そのウマ娘が“白銀の突風”と呼ばれるまで   作:乃亞

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久しぶりの本編更新。
過去話は前後編でしっかりまとめる予定だったんです、本当ですよ?
……中編です。
それでは今回もよろしくお願いします。


第49話 黄金に煌る貴女へ:Dear Fleur...

 2人でG1を取り合う。そう誓ってからというもの、銀色のウマ娘と金色のウマ娘は来る日も来る日も一緒に走ったり遊びに出かけたり。住んでいる地域で『いつも仲良く2人でいる金銀ウマ娘コンビ』として評判になるのにはそう時間はかかりませんでした。

 

『おっ、君はぷぅちゃんのところの娘さんだね?金色の子は今日はいないのかい?』

『こんにちは、ルゥちゃんならこの後うちに来て一緒に勉強をする予定です!……えっと、ぷぅちゃんって…?』

『あー、ぷぅちゃん自分の競争バ時代のことあんまり話してないのか。あそこのお屋敷の娘さんだよね?』

『あ、はい!スバルメルクーリっていいます!』

『おうおう、元気で非常によろしい!形の良いにんじん採れたからちょっと持っていきな!つってもウマ娘が食べるにはちょっと少ないかもしれないけどな』

『えっ、いいんですか?こんなにいっぱい…?』

『いいのいいの。キミの所のお家には俺たちいつもお世話になってるし、若いんだからそんな細かいこと気にすんな!』

『…じゃあ遠慮なく、ありがとうございます!』

 

 

 

『あ、来た来た。ルゥちゃーん!!おはよー!!』

『おはよ…ってその大量のにんじんどうしたの?』

『朝のランニングの途中でもらった!』

『……また変なこと言ってない?』

『変なことってなにさ?』

『…メルちゃん、たまに言い回しがおかしいから』

『むむむ…あ、なら綺麗なフランス語の言い回し教えてよ!インタビューで変な言い回ししたら恥ずかしいし!』

『……私、メルちゃんより年下なんだけど?』

『いいからいいから!……にへへっ』

 

 

 空気の澄んだ田舎で仲の良いヒトやウマ娘と過ごしていくことで銀色のウマ娘の体調は見違えるようによくなり、日本にいた時のような発熱症状は少しずつ頻度を減らしていき、移住して半年も経った頃にはほぼほぼ見られなくなっていました。

 

 

 〜〜〜

 

 それは銀色のウマ娘と金色のウマ娘が出会ってから早1年。いつものように午前の併走を終わらせてお昼ご飯を食べている時のこと、にんじんのサンドイッチを食べながら唐突に金色のウマ娘が口を開きました。

 

『…メルちゃんさ、一回逃げ以外試してみない?』

『えっ、なんで?私そんなに逃げ向いてない?』

『そんなことはないんだけど…というかむしろ基礎のスピードが高いからうまいんだけど…

『えへへ、それほどでも〜』

『……ッ!!あー、もう!なんでそんなに耳いいのさ!……耳?もしかしてメルちゃん…』

『うん、バ群の中入っちゃうと競争相手の心音とか息を吸う音とか全部聞こえて気分悪くなっちゃうんだよね。だから誰よりも前をとり続けないとダメって思ってるんだけど…ルゥちゃんにはあんまり勝てないんだよねぇ』

 

 

 銀色のウマ娘が愚痴る通り、この1年間で銀色のウマ娘が金色のウマ娘に模擬レースで勝つ確率は高くて3割ほど。金色のウマ娘が元々ユースに入っていたことを考えてもかなり低い勝率なのはいうまでもありませんでした。

 

『……うーん、なるほどねぇ。じゃあそんな悩めるメルちゃんに問題。なんでメルちゃんに私は安定して勝てているでしょうか?』

『えっ?それはルゥちゃんの方が速いからじゃないの?』

『…あのねぇ。純粋なスピードだけでいったらメルちゃんかなり良い方だと思うよ。それでも勝率があがらないのには理由があるの。ちょっと考えてみて』

『んんん……あっ!私が逃げることをルゥちゃんがわかってるから対策しやすい!』

『……1つ、正解かな。メルちゃんが先に行くことを前提として、いつプレッシャーをかける…具体的に言えば息遣いを変えてメルちゃんの耳に届かせたり、踏み込みの強さを変えてメルちゃんを焦らせたりとか…を併走の前に考えてそれを実践してる。……もう何個かあるんだけど、わかる?といっても、これは自分では気付きにくいことかもしれないけどね』

『…んー、降参。1個目でもかなり気付くのに時間かかっちゃったし、その辺は詳しいルゥちゃんに教えてもらいたいなぁって』

『…いいでしょう』

 

 

 そういうと金色のウマ娘はどこから取り出したのかわからない謎のメガネを装着して話しはじめました。

 

『まず、メルちゃんの逃げはスピード任せすぎ。頑張りすぎって言ってもいいかな。普通の逃げは最初にハナを取ったら、息を入れたりラストに向けてスピードを緩めたりするの。そうじゃなきゃマイルどころか短距離でも体が保たなかったり最後に一気に抜かれちゃうから』

『ふむふむ』

『それと比べると、メルちゃんの逃げは最初から最後まで全力で走り続けてるでしょ?だから私が少し惑わせたり焦らせたりっていう技術の影響を受けると一気にペースが落ちるの。だからまずメルちゃんは脚を溜めるって感覚を掴んだ方がいいと思う』

『脚を溜める、かぁ。文章とかレースの中継とかでそういうものがあるのはわかってるんだけどねぇ…』

『……次に、メルちゃんはもうちょっと体幹を鍛えた方がいいと思う。今は私が逃げをやらないから問題になってないけど、本当のレースでは逃げのウマ娘がハナを主張したり、最後の直線で自分の走路をこじ開けようとしたりする時にぶつかられることも少なくないから……ってことで』

 

 

 言葉を切って謎のメガネをくいっと上げた金色のウマ娘を銀色のウマ娘はサンドイッチを食べながら眺めることしかできませんでした。

 

『メルちゃん、貴女には今日から追込の練習をしてもらいます!』

『……えっ??』

 

 〜〜〜

 

 お昼ご飯を食べ、勉強を一緒に終わらせてから2人はまた併走をするために外に出ていました。

 

『実際ね、メルちゃんには追込とかまくりって戦法は合ってるはずなのよ。長く脚を使えるし、息を入れたり脚を溜めるのが1番重要な戦法だから嫌でもその辺の感覚は身につくわ。…あとは最初に最後方に控えれば耳の負担もそこまで大きくないんじゃない?』

『…うーん、でもさ。後ろからだとバレてたら抑えるために囲まれたりしない?もちろん警戒されるくらい私が強くなったらって前提だけど…』

『……自信ないんだ?』

はー!?あ・り・ま・す・ぅー!!今に追込を覚えて最後に抜いてやるんだから!』

『……ふふっ、期待してるね。あと、囲まれたらどうするのって話だけどさ』

『…なにさ』

『そのための逃げ、でしょう?逃げと追込み。その2つの戦法を自由に選べるウマ娘がいたら、そのウマ娘をマークするのはとっても難しいわ。なにしろ選択権は脚質を選べる方にあるんだから。あとは……うん。実際にやった方がわかることもあると思うし、走ってみよっか。少なくとも前半は私の後ろで走ってみて…行くよ!』

『え!?あっ、ちょっと!』

 

 

 先に走り始めた金色のウマ娘を追うために慌てて銀色のウマ娘は走り始めました。序盤に金色のウマ娘を視界に捉えてのダッシュが初めてだった銀色のウマ娘は、彼女の走りを見て驚きました。

 

 

 頭の上がり下がりが少なくて、常に周囲を俯瞰で見れるフォーム。一切無駄がなく彼女の体にあった走り方。

 

 

 そして何よりも、あたたかな陽射しに照らされて楽しそうに駆ける金色のウマ娘が光のように眩しくて、見惚れてしまっていました。

 

 

キレイだなぁ……

 

 

 

いつの間にか沈みかけている太陽の下、併走を終えた2人のウマ娘は湖のほとりで寝転がって空を見上げていました。

 

『……けほ、けほ。どう、追込の感覚掴めそう?』

『全然分かんなかった…。本当にモノにできるの、これ』

『…こればっかりは何回も練習したり見たりしないと出来ないからゆっくりやろう、メルちゃんには時間もあるし、先生もいるし。私も教えられることは教えるよ』

『ありがとね、ルゥちゃん。にしても疲れたぁ。……空、キレイだね』

『…この時期は星がよく見えるから。もう1時間も経てばもっとキレイな星空が見えるよ』

『だねぇ〜。…でも私はこのくらいの時間が好きかも』

『なんで?』

『えー、なんかルゥちゃんっぽいじゃん!キレイな夕日の色に合ってるしさ!』

『……おバ鹿なこと言わないの。ほら、帰るよ』

『もうちょっとだけ休憩しよ、私疲れちゃったし。ほーら、ルゥちゃんも!』

『ちょっと…!はぁ、まったくもう』

『どうせならこのまま星が出るまで一緒に休憩……ってもう寝てる!?』

 

 

 結局その日は2人の母親にきっちりと絞られた後、一週間の勉強漬けを命じられてしまったのでした。

 

〜〜〜

 

 こうして銀色のウマ娘は追込の練習を続けつつ、元々の逃げも伸ばしていきました。時には金色のウマ娘から、またある時はお母様やその友人からのアドバイスを自分のものにしていき、少しずつですが確実に実力をつけていきました。

 

 そして実力をつける度に少しずつ、少しずつ金色のウマ娘との模擬レースの成績が少しずつ良くなっていき、2人が出会ってから5年も経つ頃には銀色のウマ娘と金色のウマ娘の実力はほぼ伯仲と言えるほどになりました。

 

 

 

 

 ……ただし、その頃から2人のウマ娘には変化が生まれました。銀色のウマ娘が確実に日本のトレセン学園に進学するために練習を増やす中、逆に金色のウマ娘が練習に来る日が緩やかに、しかし確実に減っていったのです。

 

 

『……今日もルゥちゃん、おやすみかぁ』

『こーら、メル!ぼやっとしながら走るとケガするぞ〜?ねぇぷぅちゃん?』

うちの子(メルクーリ)の前でぷぅちゃん呼びしないでってば。…でも、そうね。いい、メルクーリ?貴女がケガするのも良くないですが、もしそんな状態で他の娘とぶつかったらとんでもない事故につながります。……フルールさんのことが気になるのはわかりますが、走る時くらいは気を引き締めなさい』

『……はい』

 

 

 

 

 冬の空気が匂い始め、銀色のウマ娘が受験のために日本に行く準備を進めていたある日、久しぶりに会った2人のウマ娘は軽くジョギングをしながら話していました。

 

 

『……久しぶりになっちゃったね、メルちゃん。どう、調子は?ニッポンに帰るのは聞いてるけどちゃんと合格できそう?』

『勉強の方はまず間違いなく大丈夫!…でも、レース形式で走るのがちょっと自信ないかなぁ』

『……私が保証する、絶対大丈夫。追込も完成したし、今のメルちゃんならどこでも絶対に通用するから自信持って、ね?』

『えへへ…ありがと。っていうかルゥちゃんこそ最近来ないけどどうしたの?もしかして私に配慮とかしてる?私は全然そういうの気にしてないっていうか、むしろいない方が調子崩れるっていうか…』

『あー…。いや、まぁその。私も来年進学だし、色々あるんだよね』

『私に手伝えることがあったら言ってね?…って言っても勉強かお料理くらいしか出来ないけどね』

『……うん。その時はよろしく』

 

 

 次の週、銀色のウマ娘は何事もなく日本ウマ娘トレーニングセンター学園の受験に合格したのでした。

 

 

 その頃になると銀色のウマ娘の目標も少し変化が生まれました。すなわち、『G1を取り合う』というものから『日本で最も強いウマ娘になって、フランスで最も強くなった金色のウマ娘と凱旋門(ロンシャン)で競う』ことに。

 

 

しかし、その目標(ひかり)を消してしまっていたのもまた銀色のウマ娘なのでした。

 

 

 




皐月賞ね…パドックとか芝傾向とか考慮して友人に予想公開したら、順番まで完璧に3連当たってたの…。お金?賭けてませんよ?はぁ…。

感想や評価本当にいつもありがとうございます!
それでは次回もよろしくお願いします!
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