そのウマ娘が“白銀の突風”と呼ばれるまで   作:乃亞

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第60話 友人、或いは憧れの先:The aspiration You

 

 

 

 

 

 

 

 

 サイレンススズカ。元チームリギル、現チームスピカ所属の希代の逃げウマ娘。グランプリを含めた6連勝中に臨んだ秋の天皇賞で選手生命を危ぶまれるほどの大ケガを負うも、1年以上の長期休養を経て復帰、そして勝利。

 現在は日本を代表する現役逃げウマ娘としてアメリカのBCターフやら香港やらドバイやら、さまざまな海外レースを転戦中。

 

 走りの特徴はなんといっても大逃げ。逃げて差すと称される、スタートから一切先頭を譲らずにゴールまで逃げ切る走りでもってファンからは“異次元の逃亡者”と呼ばれている……らしい。いつだったか忘れたけど、スズカさんのことを調べるために読んだ雑誌にそんなことを書いてた。

 

 

「…“異次元の逃亡者”、かぁ

「…ん?メルちゃん?」

「んん、なんもない」

 

 

 …実はさ。最初にスズカさんと会ってからしばらくはそんなにすごいウマ娘だって知らなかったんだよね。そもそも最初に会ったのが授業をサボって河川敷で寝てた時だし。だから私の中での第一印象はあくまで、“寝てたらたまに来て、話し相手になってくれる…ちょっと変なウマ娘”って認識。

 

 もちろん、顔を合わせる時のスズカさんの格好が大体ジャージ姿だったってことと、走るときの踏み込み方から逃げが得意な現役ウマ娘なんだろうなぁって予想はついてたけど、むしろそれ以外のことは何も知らなかったし聞く気もなかった。

 

 ……気づいたのはスズカさんが怪我から復帰した直後。久しぶりに見かけたと思ったら踏み込みの音が少し変わってて、何かあったのか聞いて…って感じ。秋の天皇賞で事故が起きたのはどこかで小耳に挟んでたけど、まさかこんな身近に当事者がいたなんて…って驚いたよね。

 

 ルゥのこともあってレースに出る気もなければレースを見る気も起きなかったから他人のレース中継なんて数えるほどしか見てなかったし、数少ない見たレースは大体あの会長サマが勝ってて面白みも何も……テイオーが聞いてたら怒るな、コレ。

 

 

 …その辺のことはさておき、スズカさんがまた海外に行くっていうタイミングでちょうどチームスピカに入った私は、もちろんしっかりと間近で一緒に走るのなんて初めてなんだけどさ……!!

 

 

「ふふっ。久しぶりだけど、やっぱり日本の風も気持ちいいわね」

「…………」

 

 楽しそうに走るスズカさんの声を聞いて心の中でため息をつく。

 

 ……何あの人、めちゃくちゃ速くない?

 

 

 〜〜〜

 

 

「……ふぅ、お疲れ様。ちょっと休憩したら戻ろっか」

「…………ん」

 

 

 スズカさんの一言を耳にしてゆっくりとペースを落とし、膝に手をつく。……大体30分くらい外を走ったと思うけど、キッツいなこれ。追走で手一杯……っていうか追走すら出来ずにじわじわ離されていく。私が番手追走が苦手だとか復帰直後だとかそんなの関係ないくらいの実力の差……普通の自動車でスポーツカーにスピード勝負を挑んでるくらいの理不尽なヤツを感じてるんだけど。

 んで、当の理不尽ことスズカさんは割とケロッとしてると。……やってられない、ちょっと寝転がるかぁ。

 

 

「……はぁ」

「あんまりため息つくと幸せ逃げちゃうらしいわよ?よいしょっと」

「ゴルシと同じこと言わないでよ、縁起でもない」

「ゴールドシップからの受け売りだもの」

「………」

 

 

 寝転がってる私の横で座って()()()()ドリンクを飲んでるスズカさんを尻目にぼんやりと空を見上げる。…もう、誰のせいだと…。

 

 

 走る前に確認した指示メールには、復帰後最初の練習ってことでまず1時間を目安に外周を走って、その後1本だけ本番想定の左回り1600mを測り、最後に軽くゲート練習をするって感じのことが書かれていた。

 

 …大方軽いランニングを時間をかけてやることでしっかり足を温めて、そこから走る感覚を戻していこうっていう狙いなのはわかるけど、その併走相手がこの人(スズカさん)なのはちょっと性格悪いよなぁ、トレーナーも。

 

 

 ちょっと考えればわかることだけど、私みたいなバ群に入れないウマ娘とスズカさんみたいな大逃げが出来るウマ娘との相性は ()  ()  ()  () 悪い。

 

 逃げる想定でゲートを最速で出たとして、そこは逃げ同士。まず間違いなくハナの取り合いになるけど、大逃げを戦術として使えるウマ娘は大体普通の逃げウマ娘よりもトップスピードになるまで速いし…何よりハナの取り合い自体私が不向きすぎる。理由は簡単、私の体が小さいから。

 

 フランスとかイギリスほどの激しいのは無いにせよ、ハナの取り合いやらポジションの奪い合いで体がぶつかり合うのは日本でも普通にあるわけで、そうなったときに145cmしかない私の体じゃそれこそスズカさんぐらいの体格でも普通に押し退けられる。

 ハナの取り合いに負けた逃げウマ娘に待ってるのは番手追走のあっぷあっぷの苦しいレース。どんどん不利になっていって、掛かる可能性が高いのは私自身がよく知ってる。

 

メルちゃーん?

「……」

 

 じゃあ逆に後ろで控えてればいいじゃん、ってなるんだけど、後ろに控えるにはペースが速すぎて脚がぜんっぜん溜まらないか、脚を溜めても届かないかの二択。春の天皇賞とか菊花賞みたいな長距離レースならペースが流れるかもしれないけど、その距離になってしまうと流石に私の距離の適正の外に出ちゃうしね。

 

 私の見立て…というか直感だと、私がちゃんと走れる距離はおおよそ2400mまで、もう1ハロン伸びて2600mってなるとギリギリ誤魔化せるか誤魔化せないかは体調次第かなって感じがする。

 日本で言えば有馬記念とか目黒記念、海外ならフランスの夏のレース、ドーヴィ(Grand Prix)ル大(de)賞典(Deauville)あたりの距離までならぎりぎりロス込みでも走りきれるはず。…ただこれも多分スズカさんの距離の適正と大分被ってそうなんだよねぇ。

 

 うーん、知人の中で1番勝てるビジョンが浮かばない。20回やって1回まぐれで先着できるかどうか…もっと低いかも「えいっ」でぃどんく(dis donc)!?えっ、私今何された…??

 

 

「もう、全然聞いてないんだから。……大丈夫?」

「…何が?」

「久しぶりのランニングで体の調子おかしくなったりしてない?」

「元々ケガの休養じゃなくて心房細動が出たからだし。大丈夫だから気にしないで」

 

 

 …弥生賞の時みたいな超ハイペースで走った時にどうなるかはわからないけど、少なくとも今は心房細動の兆候はない。少し耳の意識を体の内側に向ければとく、とく、とくってうるさいくらいに動いてるのがわかる。

 

 私の答えにスズカさんは納得がいっ……てない?あれ、私聞かれたことにちゃんと答えたよね?

 

 

「…えっと。私何かおかしいこと言った?」

「言ってないけど…メルちゃん、気づいてる?走ってる時ずっと…その、苦しそうっていうか、険しいっていうか…とにかく難しい顔してるの」

「……難しい顔?」

「選抜レースの時はそんな顔してなかったから、どうしたんだろって心配になっちゃった。…うーん」

 

 …むむむむ。

 

 スズカさんがこういうタイミングで突飛なこととか茶化したことを言うタイプじゃないのはそこそこ付き合いがあればわかる。…わかるからこそ、“難しい顔”っていうのがどんな顔のことを言ってるのか分かんないんだけど、どうすればいいんですかね。

 

 

だとしたら……だからトレーナーさんは私に…

「……スズカさん?」

「…あ、ごめんね?そろそろ行こっか、色々見たいからペースはメルちゃんに合わせるわ」

えっ……わかった」

 

 

 何かを納得したらしいスズカさんに倣って軽く足を伸ばして走る準備をする。本音を言うともうちょっと休憩したかったけど。……走りたそうにうずうずしてるスズカさんを見たら何も言えないよ、流石に。

 

 

「あ、最後の3ハロンだけ勝負してみよっか」

「……えっ?」

 

 …訂正。それならもう15分くらいは休憩したかったんですけど。

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 来た道を1ハロン20秒ペースでゆっくりと戻っているその道すがら。唐突にスズカさんが口を開いた。

 

「あ、そういえばメルちゃん」

「ん?」

「感謝祭のメイド服、見たわ」

「……えっ!?はぁ、なんで!?」

「トレーナーさんがLANEで送ってくれたわ、『今度帰ってくる時、メルクーリとちょっと併走頼むわ』って言葉と一緒に。ほら、マヤちゃんと一緒に映ってた写真」

 

 

 脳裏にアメを舐めながら『へへっ、悪りぃ悪りぃ』とかいってニヤけてるアメ舐めオジサンの顔がぼんやりと浮かぶ。……思ったよりイラッとくるな、あのヒトのニヤけ顔。

 

 …っていうかなんであの写真持ってんのさ、アレ持ってんの撮って送ってくれたネイチャさんか…あの場にいたテイオー、マックイーンさん…一緒に撮ったマヤノ………あー、ダメだ。思ったよりも送りそうな心当たりがありすぎる。帰ってから問い詰めてやらなきゃ。

 

 

「とりあえず記憶から消しといて、恥ずかしいし」

「ふふっ。…でも、安心したわ」

「……えっ?安心?」

「えぇ。ほら、メルちゃんってうるさい人とか騒がしい場所とか苦手じゃない?スピカって割といつも賑やかだしちゃんと馴染めるかな…ってちょっと心配してたの。私も海外に行くタイミングだったし」

「……あぁ、そういうこと」

 

 

 スズカさんの言うことに思わず頷く。…まぁ基本的に騒がしいよね、チームスピカは。マヤノもテイオーも基本ずっと元気だし、ゴルシは大体おかしいし、マックイーンさんはそれに大体巻き込まれてるし、スカーレットさんもウオッカさんも互いが絡むと急にうるさくなるし、スペさんはご飯が絡むと凄いし。んでおまけにトレーナーがアレ。むしろ騒がしくならない方がおかしい。

 

「…うーん」

 

 

 でも、まぁうん。それが嫌かと言われると、そうでもない自分は確かにいて。だから今もまだ残ってる…っていえばそうなのかもしれない。…つまり。

 

「……慣れたかな、大分」

「そっか。…じゃあメルちゃん、ちょっと前見てみて」

「…前?」

 

 スズカさんに促されるままに前を見る。前には大分大きくなってきたトレセン学園が……トレセン学園?

 

「気づいてた?実はトレセン学園までもう3ハロン切ってるのよ」

「えっ…あっ」

 

 さらっと言うなり一気に加速していくスズカさんに遅れること大体コンマ2秒。離れていく栗毛に追い縋ろうとしたけど…こりゃダメだ、トップスピードに入るまでが早くてどんどん離されてく。…やっぱり速いなぁ。そりゃあスペさんが憧れるワケだ。

 

 …にしても意識逸らし(トラッシュトーク)かぁ、そっかぁ。『色々見たい』ってそういう…。まぁ、ネタばらししてから加速してるあたり、普段全然やってないのが透けてる。

 

 普段は言語圏が違う所でしかも大逃げ打ってるだろうスズカさんのことだから、大方後ろでなんかやってるな…くらいの知識だったんだろうけど、私にはよく効くんだよね、この類のヤツ。

 

 …昔、ルゥの奴にたまにやられて膨れてたもんなぁ。

〜〜

『…ふぅっ!』

『…あ、メルちゃん、今日のディナーはにんじんソテーらしいよ』

『え、ホント!?』

『…うっそー、また引っかかった。耳が良すぎるのも良いことばっかりじゃないね…っと、私の勝ち!』

『ルゥちゃんずるい!そんなのあり!?」

『…んー、マナーはあんまり良くないけどね。やる子はやるし、特にメルちゃんは他の子よりも耳いいんだからこういうのも気をつけないと』

『……むぅーう』

『遊びでしか私もやらないからね?…でもこういうことをやる子がいるかもってことは覚えておいてね』

〜〜

 

 ……もしかしたら、ルゥが成長したら今のスズカさんみたいな感じだったのかな。そう思いながら悠々と先をいく栗毛の先輩を私は追いかけていった。

 

 




多忙多忙多忙ジェラルディーナジェラルディーナ多忙多忙ポケモン没稿サッカー多忙多忙没稿多忙ジェラルうわぁぁぁぁ年末年始!?!?

…お待たせしました、今年の目標は完結です。…去年も言ってなかったっけこれ。言ってたとしても忘れてください。

毎度のことですが、評価、お気に入り登録、感想等々いつもありがとうございます。誤字報告も助かります。
それでは次回もよろしくお願いします!

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