そのウマ娘が“白銀の突風”と呼ばれるまで   作:乃亞

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第55話 祭りの前日:The Eve of The Fest

 

 

 イベントの前日っていうのは () () () () () なんとも言えない高揚感がつきものなわけで。そういうの大好きなマヤノなんか、さっき『メルちゃんメルちゃん!明日に向けてみんなでオトナの会議しよ!マヤの部屋で!』なんて言いながらはちゃめちゃに尻尾を振り回していたわけだけど、"オトナの会議"って言葉自体が……それ以上は言わないでおくけどさ。

 

 マヤノ以外のクラスメイト……もっといえば学園全体がそのなんとも言えない高揚感を無意識に共有しながら、教室の飾りつけやら小物の確認やらそれぞれに割り振られた仕事をウッキウキでせっせとこなしている。

 

 大体の日本中央トレセンに通うウマ娘はイベント大好き、団体行動得意、身体スペック高めの3点セット。全体での準備開始となったお昼からぼんやりと窓を眺めてるだけでも学園の風景があっという間に変わっていく、そりゃもうとんでもないスピードで。30分くらい目を離しただけで何もなかったところに屋台の2つ3つが完璧な状態で出来上がってるといえばどれだけ早いかわかるだろうか。…杜撰な建て方してないか心配になるよね。

 

 

 さて、さっきなんで () () () () () なんてわざわざ強調したでしょうか。

 

 

 …答えは簡単。私は楽しみという気持ちより、げんなりとかぐったりという気持ちの方が強いから。

 

 もちろん、みんなの楽しみって気持ちは分かるし否定する気もないよ?私も幼い頃、降誕祭の前日(クリスマス・イブ)の夜はなかなか寝付けなかったし、それを見て少しだけ困った表情を浮かべたお母様に寝かしつけられたことだってある。その時の高揚感に近い奴ってのは分かってる、共感できてないだけで。

 

 

「……それじゃメルクーリちゃん、お客さまが来た時にはなんて言葉をかければよかったんだっけ?」

「…………はぁ。オカエリナサイマセゴシュジンサマ(おかえりなさいませご主人様)

 ナンメイサマデゴキタクデショウカ(何名様でご帰宅でしょうか)』」

「さすがメルクーリちゃん、もう内容完璧に頭に入ってるね。…えっと、メルクーリちゃんのシフトは初日のステージが終わった後と二日目の午前の予定だからそのつもりでお願いね。特に初日は大変だろうから休憩はしっかり取ってね」

「……ん」

 

 

 こんなの(メイド)やらあんなの(ステージ)やら、私の知らないところでぽんぽん増やされてたらそりゃあげんなりもするしぐったりもするでしょ?

 

 

 そう、今日は学園祭前日。西日が差し込むにつれて段々と装飾が整っていく教室の隅で、私は漏れ出しそうになるゲンナリオーラを必死に内々に仕舞い込んでいた。

 

 〜〜〜〜〜〜

 

「わぁ、メルクーリちゃんウエストほっそ!あたしなんかちょっと食べただけでお腹ついちゃうから羨ましい〜」

「うーん、メルクーリさん綺麗な銀髪だからヘッドセットは黒の方がいいかな…?」

「うーん、Sサイズでもちょっと丈余っちゃうか。裾合わせるからちょっと待っててね」

「……はい」

 

 私を含めたメイド役の面々はマニュアルを頭に入れさせられたかと思ったら、教室の隅に作られたパーテーションの中に放り込まれ、衣装合わせという名のお人形状態にされていた。…どうしてこんなことになったんだか。

 

 私以外のメイド役……マヤノとかマベさんとかはとっくに衣装合わせもマニュアルのテストも終わってメイド服なるものでわーきゃーしてるわけだけど、さすがというかなんというか。めちゃくちゃ可愛くて似合ってた。本人らには言わないけど。

 

「…はぁ」

 

 私用にセットしている途中の服の肩口をひょこっとつまんで体の前にあてがい、衣装係の採寸を待つ。黒地のワンピース系のドレスの上に白いエプロンドレスを合わせたような格好なんだけど、なんでこんなにスカートがもこもこしてるの…?というかこれが給仕服……?ニッポンヨクワカラナイ、コワイ。……いや私全然普通に日本生まれだけど。

 

 

 ちなみに私だけが遅いのは、さっきまでステージの方の顔合わせと簡単なリハーサルに参加させられていたからであって、決してサボっていたわけじゃない。サボりたくて仕方なかったけどやんわりとマックイーンさんに見張られてたとかそういうことじゃない、決して。

 

 …ちなみにそのマックイーンさんは去年のシニアの年度代表ウマ娘。午前は私と同じステージに出て、午後はテイオーとなにやらメインステージで『学園祭限定! TMライブ対決!!』なるスピカの企画に出るらしく、テイオー共々当日にほとんど仕事がない飾りつけ係ということになっていた。

 

 

 なお、これを聞いて思わず私の口からこぼれた『…なにそれ、ずるいんですけど』という抗議も、『…私もステージ出ることになってるんですけど』という陳情も無かったことにされました。…どうして?

 当のテイオーとマックイーンさんの2人からはきまずそうな視線を向けられたんだけどそういうことじゃないのよ。貴女たちも着なさいよ、そして私と同じ恥辱を味わいなさいよ。

 

 

 …そんなことを考えていたからなのか。服を採寸係に返して椅子に座った私の左頬に、唐突に誰かの人差し指が突き刺さった。…このタイミングでこんなことやる子なんてかなり絞られる。

 

「どもどもー、メルちゃん専属スタイリストのネイチャさんですよっと」

「……むぅ、なにするのさ」

 

 

 サボることも裏で調理係に徹することも許されなかった私の唯一にして最後の抵抗が『私の髪をいじるのはナイスネイチャ』という指名をすることだけだった。…ある程度気心もしれてるし、手先も器用だから変なことにはならないという信頼の中での判断だったんだけど、ネイチャさんもそれを受け入れてくれたのは不幸中の幸いというかなんというか。

 

 …決まった後にこっそり『ご指名ありがとうございまーす。…アタシもメイド服着るのは恥ずかしいクチだからさ、メルちゃんが指名してくれて助かりました、なんてね?』とか耳打ちしてきたのはちょっとむむっ、って感じたけど。一緒にメイドやらせるのが正解だったかぁ…ってね。

 

「ほーら、メルちゃん可愛いんだから膨れないの」

「…また調子いいこと言ってる。ネイチャさんこそこういうの(メイド服)似合うんじゃないの?」

「あはは…アタシは遠慮しとくわ、メイド部隊じゃないしね。…さてと、メルちゃん髪質が結構素直だしお手入れもちゃんとしてるからいろんな髪型試せるねぇ」

「…ある程度はネイチャさんに任せるけど、カットはナシってわかってるよね?」

「もちろん、ネイチャさんにまかしとき」

 

 

 本物の美容師のような手つきで私の髪を軽くいじるネイチャさんに任せ、軽く目を瞑る。……いやホントにうまいなネイチャさん、『アタシ実は弟いてさ。こういうの慣れてんだよねー』とか言ってたけど、慣れてるとかそんなレベルじゃないじゃん。自己評価どうなってんの…?

 

「ほい、ポニーテール」

「……」

「んで、これがツインテールね」

「……」

「かーらーの、お団子ふたつかんせーい」

「……遊んでるよね?」

「いやいやまさかー」

 

 

 お人形遊びの延長線上だったよね今。少し目を開けたら案の定ちょっと悪い顔してるし。髪が長すぎるからか知らないけどお団子のサイズ少し大きいし。

 頑なに視線を合わせてこないネイチャさんをじとーっと見ていると、パーテーションの外から声をかけられた。

 

「メルクーリちゃん、お直し終わったけど着れるー?」

「あーいいよいいよ、持ってきちゃって〜」

「…なんでネイチャさんが答えるの。…服着てるから入って大丈夫」

 

 ひょこっと入ってきた採寸係の子から服を受け取って広げる。確かに少しだけ丈は短くなった……のかなぁ、傍目にはあんまりわかんない。

 …そしてもう一つわかんないことがあるんだけど。

 

「……自称私の専属スタイリストのナイスネイチャさん」

「はいはい、なんじゃら?」

「…着方わからないから着せて。…あ、貴女も合ってるかどうか残って確認して欲しいんだけど…」

「おっけー、んじゃ服脱ごっか」

「……ネイチャさん、それは気色悪い」

 

 

 言葉選びが悪いネイチャさんに苦言を呈しながらジャージを着崩す。…にしてもホントにどう着るんだコレ…?明日、ステージ終わって戻ってきて勝負服からこれに着替えて?しかも髪型も変える…??ちょっと考えただけでも意識が飛びそうになったんだけどどうしてくれようかなホントに。

 

 ……まぁ、仕方ない。労働ってことで割り切るしかないか。労働には対価がつきもの、さーて誰にスイーツ奢ってもらおうかな?そうとでも思ってないと乗り切れないよコレは。

 

 

 

 

 

 2人に文字通り手取り足取り手伝ってもらい、ネイチャさんに髪を整えてもらうこと15分。やっと着付けが終わった私は立ち上がってくるりと一回転し、2人の前でピタッと止まりスカートの裾を軽く持ち上げてお辞儀(カーテシー)をした。…勝負服よりもスカート丈がかなり長いから思ったよりふんわり広がるなコレ。

 

「……サイズはぴったりだけど。ほつれとかない?」

「ないよ!いやぁ流石メルクーリちゃん、なんでも似合うね!」

「……おぉ、さすがというかやっぱりというか」

「…なにその感想」

「いやぁ…これアタシの責任結構重いカモ、なーんて思っちゃいまして」

「……んん??ちゃんと出来てるんじゃないの?」

 

 

 … ネイチャさんが何に気を揉んでるかよく知らないけど、変なところはないんじゃないの?隣で採寸係の娘は控えめな拍手してるし。

 

 

「とりあえず完成だから少し動き回って髪型崩れないか確かめてみてよ。ダメだったらもうちょい考えてみるから」

「……ん」

 

 

 ネイチャさんの指示に従って軽く首を横に振ったり縦に振ったり。…うーん、解けたり崩れたりってのはなさそうだけど、いかんせん普段纏めたり結んだりしないからどのくらい動かしたら崩れるかわかんないんだよなぁ。

 左に採寸係の娘、右にネイチャさん。左に採寸係の娘、右にネイチャさん。左に採寸係の……あれ?いないんですけど。

 

「みんなー!メルクーリちゃん完成したから見てあげて!」

「…えっ。……えっ!?」

 

 

 何やってくれてんの採寸係(このこ)!?そんなこと言ったら……あぁ…作業の手が止まったし、一部…というかマヤノとマベさんあたりはこっち寄ってきてるんだけど。仲良い人の足音がわかるのも考えものだよねぇ…、今まであたり前だったから何も感じてなかったけどさ。

 

 

 …ひっじょーに出たくない…。注目浴びたくない…。出るのが下手なタイプのゲート難?…うるさいよ。

 採寸係の娘がパーテーションの向こうから手招きしているのを見て、思わず前搔きが出てしまう。

 

「……何やってくれちゃってんのさ…。余計出づらいじゃんか…」

「ほーら、どうせ明日と明後日みんなの前出るんだから行ってこーい」

「……あっちょっ…」

 

 背後のネイチャさんからかるーく前に押し出され、パーテーションの中から出てしまう。前掻きしてたから踏ん張れなかった…。

 

 抗議しようと振り向くと当のネイチャさんはすすす…と姿見をこっちに寄せてきていて、いつもと違う服、いつもと違う髪型ですっかり赤くなった私がそこに反射(うつ)っていた。

 

 

 

 ネイチャさん曰く、両サイドを三つ編みにして前に垂らし、残った長い後ろ髪を根本でひとつ結びにした上で2段階に折り、それぞれ紅いリボンで巻いてる…らしい。

 何言ってるかわからない?そもそも私も理解してないからね。普段髪にリボンもゴムもヘアピンもつけないウマ娘にはさっぱり理解できない領域の世界なのよ。

 

 普段後ろに感じる髪がなくてうなじがスースーするのがすごい違和感だけど、それ以外はなんともない。…というかよくこんな綺麗に仕上げたなぁって感じ。当然私1人ではとてもじゃないけどできない。こんなの技術的にできるとしてもめんどくさくてやってられないでしょ。

 

 ちなみにそんなことをやらかした犯人…もといネイチャさんは姿見を寄せた後、おそらく私の髪型をイメージするのに使ったであろうスケッチブックをめくりなにやら書き込んで…『もっとドードーとして前向こ!!』……うるさいわ!誰のせいだと…!!

 

 

 そこまで回った私の思考に割り込むように、オレンジと黒の髪の毛が視界に割り込んできた。

 

「メルちゃんすっごいキラキラしてる!一緒に写真撮ろ!?ね?」

「いつもと違うメルちゃん、キラキラでマーベラース!」

「!?!?……あーもう。……Après moi le déluge(もうどうにでもなれ)

「ん?メルちゃん今なんか言った?」

「……言ってない」

 

 

 いつもの三倍くらいはウキウキしているマヤノとマベさんのコンビを皮切りにメイド係の娘のプチ撮影会が開催されてしまったのを、私はどこか他人事のように流されるしかなかった。

 

 

 ……この辱めをあと2日、しかも一般のヒトにうけないといけないの?………うそでしょ?

 

 とりあえずマヤノとマベさん、ネイチャさんにはスイーツ奢らせよう、そうしよう。

 




宝塚記念のパンサラッサさん、最初の5ハロンつっこんだなぁって思ってたらアレよりもメルちゃんの弥生賞が速かった件。そら倒れますわ。

髪型わかりづらい…かもしれないんですけど、か○や様の後ろ髪のまとめ方を想像してもらえれば後ろ髪に関してはほぼそれです。普段髪が長い娘のうなじって魅力的ですよねっていう。

毎度のことですがお気に入り登録、感想、誤字報告、評価等々いつもありがとうございます。いつもすごいなぁ…と思って眺めてます。

それでは次回もよろしくお願いします!
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