そのウマ娘が“白銀の突風”と呼ばれるまで   作:乃亞

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お久しぶりです。展開に悩みながらヒスイ地方に旅行行ってました。クリアはしてません。
簡単な説明回、みたいなもの()です
それでは今回もよろしくお願いします。


第45話 目に見えた顛末、見えぬ光明:Obviously things/Hidden lights

 

「ヤダヤダヤダヤダ!メルちゃんと一緒にいないとヤダ!」

「メルクーリはともかくとして、マヤノは怪我してないだろ?学校あるんだし帰るぞ」

「ヤダヤダヤダ!」

 

 

 弥生賞の次の日。目覚めた私が見たものは、病室でマヤノとトレーナーが対峙している光景…というよりはマヤノが一方的に駄々をこねてる光景。

 

「…マヤノ「メルちゃんは黙ってて!今マヤはトレーナーちゃんにコーギしてるの!」……はい」

 

 

 ……どうやら私には発言権がないらしい。しょうがないからトレーナーが用意してくれたっぽい差し入れでも食べてようかな。

 

「今のメルちゃんにはマヤがついてなきゃダメなの!メルちゃんの診察が終わるまで待って一緒に帰る!」

「お前たち来週期末テストだろ。今日授業に出なくて補習なんか引っ掛かったら皐月賞に出られなくなるかもしれないんだぞ?」

「ヤダヤダヤダ!テストなんかすぐ解けちゃうもん!」

 

 

 何が出てくるかな……っと、これは…??おかかのおにぎり?へぇー、日本っぽいね。真ん中から破ったらぱりぱりの海苔がご飯に巻かれるのもすごいよなぁ……っと、いただきます。

 

「それにテイオーちゃんとかネイチャちゃんとかに範囲教えてもらえればいいもん!」

「全教科それやったらテイオーもナイスネイチャも困るだろ?自分の勉強時間を削ることになるんだから」

「ヤダヤダヤダヤダ!」

 

 

 …妙にお腹減ってると思ったらそう言えば私、昨日のお昼から何も食べてないじゃん。そりゃ流石にお腹減るよね。…はむっ、おいしー。

 

「流石にここが阪神とか京都だったら俺も何も言わねぇよ。だけどここ中山だからすぐ帰れるし、ちゃんと帰って授業受けたほうがいいんじゃないか?」

「マヤ前のテスト全部高得点だったもん!」

 

 

 ……一生懸命無視しようとしてたんだけど流石に平行線が過ぎない?マヤノが勉強できるのもそうだし、トレーナーの心配も分からなくもないし。

 …これは私の出番かな?

 

「……私はマヤノからテストの範囲聞きたいけどなぁ」

 

 おにぎりを食べながらぽつりと呟くとマヤノの動きがピタッと止まった。……掛かったね。

 

「メルちゃん」

「…ん?」

「期末テストの範囲マヤに教えて欲しいの?」

「……教えてくれるならね。あーでも確かにテイオーとかネイチャさんとか普通に学校行ってるし、2人から教えてもらおうかなぁ」

「もー、メルちゃんはしょうがないなぁ!マヤが教えるからメルちゃん待っててね!ユーコピー?」

「……アイコピー」

「トレーナーちゃん!車出して出して!」

「えっ…あっおい!」

「……マヤノは元気だねぇ」

 

 

 ……こりゃネイチャさんも『チョロかわ』って言うわ。さっきまでの駄々コネから一転、足取り軽く病室の出口に駆けていったマヤノを見て自然と頬が緩んだ。

 

「…ありがとな、メルクーリ。だけどお前も診察まで軽く勉強しとけよ。授業たまに出てねぇの知ってるぞ?」

「……気が向いたらやる。まぁ向かないと思うけど」

「お前らなぁ……点数はちゃんと取れてるのか?」

「……はぁ。私のスマホある?」

 

 

 まるで口うるさい先生みたいな心配をするトレーナーに内心呆れながら私の荷物を取ってもらう。その奥底に眠っていたスマホを出して電源を入れ……うわ、お母様から電話の通知がたくさん来てる…。後で折り返し電話しなきゃ。

 

 んで…あったあった。写真のアプリを開いてトレーナーに手渡す。

 

「……はい、これ。今年の定期試験の全部の成績表の写真だけど」

「なんでそんなもん写真撮ってんだ…?」

「……トレーナーは私の実家がフランスなのは知ってるよね。トレセン学園から定期テストの成績は実家に郵送されるんだけど、流石にフランスまで送るってなると届くまでに結構時間が掛かっちゃうんだよね。……だからこうやって写真で毎回先にお母様に送ってる」

 

 

 私のスマホを受け取ったトレーナーの目がみるみるうちに丸くなっていく。

 まぁそりゃそうだよね、普段から授業サボってる奴がテストで軒並み1位を取ってたらびっくりするでしょ。

 

 ふっふっふっ、見たかトレーナー。サボっても特別扱いされるのにはちゃんと理由があるのだよ。

 

「……試験科目のほとんどはフランスにいた時に勉強してたから。そこらへんは軽くおさらいして、残りの数教科やるだけで普通に1位取れる。だから心配無用。マヤノを学校に連れてってあげて」

「…おう、安心したというか意外だったというか。とりあえずマヤノを送って帰ってくるから暴れずに待ってろよ?」

「……トレーナーも診察来るの?」

「あのなぁ…当たり前だろ。レース中のアクシデントなんだから」

「……ん。ご飯食べてぼんやりしとく」

 

 

 それだけ確認するとトレーナーはマヤノを追いかけて病室を出て行った。大変なんだなぁ、トレーナーも。

 

 

 ……さて、先にお母様に電話しとこうかな。今ならお母様もギリギリ寝る前でしょ。

 

 えーっと、電話はこれか。ぽちっとな。ってもう繋がったんだけど。

 

メルクーリ!大丈夫なんですか!?何回電話したと思ってるんですか!

「ひっ……おはようございます、お母様」

 

 とんでもない大声に思わず電話を切りかける。おにぎりが喉に詰まったらどうするつもりだったのさまったく。

 

「…倒れて病院に運ばれて寝てました。体はこの後診察です。倒れた原因は心房細動」

『それは貴女のトレーナーさんから聞いてます。…倒れた時にどこか腫れたりしていませんか?筋肉痛(コズミ)は?』

「多分大丈夫です。体は少し重いだけでどこかが痛いというのはないです」

『……そうですか』

「…はい」

 

 

 …トレーナーが先に電話してたのね。じゃあ私連絡する意味あった…?

 

『……メルクーリ、これだけは覚えておきなさい』

「……はい」

『もう貴女の脚は貴女だけのものではありません。貴女のことを応援してくれる友人やファンの想いも乗せて走れ、とまでは言いません。…ただし、もう少しだけ貴女自身を労わりなさい。……この後に続く言葉はわかりますね?』

「……………自分のことを軽視するのは貴女の悪い癖です

『ええ。……メルクーリ、これまで貴女には要らぬ負担をかけてしまいました。親としても、1人のウマ娘としても貴女には楽しく学生生活を送って欲しいのです。……レース出走、よく頑張りました。体の方は診察後にまた報告をしなさい』

「………はい、失礼します。連絡が遅れて申し訳ありません」

 

 

「……はぁ」

 電話を切って一息つく。

 ともかくお母様が思ったよりも怒ってなくてよかった。

 

 ……私自身を労わる、ねぇ。何をしたら労ったことになるんだろう。

 

 

 というかそもそも私が私を労わる資格なんてあるのだろうか。

 

「……はぁ」

 

 

 残っていたおかかのおにぎりを一気に食べ切って差し入れを漁る。

 ……飲み物入ってないじゃん。しょうがない、ミルクかなんか買ってこようかな。

 

 

 〜〜〜〜〜〜

 

「……ミルクとおにぎりって食べ合わせあんまり良くないね」

「なんでそんなおかしな食べ合わせをしてるんだよ…」

「……どっかの誰かの差し入れに飲み物が入ってなかったからだけど」

「悪かったって」

 

 

 同じ日の昼下がり、私はトレーナーと病院の待合室で診断結果を待っていた。…って言っても怪我とか何もないと思うんだけど。

 

 …ちなみにミルクとおにぎりの食べ合わせがあまりにも悪すぎてナースコールを一回押しちゃったのは内緒である。

 

『スバルメルクーリさん、診察室にお入りください』

「おっ、呼ばれたな。ほら行くぞメルクーリ」

「……ん」

 

 

 

 

「お待たせしましたね。スバルメルクーリさんとトレーナーさん」

「……いえ、こちらこそありがとうございます」

「それで…どうですか?体のどこかに異常が出てたりしてないですか?」

 

 

 固唾を飲みながらお医者さんを見る。お医者さんはレントゲンとか何やら難しそうな紙やらを並べながら……そしてニッ、と笑った。

 

「レントゲンにも異常なし、心拍数も通常通り。レース後の軽い筋肉痛以外は()()健康そのものですね」

「……そうですか」

 

 

 ……だから言ったのに、体はどこもおかしくないって。まぁ倒れた私が全面的に悪いんだけどさ。

 

「ということでスバルメルクーリさんは退院。筋肉痛用の湿布を用意しておきますのでそれをもらってからトレセン学園に帰る準備を進めておいてください」

「……わかりました。ご迷惑をおかけしました」

「患者さんを診るのがお医者さんの仕事ですから。それじゃ、コレ持ってお薬もらってきてください」

「……はい」

「先行ってろメルクーリ。俺は再発防止のために色々確認することがあるからな」

 

 

 ……要は詳しく心房細動が起きた原因とかが知りたいとかそんなところかな。チームメンバーが頻繁に倒れられたらチームとしても良くない噂が出るかもしれないしね。まぁいっか、先にお薬貰ってこよっと。

 

 

 〜〜〜

 

 スバルメルクーリが去った後、トレーナーと医者の間にはやけに重苦しい空気が漂っていた。

 

「……で?やけに()()って部分を強調していましたが」

「まずはちょっとこれを見ていただけますか?」

「なになに……これは両方ともメルクーリのエコー写真か?」

「はい。これは朝日杯の時に撮ったものと昨日撮ったものなんですけど…どっちが昨日撮ったものだと思いますか?」

 

 

 トレーナーは2つの写真を見比べる。…どちらもそこまでダメージは見受けられないのだが、片方に黒い塊が若干多く見受けられる。朝日杯(1600m)弥生賞(2000m)、どちらがよりダメージを受ける可能性が高いかを考え、黒い塊が多い方を指さした。

 

「…そうなんですよ、普通はそうなんです。今回のスバルメルクーリさんの場合はそれまでに経験のない2000mであんな爆発的な逃げをしたんだからより一層筋肉の方に負担がかかってるはずなんです。……でも昨日撮れたエコーはこっちなんです」

「…は?」

 

 

 そう言うと医者は呆気に取られるトレーナーを尻目に、一見綺麗な方の写真を手に取った。

 

「朝日杯の時の写真はわかりやすいんです。最後にスバルメルクーリさんを含む3人がスパートをかけながら競り合いをして、そこでダメージが入ったと考えられます。それに対して今回撮れた写真はやけに綺麗……というよりは綺麗すぎるんです。少なくともレース直後に撮れるものではない」

「…それで?」

「流石にこれはおかしいということでURAさんの弥生賞のパトロールビデオを見させていただきました。……ここですここ」

 

 

 医者の提示したタブレットを覗き込むと、昨日のスバルメルクーリの大失速の場面がスロー再生されていた。相変わらず長い髪で表情は見えないながらも後ろからの差がぐんぐん縮まっていく光景にトレーナーはイヤな悪寒が過ったのを思い出した。

 

「…この最後の中山の坂を登るところでスバルメルクーリさんが2回首を下げてますよね。この動きって普通は痛みや疲労によって足がうまく前に出ない時に足を見る動きなんですよ」

「それなのに足に異常がないのがおかしい、ってことですか?」

「…はい。結果的に心房細動で倒れてはいるんですが、足的にはまだ余裕がある状態でスパートをかけることに失敗していることになります」

 

 

 頷く医者を見ながら、トレーナーは報道陣をいれての公開練習のことを思い出していた。

 逃げるマヤノトップガンを追おうとして一瞬加速体勢を取ったスバルメルクーリ。しかし結局追わずに流して2000mを走り終えてそのままクールダウンに入っていた。

 

 

 あの時も今回もサウジアラビアRCや朝日杯で見せた末脚を使わなかった。

 

 

 ……いや。使わなかったのではなく、使えなかった?

 

 

「…まさか、あいつ」

「……スバルメルクーリさんのトレーナーさん、正直にお話します。スバルメルクーリさんはなんらかの要因によってイップスを発症している可能性が高いです。そこの解決ができないうちはレース、特に今回負けた中山レース場と前走の阪神レース場で開催のものは出走を回避することを強くお勧めします」





シリアスタグ、独自設定タグってこういう活かし方であってますか?

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次回もよろしくお願いします。
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