そのウマ娘が“白銀の突風”と呼ばれるまで   作:乃亞

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低気圧に完全敗北した乃亞ですどうも。やっぱり想定の時間に書きあがらなかったよ…鱗滝さん…サンダンガワルイ!


第4話 誰が為に:For whom

 ……うるさい。

ターフに立つ時いつも感じる、感じてしまう私の偽りのない想い。

 

トレーニングの時なら走る時の掛け声。

それにあわせたトレーナーの指示。

 

 これらの大きな声はもちろん、他の子が一気に加速するときの踏み込みの音や息継ぎの音、それにストップウォッチを操作する音みたいな小さな音までありとあらゆる音が耳に入ってくる。私の体調次第では近くにいるウマ娘の心臓の拍動の音まで聞こえてくるっていうだからやってられない。

 

これがレースの時になれば、それはもう最悪の一言に尽きる。

 

選手に歓声を送るファンの声。

スピーカーから流れる実況解説の人の声。

週刊誌や新聞のカメラのシャッター音。

 

 その他にもありとあらゆる音が加わり、私の耳に地鳴りや爆発のように殴り込んでくるからだ。

 そりゃもちろん、みんなが悪意を持ってこれらの音を立てているわけじゃないなんてのは分かってる。それでも私はこれらの音がどうしても"うるさい"と感じてしまうのだ。

 

『うるさい、静かにしてくれ、私に構わないで、私に好きに走らせろ!!』

 こう思い始めてから、どうしようもない私の歪み(ひずみ)は始まってしまったのかもしれない。

 

 

 …で、なんでこんなことをぼんやりと振り返っているかというと。

 

「…選抜レースってこんなに観客多かったっけ」

「……マヤハナニモシラナイヨ?」

「ボクモナニモシラナーイ」

 

 どうやら露骨に動揺し始めた2人をじっと見つめてみる。マヤノはあっちこっちに視線を散らして尻尾を激しく揺らしており、テイオーはこれでもかというくらいに小さくなって鳴りすらしない口笛を吹きはじめた。

 

「マヤノ、テイオー」

「「ひゃ、ひゃいっ!!」」

「私に隠し事してるよね?ちゃんと話してくれたら今なら許してあげるけど、どうする?」

「「…はい」」

 

 すっかり小さくなってしまった2人から話を聞くことには、どうやらマヤノとテイオーが配信で私が選抜レースで走ることを話したらそのアーカイブが奇妙な伸びをしたからそのせいかもとのこと。あとテイオーは自分のチームのトレーナーに私のことを話したらしく、そこからトレーナー間で広まったかもしれないらしい。

 

「ごめんねメルちゃん、こんなに話題になるとは思わなかったの!」

「…良いよ、正直に話してくれてありがとね。テイオーもそんなにちっちゃくならなくていいよ」

「…ホント?気にしてない?」

「気にしてないって言ったら嘘だけど大丈夫、怒ってないよ。観客が多くてもやることは変わらないしさ。それに…」

「「それに?」」

「2人は良かれと思ってやってくれたんでしょ?だったらその期待に応えてあげる。スタンドで応援しててくれると…その、嬉しいかなって」

「う…うん!頑張ってねメルちゃん!応援してるから!」

 

 そそくさと捌ける2人に手を振ってレースの準備をする。…多分2人は私のことを応援するためにやってくれたんだろう。例えレースが、そして走ることが嫌いだとしても。それでも彼女らがしてくれた期待に応えるくらいはしてもいいのかもしれない。

 

 

〜〜〜〜〜〜

 

 今日の選抜レースは芝の1600メートルで、いわゆるマイルと呼ばれる長さのレースになっている。スタートするとすぐ緩い下り坂になっていて、コーナー前で少し上ったらコーナーでまた下る。そして後半は上っていくという長さ以上のスタミナを要求されるコース…とさっきマヤノがくれたメモには書いていた。

 芝の状態も悪くない。走りやすい良バ場といって問題ないだろう。

 

「スバルメルクーリさん、出走の準備をしてください。8枠15番です」

「はい」

 

 教員からもらったゼッケンを付けてゲートの中に収まる。

…やっぱりレースは嫌いだ。本番の重賞なら観客は今の比にならないくらいに増えるし、相手のウマ娘の息遣いもうるさい。それでもマヤノとかテイオーとかみたいに素直に応援してくれる人の為なら…まだ走れるだろうか。走ろうと思えるのだろうか。

 

 全員の出走準備が整い、目の前のゲートが開かれた。それはつまり私のとても久しぶりのレースがスタートしたということだった。

 

 

〜〜〜〜〜〜

 

 チーム〈スピカ〉のトレーナーは出走明けのサイレンススズカとなんか付いてきたゴールドシップと一緒に選抜レースの行われるターフに来ていた。

 

「なぁートレーナー、なんで選抜レースなんか見にきたんだ?」

「いやぁそれがな、テイオーが見に行こ?って言うから来たんだが肝心のテイオーがいないんだが…」

「おっまたせぇー、トレーナー!こっちはマヤノで、見てほしいのはあの目立つ銀色の15番のゼッケンの子!スバルメルクーリって言うんだ!」

「ほう、スバルメルクーリって「メルちゃん?」…なんだ知ってるのかスズカ?」

「はい、たまにおしゃべりするくらいですけど…走ってるのは見たことないかも…?」

「ってかトレーナーこそ知らねぇのか?スバルメルクーリって言ったら授業にもトレーニングにも滅多に顔を出さないで有名なトレセン学園七不思議入り一歩手前の奴だろー?」

「でもねでもね!この前ボクとマヤノと一緒に併走トレーニングした時すっごく速かったし走ってて楽しかったからトレーナーにも見てほしいんだ!」

 

 チームメンバーからの情報に僅かに顔を曇らせながらも、トレーナーはストップウォッチに手を掛けた。




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