい。
「発作性だから再発はほぼないって話だが、明日もう一回医者に診てもらうことになってる。……体がおかしかったりはしないか?」
「…うん、大丈夫だと思う」
にんじんジュースの缶を置き、空いた方の手でマヤノの髪をすきながらトレーナーの質問に答える。…多分体自体は大丈夫だと思う。バ鹿みたいなハイペースで走ったからか体が少し重いけど、それだけ。
「……その、さ」
「ん?どうした、メルクーリ」
「……ごめん、トレーナー。また迷惑かけた。ハイペースの大逃げ打っておいて後ろから差された挙げ句、そのハイペースのせいで心臓に負荷が掛かって病院にお世話になるとか大バ鹿だ。だから、ごめん」
マヤノを起こさないように髪を右に流しながらトレーナーに顔を下げる。…一体どれくらい迷惑をかけたら気が済むのか、自分自身に呆れてしまう。
「……あのなぁ、メルクーリ。顔上げろ」
呆れたようなトレーナーの声に顔をあげる。まぁそりゃ誰が見ても呆れ…
「いいか、メルクーリ。俺はお前たちチームスピカのトレーナーで、お前はチームスピカに在籍してるウマ娘だ。迷惑の1つや2つくらいかけてくれよ」
「……は?」
「まず1週間ゆっくり休んで、そこから様子を見ながらこの後のことを一緒に考えるぞ」
「…いや、ちょっと待ってよ。無茶な走りをした私を怒らないの?」
……いよいよトレーナーの考えてることがわかんない。悪いのは私なのに。
「俺がお前に『好きに走ってこい』って言って、お前は好きに走った。だろ?お前は指示通りちゃんと走ったんだ。どこに怒るところがあった?」
「……えっ。いや、でも…」
「とりあえず今日は休んで、この後のことは明日の診断を受けてから決めるぞ。……俺の指導不足で辛い走りをさせたな、悪かった」
……いやいやいや。なんで目の前のこの人は私に頭を下げてるの??どこからどう見てもあの無様な走りは完全に私の自業自得なのに。
思考が真っ白になっているうちにトレーナーは私の頭をポンポンと叩いてから外に出て行ってしまった。
部屋に取り残された私は何をするでもなく、少しだけ残ったにんじんジュースを飲むしかなかった。…やっぱりぬるいんだけど、これ。
飲み切った缶をどうしようかぼんやりと考えていると、左のオレンジ髪がもぞもぞと動き始めた。…小さい動きが多くて起こしちゃったかな?
「ぅぅん……メルちゃん?」
「……おはよ、マヤノ」
寝ぼけ眼の視点がゆっくり私に合ったかと思うと、いきなり突っ込んできた。…胸元に、物理的に。
「ぷぁっ」
「もぉー!メルちゃんのおばかさん!!おたんこにんじん!!マヤがどれだけ心配したと思ってるの!!」
「うわわっ、マヤノ落ち着「マヤだけじゃないもん!テイオーちゃんもゴルシちゃんもマックイーンちゃんも!みんな心配したんだからね!」わぷぁぷぁぷぁぷぁ」
全く力の入ってないぽこぽこパンチを成す術もなく受けながら、私はマヤノの話を聞くことにした。
「メルちゃんは全然気づいてなかったと思うけど、マヤずっと見てたんだよ?今日だけの話じゃなくて、プールの時も朝の散歩の時も坂路の時もずっと!!…じゃなきゃメルちゃんがここじゃないどこかに行っちゃいそうだったから!」
「………」
「今日だってスタートしてからずっとビューンって行くメルちゃんを見ててマヤ、モヤモヤーってしてたんだよ?ずっと辛そうに無理してるのがマヤにはわかっちゃったから!」
「………うん」
「ゴール直後に倒れたメルちゃんを見てマヤは……アタシは!友達でライバルがいなくなるかもって思って、キューっとしたんだよ?」
…いつの間にやらぽこぽこパンチは止んでいた。代わりに潤んだオレンジの双眸が私を真っ直ぐに射抜いていた。
「メルちゃん、マヤ…怒ってたんだよ」
「……うん」
「心配も、したんだよ」
「……マヤノ、ごめ「なぁに、メルちゃん?よく聞こえないからはっきり言ってほしいなぁ〜」……ありがとう、心配してくれて」
「マヤ、もうあんな走りは見たくないよ?」
「……頑張る」
「もー!メルちゃんのいじわる!」
煮え切らない私の答えにまた頬を膨らませたマヤノに思わず苦笑いをする。
……本当に素直で優しい子だと思う。目は腫れてるし、涙の後だって隠せてない。普段ならちゃんと簡単なメイク道具を持ってきててささっと直せるのに、だ。
マヤノの視線に根負けして外に目を向けると、もう月が昇り始めていた。本当に長い時間倒れてたんだなぁ。……ってあれっ?
「…で、マヤノはこの後どうするの?明日は朝から学校だよね」
「…あっ」
……なんにも考えてなかったのね。
ヒスイ地方で命懸けの冒険してくるので次回は今しばらくお待ちいただけると幸いです。
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それでは次回もよろしくお願いします!