ウルトラムチャクチャエクストラハイパーハードボイルド   作:グリム・グリルグリン・グリーングリップ

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 ◇

 

 

 

 “世界は一冊の書物に至るために作られている”。ステファヌ・マラルメはかつてそんなことを言ったらしいが彼自身が己を神の被造物であると本当に疑っていなかったかどうかは実のところ判らない。だがこの一九世紀を生きたフランスの詩人の難解な思索は決して文字通り「この世界が本当は羊皮紙にインクで描かれた創作物だ」という意図を込めて発せられたわけではないのだろう。

 本気でそう信じる者は空想家(ドクトネリア)とわらわれるか偏執屋(パラノイア)の烙印を免れないであろうし仮に繰り返す日常のなかで隙間風のように疑問が浮かんだとしても次の瞬間には回り続ける時間の歯車に呑み込まれてすっかり忘れ去ってしまうのが世の常だ。いつまでもこの発想に固執するのは月に魅入られた者(ルナティック)と大差がなく救う手立ても同様に存在しない。

 

 つまりこの発想に囚われている俺はやはり狂っているということになるのだろう。いつからそうなのかと云うと俺はスタート時点(・・・・・・)から狂っていたということになる。神々の遊戯なのか運命が混線したのかは判らない。俺は俺が“俺”を自覚したとき以前のことを覚えていない。俺は四歳(・・)になったとき俺の大脳が俺という意識のパターンを形成し始めた瞬間からそうなるようプログラムされていたのかもしれないしもしかするとまっさら(・・・・)なはずの「俺」という器に根源の渦から“俺”が注がれたことで俺は狂ってしまったのかもしれない。だが俺は最初から狂気を信じるに足るだけの根拠を――“知識”を――“魂”に備えていた。俺の“肉体”に特別な“能力”が宿っていたのと同じように。

 

 俺は生まれながら(・・・・・・)に多くのことを識っていた。魔術。魔術回路。魔術師(ウィザード)魔術師(メイガス)。魔法。魔法使い。時計塔。アトラス院。聖堂教会。聖杯戦争。使い魔(サーヴァント)願望器(ムーンセル)岸波白野(・・・・)。この世界の過去のみならず未来に起こり得ることも知っていたしこの世界以外のことももちろん知っていた。

 俺は、しかも極めて優れた(・・・・・・)の性能を持つ遺伝子操作体(デザイナーベビー)だった。俺は“原作”との食い違いに戦慄し恐怖したことを今でも覚えている。“原作”での「俺」はすべての能力値が低い代わりに意志だけが超人的であるというハーウェイにとっては廃棄対象になるほどの失敗作だったはずだ、なのにこの俺は「SSS」評価? こんなのは“原作”には無かった! 混乱する俺の脳髄を掻き回し焦燥の峡谷に突き落とす衝撃。しかし“原作”に無いのはそれだけにとどまらなかった。俺はやがてこの世界の冗談みたいな“原作崩壊”っぷりを目の当たりにする。

 

 俺がその最初の洗礼を受けたのはまだ研究所で暮らしていたときだった。かつて俺は俺の身の回りには女しかおらずほとんど他の男を見たことが無かったので研究員に無邪気に訊ねたのだ。「俺以外の男はどこにいるのか」と。研究員の答えはこうだった。「かつて世界は大きな災害に見舞われ、その影響で男は生まれにくく(・・・・・・)なってしまった」。

 

 初めは冗談かと思ったがそれはどうやら本当らしかった。俺は“知識”を持つが故に尚更“原作”とのギャップで心をへし折られそうになり、しかも成長し知識を得るたびに襲い掛かる衝撃は俺を完璧にノックアウトさせようと容赦なく畳みかけてきた。

 “原作”に無かったはずの人型機動陸戦兵装(イグジストフレーム)。“原作”に無かったであろうはずの人類継続保障研究機構(・・・・・・・・・・)。なんでこんなに科学技術が進んでるんだ? 文明は停滞したんじゃなかったのか? グロテスクでサディスティックな非人道的楽園で繰り広げられるダーティな実験の数々。DFVウイルス完全適合体? 人工魔術師(デミ・ウィザード)計画? いったいなにがどうなってるんだよ?

 

 たぶん俺は周りから見れば無愛想で陰気でまるで「オーメン」に出てくるダミアンみたいな不気味な子供に映ったことだろう。幸いにも研究対象として唯一無二であり希少な「男性」である俺は迫害されたりすることはなかった(どころか恐れられてばかりだった)が振り返ってみればおかげで随分と精神を鍛えられたように思う。

 大事なのは受け入れることだ。俺はこの世界の厳しいルールを理解し適応し生き延びた。時として俺自身が混沌の加速に一役を買いながらもすくすくと成長し学習し、数多くの――本当に嫌になるくらいたくさんの――混沌的景観を乗り越えて“能力”の使い手に相応しい比類なき実力を手に入れた。残念ながら大きくなっても背はあまり伸びなかったが。

 

 そんな俺を悩ませている究極の問題が一つある。

 俺のなかにある“知識”。ある程度信頼の置ける情報源であるこの“知識”は「世界」の様々な事柄に及んでいて「俺」の運命についても言及している。

 それはこの世界の行く末を描いた“物語”だ。その“物語”において、「俺」はやがて「(ムーンセル)」という未知の場所に送り込まれる。

 そして死ぬ(・・・・・)。そこで、負けて死ぬ(・・・・・)。“知識”が本当であるのなら俺はこのままだと「月」から帰れない最期(うんめい)が約束されているのだ。

 

 俺は恐ろしかった。俺は「俺」のようになるのは真っ平ごめんだしそうならないためにどうする(・・・・)べきなのかも実は思いついている。だがそれ(・・)をすると「世界」がどう狂ってしまうのかが判らなかった。俺が生まれたときには「3:7」だった男女比は今では「2:8」にまで悪化しているし俺がそう(・・)する前から世界は滅びへと進んでいるがだからといって俺がもし本当にそう(・・)してしまえば「世界」は実際に滅びてしまうかもしれないのだ。

 

 俺は思いついて以来もうずっと、その考えに囚われ悩まされ続けている。“知識”をなぞるだけなら「世界」は救われるがその場合は俺は死を避けられない。それは自己犠牲を選ぶということだ。献身的行為に殉じるということだ。究極の選択。誰かを助けたのと引き換えに自らの死を運命として受け入れる行為は本人や周囲からすれば美談かもしれない。だが“舞台裏”の醒めた視点を得てしまうとどうしても人形遊びの延長にしか映らなくなる。今の俺のように。死はプログラムであり死者は運命の奴隷であり世界はインクで描かれた消耗品の創作物でしかないと思い知らされるような気分になる。俺は――そんなものにはなりたくない。そんなものは受け入れることはできないと強く叫ぶ。俺はプログラムでも奴隷でもインクで描かれた消耗品でもないからだ。俺は生きている。生きて、此処にいる。俺はこの世界に存在しているのだ。俺は人を殺しその報酬で家賃を支払い美味い飯を食い快適な睡眠を貪るし時には女を抱くこともある。なんのために? 生きるためだ。楽しく生きてゆくためだ。人らしい毎日を送り続けるためだ。こんな狂った世界でも俺はこの世界で生きていたいと心の底から強く願っている。たとえ俺が。たとえ主人公ではない、端役(エキストラ)なのだとしても。

 だからこそ。だとしても。俺は――

 

 まったく! ……こんなフォーティーン(・・・・・・・)みたいなことを悩んでいるなんて誰かに知られれば確実に笑いものになるだろうなと思う。エーデルワイスを知られた時とは比にならないレベルで。しかも俺は一時ではなくずっと考え続けているのだから馬鹿みたいだ。俺はまるで「世界」か「少女」かを選ばないといけないセカイ系の主人公みたいだ。“知識”を無視することも出来ないし肝心な最後の決心もつけられない。終盤になるまでうじうじと悩んでいる。面倒くさい奴だ。とはいえ当然かもしれない。まともじゃいられないんだから。俺にとっては生死に直結するあまりにも逼迫した切実な問題なのだから。狂っている? まあ仕方がないよね。シェイクスピアも言っている、「狂った今の世で/気が狂うなら/気は確かだ」。いやあれは黒澤映画だったか?

 どのみち全部が狂っているのだ。俺は狂っているし世界も狂ってしまっている。俺は俺が俺を手放さないと「世界」が滅びてしてしまう可能性をどうしても捨てきれないでいる。“知識”の正しさを知るが故に決めきれずにいる。誰かが否定してくれることを待つだけでは時間切れのゲームオーバーになるということもわかっている。だから俺は選択をしないといけない。いい加減に向き合わなければならない。自分の「役回り」と。己の「責任」と。だって“原作”とは程遠いこの「世界」は――

 

 たぶん、俺のせいで(・・・・・)狂ってしまったのだから(・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 2.

 

 

 

「―――」

 

 俺はそろそろ益体のない狂人の思考を捏ね繰り回すのをやめて仕事に意識を戻す。センサーが地表が近づいてきたことを告げている。

 俺は大きく深呼吸をする。ぎゅっと目を瞑りばっと目を開く。しゃんとする。オーケーだ。視界は明瞭。俺はパラシュートを開き減速段階に移る。

 林のなかに少し開けた場所が見える。熱源反応は無し。俺は完璧な操作でパラシュートを操縦し易々とタッチダウンを決める。何時間かぶりの地面に降り立つと背中の支援備品(ストライクスパック)の重量がどっと圧し掛かるが転倒するようなへま(・・)はせず、周囲を警戒しながら素早く支援備品(ストライクスパック)から装備一式を取り出して態勢を整える。

 デバイスに制御信号を打ち込むとマイクロマシンを織り込んだ筋膜のようなパラシュートが船が帆を広げるのを逆再生するように小さく折り畳まれてあっという間に収納される。ディスプレイには半径一〇〇メートル内に降下した味方の光点が表示されていて林の間からジェシーが現れ、次いでカレンとクリスカが合流する。

 

「行きましょう」

 

 目的地(ヘリオレイク)までの距離は此処から行軍して二時間以上かかる。夜明け前までに作戦を終え撤退しなければならないのでゆったり歓談する時間はない。

 俺たちは到達点を結ぶルートでなるべく人に利用された痕跡のない道を選んで移動する。必然的に道は険しいものになるが整備された街道は会敵の危険性が高くなるので迂闊には近づけない。もし地元民と遭遇してしまったら口封じするしかないので警戒しながら進む。突撃銃のスリングを肩に掛けてがちゃがちゃ(・・・・・・)言わせながら。昨日は雨が降ったせいで道が泥濘(ぬかる)んでいて脚を取られそうになる。だが俺たちはこれしきで動けなくなるほど軟な訓練は積んじゃいない。俺たちは疲れ知らずのプロフェッショナル。精鋭なのだから。

 

「よし……」

 

 そして俺たちは短時間のミッションだから荷物が少なく済んだのが功を奏し誰とも遭遇せずに予定よりも早く到着する。

 

隊長(January)

 

 人工灯が見えてくると斥候役(スカウト)のジェシーがコードネームで俺を呼ぶ。隣に並ぶと武装した州兵たちが規制線を張り軍用車で入口を封鎖しているのが見える。周りには通信眼鏡(フォングラス)を掛けた巡回兵と煤けた格好で地べたに座り込んでいる女や死体袋が瓦礫と共に転がっている。

 

 「マジェスティ」のビルヂングは工場施設に囲まれるように街の奥地に建っている。事情を話して通してもらえるならそれに越したことはないが現場指揮官を含めて州兵側には俺たちの存在は知らされていない。気づかれるのは失敗となる。排除か素通りか。幸い付近に騎兵(フレーム)の姿は無い。

 ジェシーが麻酔銃を構えるが俺はかぶりを振る。巡回兵が移動すると俺たちは警戒の薄い網の隙間を探しようやくヘリオレイクに入る。消火された泡塗れの給油所や飛散した硝子。跡形もない商家。倒された樹々。血の跡。経済や諸々を西欧財閥に完全に依存していた街に刻み込まれた惨劇の痕跡。それらを通り過ぎ、目標に近づくにつれ警戒度は高まり配備される騎兵(フレーム)の数も増えてゆく。いずれも第二世代機の量産型モデルばかりだ。中にはメンテナンス中らしい騎兵(フレーム)もある。開放状態のコックピットにはパイロットらしき女が座っていて整備員らしき人間に何か指示をしている。

 

「みんな、聞いていないってことはないと思うけど」

 

 ジェシーが威圧的に立ち並ぶ騎兵(フレーム)を見ながら言う。ぽつりとした声だが外殻電脳(スカルキャップ)が補正してくれるためくぐもることなくはっきりと聞き取れる。

 

騎兵(フレーム)のセキュリティシステムさえ攻略する魔術師(ウィザード)が相手なのに、第三世代機と比べてセキュリティが脆弱な第二世代モデルを寄こすっていうのはどうなんだろうね。むしろミサイルや迫撃砲を集中させたほうが効果はありそうだけど」

 

「そうですね」とカレンが言う。「少なくとも“上”には報告が行っているはずです。ただ、用意できるかどうかは別問題でしょう。それに騎兵(フレーム)に対抗できるのは騎兵(フレーム)しかないわけですし」

 

「それで敵に乗っ取られ、みすみす騎兵(フレーム)を差し出すことになっても、暢気でいられるのか」

 

 冷笑するクリスカを宥めるようにジェシーが言う。

 

「まあ、私たちにはどうしようもないか。私たちの仕事は彼女たちを助けることじゃないし……無情なんて世の常だもんね」

 

 クリスカは「ふん」と鼻を鳴らし再び黙ってしまう。ジェシーとカレンと俺は苦笑い。俺は前にクリスカが妹と一緒に歩いているのを見たことがあったがその時の態度とはまるで雲泥の差だ。でもクリスカは四人で組むようになってから最も新しいメンバーながら彼女が尖った態度を取ってもチームの空気が悪くならないくらいにはチームに受け入れられている。クリスカの“原作”での境遇を考えると事情もなんとなく推測できてしまうので俺も協調性の無さを常に咎めたりはしていない。

 

「そろそろだ」

 

 いよいよ支社が見えてくる。高さが八メートルはある分厚い(へい)で仕切られたロボティクス工場敷地内はまるで刑務所のような印象であり第二世代のずんぐりした騎兵(フレーム)と州兵が塀の内側に展開し待機している。非常に物々しい雰囲気。辺りには襲撃時にレジスタンスを迎撃しようとして破壊された私兵部隊の騎兵(フレーム)と思しき残骸が散らばっている。中央にはひときわ目立つ二棟の高層ビルが建ちそびえ西欧財閥のシンボルマークを掲げている。この東と西の高層ビルはミラーガラスであるらしく真夜中でも照明(ライト)を乱反射するせいで悪趣味な輝きを放っているが中の様子は窺えない。

 隠密行動中の俺たちはまさか正面から堂々と入るわけにもいかないので別ルートを探す。見取り図は入手済みなので何処なら監視カメラがないかなどの当たり(・・・)はつけてある。いったん入口から離れると俺たちは塀から遠すぎず監視の薄い場所を見つけて近づき手首に巻いてある骨太なバングルを晒す。部隊全員が装備している潜入用の特殊小道具を。

 

 カレン(July)、と俺が指示を出すと彼女は短く答え魔術回路(・・・・)を励起させる。

 地面に膝をつく姿は敬虔な信徒が祈りを捧げる姿にも似ている。実際は魔術師(ウィザード)さながらに「魂」を幽体離脱させ破壊工作を仕掛けているに過ぎないわけだが。

 

「……“卵”に接触」

 

 俺は命じる。「掻き混ぜろ」

 

 このとき街の反対側では街に輝きを供給する破壊を免れた電線がちかちか(・・・・)と火の粉を散らし始めている。いわんや魂を霊子変換(・・・・)したカレンが街の伝送路経由で発電所を過剰供給(オーバーロード)させたためだ。彼女の“補足距離”は俺を除くと部隊で一番長い。

 “ゼロ”――カレンが告げると電線は瞬く間に火花を噴いて燃え上り次々と停電が広がる。街の半分はあっという間に暗闇のなかに呑み込まれる。

 

料理完了(コンプリート)

 

 通信眼鏡(フォングラス)をした州兵が慌てているが二棟のビルは予備電源に切り替わり停電を逃れている。街が攻撃を受けた際ビルの機能が停止しないよう施設内の発電設備が補うのは承知の上だ。そして俺たちの狙いはビルを停電させることにはない。

 

クリスカ(December)

 

「こちらも完了した」

 

 慌てふためく州兵たちをよそに俺たちは塀に狙いを定め一斉にバングルを“起動”。

 バングルから勢いよく頑強なワイヤーが発射される。風が吹き始めているが先端に付いた金属片が真っ直ぐ塀の天辺に固定されたのを確認すると、俺たちは続けて巻き戻しながら地面を思い切り蹴り上げる。身体が猛スピードで持ち上がり宙を移動するのはクリストファー・ノーラン版のバットマンみたいだ。問題なく巻き取り終え飛び乗った俺の目と鼻の先では動体検知機能を無効化された監視カメラが赤く点滅している。とはいえクリスカが今しがた停電直後の映像をループするよう処理したため俺たちが記録に残る心配はない。

 

 堀の上で敷地内の様子を素早く窺う。正面から三〇メートル先には廃棄物運搬用のシャッターが見えている。州兵も配備されているがレジスタンスが立て籠もっていると思われる支社(ビルヂング)からは距離が離れているため数は少ない。

 予想通り手薄だった。恐らく財閥側からの情報がこの期に及んでもそうとう制限されているのだろう。彼らは設計図には載っていないとはいえ廃棄物運搬口が東棟ビルヂングの地下に繋がっていることに気づいていない。

 更にタイミングよく停電の騒ぎで州兵たちが遠ざかってゆく。口笛こそ吹かないが実に順調で重畳だ。通信眼鏡(フォングラス)をハッキングして偽の呼び出し指令を送らずに済む。

 

 俺たちは誰もいなくなったのを確認してワイヤーを伝い降りるとシャッターに近づく。

 シャッター入口には網膜と静脈情報を鍵とするセキュリティデバイスが取り付けられている。普通の侵入者にとっては厳重なロックだが俺たちにとってはそれほどでもない。シャッターは厚さ四センチの鉄製ということもあり電磁刀(テスラナイフ)で切断する方法もあるが俺たちにはもっと簡単な手がある。

 

「爆発物なし」

 

 突撃銃を構えるジェシーが赤外線でシャッターの向こうに危険がないことを知らせてくれる。

 

 俺は魔術回路を励起し魂を霊子変換して(・・・・・・・・・・・・・・・・)セキュリティデバイスの構築する電子空間(サイバースペース)に侵入する。

 

 認識(しかい)が切り替わると同時に俺の世界(しかい)は暗闇とは真逆の輝きに満ち溢れたものに変化する。

 

 一五×一五センチのセキュリティデバイス内に構築された電子空間そのものである情報塊(ソースコード)の集積体は、光り輝きながら「川」の流れのように絶えず震えているのが俺には見えている。

 俺は箱詰めされた「川」のなかに俺が俺の“指”と認識するものをそっと挿入する。俺の“指”が眩い粒子や糸に触れつぷり(・・・)と潜り込んだ瞬間に「川」は俺と繋がったことで俺の“指”と同化し、俺は“指”を動かすことで「川」を俺の意のままに動かせるようになっている。

 俺は光り輝く「川」の流れを掻き分けて塗り替えながら俺の意思を伝える。無理やり叩きつけるでもなく乱暴に言い聞かせるでもなく。やさしく指先で触れるように。なぞるだけでいい。

 

 なぞられた「川」が姿と流れを変え、俺は認識(しかい)を俺の身体に取り戻す。

 

 セキュリティは正常な手続き(・・・・・・)を経て解除されシャッターが独りでに持ち上がる。さあて本命だ、と思いながら俺たちは銃器を構えると鮮やかな銀行強盗のように中に押し入る。

 

 州兵たちが持ち場に戻ってきた頃にはシャッターは閉まっているため俺たちに気づくことはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 ◇ジェシー・ダントン
 ・西欧財閥の特殊作戦部隊に属する強化兵(ハイソルジャー)
 ・姉さん。
 ◆オリキャラ.


 ◇強化兵(ハイソルジャー)
 ・生来のもの(ナチュラル)ではない外科的処置によって身体機能を向上させた戦闘従事者。
 ・生体改造者や機械置換者、遺伝子操作体(デザイナーベビー)人工魔術師(デミ・ウィザード)なども含めた総称。
 ◆独自設定.


 ◇男女比
 ・“この世界”における世界人口の男女比率。
 ・一九七〇年代を境に男性出生率が減少し、2000年には3:7、現在は2:8にまで落ち込んでいる。
 ◆独自設定.















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