ありふれた職業と月香の狩人   作:黎殲神 祟

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またしても遅くなって申し訳ない、最近やる事ややりたい事が多い為、必然的に遅くなるかも知れませんが、御容赦願います。では、ホンへ


五話:死闘の後、化生達の語らい

サソリ擬きを狩人達は、サソリ擬きの素材やら肉やらをハジメの拠点に持ち帰った。その巨体と相まって物凄く苦労したのだが、最上級魔法の行使により疲弊していたユエにハジメが血を飲ませると瞬く間に回復し、見事な身体強化で怪力を発揮してくれた為、三人で比較的楽に運び込む事が出来た。アレの原理はリゲインか何かなのかは聞いてみなければ分からないが其れは後でも構わない為、狩人は黙々と作業を熟し、手早くハジメの拠点へと魔物の骸を運んで行った。

余談だがそのままサソリ擬きとの戦闘があった部屋をそのまま使おうと言うハジメの提案があったのだが、ユエが断固拒否した為、その案は没となった。

狩人としては問題無い様にも思えるが、彼女曰く、自らが何百年も封印されていた場所に新たに仲間が居るとは言え長期間滞在するのは精神衛生上よろしく無いとの事であった為、狩人は其れもそうかと得心したが、はて、数百年とな?と新たな疑問が生まれたのであった。

そう言った理由で現在ハジメ達は消耗品を調達しながら互いの事を話し合っていた。

 

「そうすると、ユエって少なくとも三百歳以上な訳か?」

「……マナー違反」

「ふむ……ユエ嬢は約三百年程前に滅んだ吸血姫の王族であったと……其れならば数百年幽閉されていた事にも納得できるな」

 

ユエが非難を込めたジト眼でハジメを見、その横で狩人は一人納得する。そして新たなる疑問を口にした。

 

「してユエ嬢、貴公は他者の生き血を啜る事で生きる活力を得る、つまりは“リゲイン”が使えるのかね?」

「……吸血鬼の力で相手の血を吸うと魔力を得る、リゲインは知らない」

「ふむ……リゲインは知らぬか、やはり我々狩人と吸血鬼では根本が違うのだな」

「……狩人って、なに?」

「狩人とは、私の様な者の総称を表す言葉で、獣狩りの夜に獣を狩る者達だ、我々には総じて血に起因した力を多く用いる物が多いのだ」

「……血に起因した力?」

「そうだ、我々は先ず、傷を受けたとしても短期間であれば敵の返り血で自らの生きる活力を得、そして狩った対象より血の遺志を継承し、血の遺志によって自らの力を高め、更に仮に必要な道具を買い求めるのに用いる」

「話だけ聞くと吸血鬼みたいだが、本当に根本から違うんだな」

「……ん」

「未だ幾つかあるのだが、脳に特殊な音を刻み、特殊な効果を付与するカレル文字や自らの血の質によって私が用いる水銀弾の威力を増す等の能力があり、更には輸血液を用いる事であらゆる傷も立ち所に癒やせる力もある」

「聞けば聞くほど良い事尽くめな連中じゃないか」

「此所までの話を聞くだけならば、な」

「どう言う事だ?」

「……?」

「狩人、延いてはヤーナムの民衆達もそうだったのだが、我々は

血の恩恵を得ると同時に病という名の呪いに罹ってしまうのだ、その名は獣の病という不治の病だ」

「……獣の病?」

「我々は血によって恩恵を得るものの、それは冒涜と殺戮の果てに齎された物、そんな代物が恩恵だけで済まされる筈が無いだろう、それ故にヤーナムの呪われた血の契約を交わした者は皆獣の病に罹患する。それは己の破壊衝動や殺人衝動等を抑えられなくなり、次第にその身が獣へと変質し、知性無き獣へと成り下がると言うものだ」

「それを……狩人が狩るってのか?」

「そう言う事だ、そして狩人の中には、その狩りと返り血、血の臭い、血の遺志に酔い痴れる者が現れた、其れ等を狩る狩人すら居たものだ、私も狩人狩りは幾度かやったが、皆獣の様な者ばかりだったよ。理性と言語を失い、何が獣で、何が同業かの区別すら付かなくなっていたよ」

「つまる所、お前もそうなる可能性すらあるって事か……」

「そう言う事だ、結局上位者になったとて、所詮は俗世に身を置く“元人間”如何足掻こうと獣性の影は見えて来るものだ」

「だが、あんたはそれと上手く付き合えてるって訳だ、未だ獣とやらになってない訳だしな」

「そうだな、だが結局の所私を含む狩人は何処か狂っているものだ、強き者との闘争、狩りを求め、世に蔓延る遍く上位者を狩り尽くす、上位者共によって齎される悪夢を終わらせる、その為に、前半は私の願望の様なものだがな」

 

そう言った話を聞きながら二人は自らを遙かに上回るであろう命其の物を冒涜した様なチートを前にハジメ達は少々引き気味であった。そして話は自然とユエへと移っていった。

狩人達の記憶では三百年前の大規模な戦争によって吸血鬼族は滅んだとされていた筈だ。実際ユエも永年物音一つしない暗闇に居た為時間の感覚は殆ど無いそうだが、其程経っていても可笑しくないと思える程には長い間封印されていたのだと言う。二十歳頃に封印されたと言う事から三百歳と少しと言った所だ。

 

「吸血鬼って、皆そんなに長生きするのか?」

「……私が特別。“再生”で歳も取らない……」

 

聞けば12最頃の時に魔力の直接操作や“自動再生”の固有魔法に目覚めてから歳を取っていないらしい。普通の吸血鬼も血を吸う事で他の種族より長く生きるらしいが、それでも二百年程度が限界だそうな。

因みに、人間族の平均寿命は七十歳、魔人族は百二十歳、亜人族は種族に依るらしい。

エルフの中には数百年生きている者も居るそうだ。

ユエは先祖返りであり力に目覚めてから僅か数年で当時最強の一角に数えられていたそうで、17歳の時に吸血鬼族の王位に就いたと言う。

あのサソリ擬きの甲殻を易く融解させる魔法をほぼノータイムで撃てるのだ。更に言えば狩人程では無いにしろほぼ不死身の肉体である。行き着く先は“神”か“化け物”か、この二択になるだろう。ユエの場合は後者だったと言う事だ。勿論、此に於いては完全な不死である狩人も言わずもがな、後者になるのだが。

欲に目が眩んだ叔父がユエを化け物として周囲に浸透させ、大義名分の下殺そうとしたが、“自動再生”により殺し切れず、やむを得ずあの地下に封印したのだと言う。ユエ自身、当時は突然の裏切りにショックを受け、碌に反撃もせず混乱したまま何らかの封印術を掛けられ、気が付けばあの部屋に居たらしい。

その為、あのサソリ擬きや封印の手段、如何にして奈落へ連れて来られたのか分からないそうだ。一縷の望みを掛けて狩人にも聞いてみたが、狩人も碌な確認もせずに取り敢えずで仕掛けを起動し、使った物は捨てた為、如何やって百層以降へ降りて来たのか覚えていない為、その事実にハジメは大いに肩を落とした。

ユエの能力についても話を聞いた。それによると、ユエは全属性に適性があるらしい。本当に「何だ、そのチートは……」と呆れるハジメであったが、ユエ曰く、接近戦は苦手らしく、一人だと身体強化で逃げ回りながら、或いは“自動再生”の再生力に任せてダメージを無視しながら魔法を連射するのが関の山だそうだ。尤も、その魔法が強力無比なのだから大したハンデ足り得ないのだが。

因みに、無詠唱で魔法を発動出来るそうなのだが、癖で魔法名だけは呟いてしまうらしい。魔法を補完するイメージを明確にする為に何らかの言動を加える者は少なくないが、その辺りはユエも該当する様だ。

“自動再生”については一種の固有魔法に分類出来るらしく、魔力が残存している間は一瞬で塵にでもされない限り死なないそうだ。逆に言えば魔力が枯渇した状態で受けた傷は傷は治らないと言う事だ。つまりあの時、永年の封印で魔力が枯渇していたユエは、サソリ擬きの攻撃を受ければ易く死んでいたと言う事だ。

 

「それで……肝心の話なんだが、ユエは此処がどの辺りか分かるか?他に地上への脱出口とか」

「……分からない。でも……」

 

ユエにも此処が迷宮のどの辺なのかは分からないらしい。申し訳なさそうにしながら、何か知っている事があるのか話を続ける。

 

「……この迷宮は反逆者の一人が作ったと言われてる」

「反逆者?」

「反逆者……それは何者なのだ?」

 

聞き慣れない上に何とも穏やかではない響きに、作業をしていた2人はユエに視線を転じる。ハジメの作業をジッと見ていたユエも合わせて視線を上げると、こくりと頷き続きを話し出した。

 

「反逆者……神代に神に挑んだ神の眷属の事。……世界を滅ぼそうとしたと伝わってる」

 

ユエは言葉の少ない無表情娘の為、説明には時間が掛かる。ハジメとしては、未だ未だ消耗品の補充に時間が掛かる上、サソリ擬きとの戦闘で攻撃力不足を痛感した事から新兵器の開発に乗り出している為、作業しながらじっくり聞く構えだ。一方の狩人は出来れば狩人の悪夢に存在する実験棟で血の遺志と肥大した脳だけの被験者達から狂人の智慧を収拾する為、夢に潜りたかったのだが、それは話の後でも大丈夫だろうとハジメ同様所持品の確認しながら話を聞く姿勢に入った。

ユエ曰く、神代にて神に反逆し、世界を滅ぼそうと画策した七人の眷属が居たらしい。しかし、その目論見は見破られ、彼等は世界の果てに逃走した。その果てと言うのが、現在の七大迷宮と言われているらしい。この【オルクス大迷宮】もその一つであり、奈落の底の最深部には反逆者の住まう場所があると言われているらしい。

狩人としては神に反逆した事は間違いでは無いと思っていた、神、もとい上位者共は何れも碌な物では無いからである、狩人からすれば神や上位者などは世界の汚物でしかないのだから。

 

「……そこなら、地上への道があるかも……」

「成る程。奈落の底からえっちらおっちら迷宮を上がって来るとは思えない。神代の魔法使いなら転移系の魔法で地上とのルートを作っておいても可笑しくないって事か」

「ふむ、それならば納得は出来よう、如何に反逆者とて、常に地底に籠もっていては気も滅入るだろう……地底人と呼ばれた狩人達は例外だが……」

「その地底人って奴等はどんな奴等なんだ?」

「……きになる」

 

今度はハジメとユエが狩人に視線を転じた。地底に住まうとすら言われた血晶石厳選の狩人、地底人と呼ばれた彼等の話は多少なりとも彼等の興味を惹いたらしい。尤も、地底人というフレーズにだろうが。

 

「地底人というのは、我等狩人の中でも異端の者達で、遙か古代に存在したトゥメル人の神々を埋葬したとされる聖杯ダンジョンと言う巨大な地下墓に潜る狩人達の事だ」

「地下墓?其処には何があるって言うんだ?」

「……お宝?」

「我々にとっては宝と言って差し支え無いだろう、彼処には神秘や、我々の武器を強化する事が出来る血晶石と言う特殊な血が固まった石が得られるのだ、尤も、アメンドーズというアメンボに似た姿の上位者を狩る必要が在る訳だが」

「ほぉ?つまりはお前達狩人にとってはお宝と言える代物が其処に眠ってて、それを狙ってずっと地底に引き籠もってる奴等が居るって事なのか」

「そう言う事だ、我々の武器で無くとも血晶石による強化は可能だとは思うが、それには非常に繊細で特殊な技術が必要となる」

「技術?どんなだ?」

「武器の何処かに最大で三つ、最低でも零個の血晶石を捻じ込む為の小さな孔が必要となる」

「それの何処が難しいんだ?」

「武器の威力や強度を一切落とさない、そう言った作り方を求められる所だな、私は一度も会う事は無かったが、この世界の様に魔法では無く、ハンドメイドでそう言った機構や変形機構を持つ仕掛け武器を作る工房の技師達には畏敬の念すら浮かばせずには居られない」

「錬成で作るにしても相当な技術が求められる訳か……血晶石ってのを捻じ込む孔に、更に変形機構か……確かにそれは厄介だな」

 

見えてきた可能性と浪漫溢れる武器、そして狩人達の持つ武器の性質を強化する特殊な石の話を聞き、頬が緩むハジメ。再び視線を手許に戻して作業に戻る。それに呼応する様にして狩人も輸血液や投げナイフ等の狩道具を広げ、使用数や装備の状態を確かめる。ユエの視線はハジメの手許へと戻り、じっと見つめる。

 

「……そんなに面白いか?」

 

口には出さずコクコクと頷くユエ。だぶだぶの外套を着て、袖先からちょこんと小さな指を覗かせ膝を抱える姿は何とも愛嬌がある。

尤も、狩人にはその様子など目に留まる事は無かったのだが。それもその筈で有る、道具を検閲しながらも狩人の脳内では、複数の言葉が廻って居たのである。

 

『聖血を得よ。祝福を望み、よく祈るのなら、拝領は与えられん

拝領は与えられん。密かなる聖血が、血の乾きだけが我らを満たし、また我らを鎮める。聖血を得よ。だが、人々は注意せよ。君たちは弱く、また幼い。冒涜の獣は蜜を囁き、深みから誘うだろう。だから、人々は注意せよ。君たちは弱く、また幼い。恐れを失くせば、誰一人君を嘆くことはない』

 

そんな言葉を言いながら、彼女は聖血によって病に罹患し、獣となった。

 

『…貴公、よい狩人だな。狩りに優れ、無慈悲で、血に酔っている。よい狩人だ。だからこそ、私は貴公を狩らねばならん!』

 

そう言った旧市街の唯一真面であっただろう古狩人は、狩の邪魔だと言う理由で私に狩られた。

 

『あなたに会えてよかった、さようならです。あなたに、血の加護がありますように。お互い、この街を清潔にいたしましょう…』

 

そう言った処刑隊の生き残りは、一度はカインハーストの女王を殺した後に呪いを抱えて自害した。

 

『あんた、あんまり、手を汚すんじゃあないよ。狩人狩りなど、あたしに任せておけばいいのさ…クククククッ』

 

共に狂気に堕ちた古狩人を狩った老いた女狩人は、千景を振るうカインハーストの血族《同胞》によって殺された。

 

『ごほっ、ごほっ、ごほっ、ごほっ…これは不治の病、一縷の望みでこの街を訪ね…怪しげな血に頼ってでも、今まで生き長らえたのです。もう、十分ですよ。むしろ、獣の病に罹らぬことを、感謝しています。せめて、人のまま死ねるのですから…』

 

そう言った優しき重病人は、儀式の秘匿が破れ、蒼褪せた血の空が現れて時に獣と化した。

 

『連盟とは、狩りの夜に蠢く汚物すべてを、根絶やしにするための協約さ。穢れた獣、気色悪いナメクジ、頭のイカれた医療者共、みんなうんざりじゃあないか。だからこそ、殺し尽くす。連盟の狩人がお前に協力するだろう』

 

そう言い私を連盟に引き入れた同志であり連盟の長は、私に連盟の長である証を渡し、姿を消した。

 

それ以外にも複数の人物の言葉が狩人の脳裏を過り、遂に狩人は病と冒涜、呪いの溢れる地へ、自らの力の根源と、智慧を手に入れる為に夢へと発つ為、二人に声を掛けた。

 

「ハジメ、ユエ嬢、取り込み中済まないが、私は私は一度夢へと戻り、暫し血の遺志と必要な物を得る為に走る事にする。又後で会おう」

「……ん、行ってらっしゃい」

「分かった、って言っても夢に戻るったって如何するんだ?」

「見ていれば分かるさ」

 

その言葉と共に狩人の姿は霧の様に静かにその場から消えていった。

 

「今まで急に彼奴が居なくなってた理由が分かったな……」

 

後にはハジメの静かな納得の声が残り、二人目の相棒も又、相当にヤバい奴なのだと悟ったのであった。

 

≪≪♢♢♢≫≫

 

ハジメがユエと出会い、狩人と合流してサソリ擬きとの死闘を生き抜いた日。

光輝達勇者一行は再び【オルクス大迷宮】にやって来ていた。但し、訪れているのは光輝達勇者パーティーと、檜山達子悪党組、それに永山重吾と言う大柄な柔道部の男子生徒が率いる男女五名のパーティーだけだった。

理由は簡単だ。話題には出さずとも、ハジメの死が多くの生徒達の心に深く重い影を落としてしまったのである。“戦いの果ての死”と言うものを強く実感させられてしまい、真面に戦闘など出来なくなったのである。一種の心的外傷後ストレス障害≪PTSD≫と言う物でものである。

当然、聖教教会関係者は良い顔をする筈も無く、実戦を繰り返し、時が経てば又戦えるだろうと、毎日のようにやんわり復帰を促してくる。

しかし、それに猛然と抗議申し立てた者が居た。愛子先生である。

愛子は、当時遠征には参加していなかった。作農師と言う特殊且つ超希少天職である為、協会側としては実戦訓練を行うより農地開拓に力を入れて欲しかったのである。愛子が居れば食料問題は解決する可能性が限り無く高いからだ。

そんな愛子はハジメの訃報を知るとショックの余り寝込んでしまった。自分が安全圏でのんびりして居る間に生徒が死んでしまったと言う事実に、全員を日本へ連れ帰る事が出来なくなったと言う事に、責任感の強い愛子はショックを受けたのだ。だからこそ、戦えないと言う生徒をこれ以上戦場に送り出す事など断じて許せなかった。

愛子の天職は、この世界の食糧事情を一変させる可能性が在る激レアである。その愛子が不退転の意志で生徒達への戦闘訓練の強制に抗議して居るのだ。関係の悪化を避けたい教会側は、愛子の抗議を受け入れた。

そして、愛子が狩人の行方を知るのは、暫く後の事である。

そんな話は捨て置き前者の話に戻り、愛子の結果、自ら戦闘訓練を望んだ勇者パーティーと子悪党組、永山重吾のパーティーのみが訓練を継続する事になった。そんな彼等は、再び訓練を兼ねて【オルクス大迷宮】に挑む事になったのだ。今回もメルド団長と数人の騎士団員が付き添っている。

今日で迷宮攻略六日目。

現在の階層は六十階層である。確認されている中では最高到達階層まで後五階層である。

しかし、光輝達は現在、立ち往生していた。正確には先へ行けないのでは無く、何時かの悪夢を思い出し、思わず立ち止まってしまったのである。

そう、彼等の目の前には何時かの物とは異なるが、同じ様な断崖絶壁が広がっていたのだ。次の階層へ行くには、崖に掛かった吊り橋を進まなければならない。それ自体は問題無いのだが、やはり思い出してしまうのだろう。特に、香織は奈落へと続いているかの様な崖下の闇をじっと見詰めたまま動かなかった。

 

「香織……」

 

雫の心配そうな呼び掛けに、強い眼差しで眼下を眺めていた香織はゆっくりと頭を振ると、雫に微笑んだ。

 

「大丈夫だよ、雫ちゃん」

「そう……無理しないでね?私に遠慮する事なんて無いんだから」

「えへへ、ありがと、雫ちゃん」

 

雫も又、親友に微笑んだ。香織の瞳は強い輝きを放っている。其処に逃避や絶望は見て取れない。洞察力に優れ、人の機微に敏感な雫には、香織が本心から大丈夫だと言っているのだと分かった。

 

(やっぱり、香織は強いわね)

 

ハジメの死はほぼ確定事項だ。その生存は絶望的と言うのも生温いりそれでも、逃避でも否定でも無く、自らの納得の為に前へ進もうとする香織に、雫は親友として誇らしい気持ちで一杯だった。

だが、そんな空気は読まないのが勇者式。光輝の目には、眼下を見詰める香織の姿が、ハジメの死を思い出し嘆いている様に映った。クラスメイトの死に、優しい香織は今も苦しんで居るのだと結論付けた。故に思い込みというフィルターが掛かり、微笑む木折の姿も無理している様にしか見えない。

そして、香織がハジメに恋慕の念を抱き、未だ生存の可能性を信じている等とは露程にも思っていない光輝は、度々、香織にズレた慰めの言葉を掛けてしまうのだ。

 

「香織……君の優しいところ、俺も好きだ。でも、クラスメイトの死に何時までも囚われていちゃいけない!前へ進むんだ。きっと、南雲もそれを望んでる」

「ちょっと、光輝……」

「雫は黙っていてくれ!例え厳しくても、幼馴染みである俺が言わないといけないんだ。……香織、大丈夫だ。俺が傍に居る。俺は死んだりしない。もう、誰も死なせはしない。香織を悲しませたりしないと約束するよ」

「はぁ~、何時もの暴走ね……香織……」

「あはは、大丈夫だよ、雫ちゃん。……えっと、光輝くんも言いたい事は分かったから大丈夫だよ」

「そうか、分かってくれたか!」

 

光輝の見当違い全開の言葉に、香織は苦笑いするしか無い。

恐らく、今の香織の気持ちを素直に話しても、光輝には伝わらないだろう。

光輝の中でハジメは既に死んだ事になっている。故に、香織の訓練への熱意や迷宮攻略の目的が、ハジメの生存を信じてのものとは考えられない。自分の信じたことを疑わず貫き通す性分は、そんな香織の気持ちも、現実逃避をしているか、心を病んでしまっていると解釈するだろう。

長い付き合い故に、光輝の思考パターンを何となく分かってしまう香織は、だからこそ何も言わずに会わせるのだった。

因みに、完全に口説いている様にしか思えない台詞だが、本人は居たって真面目に下心無く語っている。光輝の言動に慣れてしまっている雫と香織は、普通にスルーしているが、他の女子生徒ならば甘いマスクや雰囲気と相まって一発で落ちいるだろう。

普通、イケメンで性格も良く、文武両道と来れば、その幼馴染みの女子は惚れていそうなものだが、雫は小さな頃から実家の道場で大人の門下生と接していた事わ厳格な父の影響、そして天性の洞察力で、光輝の欠点とも言うべき正義感に気が付いていた事から、それに振り回される事も多く、幼馴染みとして以上の感情は抱いていなかった。尤も、他の者より大切である事に変わりは無いが。

香織は往来の恋愛鈍感スキルと雫から色々と聞かされていた為、光輝の言動にときめく事が出来ない。いい人だと思ってはいるし、幼馴染みとして大切にも思っているが恋愛感情に結びつく事は無かった。

 

「香織ちゃん、私、応援してるから、出来る事があったら言ってね」

「そうだよ~、鈴は何時でもカオリンの味方だからね!それに、狩人さんも南雲君の所に向かってるみたいだしね!」

「そうね、彼なら今頃南雲君の捜索の為に、百階層に拠点を作ってるんじゃ無いかしら?」

「そうだね、狩人さんならもう南雲くんを見付けられてるかも知れないし」

 

光輝との会話を傍で聞いていて、会話に参加したのは中村恵理と谷口鈴だ。

二人共、高校に入ってからではあるが、香織達の親友と言って差し支え無い程良い関係であり、光輝率いる勇者パーティーにも加わっている実力者だ。

中村恵理は眼鏡を着用し、髪型はナチュラルボブの黒髪の麗人である。性格は温和で大人しく、基本的に一歩引いた場所から全体を見渡す類いの人物である。本が好きであり、典型的な図書委員と形容して相違ない少女である。事実図書委員を務めていた。

谷口鈴は、身長百四十二センチと高校生と言うには非常に小柄な少女である。尤もその小さな身体には、何処に隠しているいるのか不思議に思う程に無尽蔵の元気が詰まっており、常に楽し気で、チョロリンと垂れたお下げ髪と共にぴょんぴょんと跳ねている。その姿は微笑ましく、クラスのマスコット的な存在である。

そんな二人も、ハジメが奈落に落ち日の香織の取り乱し様にその気持ちを悟り、香織の目的に賛同している。

 

「うん、恵理ちゃん、鈴ちゃん、ありがとう」

 

高校で出来た親友二人に、嬉し気に微笑む香織。

 

「うぅ~、カオリンは健気だねぇ~、南雲君め!鈴のカオリンをこんなに悲しませて!生きてなかったら鈴が殺っちゃうんだからね!」

「す、鈴?生きてなかったら、その、こ、殺せないと思うよ?」

「細かい事は良いの!そうだ!死んでたらエリリンの降霊術でカオリンに侍らせちゃえば良いんだよ!」

「す、鈴、デリカシー無いよ!香織ちゃんは、南雲君は生きてるって信じてるんだから!それに、私、降霊術は……」

 

恵理が暴走した鈴を諫める、此が鉄板である。

何時も通りの光景を見せる姦しい二人に楽しげな表情を見せる香織と雫。因みに、光輝達は少し離れた場所に居る為、聞こえていない。肝心な話や台詞は聞こえなくなる存在するだけデメリットでしか無い難聴スキルは当然の如く備わっている。

 

「恵理ちゃん、私は気にしてないから平気だよ?」

「鈴もそれくらいにしなさい。恵理が困ってるわよ?」

 

香織と雫の苦笑交じりの言葉に「むぅ~」と頬を膨らませる鈴。恵理は、香織が鈴の言葉を本気で気にしていない様子にホッとしながら、降霊術という言葉に顔を青褪めさせる。

 

「エリリン、やっぱり降霊術苦手?せっかくの天職なのに……」

「……うん、ごめんね。ちゃんと使えれば、もっと役に立てるのに……」

「恵理、誰にだって得手不得手はあるわ。魔法の適性だって高いんだから気にする事無いわよ?」

「そうだよ、恵理ちゃん。天職って言っても、その分野の才能があると言うだけで好き嫌いとは別なんだから。恵理ちゃんの魔法は的確で性格だから皆助かってるよ?」

「うん、でもやっぱり頑張って克服する。もっと、皆の役に立ちたいから」

 

恵理が小さく拳を握り、決意を表す。鈴はそんな様子に「その意気だよ、エリリン!」とぴょんぴょんと飛び跳ね、香織と雫は友人の頑張りに頬を緩める。

そして、彼女達はこの先に待ち構える因縁の敵の存在も、狩人がハジメと合流し、大迷宮、その百階層の先で行動している事も、今は知る由も無い。又何れ、相見える事になるのだから……




はい、非常に遅くなって誠に申し訳無い、そして次回も遅くなる知れませんが、狩人は更に強くなります。次回は狩人の強くなったステータスも乗せるつもりですので、楽しみにしていて下さい。

狩人の能力値、99のカンストを越えさせる?

  • 越えさせる
  • 越えさせない
  • 任せる
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