「えーっと……メル?」
「………何か?」
「あー…その〜…アタシとマックイーンのタイムを測ってほしいなぁ〜なんて思ったり思わなかったりしてんだけど…」
「………ん、準備して」
「さ、さんきゅな!……おいおい何やったんだ、トレーナーの奴」
「……多分、今日の授業時間のことですわ。私も見ていましたが、正直タイミングが悪かったとしか」
「位 置 に つ い て !」
トレーナーから渡されたストップウォッチをカチカチッと操作しながら、チームスピカのお手伝いこと私は心の中で首を傾げる。
……なんか今日の練習はいつもより静かだ。決して大きい方じゃないはずの私の声がやけに通ってるし。そのせいか知らないけど、ゴルシの奴もなぜかものすごく真面目にトレーニングやってるし、明日は季節外れの槍でも降るのかもしれない。
「…はぁ。そんなわけあるかー、ってね」
2人を視界の端に留めつつ空を見上げ、何回目になるかわからないため息をつく。槍どころかカミナリすら落ちてきそうにない澄み切った青空しか広がっていなかった。
ただでさえ理事長が発起人らしい何をやるのかよくわからないステージに出させられるのが勝手に決められていた上に、さらに追加で学園祭の催し物に参加させられるのはゲンナリとかグッタリとかという次元を超えていた私は、当然猛抗議をした。
『メイド喫茶』なるものが何を指し示してるのか説明を受けたけど、あんまり何言ってるのか理解できなかったし、その少ない理解の範疇ですらやりたくないという判断を下すには充分すぎた。
……なのになぜかこれをマヤノがゴリ押ししてきた。何があの娘の琴線に触れてたのか、そこまでゴリ押ししようという気にさせたのかさっぱりわからない。
〜〜〜
「…あー、あのーマヤノさん?私あんまり表立って動きたくないんだけど」
「ダメ!メルちゃんはキラキラしてるんだからもっと前に出なきゃ!」
「…そもそもメイド喫茶って何さ」
「知らないの!?じゃあマヤが教えたげる!メイド喫茶はねぇ〜、こんな感じのフリフリのメイド服を着てお給仕する喫茶店!」
「絶 対 嫌 だ !」
「マヤも着るから!!一緒にやろ??ねっ?」
「嫌だ」
「…終わったら一緒にスイーツバイキング行くから!ね?」
「…………裏で料理ならやってもいいよ。表出て給仕は「だっさなきゃまっけだよ最初はグー!じゃーんけーんぽん!」……んなっ…」
「マヤの勝ちー!一緒にやるから!ね?」
〜〜〜
……なーんで私はチョキ出しちゃったんだか。喜ぶマヤノ、沸き立つクラスルーム。熱くなる私の頬。
怒ってないですよ?ええ、怒ってないですとも。結果として私たちが両方ヒラヒラな服を着て給仕をやることなんか全く気にしてませんとも。
当のマヤノはトレーナーと作戦会議。座学のあと、皐月賞に挑む時の心構えみたいなのを勝ったテイオーと敗れたスペさんの2人から教わるらしく、その2人は軽めのトレーニングを終えて部室に引き上げて行った。
…引き上げるときに安堵の表情浮かべてた気がするけど気のせいでしょ。
青空から視線を戻し、バックストレッチでマックイーンさんに追いつこうと捲り始めたゴルシをぼんやりと眺める。…普通ならそこからで間に合うだろうけど、相手がマックイーンさんだからなぁ。そこからじゃ多分届かない。…今スピード少し緩んだけど、それはどういうことなのさ。
前を行くマックイーンさんの走りは安定してるように見える。……先行策なんか考えたこともないから調子の良し悪しなんかさっぱりわかんないけど。
マックイーンさんが有利なまま3コーナーに入った時、背後から声が掛けられた。
「よっ、ちゃんとやってるか」
「……ゴルシとマックイーンさんの時計測ってるとこ。マヤノの座学はもういいの?」
「あいつはホープフルで同じコース走ってるし、飲み込みも早いしな。実際のところ言うことなんてあんまりないんだよ」
「…ふーん。で、申し開きは?」
「……。何の話だ?」
「…ぱかプチ」
「あぁ、そっちか。いやぁ〜言うタイミングがなくってなぁ、あとでURAから来たテスト品見るか?」
「…ん」
…今口の中で『あぁ、そっちか』って言ってたんだけど他にも何か隠してるのかこのヒト。見た目通りの胡散臭いことやるんじゃないよまったく。好奇心はウマ娘も滅ぼすらしいし、これ以上は何も言わないけどさ。
新しいアメを咥え直したトレーナーは私の持ってるストップウォッチを覗き込む。ちょうどマックイーンさんが先頭で駆け抜けたタイムは3200mを3分21秒ちょうど。クビ差くらいでゴルシが2番手。……やっぱ捲りきれなかったね。20mくらい捲るタイミングを速くするか、謎の減速がなければまた違った結果だったかも。
「ふーん、中々やるじゃねぇかあいつら」
「……ゴルシの仕掛けがあんまり良くないように見えたけど、思ったより距離詰まった」
「そこら辺はマックイーンの伸びの問題だろうな、よく見えてるじゃないか」
「…誰でもわかるでしょ」
「………あーそうだ。ここに来たのは買い出しを頼みたくてな。2人にドリンク渡したらこのメモ帳に書いてあるのを買ってきてくれ、お手伝いさん」
「……はぁ、しょうがない…って多くない?」
「いやぁ〜悪い悪い。事務作業が立て込んでてな」
渡されたメモ帳の内容に軽く目を通すとテーピング道具からいつもトレーナーが咥えてる飴の箱、さらには何に使うのか見当もつかないサイズのレジャーシートまでびっしりと書かれていた。
…運動がてらこまめに買い出しに行くって発想は無かったのかな、これ。
「なぁマックちゃんや〜、もっかいやろうぜもっかい〜」
「何を言ってるんですの、今走ったばかりでしょうに…」
「いやぁ…行ってやろうって思った時に、なんか首筋に冷たいのが這ってな?うまくスピードに乗れなかったんだよな」
「本当に何を言ってるんですの…」
「……2人とも何やってんのさ。これ、ドリンク」
「あら、メルクーリさん。ありがとうございます」
「おっ、サンキュなメル。…なぁなぁ、メルも見たくねぇか?最強のアタシ」
「…何言ってんのさ」
「さっきのアタシはまだ第1形態。本気のアタシを知りたいってんならもっかい相手しなマックイーン!そんでもっかいタイム測ってくれメル!」
腕を回しておかしなポーズをとりながら自身ありげにするゴルシをマックイーンさんと2人で眺める。身長高くてスタイルいいからわけのわからないポーズでも映えるなぁ。…言ってること?無視でいいや、買い出しの量多いし。
「……私は買い出し行くから。マックイーンさんもほどほどにね」
「え、えぇ…」
「…ゴルシは仕掛けるならもうちょい早く、仕掛けたらゴールまで緩めちゃダメでしょ。ゴルシは長く強い脚使えるんだし。走るなら15分ぐらいはあけなよ、怪我するから」
併走終わってからのゴルシの歩き方とか見てるけど、傷めたとかこむら返りとかとにかく怪我につながってそうな歩き方はしてない。それだけにさっきの減速の説明がつかないんだけど…ま、怪我じゃないならいっか。
〜〜〜〜〜〜
「……で、2人はなんでついてきてるわけ?」
「いや〜メルって体小さいし、たくさん買って帰るのも大変だろ?一緒についていってあげるのが先輩の務めってワケよ。…ふむふむ、髪が長いからいろんな結び方ができるなぁ」
「とまぁ何をしでかすかわかったものじゃないですから、監視役ですわ。幸い今日のトレーニングメニューは終わってますし、トレーナーさんにも許可は取りましたからその辺りは心配しないでくださいませ」
「……おつかいに心配してついてくる親か何か?」
過保護というか心配性というか。…実際量多いからめんどくさかったけどさ。メモ帳を軽く見直しつつ、さっきから長いこと私の髪で遊んでるゴルシを尻尾で払いのける。
「…うーん、とりあえず3人いるし手分けして効率よく終わらせたいな。ってなるとマックイーンさんは…」
「なぁメル!たい焼き食べようぜたい焼き!」
「…とりあえず2人いるし手分けして効率よく終わらせたいな。ってなるとマックイーンさんは南の蹄鉄屋さんの買い出しをお願いしてもいい?リストはこれね」
「ふむふむ…了解ですわ。リストの蹄鉄がない場合や買い出しが終わりましたらLANEで報告いたしますわ」
「…わかった、気をつけてね。…んで残りを私が」
「メ〜ル〜、メルさんや〜…」
「…ふ、ふふっ」
賑やかしに来た白いのを軽く無視してマックイーンさんに担当をお願いしていると、いつのまにか近くの木の裏に移動していたらしい白いの…もといゴルシがとんでもない顔芸をしながら近づいてきたのを見て思わず吹き出す。
「……買い出しできるのね?」
「おう!一切合切まとめてアタシに任せな!」
「…よしよし、じゃあゴルシには東と北の買い出しお願いしようかな。リストまとめるからちょっと待って。…えーっと」
「…なんか、ちょっとだけ変わったなメル」
「……ん?」
メモを書く手を止めずにゴルシの方を見やる。…私が変わった?どこが?
「なんていうか…少し喜怒哀楽が見えやすくなったな、うん」
「…ゴルシが私に慣れただけでしょ、バカなこと言わないの。ちなみにゴルシの分量が1番多いけど、遅れたら置いて帰るからね」
「なっ…はぁ!?」
「……よしと、これがリストね」
「よっしゃ行ってくる!」
リストを受け取るなり真西にすっ飛んでいったゴルシを見送る。そっちじゃないんだけどなぁ。っていうかそっちは私の行く方角だったんだけど。
「……たい焼き、ね」
…ついてきてくれたお礼にこっそり買うくらいはしてもいいかもしれない。私も好きだし、甘いの。
シャフリさん、PoW勝ったら日本帰ってきてくれないかなぁ…。F4とタイトルホルダーが待ってるぞ!()
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