ウルトラムチャクチャエクストラハイパーハードボイルド 作:グリム・グリルグリン・グリーングリップ
3.
「マジェスティ」ヘリオレイク支部東棟に通じる地下通路の冷え切った空間に忙し気な足音が反響する。西欧財閥の
先を急ぐ俺たちの足音は緊張に隊列を乱すことはないが一方で俺の心はじゃっかん憂鬱に曇りかけている。というのも俺は侵入し始めたときから“違和感”を覚えていたのだがそれがいよいよ見過ごせない状況になっていたからだった。
「妙だね。静か過ぎる」
セキュリティをパスしとうとう東棟に潜入した段階になってジェシーが言う。
「人の気配がまるでない。どうなってんの……」
「
「どのエリアも依然
建物のネットワークにアクセスするべく探っていたカレンの声にも戸惑いが含まれている。
「まいったね。こんなのは初めてじゃない?」
俺もため息を吐きたくなる。どうにもさっきから気が落ち着かない。
通常の潜入任務なら支援部隊のハッカーが突入先を掌握してから潜入するのがセオリーだ。しかし「マジェスティ」ヘリオレイク支部は
まさか
だがどうして
「
クリスカが何かを発見する。東棟一階から二五階まで吹き抜け構造になっているフロアでひとまずレジスタンスたちの行動を探ろうとしている俺たちは頭上に穿たれた弾痕と床面に散らばった監視カメラの破片を見つける。
探索を進めると同じことが至る所で起こっている。無残に打ち砕かれ放置された監視カメラたち。
「ますます分かんないね。
レジスタンス側の行動の意図が読めない。建物を囲む州兵側に
しかしジェシーが言う通り建物には人の気配がまるで感じられない。職員は避難シェルターに逃げ込んだのだとしてもレジスタンスの一人さえ見当たらないのは流石におかしい。非常時に降りるはずの隔壁も解除されている。建物は非常に静かだ。静謐とすら呼べるかもしれない。人の消失した生活空間に破壊の痕跡だけが残されている。
しかし立ち止まっているわけもいかない。俺はチームを
西棟は東棟の地下通路から行けるため此処からは別行動になる。
「
「了解。そっちもカメラに気を付けてよ。見た目は
「お二人ともお気を付けて」
走り去るのを見送ると俺は隣の
「行くぞ
「了解……」
元気のない返事だが俺も人のことは言えない。俺たちは
「ここだ」
ついに俺たちは誰とも遭遇しないまま電脳制御室に辿り着く。赤外線で爆発物が仕掛けられていないのを確認し部屋の中を確かめる。巨大な熱源反応はあるが動きはなく鍵もかかっていない。
「
突入しようとしたところでジェシーから連絡が入る。
「まずいことになった」
まずいこと?
「悪い知らせ。警備指令室に辿り着いたんだけど……」ジェシーらしからぬ歯切れの悪い口調で言う。「職員の死体を発見した」
喜ぶのは不謹慎だが待っていた報告には違いない。一〇時間前に武装集団に襲撃された建物でようやく発見した人の遺体。だがまずいこと?
「死体にはレジスタンスも混じっている」
クリスカと顔を見合わせる。拭い難い不穏が裡から生じ蝕んでゆくのを感じる。
「職員と撃ち合ったとかそういう感じじゃない。レジスタンスは背中から撃たれている」
「仲間割れか」
「どうだろ? ただそれにしても死体の数が多すぎる。レジスタンス側の人数がどれだけかは判らないけど、ここで転がってる死体は二〇を超えてる。それに死後硬直が始まってかなりの時間が経っているみたい。今、
赤外線は電脳制御室の床に人らしき影が伏せているのを映し出している。だが人にしては体温が低すぎる。おいおいおいおいおいおいおい。まさか、と思いながら俺はクリスカとタイミングを合わせる。
三、二、一。
電子音。セキュリティが解除され圧縮空気の作用で扉が開く。
銃撃は来ない。俺たちは中に飛び込むと床に転がったものの正体を目にする。
「……
俺はため息を吐きながら告げる。
「同じく死体だ。生存者はいない」
広々とした部屋に男女を問わず銃殺された死体が転がり冷たくなっている。職員もいればレジスタンスも混じっている。破壊された物の合間を縫ってクリスカが死体に近づき状態を調べ始める。
「硬直の具合と死斑から考えて……死後八時間から一〇時間と言ったところだな」
検視のプロフェッショナルというわけじゃないから正確な時間は割り出せないがつまり早い段階で人質たちは殺害されていたということになる。レジスタンス側の公開した映像はフェイクということか。だが何故レジスタンスは仲間同士で殺し合ったんだ? 俺は劇場のように広い空間を見回す。演算装置と冷却装置の保護フレームのいくつかが変形している。銃撃戦の痕。抵抗した者たちの最後の無駄なあがき。
俺たちの目的。俺たちの狙いである標的。
静まり返った部屋の中で
レジスタンスが操作したと思しき痕跡を辿るうちに「マジェスティ」が開発中の新型「電池」の研究データや予算計画が見つかるがどれも企業秘密程度でありそこまで目を魅かれはしない。なるほど此処で製造された「電池」はあちらへ輸出されこんなかたちで軍事に転用され人を殺すんだな、とか西欧財閥ひいてはヘリオレイクがどれだけ戦商行為で儲けているのかが分かりやすく記録されているがそんなものはこの時代どこにでもありふれている。というかはっきり言ってありふれてい過ぎるくらいだし誰もが――紛争地帯からは遠く離れた先進国で誕生した生まれたての赤子でさえ――見えづらいというだけで本当は経済活動としての戦争業務の歯車に組み込まれているのだ。こんな
【全長三千キロメートルに及ぶフォトニック純結晶体】
【物質に頼る人類の文明とは形式が違いすぎるため言語体系/技術では理解できない
【神の遺した自動書記装置】
【ムーンセル・オートマトン】
「
なんだって
「
俺はいったん諦めると建物内の
ところが俺は
意識を戻した俺は、自分の聴覚にいきなり飛び込んできたさっきまで無かったはずの割れ響かんばかりのわらい声に振り返る。わらい声を辿ると床に転がっていた備品だと思われた箱からピエロのような小さな人形が
「
その箱が外部から持ち込まれ赤外線遮断素材で作られていたと気づく間もなく俺が飛び退くや、ピエロは子供のように高い音域の合成音声で絶叫する。
「 Wellcome to Hell !! 」
爆轟。
光と衝撃がかたちあるものを粉々に破壊する。
破壊の風が俺たちを呑み込む。
その間際に俺は“魔法”の呪文を唱えている。
「――【
◇カレン・ヘイワード。
・西欧財閥の特殊作戦部隊に属する
・作戦中はコンタクトレンズだが普段は眼鏡女子。
◆オリキャラ.
◇洗礼防壁
・
・中でも聖堂教会式の「洗礼防壁」は接触した霊体を「この世に有り得べからざる者」として滅却するため、一部の界隈からは非人道過ぎると指摘されている。
◆独自設定.
◆捕捉距離
・
・電子空間を経由した場合は飛躍的に伸びるが、現実空間では大幅に制限される。また
◆独自設定.