ありふれた職業と月香の狩人   作:黎殲神 祟

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はい、毎度待たせて申し訳ない。後今回血の遺志についての自己解釈が入る回になったので楽しんで貰えるか如何かは分かりません。只、最後まで読んでくれた同志達は神秘の導きに見える事だろう。本編を楽しんで頂こう。


七話:開戦と覚醒

「正に、深奥にて立ちはだかる者と言うに相応しい存在ではないか」

 

そんな言葉と共に狩人が静かに自らの獲物、“回転ノコギリ”を構えた。

同時に赤い紋様が刻まれた頭がカパッと口を開き火炎放射を放った。其れは最早、炎の壁と言うに相応しい規模である。ハジメとユエ、狩人は同時にその場を左右正面に分かれ、反撃を開始する。ハジメのドンナーが紅色のスパークを奔らせながら火を噴き、電磁加速された弾丸が超速で赤紋様の頭を狙い撃つ。弾丸は狙い違わず赤紋様の頭を吹き飛ばした。

次いで狩人は“回転ノコギリ”を変形させて槌鉾にし、左腕に嵌められた“大砲”に“脊髄の灰”を詰めると大きく跳躍し青紋様の頭を砲撃する。巨大な敵の相手をする際の常識、“灰大砲”による近距離弾は青紋様の脳を大きく揺らし、頭を地面に横たえさせる。その隙を見逃す狩人などでは無く、着地すると即座に前ステップし、貫手を青紋様の頭蓋に叩き込んだ。そうなってしまえば狩人を止められる者は居ない。白紋様の「クルゥアン!」と言う咆哮が聞こえるがそんな物は歯牙にすら掛ける事すら無く狩人は、青紋様の脳を破壊し、脳髄と脳其の物を辺りに撒き散らしながら右腕を振り抜いた。そして再びヒュドラに目を向けると、赤紋様が復活している事に気付き怪訝な表情を浮かべる。意外にも答えは直ぐに“念話”と言う形で舞い込んで来た。

 

『ユエ!狩人!あの白頭を狙うぞ!キリが無い!』

『んっ!』

『承知した』

 

念話によって(もたら)されたイメージによって白紋様が赤紋様を復活させた事を把握した狩人は再びヒュドラを見据え、“回転ノコギリ”を変形させる。

青紋様は未だ復活していないが何時白紋様が復活させても可笑しくは無い。要は“回転ノコギリ”、“ルドウイークの聖剣”、或いは“教会の石槌”や“爆発金槌”、“狩人の斧”で頭部に大ダメージを与えれば良い。後は内臓攻撃に依って脳を破壊すれば倒し切る事は可能なのだ。狩人はそう考え素早くヒュドラの懐に飛び込み、跳躍した。武器を手早く“教会の石槌”に切り替え、空中で身を捻り、振り抜く。閃光と燃える槍、石槌の重打が白紋様の頭に迫る。しかし、直撃するかと思われた其の瞬間、黄色の紋様を持つ頭がサッと射線に入りその頭を、まるでコブラの様に肥大化させた。そして淡く黄色に輝きハジメのレールガンもユエの“緋槍”も、狩人の石槌をもその身を以て受け止めてしまった。衝撃と爆煙の後には無傷であるが、余りにも大きな面衝撃を受けた所為か些かフラついている。

 

「ちっ!盾役か。攻撃に盾に回復にと実にバランスの良いことだな!」

「仕留め損ねたか……その隙に青のも回復された様だ……」

 

ハジメは頭上に向かって“焼夷手榴弾”を投げる。同時にドンナーの最大出力で白紋様の頭に連射した。ユエも合わせて“緋槍”を連発する。狩人は杭を射出形態にした“パイルハンマー(瞬間最高火力の鈍器)”を装備し、空中で身を捻る。

黄紋様の頭は、ハジメとユエ、狩人の攻撃を悉くを受け止める。だが、流石に今回ばかりは無傷とはいかなかった様で至る所に傷が付いていた。その中で最も目立つ傷が一つ、射出された杭による額の傷であった。

 

「クルゥアン!」

 

すかさず白紋様の頭が黄紋様の頭を回復させる。全く以て優秀な回復役である。メンシスのダミアーンより遙かに優秀な回復役だと心中で悪態を吐く。

しかし、その直後、白紋様の頭上で“焼夷手榴弾”が破裂した。摂氏三千度の燃え盛るタールが灼熱の雨となって撒き散らされる。白紋様の頭にも降り注ぎ、身を焼かれる苦痛に悲鳴を上げながら悶えて居る。

その隙を逃す程狩人は甘くは無い、一瞬ハジメに目を向けた直後に飛び上がり左手の武器を切り替え“ロスマリヌス(歌声と共にある神秘の霧)”を悶え苦しむ白紋様の頭に噴霧する。狩人の血が混じった水銀の霧(神秘の霧)を受けた白紋様の頭は|比較的高い血質と低くない神秘の霧《この世界に存在しない法則が故に耐性を持ち得ない攻撃》を受け、余計に悶える。

そして狩人が追い打ちの為に“ローゲリウスの車輪(素晴らしき超火力の自傷武器)”の素晴らしき本性を開放し、車輪を回そうと構えた所で、身を引き裂かれでもしたかの様な絶叫が響いた。

──ユエの声で。

 

「いやぁああああ!!!」

「!?ユエっ」

「ユエ嬢!何かあったのか!」

 

狩人が武器を“回転ノコギリ”に切り替え、変形させながら白紋様の頭の下顎部を蹴り飛ばして跳躍し、ハジメの妨害を行っている赤紋様、緑紋様の頭を抉り飛ばしながら飛び移り、地に足を着ける。そして即座に血弾補充を行い、秘儀、“加速の業”を発動させ、標的が自身に移っている事も気にせず斜め左右の姿が掻き消える程の高速ステップにより回避しながらユエの元へと向かう。その途中で銃声が聞こえ、ハジメがドンナーを発砲したのは分かったが状況が逼迫しているのには変わらないだろう。

銃声から数秒遅れて狩人がハジメとユエの元へと辿り着き、ユエの陥った状況、絶叫の原因に即座に思い至った。恐らく非常に軽度の発狂状態だろう。自身のとって最も恐ろしく感じる事象を既に吹き飛んだ黒紋様の頭に想起させられたのだろう。その程度で重度の発狂或いは発狂死には至りはしないがどの道発狂は精神が最も危うい状態である。早急に対処する必要が在るだろう。

その為には現状で最も邪魔な青紋様の頭を処理する必要がある。既にハジメがユエに覆い被さり、衝撃に備えている。状況は一刻を争うのだ、狩人は一切の考えを捨て本能のままに加速された前ステップで風刃や炎弾をすり抜る。5度程ステップを行った果てに大きく顎門を開いた青紋様の頭の前に辿り着き、ステップの勢いのままに身体を回転させ、回転ノコギリの引き金を引く。

 

 ────ギャリリリリリリリリッ────

 

と言うけたたましい音を立てながらステップから派生した回転の勢いが乗った回転ノコギリによる渾身の一撃が青紋様の頭の上顎部、その内側を勢い良く抉り取り、「ぬぅぅぅぅぅんっ!」と言う裂帛との気合いと共に全力で振り抜いた。青紋様の頭は二度目の脳破壊を経験し、再びその機能を停止し、ユエとハジメに届く事は無く。力無く狩人の前に無残な骸を晒す。

 

「ハジメ、大事無いか」

「あ、あぁ。悪い、助かった」

 

狩人の質問に答え、ハジメは狩人の手を取り立ち上がると共に懐から懐から“閃光手榴弾”と“音響手榴弾”をヒュドラに向かって投げる。

“音響手榴弾”は八十階層で見付けた超音波を発する魔物から採取した物である。体内に特殊な機関を有しており、音を以て攻撃して来る。この魔物を倒してもハジメの固有魔法は増えなかったが、代わりに特殊な器官が鉱物だった為音響手榴弾に加工したのだ。

二つの手榴弾が強烈な閃光と音波でヒュドラを怯ませる。その隙にハジメはユエを抱き上げ柱の陰に隠れた。

 

「おい!ユエ!しっかりしろ!」

「……」

 

狩人はハジメとユエが柱の陰に隠れると同時に身を翻しヒュドラと対峙する。血弾補充によって受けるダメージは莫迦になるものでは無い。だが、輸血液を使うにしてもダメージとしては微妙な所である。どの道“血の歓び(輸血液の代用)”のカレル刻んでいる為、内臓攻撃さえ決めてしまえば血弾補充分のダメージは帳消しに出来る。ならば、と狩人は武器を“ルドウイークの聖剣”に切り替え、その(聖剣の本体)に抜き身の刀身を収め、変形機構を起動させ、大剣へとその姿を変じさせ、ヒュドラと睨み合う。

睨み合いは五秒と続く事無く、先に動いたのは狩人だった。

静かに、尚且つ自然に歩む狩人の姿は夜の帳の様な黒衣に精緻な装飾の施された銀の大剣。その相反する姿は、いっそ彼其の物を月夜たらしめていた。だが、戦闘中にそんな光景が長く続く筈も無い。余りにも自然な歩み出しに反応が遅れたヒュドラだが、彼の歩みを止め、屠るべく水弾や火球、風刃を飛ばしてくる。

ヒュドラの攻撃が始まった瞬間、狩人は駆け出し、斜め左右のステップによりヒュドラを攪乱しながら一気に懐へと入り込み、聖剣を左下段に構え、大きく跳躍する。

ヒュドラの掃射の中、身動きの取りづらい空中にあって一発でも攻撃を受けるのは致命的な隙を生むのは自明の理、だが、リスクを負わなければ好機とは廻って来ない物である。全ては二人に標的が移らない為、自らを最も大きな脅威だと思わせる為に、狩人は態々危険を冒すのだ。そして狩人は、運が味方して標的に辿り着いた。

狩人は敢えて、白頭を狙うこと無く、黄色頭を狙う事にした。その狙いは当たり、さっきまで狙われる事の無かった黄紋様の頭は動かない、否、()()()()のだ。

 

───耐えられるものならば、耐えて見せろ───

 

喧騒の中にあって、不気味な程良く通る声で言い放たれた言葉と共に空中にあって尚衰える事の無い“ルドウイークの聖剣”による遠心力全開の重厚な一撃が黄紋様の頭、其の下顎部を襲い、その衝撃により脳振盪を引き起こし、黄紋様が地へと墜ちてゆく。其処にすかさず狩人の重力を最大限活かした振り下ろし(落下致命)を叩き込み、勢い良く黄紋様の頭を地に叩き付ける。

落下後、直ぐに体勢を立て直した狩人は黄紋様の頭から降り、身を引き絞り、狩人は勢い良く貫手を黄紋様の頭に叩き込み、脳を破壊しながらその血肉を打ち撒ける。

 

「さて……そろそろ頭部を様なリスクは負わずとも意識は此方に向くか……ならば私のやり方で狩りを進めさせて貰おう」

 

狩人は、機敏な動きでは無く、ゆっくりとヒュドラへと歩みを進める。その変化をヒュドラが気に留める事など無く、自分にとって現状最も大きな脅威を排除するべくより高密度の攻撃を開始する。だが、其れが狩人に命中する事などは無く、ゆったりとした歩みとステップによりその悉くのタイミングを外され、回避される。

“加速”には及ばずとも視界から消えるには十分に過ぎる速度をほぼ無いに等しい予備動作で行き成り行われる身からすれば対処のしようが無いのは致し方のない話だ。だが、彼は対応し易い行動を取る程優しい筈も無い、敵にとって最も大きなリスクを強いる戦法を取る。何より部屋の地形は狩人にとって最も得意である。平坦で尚且つ広く、程良く遮蔽物のある地形、それ故にこの地形に於いて最も有利に立ち回れるのは狩人なのだ、唯一の弱点と言えば敵は巨大であり、頭を狙うには隙の大きい空中に姿を晒ささなければならない、その一点のみである。

ヒュドラの攻撃を回避しながら最後のステップを踏み、そのまま最初に接地した右脚を軸に回転し、その遠心力を利用して回転ノコギリを袈裟懸けに振り下ろし、ヒュドラの胴、その一部を抉り取る。その後直ぐ様左右斜めにバックステップを踏み、錯乱と同時に離脱を行う。

───その直後。

 

「“緋槍”!“砲皇”!“凍雨”!」

 

柱の陰から飛び出したユエが、矢継ぎ早に魔法のトリガーを引く。通常では有り得ない速度で魔法が構築され、炎の槍と螺旋に渦巻く真空刃を伴う竜巻及び鋭い張りの様な氷の雨が一斉にヒュドラを襲う。

狩人に対する攻撃の直後を狙われ死に体(しにてい)の赤紋様の頭、青紋様の頭、緑紋様の頭の前に白紋様の頭によって復活した黄紋様が出ようとするが、ハジメと狩人が白紋様を狙っていると気が付いたのかその場を動かず、代わりに咆哮を上げる。

 

「クルゥアン!」

 

すると付近の柱が波打ち、変形して即席の盾となった。如何やらあの黄紋様の頭はサソリ擬きと同様の技が使える様だ。尤も、規模はサソリ擬きに軍配が上がる様だが。

ユエの魔法はその石壁に当たると先触れが壁を爆砕し、後続の魔法が三つの頭に直撃した。

 

「「「グルゥウウウウ!!!」」」

 

悲鳴を上げのた打つ三つの頭。黒紋様の頭が魔法を使った直後のユエを再びその眼に捉え、恐慌の魔法を行使する。

ユエの中に再び不安(恐れ)が湧き上がってくる。しかし、ユエはその不安に押し潰される前に先程のハジメからのキスを思い出した。すると、身体に熱が入った様に気持ちが高揚し、不安を押し流していった。

 

「……もう効かない!」

 

ユエはハジメと狩人を援護すべく、更に威力よりも手数を重視した魔法を次付きと構築し、弾幕の如く撃ち放つ。回復を受けた赤紋様、青紋様、緑紋様の頭がそれぞれ攻撃を再開するが、ユエがたった一人でその悉くを相殺し、隙あらば魔法を撃ち込む。

一方、ハジメと狩人はユエが三つ首の相手をしている間に、一気に接近する。狩人は、ハジメが無策で敵陣に突っ込む程馬鹿では無い事を知っている。それ故に何も聞かされていなくとも、ハジメに合わせ、確実に敵を仕留める為に行動する。

黒紋様の頭が、ユエに恐慌の魔法が効かないと悟った様で今度は狩人にその眼を向ける。狩人の脳が震え、ヤーナムでの狩りが脳内を巡る。

だが、次の瞬間には黒紋様の頭がのたうち回っていた。よく見れば瞳孔が散大している。まるで何かの狂気に侵された様な有様である。

 

────────!!!

 

軈て、大凡(おおよそ)生物が上げるものでは無い悲鳴を上げて顔中から血を噴き出して微動だにしなくなってしまった。恐らく、魔法を発動した際に狩人の記憶に干渉し、()()しまったのだろう。冒涜的(啓蒙的)な智慧、そして事象、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を。其れによって発狂死してしまった様だ。

 

───憐れなことだ

 

狩人は、誰にも聞こえない様な小さな声でそう呟いた。聞こえた所でその呟きを気にする者は誰も居ないだろう。其れも含めて憐れなものである。

白紋様の頭がすかさず回復させようとするが、その前に狩人が雷光ヤスリを用いて“回転ノコギリ”でヒュドラの足元を削り取り、その動きを鈍らせ、ハジメが“空力”と“縮地”で飛び上がり、背中に背負っていた対物ライフル──シュラーゲンを空中で脇に挟み、構えた。

黄紋様の頭が白紋様の頭を守る様に立ち塞がるが、そんな事は折り込み済みである。

 

「まとめて砕く!」

 

ハジメが“纏雷”を使いシュラーゲンが紅いスパークを起こす。弾丸はタウル鉱石をサソリ擬きの外殻であるシュタル鉱石でコーティングした地球で言うならばフルメタルジャケット(FMJ)である。シュタル鉱石はは魔力との親和性が高く、“纏雷”にもよく馴染む。通常弾の数倍の量を圧縮して詰められた燃焼粉が撃鉄の起こす火花に引火して大爆発を起こした。

ドガンッ!!

大砲でも撃ったかの様な凄まじい炸裂音と共にFMJの赤い弾丸が、更に一.五メートルのバレルにより電磁加速を加えられ発射された。その威力はドンナーの最大火力、その数倍である。戦艦の砲撃すら玩具に思える程の破壊力。異世界の特殊な鉱石と固有魔法があって初めて実現し得る怪物兵器なのだ。

発射の光景は宛ら(さながら)レーザー兵器の様。射出された周囲の空気を焼き焦がしながら黄紋様の頭に直撃した。

黄紋様の頭もしっかり“金剛”らしき防御魔法をしていたのだが……まるで何も無かったとでも言う様に弾丸は白紋様の頭に到達し、やはり何も無かったと言わんばかりに貫通し、背後の壁を爆砕した。階層全体が自信でも起こしたかの様に激しく振動する。

後に残ったのは、頭部が綺麗さっぱり消滅し、白熱化してドロリと融解した断面が見える二つの頭と、周囲の壁を四散させた壁の、何処までも続いている様な深い穴だけだった。

一度に半数の頭を消滅させられた残り三つの頭が思わずユエの相手を忘れ、呆然とハジメの方を見る。

ハジメはスタッと地面に着地し、煙を上げているシュラーゲンから薬莢を排莢する。チンッと薬莢が地面に落ちる音で我に返る三つの頭。ハジメに憎悪を込めた眼光を向けるが、彼等が相対している敵は目を離して良い相手ではなかった。

 

「“天灼”」

 

黄金の魔力を乱舞させる吸血姫。その天性の才を前に同族までもが恐れを成し、奈落に封印した存在。その力が己と敵対事への天罰だとでも言うかの様に降り注ぐ。

三つの頭の周囲に六つの放電する雷球が取り囲む様に空中を漂ったかと思うと、次の瞬間、それぞれの旧態が結び付く様に放電を互いに伸ばして繋がり、その中央に巨大な雷球を作り出した。

其れはまるで、雷で作り上げられたパルテノン神殿と天に輝く太陽、或いはストーンヘンジの上に昇る太陽が如き威容。

直後、雷の神殿(遺跡)と太陽は、鳴神の轟音と共に、其の秘された力を解放した。

ズガガガガガガガガガッ!!

中央の雷球が弾けると、六つの雷球で囲まれた範囲内に絶大な威力の雷撃を撒き散らした。三つの頭が逃げ出そうとするが、まるで壁でもあるかの様に雷球で囲まれた範囲を抜け出す事が出来ない。天より降り注ぐ神の怒りが如く、轟音と閃光が広大な空間を満たす。

そして、十秒以上続いた最上級魔法に為す術も無く三つの頭は断末魔の悲鳴を上げながら消し炭となった。

何時もの如くユエがペタリと座り込む。魔力枯渇で荒い息を吐きながら、無表情ではあるが満足げな光を宿し、ハジメに向けてサムズアップした。ハジメも頬を緩めながらサムズアップで返す。シュラーゲンを担ぎ直し、ヒュドラの僅かに残った胴体部分の残骸に背を向けユエの元へ行こうと歩き出した。

その直後、

 

「ハジメ!」

「走れ!」

 

ユエと狩人の切羽詰まった声が響き渡る。何事かとハジメがユエの視線を辿ると、其処には音も無く七つ目の頭が胴体部分から迫り上がり、ハジメを睥睨している光景があった。思わず硬直するハジメ。

直後、七つ目の銀色に輝く紋様を刻んだ頭は、ハジメからスッと視線を逸らすとユエをその鋭い眼光で射抜き、予備動作も無く極光を放った。先程のハジメのシュラーゲンもかくやという極光は瞬く間にユエに迫る。ユエは魔力枯渇で動けない。

ハジメと狩人は、銀紋様の頭が視線をユエに移した瞬間、全身を悪寒に襲われ即座に飛び出していた。

狩人も走り出したは良いが如何せん遠い、それ故に“加速”を発動していたとしても辿り着く頃にはハジメを救出出来るかすら怪しい。だが、可能性が在るのならば、()、其れも知人を救うのならば行動するのは当然だろう。狩人とは、元来獣から市井(しせい)の人々を守る者達なのだから。

極光がハジメを呑み込む直前、狩人はハジメの目の前に出る事に成功した。押し飛ばしたとしてももう遅い、ならばハジメの前で受ける外に無い。元より無謀は承知だったのだ、ハジメが致命傷を負えど、生きていれば其れで良い。狩人は不死なのだから。

極光が狩人とハジメを呑み込む。背後に居たユエも直撃こそしなかったものの余波により身体を強かに打ちのめされ吹き飛ばされた。

極光が収まり、ユエが全身に走る痛みに呻き声を上げながら身体を起こす。極光に呑まれる前にハジメと狩人が割って入った光景に焦りを浮かべながらその姿を捜す。

ハジメは最初に立ち塞がった場所から動いていなかった。仁王立ちしたしたまま全身から煙を噴き上げている。地面には融解したシュラーゲンの残骸が転がっていた。

狩人も又、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ハ、ハジメ?」

「……」

 

ハジメと狩人は答えない。そしてハジメはぐらりと揺れると前のめりに倒れ込んだ。

其れに続くように狩人も()()()()()()()()()()()()、膝から崩れ落ちた。

 

「ハジメ!狩人!」

 

ユエが焦燥に駆られるまま痛む身体を無視して駆け寄ろうとする。しかし、魔力枯渇で力が入らず転倒してしまった。もどかしい気持ちを押し殺して神水を取り出すと一気に飲み干す。少し活力が戻り、立ち上がってハジメ達の元へ今度こそ駆け寄った。

俯せに倒れ込むハジメの下からジワッと血が流れ出してくる。ハジメの“金剛”を突き抜けダメージを与えたのだろう。もし、ユエの“蒼天”にもある程度耐えたサソリ擬きの殻で作られたシュラーゲンを咄嗟に盾にしていなければ即死していたかも知れない。又、狩人が立ち塞がらなければより酷い傷になっていただろう。その狩人は既に、()()()()()()()()()()

仰向けにしたハジメの容態は酷いものだった。指、肩、脇腹が焼け爛れ、一部の骨が露出している。顔も右半分が焼けており右目からドクドクと血を流していた。角度的に脚への影響が少なかったのたは不幸中の幸いだろう。

ユエが急いで神水を飲ませようとするが、そんな時間を敵が与えてくれよう筈も無い。今度は直径十センチ程の光弾を無数に打ち出してきた。まるでヤーナム旧市街、灰狼の古狩人デュラによって齎されたガトリング掃射を彷彿とさせる激しさである。

ユエはハジメを抱えると、力を振り絞ってその場を離脱し柱の陰に隠れる。柱を削る様に光弾が次々と撃ち込まれていく。一分も保たないだろう。

 

≪≪♢♢♢≫≫

 

狩人は、夢に似た不思議なものを見ていた、元来狩人とは夢を見ない。自らが一度死んでいる事は知覚出来ている、だが、復活する様子は未だ無い、その様子を訝しんでいると不意に、この世界に来てから相手取っていた魔物の、其れも自らの力に変えてきた遺志が流れ込んでくる。遺志といっても、最早その残滓の様なもので、何時も力に変えている物とは違う、だが、既に自らの力となった物の使い方を教えられている様である。その様は一種の啓蒙に似ていて、狩人自身にも身に覚えの無い力であった。

ステータスプレートを確認しない所為もあるだろうが、自らが知覚しておらず、それ故に使う事すら無かった力。それが、狩人が死ぬ事によって主張しているのだろう。

狩人の業には他者の血の遺志を、自らの力に変える力が在る。それ故に上位者“月の魔物”を狩り、夢の世界を形成する力を得た。それと同様に、狩人は()()()()()()()()()()()()()()()を得ていたのだ。だが、狩人は魔力の扱いなど知る筈も無く、そんな有様では固有魔法など使用する事すら出来ないだろう、認識していなかったのならば尚更である。

だが何故だろうか、今ならば自らの身体を流れる魔力の流れが分かる、扱い方も理解出来る。そんな感覚と共に、狩人の意識は覚醒の為に浮上した。

自分が死んでからどれ程時間が経過しただろうか。そんな事を確認する術などこの地底には存在しない。だが、そう長くは死んでいない筈だ。

そう思いながら狩人は、未だ身体から噴き出る霧と共に立ち上がった。

 

「さて、行くとしよう。狩りは未だ、終わっていない」

 

一人そう呟き、自らが目覚めた階段を下り始めた。

その手には、今まで使わずにいた月光を握り締めて。

 

≪≪♢♢♢≫≫

 

狩人が目覚めてから少し経った頃、ユエの状況は、非常に良くないものだった。

余りにも密度の高い弾幕によって接近出来ず、ドンナーの射程へヒュドラを収める事が出来ずにいた。ユエが扱いの慣れないドンナーで攻撃を命中させるには、どうにか隙を探って接近する必要がある。しかし、光弾は容赦無くユエを襲い、いよいよ追い詰められる。

ユエは少しでも状況を打開しようと、苦し紛れではあるがドンナーの引き金を引いた。“纏雷”は使えないが雷系の魔法は使える為何とか電磁加速させる事が出来た。そして、ビギナーズラックと言うべきか弾丸は弾幕のスキマを縫う様に銀紋様の頭の顳顬(こめかみ)辺りに着弾した。

しかし

 

「えっ」

 

ユエは思わず声を漏らす。

不十分とは言え確かに電磁加速させたそれなりの威力を持った一撃だった筈なのに、銀紋様の頭は薄く傷が付いただけで大したダメージを受けた様子は無かった。

ユエの表情に絶望の影が差す。しかし、自分の敗北は即ちハジメの死を意味するのだ。狩人も命を落とし、今動けるのはユエだけなのだ。それ故に、ユエは歯を食い縛って再び回避に徹する事にした。

だが、そんなワンパターンが何時までも続く筈が無かった。銀紋様の頭の眼がギラリと光ると、二度目の極光が空間を軋ませながら撃ち放たれた。光弾の影響で回避ルートが限られていたユエは、自ら光弾に飛び込み吹き飛ばされることで、どうにか極光の齎す破滅から身を守る。

しかし、その代償として腹部に光弾を真面に喰らって地面に叩き付けられた。

 

「うぅ……うぅ……」

 

身体が動かない。直ぐさま動かなければ光弾に蹂躙される。分かっていて必死に藻掻くユエだが、身体は言う事を聞いてくれない。“自動再生”が遅いのだ。

ユエは何時しか涙を流していた。悔しくて悔しくて仕方が無いのだ。狩人はたったの一人で柱の陰に隠れる自分達を守ってくれたというのに。自分は狩人の守りにも報いられず、ハジメ一人守れないのかと。

銀紋様の頭が、倒れ伏すユエに勝利を確信した様に一度「クルゥアアン!」と叫ぶと、光弾を撃ち放った。

光弾がユエに迫る。ユエは眼を閉じない。せめて心は負けるものかとキッと銀紋様の頭を睨み付けた。

光弾が迫り視界が閃光に満たされる。直撃する。即ち───死。守れなかった事、先に逝くことを、ユエはハジメに心の中で謝罪しようとした。

刹那……一陣の風が吹いた。

 

「えっ?」

気が付けば、ユエは自分が抱き上げられ光弾が脇を通り過ぎていく光景を見ていた。そして、自分を支える人物を信じられない思いで見上げる。

それは、紛れもなくハジメだった。満身創痍のまま荒い息を吐き、片目をきつく閉じてユエを抱き締めている。

 

「泣くんじゃねぇよ、ユエ。お前の勝ちだ」

「ハジメ!」

 

ユエは感極まった様にハジメに抱き付く。怪我は殆ど治っていない。実際、ハジメは気力だけで立っているいる様なものだった。

ハジメは銀紋様の頭を見やる。周囲に光弾を浮かべながら余裕の表情で睥睨し、今更死に損ない如きに何が出来ると問答無用に光弾を放った。

 

「……遅ぇな」

 

ハジメはギリギリ迄動かず、光弾が直撃する寸前でふらりと倒れる様な動きで回避する。

銀紋様の頭の眼が細められ、無数の光弾が襲ってきた。だが、その光弾の間を抜ける様に()()()()()()()()()()()()()()が銀紋様の頭、その頸に命中する。

目立った外傷は無いにも拘わらず、ダメージは甚大な様でのたうち回り、「クルアアァアアアッ!?」と悲鳴を上げ、全ての光弾が消失した。

場を静寂が包む中、一人の()が声を上げた。

 

「貴公等、取り込み中に悪いが、私も仲間に入れて貰おうか」

 

その男とは、見た事も無い暗緑色に輝く大剣を担いだ狩人だった。




楽しんで読んで貰えただろうか。今回は狩人が遺志によって魔力や魔法の扱い方、等を習得する回になりました。これに関しては完全に自身の自己解釈です。楽しんでくれた方々、是非次回もお楽しみに。待ちに待った月光回!

狩人の能力値、99のカンストを越えさせる?

  • 越えさせる
  • 越えさせない
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