そのウマ娘が“白銀の突風”と呼ばれるまで   作:乃亞

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第52話 大海を手で塞くがごときこと:Uncontrolled

 

 

 朝風呂に浸かった後、髪をちゃんとセットし直した私は1人でトレセン学園に登校していた。

 

 

 …思えばかなり久しぶりな1人での登校。大体マヤノとかテイオー、たまにネイチャさんとかと一緒に登校するか、サボるかの2択だったから逆に新鮮だなぁ。

 

 当のマヤノにはLANEで『先に行ってて。必ず行くから』と報告済み。髪が長いと髪を乾かすだけでも20分、オイルで髪を整えるのにまた10分、尻尾のケアにまた20分…と大変だし時間がかかる。私が朝風呂を好きなのにやらない…というかできない理由の9割がここ。単純に夜じゃないと時間がなくてやってられないってわけ。ま、今日はしょうがないけど。

 

 いっそのことウオッカさんとかスペさんみたいにある程度短くしてやろうかと思ったこともあるけど…もったいないからやめた。これでも私は自分の髪は好きだし大切なのだ。ルゥにもマヤノにも褒められたし。

 

 

 朝ご飯のビスケットをつまみながら空を見上げる。昨日の夜の星空をそのまま引き継いだみたいな雲ひとつない快晴。川原で寝てよし、屋上で寝てよし、公園のベンチでぼんやりするもよし……うーん、絶好のサボり日和なんだけどなぁ。

 

「あっ!スバルメルクーリだ!」

「……ん?」

 

 

 取り止めのない思考の海から半ば強制的に引き戻されて横を向くと、小学生くらいの女の子とその母親らしき人が私を見ていた。かと思うと女の子がとてとて寄ってきて白い定期入れとペンをこちらに差し出してきた。

 

「ねね!サインちょうだい!」

「…お名前は?」

「ミコ!」

「…ミコちゃんね。ミコちゃんへ……っと。ん、どうぞ」

「わー!ありがとー!」

 

 

 定期入れとペンを返した後、少し屈んで女の子の頭を撫でていると母親の方も頭をかきながら寄ってきた。

 

「あはは…すいませんねメルクーリさん。うちの娘、貴女のデビュー戦からずっとファンでして。ぱかプチも全部揃えるって言って聞かないんですよ」

「…あはは、ありがとうございます……んん?

 

 

 …ぱかプチ?全く知らない話が入ってきたんだけど。グッズ販売決まってたの…?

 

 

 ……トレーナーさぁ。ホウレンソウって知らないのかな、あのヒト。

 

「その…心臓の方は大丈夫ですか?」

「…えっと。現状大丈夫なんですけど、一応皐月賞は回避の方向で動いてます」

「あらら…でもメルクーリさんの体の健康が一番なので、またすごい走りを見せてくださいね、私も応援してるので!ほら、ミコも挨拶」

「ばいばい!レースがんばってね!感謝祭も行きたい!」

「……ん、ありがとね」

 

 

 大きく手を振る女の子の頭をもう一回撫でてから私は再び学校へと歩みを進み始めた。

 

 

「……『もう貴女の脚は貴女だけのものではありません』、かぁ」

 

 弥生賞で倒れた後にお母様にかけられた言葉が、今なら少し理解できる気がした。

 

 

 〜〜〜〜〜〜

 

「ということで!もうすぐ感謝祭です!何かやりたいものがあれば手を挙げてから言ってね!話し合いもしていいよ!」

 

 

 本来なら一限の始まる時間。教壇に立っていたのはヒトミミの教員ではなく、仁王立ちのウマ耳の学級委員長でした。…なんでさ。

 ……真面目に授業受けようかなと思ったらこれ。おかしいなぁ、私がもらった時間割には数学って書かれてたはずなんだけどなぁ。

 

 心の中でため息をつきながらぼんやり窓の外を眺めていたら、いきなり私の視界が暗く覆われた。…こんなイタズラをこのタイミングでやるのは大体決まってる。

 

「だーれだ!」

「……声はマヤノ。手で私を覆ってるのはマベさん」

 

 

 覆っている手を軽く小突いて外させると…やっぱり。完璧に当てられて少し膨れてるマヤノといつでもどこでもニコニコのマベさんの2人が背後に立っていた。

 

「むー、メルちゃん当てるの早すぎ!なんでわかったの?」

「…このタイミングでこんなイタズラを私にするのはマヤノくらいでしょ。んで前にやった時、私に当てられてるから変化球でくるのは予想がつくじゃん?」

「ぶーぶー!」

 

 ぶーぶーて。当てなかったらそれはそれで膨れるでしょうに。…マヤノの性格も考えたらこれくらい誰でもすぐにわかる。マヤノはいい意味ですごく純粋だからね。

 

 本気で私に当てさせる気がないなら手で覆う役を私とは関わりの薄い人にすれば良いのに、それをしないところにもマヤノの優しさが出てる。マベさんならそこそこ私も知ってるし、可愛いイタズラの範疇で終わるからね。

 

「…んで、どうしたの?」

「あっそうだった!感謝祭何やるー?」

「どんなマーベラスをつくろっか☆」

「……外の川辺で昼寝。人混みとか騒がしいのが苦手なの、マヤノも知ってるでしょ?」

 

 模擬店やら模擬レースやらミスコン、お悩み相談に占いの館…果てにはグラウンドを使った神経衰弱までなんでもアリなのがトレセン学園の学園祭。滅多にない一般客への解放日ということもあってそれはそれは盛り上がる。ついでにURAが販売している関連グッズの売り上げもそれはそれは盛り上がる。

 

 ……盛り上がるんだけどさぁ、音がいちいち大きくて耳というか体調に悪いし、人が多すぎてクラクラするから当然のように不参加(サボり)決め込んでたんですけど。免罪符ってわけじゃないけどこれでも一応病み上がり扱いだし。

 

 そんなあくび混じりの私の言葉に、先ほどから膨れっぱなしのマヤノバルーンは更に膨らみを増した。…破裂したらどうするんだろ。

 

 

「えー、もったいない!!せっかくファンのお客さんがたくさん来るんだよ!?キラキラなマヤたちを見てもらお?ね?」

「キラキラ☆メラメラ★マーべラース!!」

 

 ……うん、マヤノとかマベさんはこういうタイプなのは知ってた。お祭りとかイベント大好きだし、イベントがなければイベントを作れば良いじゃないってタイプ。

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………さて。どうしたものかな、これ。

 

 勘違いしてほしくないのは、マヤノとかマベさんとかがイベントに参加するのを止めたいわけじゃないってこと。それは思う存分楽しんでほしいし、そのために何か足りないってなったら裏でこっそり手伝うのもやぶさかじゃない。だから適当な言葉で丸め込んでマヤノたち共々サボらせるのはナシ。…こっちの方が簡単なんだけどね。

 

 私の到達目標はあくまで私のみが学園祭当日にうまくサボれるように画策すること。……どう手を打てばいいかな。まずはこの膨れっぱなしのバルーンをしぼませないと。

 

「……ねぇマヤノ?マヤノは聡明で賢い『オトナ』のウマ娘だよね?」

「んぇ?いきなりどしたのメルちゃん」

「…少なくとも私はマヤノが『オトナ』のウマ娘だと思うけどなぁ〜。そんな『オトナ』のマヤノさんなr「授業中に失礼いたしますわ、スバルメルクーリさんは…あっ、いましたわね。たづなさんから言伝を預かっておりますので、ちょっとお借りしますわ」……チッ…今行きます。ごめんねマヤノ」

「いってらっしゃーい!…えへへ、マヤがオトナのウマ娘かぁ〜」

 

 

 軽くマヤノの髪を撫でて席を立った私は、一瞬だけ全力の圧を教室の外に向ける。…そばにいた娘が一瞬震えてたような気がしたけど気のせいってことにしておこっかな。それか私自身が震えてたか。…そういうことにしておこう、うん。

 

 

 

 教室を出た私は最悪のタイミングで呼び出してくれたクソお嬢さ…もとい、ピスタチオノーズを普段の3割増しのジト目で見上げる。…本当に最悪のタイミングで来てくれたよ、うん。

 

「来ましたわね。…その、体の方は大丈夫ですの?」

「蹴っていい?」

「なんでですの!?……まぁいいです、たづなさんからの言伝ですわ。『学園祭で前年度のURA賞表彰のウマ娘を集めたステージを行いますので、当日は勝負服の準備をしておいてください』…とのことですわ」

「なんでそんなことを…」

「…企画の立案をしたのが理事長様らしいですわ。それで海外挑戦中で日本にいない方以外は全員参加させるみたいですの」

「……ムチャなことを」

 

 ……全くもって何やらされるかの見当がつかない。基本的に全員参加ってことは得意な距離もバ場もまちまちだろうから走らせることはないだろうけど…。私はともかく、目の前のピスはクラシック戦線初戦を控えてるわけだし。私はこれでも病み上がり扱いだし。

 

 

 ……というか。

 

「そんなの出たら私サボれないじゃん、出たくないんですけど…。ピスが私の分まで頑張れば解決じゃない?」

「…今の一言でなんで私が言伝を預かったか、全て見当がつきましたわ。お目付役ってことですのね、コレ」

「やっぱり一発蹴らせてくれない?気がおさまらないんだけど」

イ・ヤ・で・す・わ!!…まったく、スピカさんはどうやってこのじゃじゃウマを制御してるんですの…?」

 

 ぎゃあぎゃあとうるさいピスを無視して思考を巡らせる。うーん、なんとか出ないで済む方法はないかなぁ。寮に引きこもる…のは使えないか、引き摺り出されるのがオチ。外に逃げるのは…なくはないんだけど、学園祭に来るお客さんの影響でいつもよりも人の目が多くなるからいつものようにはいかないのが予想つく。

 

「むむむ…」

「あーもう、何考えてるかわかりませんがとにかく伝えましたわよ!い・い・で・す・わ・ね!?」

「…はぁ、聞くだけ聞いたから教室戻りなよ。一応授業時間中でしょ」

「えぇ、ではまた。……ご自愛くださいましね?」

 

 

 なんかやけに優しかったピスの奴が教室入るのを確認してから、がっくりと肩を落とす。

…最近、まったくもって何もうまくいかないんですけど。これが厄年ってやつ?

 

「せめてこれ以外のイベントは回避できるようにしなきゃ。そのためにマヤノをうまくノせてたのに、本当に最悪のタイミングで来てくれたよあの緑目め…」

 

 …さて、切り替え切り替え。いつまでも廊下に立ち尽くしてるわけにもいかないし、こっそり戻るかぁ。

 

ほっ、と軽く息を吐いてからそーっと教室の後ろから入るとほぼ全員の目線がこっちに向いた。…そんなに目立つ動きだった?

 

「……えっ。なに?」

「ね?ねっ!?メルちゃん、メイドさんにピッタリでしょ!?」

「………はい??」

 

 尻尾をぶんぶんと振り回しているマヤノの発言に目を白黒させ、前の黒板の文字を見る。

 

 

 ……『決定!! メイド喫茶!!』

 

 

 ………???

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」

 

 

 厄年だ、これ。メル、わかっちゃった。




ということで学園祭ですね、ええ。数話の予定()です。

チャンミはオグリとクリオグリに一生負け続けました、辛いです。強すぎんねん…!リアルダービーは予想当たったのに…!
セイウンハーデス?あの子は推し枠なので別ということで一つ。

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それでは次回もよろしくお願いします!
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