ありふれた職業と月香の狩人   作:黎殲神 祟

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アンケートの結果、狩人のブラッドレベルは各能力限界突破させます。神秘と体力は上げるか不明、筋力、技術、血質以外で上げて欲しいってステータスあったら教えて下さい。


八話:月光

見た事も無い暗緑色に輝く大剣を肩に担ぎ、狩人は部屋に入ってくる。その姿はまるで、()()を担ぐ英雄の様であるが、狩人の服装はその英雄像とは程遠い風貌である。だが、そんな服装であって尚、様になっていた。

軈て(やがて)、狩人はハジメの隣に立ち、正面からヒュドラに対峙する。

 

「済まないな、待たせてしまった」

「いや、俺も今起きた所だ」

「……生きてて良かった」

「しっかり死んでいたのだがな……」

 

そんな軽口を叩きながらヒュドラを見据える。もう決戦を始める準備は出来ている。後はユエの準備が終わればこの戦の趨勢が決するだろう。そんな折にハジメがユエに声を掛けた。

 

「ユエ、血を吸え」

 

静かな目、静かな声でユエを促す。ユエは、只でさえ血を失っているのに、と躊躇う。ハジメはユエをきつく抱き締め、首元へ持ち上げる。

 

「最後はお前の魔法が頼みの綱だ。……やるぞ、ユエ、狩人。俺達が勝つ!」

「……んっ!」

「無論だ」

 

ハジメの強烈な意志の宿った言葉に、ユエと狩人も又頷いた。

ハジメを信じて首元に牙を立てる。ハジメの力が流れ込んで来るかの様にユエの身体が急速に癒されていく。二人は流星群の如き光弾の嵐の中を抱き合いながらダンスを踊る様にくるくると動く。

狩人は静かに一歩、又一歩と歩みを進める。その歩みはまるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。事実、狩人は空中を歩いている。

狩人も又、奈落へと潜った際に蹴り兎とは対峙している。目の前に獣が居て狩らない狩人はヤーナムには灰狼の狩人(デュラ)を除いて一人も居ない、とは言え狩人は直接魔物を喰らっている訳では無い為、倒した全ての魔物から固有魔法を継承している訳では無く、その内一部の魔物から固有魔法を継承している。それ故に狩人の持つ固有魔法はハジメと比べれば非常に少ない。だが、狩人にとっては其の数少ない固有魔法は、非常に役立つ代物ばかりであった。

代表例として挙げるのならば“天歩”から派生している“空力”によって狩人は今、空中を歩いているのだ。其れによって狩人は地上だけで無く、空中にも足場がある状態であり、普段通りの戦闘を行えている。

そして狩人は、()()()()()()()()()()()()()()でステップを踏み、銀紋様の頭の光弾を回避し、一気に距離を詰めた。そして、突きと共に“月光の奔流”を放ち、銀紋様の頭を弾き飛ばす。

狩人に宿る神秘の力では、月光の聖剣で対象に大したダメージを出す事は出来ない。だが、この世界には、神秘に対する耐性や防御手段を持つ存在は居ない為、この世界に於いて月光とはヤーナムで扱うより強力な武器となる。

尤も、神秘に対する適性が現状かなり低い状態の狩人が振るう月光は、そこまで大きな火力は望めないだろう。

だが、ハジメも決着へ向け牽制と共に等間隔で天井に銃弾で穴を空けている。ならば狩人も可能な限り牽制しなければならないと月光を頭上に掲げる。ルドウイークに及ばずとも、()()()()()()()を放つ事は出来る。

 

「見せてやろう、()()()()()を。尤も、ルドウイーク卿には遠く及ばんがな」

 

狩人は腰を深く落とし、より一層強く輝く“月光の聖剣”を顔の横に構えて一気に振り下ろした。狩人の足元から頭上まで至る高さの“月光の光波”、其れは正にルドウイークの用いる中で最も大きな威力を持つ大技であり、()()()()()()()()()()、“月光の大光波”である。

狩人の放った“月光の大光波”に呑み込まれた銀紋様の頭は、余りの威力と衝撃、轟音に悲鳴すら掻き消された。

 

「やったか?」

「いや、未だだ。私の神秘では仕留め切れんだろう。」

「なら、如何するんだ?」

「私が全力を以て奴の気を引こう。その間に貴公は下準備を整えてくれ」

「了解」

 

その言葉通り、大光波の光が収まった後には、傷だらけではあるが未だ健在の銀紋様の頭が怒りと憎悪の籠もった双眸で狩人を睨み付ける。

当の狩人はと言えば、“月光の聖剣”を肩に担ぎ、静かに銀紋様の頭を見据える。

 

「クルゥァァン!」

 

銀紋様の頭が極光を放つため、溜と共にブレス特有の予備動作を行う。狩人は1度天井を見てマスクの下で歯を剥き、口角を上げた。

狩人を再び消し炭に変えんと極光を放ち、瞬く間に狩人へと急迫する。予備動作で頭を上げていた銀紋様の頭は、狩人が構えていた事に気付く事は無かった。

 

「悪いが、貴様は()()()()の様だ」

 

そう言い、狩人は極光へ向け“月光の光波”を放ち、極光を断ち切ると共に銀紋様の頭の鼻先に鋭い傷を付け、痛みに悶える。

直後。

六発の銃声が鳴り響き。天井に強烈な爆発と衝撃が発生し、一瞬の静寂の後、一気に崩壊を始めた。その範囲は直径十メートル、重さ数十トンにも及ぶ大質量が崩落し、直下の銀紋様の頭に降り注ぐ。

 

「クルァアアッ!?」

 

驚愕と焦燥を滲ませた叫びを上げる銀紋様の頭だったが、タイミングは完璧。技後硬直、其れも痛みに悶えている瞬間を狙われ、最早回避行動など取ることも出来ず、そのまま押し潰されてしまった。

ハジメは、狩人が銀紋様の頭の気を引いている間、天井に穴を空け、流れ弾を躱しながら手榴弾を仕込みつつ、大光波を見た際に一度手を止めてしまったが、錬成で天井の各部位を脆くしておいたのである。そして、六箇所をほぼ同時に撃ち抜き爆破した。

ハジメと狩人は攻撃の手を緩める事は無い。幾ら満身創痍とは言えど只の質量で倒せるのならば誰も苦労などしないだろう。天井の瓦礫に押し潰され身動きが取れない銀紋様の頭に、“縮地”で一気に接近し、崩落した岩盤の上を駆け回りながら錬成を行い、そのまま拘束具に変え、同時に銀紋様の頭の周囲を囲み、即席の溶鉱炉を作り出した。

そして、その場を離脱しながら“焼夷手榴弾”等が入ったポーチを、丸ごと溶鉱炉の中に放り込み、叫ぶ。

狩人も又、火炎瓶を三つ程同時に投げ込む。

 

「ユエ!」

「んっ!──“蒼天”!」

 

蒼く燃え盛る太陽が即席の溶鉱炉の中に出現し、身動きの取れない銀紋様の頭を煉獄の中へと叩き込む。中に放り込まれた爆薬の類いも連鎖的に爆発し、その防御力を突破して銀紋様の頭に少なくないダメージを与えていった。

そんな中、狩人が徐に溶鉱炉へと近付き、徐に火炎瓶を投げ込む。瓶から解き放たれた炎は、銀紋様の頭の剥き出しとなった肉を焼き、確実にその体力を削る。

 

「グゥルアアアア!!!」

 

銀紋様の頭が断末魔の絶叫を上げ、なんとか逃げ出そうと暴れ、光弾を乱れ撃つ。壁が打ち崩されるが、ハジメが錬成で片っ端から修復していくので逃げ出せない。その上狩人が光弾の流れ弾を“月光の聖剣”で斬り、ユエを防衛していて術者を止める事も出来ない。その衣服は、何時の間にか“処刑隊の装束”を纏い、特に意味は無いが、“金のアルデオ”を被っていた。極光も撃ったばかりであり直ぐには撃てず、銀紋様の頭は為す術無く蒼炎の煉獄に放り込まれた咎人が如く、高熱に溶かされ消滅していった。

感知系技能からヒュドラの反応が消える。漸くヒュドラの死を認識した狩人は、血振りの要領で“月光の聖剣”を振り、神秘の光を霧散させる。

其れと同時に、ハジメが盛大にぶっ倒れた。

 

「ハジメ!」

「大丈夫か!」

 

狩人が直ぐ様ハジメの許へと走り、ユエが慌ててハジメの許へ行こうと力の入らない身体に鞭を打ち、這いずる。

 

「流石に……もうムリ……」

 

なんとかハジメの許へと辿り着いたユエが抱き付いてくる感触を感じながら、ハジメはゆっくりと意識を手放した。

 

≪≪♢♢♢≫≫

 

時は少し遡る。

ヒュドラとの死闘を制しハジメが倒れた頃、勇者一行は、一時迷宮攻略を中断してハイリヒ王国王都に戻っていた。

マッピングが為されていない階層の地道な探索や、魔物の強さの上昇等からメンバーの疲労が激しく、一度中断して休養をとるべきと言う理由もあったが、一番の理由は王都から迎えが来たからである。何でも、今まで音沙汰の無かったヘルシャー帝国から勇者一行へ会談の申し込みが為されたのだ。

光輝達の脳裏に「何故、今?」と言う疑問符が浮かんだのは当然の事だろう。

勇者召喚の際、同盟国である帝国の人間が居合わせなかったのは、エヒト神による“神託”と召喚までの間が殆ど無く、報せが間に合わなかったからなのだが……仮に勇者召喚の報せがあったところで、帝国は動かなかっただろう。何故なら、帝国は三百年前に名を馳せたとある傭兵が興した国であり、冒険者や傭兵の聖地とも言うべき完全実力至上主義の国だからである。

突然現れ、人間族を率いる勇者と言われたところで、到底納得出来る様なものでは無いだろう。聖教教会は帝国にもあり、帝国民とて例外では無く信徒ではあるが、王国民に比べてしまえば信仰の度合いは低い。大多数の民が傭兵か傭兵業から成り上がった者で占められている事から信仰よりも実益を求める者が多いのだ。尤も、あくまでどちらかと言えばの話であり、熱心な信者あると言う事に変わりは無い。

そう言った訳で、召喚されたばかりの頃の光輝達と顔合わせをした所で内心で軽んじられる可能性があり、国王が顔合わせを引き延ばすのを幸いに、帝国側、特に皇帝陛下は興味を持っていなかった為、今まで関わる事が無かったのだ。

しかし、今回の【オルクス大迷宮】攻略に際し、歴史上の最高記録である六十五階層が突破されたという事実を以て帝国側も光輝達に興味を持つに至った。そんな折、帝国側から是非会ってみたいと言う報せが来たのだ。それに対し、王国側も聖教教会も、良い時期だと了承したのである。

その様な話を馬車の中で熟々(つらつら)と教えられながら光輝達は王宮に到着した。

馬車が王宮に入り、全員が降車すると王宮の方から一人の少年が駆けてけ来るのが見えた。齢十歳位の金髪碧眼の美少年である。光輝と似た雰囲気を持つが、ずっとやんちゃそうだ。

その正体は、ハイリヒ王国王子、ランデル・S・B・ハイリヒである。

ランデル殿下は、思わず犬耳とブンブンと振られた尻尾を幻視してしまいそうな雰囲気で駆け寄って来ると大声で叫んだ。

 

「香織!よく帰った!待ちわびたぞ!」

 

勿論、この場には香織だけで無く他にも帰還を果たした生徒達が勢揃いしている。その中で、香織以外見えないと言う様子のランデル殿下の態度を見ればどう言う感情を抱いているかは想像に難くない。

実は、召喚された翌日から、ランデル殿下は香織に猛アプローチを掛けていた。とは言え、彼は十歳。香織から見れば小さな子供に懐かれている程度の認識であり、その想いが実る気配は微塵も無い。生来の面倒見の良さから弟の様に可愛く思ってはいる様だが。

 

「ランデル殿下。お久しぶりです」

 

パタパタと振られる尻尾を幻視しながら微笑む香織。そんな香織の笑みに一瞬で顔を真っ赤にしたランデル殿下は、其れでも精一杯男らしい表情(かお)を作り、香織を口説きに掛かった。

 

「ああ、本当に久し振りだな。お前が迷宮に行っている間は生きた心地がしなかったぞ。怪我はしてないか?余がもっと強ければ、お前に事はさせたいと言うのに……」

 

ランデル殿下は悔しそうに唇を嚙む。香織としては守られるだけなどお断りであるのだが、少年の微笑ましい心意気に思わず頬が緩む。

 

「お気遣い下さり有難うございます。ですが、私なら大丈夫ですよ?自分で望んでやっていることですから」

「いや、香織に戦いは似合わない。そ、その、ほら、もっとこう安全な仕事もあるだろう?」

「安全な仕事ですか?」

 

ランデル殿下の言葉に首を傾げる香織。ランデル殿下の顔は更に赤みを増す。隣で面白そうに成り行きを見ている雫は察しが付いて、少年の健気なアプローチに思わず微笑みを浮かべると同時に、脳裏に今の光景を見た狩人が呆れながら単刀直入に「諦めろ」とランデル殿下を宥めている光景を幻視し、更に笑みを深める。

 

「う、うむ。例えば、侍女などどうだ?その、今なら余の専属にしてやってもよいぞ」

「侍女ですか?いえ、すみません。私は治癒師ですから」

「な、なら医療院に入ればいい。迷宮なんて危険な場所や前線になど行く必要はないだろう?」

 

医療院とは、国営の、王宮の直ぐ傍にある病院の事である。要するに、ランデル殿下は香織と離れるのが嫌なだけなのだ。しかし、そんな少年の気持ちは自らの想い人以外に対しては非常に鈍感な香織には届く事は無い。

 

「いえ、前線でなければ直ぐには癒やせませんから。心配して下さり有難うございます」

「うぅ」

 

ランデル殿下は、如何在っても香織の気持ちを動かす事が出来ないと悟り小さく唸る。其処へ空気を読む事を知らない善意の地雷人間、勇者光輝が和やか(にこやか)に参戦する。

 

「ランデル殿下、香織は俺の大切な幼馴染みです。俺が居る限り、絶対に守り抜きますよ」

 

光輝としては、年下を安心させるつもりで善意全開に言ったつもりなのだが、この場に於いては不適切な発言だった。恋する殿下にはこう意訳される。

“俺の女に手ぇ出してんじゃねぇよ。俺が居る限り香織は誰にも渡さねぇ!絶対にな!”と

親しげに寄り添う勇者と治癒師、実に絵になる。

ランデル殿下は悔しげに表情を歪めると、不倶戴天の敵を見る様にキッと光輝を睨んだ。ランデル殿下の中では恋人の様に見えているのである。

 

「香織を危険な場所に行かせて置いて、その事を何とも思っていないお前が何を言う!絶対に負けぬぞ!香織は余と居る方がいいに決まっているのだからな」

「え~と……」

 

この王子も又、中々にキマっている様である、最早此が、若気の至りである事を祈りたくなる程に。

そんなランデル殿下の敵意剥き出しの言葉に、香織は如何したものかと苦笑いを浮かべ、光輝はキョトンとしている。雫はそんな光輝を見て溜息を一つ吐くのだった。

ガルルと唸るランデル殿下に何か機嫌を損ねる事をしてしまったのかと、光輝が更に煽りそうな台詞が口を付いて出る前に、涼やかだが、少し厳しさを含んだ声が響いた。

 

「ランデル。いい加減にしなさい。香織が困っているでしょう?光輝さんにもご迷惑ですよ」

「あ、姉上!?……し、しかし」

「しかしではありません。皆さんお疲れなのに、来んな場所に引き止めて……相手のことを考えていないのは誰ですか?」

「うっ……で、ですが……」

「ランデル?」

「よ、用事を思い出しました!失礼します!」

 

ランデル殿下は如何しても自分の非を認めたくなかった様で、行き成り踵を返し、駆けていってしまった。その背を見送りながら、王女リリアーナは溜息を吐く。雫と言いリリアーナと言い、溜息の多い二人である。問題児二人を抱えた二人には、同情の念しか無い、狩人であればその光景を前に、二人の肩に手を置き、首を横に振っていた事だろう。

 

「香織、光輝さん、弟が失礼しました。代わってお詫び致しますわ」

 

リリアーナはそう言って頭を下げた。美しいストレートの金髪がさらりと流れる。

 

「ううん、気にしてないよ、リリィ。ランデル殿下は気を遣ってくれただけだよ」

「そうだな。なぜ、怒っていたのかわからないけど……何か失礼なことをしたんなや俺の方こそ謝らないと」

 

香織と光輝の言葉に苦笑するリリアーナ。姉として弟の恋心を察している為、意中の香織に全く意識されていないランデル殿下に多少同情してしまう。まして、ランデル殿下の不倶戴天の敵は全くの別人である事を知っているので尚更であった。

因みに、ランデル殿下がその不倶戴天の敵に会った際、一悶着起こし、狩人に溜息を吐かせる事になるのだが……其れは又別の話である。

リリアーナは、現在十四歳の才媛である。また、その容姿も非常に優れており、国民にも大変人気のある金髪碧眼の美少女である。性格は真面目で温和、しかし、堅すぎると言う事も無い。TPOを弁えつつも使用人達と共に気さくに接する人当たりの良さを持ち会わせている。

召喚された光輝達にも、王女としての立場だけでは無く、一個人としても心を砕いてくれている。彼等にとって関係の無い自分達の世界の問題に巻き込んでしまった事への罪悪感もある様だ。

そう言った訳で、率先して生徒達と関わるリリアーナと彼等が親しくなるのに時間は掛からなかった。特に、同年代の香織や雫達との関係は非常に良好で、今では愛称と呼び捨て、タメ口で言葉を交わす仲である。

 

「いえ、光輝さん。ランデルのことは気にする必要はありませんわ。あの子が少々暴走気味なだけですから。それよりも……改めて、お帰りなさいませ、皆様。無事のご帰還、心から嬉しく思いますわ」

 

リリアーナはそう言うと、ふわりと微笑んだ。香織や雫と言った美少女が身近にいるクラスメイト達だが、その笑顔を見るや否や挙って頬を染めた。リリアーナの美しさには、二人には無い洗練された王族としての気品や優雅さと言う物があり、多少の美少女慣れでは太刀打ち出来よう筈も無い。

現に、永山組や小悪党組の男子は顔を真っ赤にしてボーっと心を奪われている上、女性陣ですら頬を薄らと染めている。異世界で出会った本物のお姫様オーラに現代の一般生徒が普通に接しろと言う方が無茶である。昔からの親友の様に接する事が出来る香織達の方が可笑しいのだ。

 

「ありがとう、リリィ。君の笑顔で疲れも吹っ飛んだよ。俺も、また君に会えて嬉しいよ」

 

さらりと気障(キザ)な台詞を爽やかな笑顔で言ってしまう光輝。繰り返すが、光輝に下心は一片も無い。生きて戻り、再び友人に会えて嬉しい、只其れだけなのである。単に自身の容姿や言動の及ぼす効果について病的に鈍いだけなのだ。

 

「えっ、そ、そうですか?え、えっと」

 

王女という立場上、リリアーナは、国の貴族や各都市、帝国の使者等から御世辞交じりの褒め言葉を貰う事には慣れている。それ故に笑顔の仮面の下に隠れた下心を見抜く目も自然と養われている。

それ故、光輝が一切下心無く素で言っているのも分かってしまう。そう言った経験は家族以外では殆ど無い為、つい頬が赤くなってしまうリリアーナ。どう返すべきか返答に困り、オロオロしてしまう。こう言ったギャップもまた、人気の一つだったりする。

光輝は相変わらずニコニコと笑っており、自分の言動が及ぼした影響に気が付いていない。それに、深々と溜息を吐くのはやはり雫であった。苦労性が板に付いてきている。本人は断固として認めないだろうが。

其れと同時に、雫は一抹の寂しさに似た物も感じていた。狩人が居れば、諸々共有出来ただろう。彼女からしてみれば光輝のストッパー第二号と言っても過言では無いのである。その狩人が、今此処に居ないと言う事実に、更に深い溜息を吐いた。

 

「えっと、兎に角お疲れ様でした。お食事の準備も、清めの準備も出来ておりますから、ゆっくりお寛ぎ下さいませ。帝国からの使者様が来られるには未だ数日は掛かりますから、お気になさらず」

 

どうにか乱れた精神を立て直したリリアーナは、光輝達を促した。

光輝達が迷宮での疲れを癒ししつつ、居残り組にベヒモスの討伐を伝え歓声が上がったり、此により戦線復帰メンバーが増えたり、愛子先生が一部で“豊穣の女神”と呼ばれ始めている事が話題になり、彼女を身悶えさせたりと色々とあったが、光輝達はゆっくりと迷宮攻略で疲弊した身体を癒した。香織は内心、迷宮攻略に戻りたくてそわそわしていたが。

其れから三日が経過し、遂に帝国の使者が訪れた。

現在、謁見の間にて、レッドカーペットの中央に帝国使者が五名程たったままエリヒド陛下と向き合っている。光輝達、迷宮攻略に赴いたメンバーと王国の重鎮、そしてイシュタル率いる司祭数人も揃っていた。

 

「使者殿、よく参られた。勇者方の史上の武勇、存分に確かめられるが良かろう」

「陛下、此度は急な訪問の願い、聞き入れて下さり誠に感謝致します。して、どなたが勇者様なのでしょう?」

「うむ、先ずは紹介させて頂こうか。光輝殿、前へ出てくれるか?」

「はい」

 

 

陛下と使者の定型的な挨拶の後、早速、光輝達の御披露目となった。陛下に促され前に出る光輝。召喚された頃と違い、未だ二ヶ月程度しか経過していないが、随分と精悍な顔付きになっている。

此処には居ない王宮の侍女や貴族の令嬢、居残り組の光輝ファンが見れば間違いなく熱い吐息吐息を漏らし、うっとりと見蕩れていたに違いない光輝にアプローチを掛けている令嬢は方だけで二桁にも上るのだが……彼女達のアプローチですら「親切で気さくな人達だなぁ」としか感じていない辺り、光輝の鈍感は極まっている。令嬢方からしてみれば光輝は、心折で気さくな人物であるに違いない。

 

「ほぅ、貴方が勇者様ですか。随分とお若いですな。失礼ですが、本当に六十五階層を突破したので?確か、彼処にはベヒモスと言う化け物が出ると記憶しておりますが……」

 

使者は、光輝を観察する様に見やると、イシュタルの手前露骨な態度は取らないものの、若干疑わしげな眼差しを向けた。使者の護衛の一人は、値踏みする様に上から下までじろじろと眺めている。

その視線に居心地悪そうに身動ぎしながら、光輝が答える。

 

「えっと、ではお話ししましょうか?どの様に倒したとか、あっ、六十六層のマップを見せるとか如何でしょう?」

 

光輝は信じて貰おうと色々提案するが、使者はあっさり首を振り、ニヤリと不適な笑みを浮かべた。

 

「いえ、お話は結構。それよりも手っ取り早い方法があります。私の護衛一人と模擬戦でもして貰えませんか?それで、勇者殿の実力も一目瞭然でしょう」

「えっと、俺は構いませんが……」

 

光輝は若干戸惑った様にエリヒド陛下を振り返る。エリヒド陛下は光輝の視線を受け、イシュタルに確認を取る。イシュタルは頷いた。神威を以て帝国に光輝を人間族のリーダーとして認めさせる事は簡単だが、実力至上主義の帝国に、早々に本心から認めさせるには、実際戦って貰うのが手っ取り早いと判断したのだ。

 

「構わんよ、光輝殿、その実力、存分に示されよ」

「決まりですな。では場所の用意をお願いします」

 

こうして急遽、勇者対帝国使者の護衛という模擬戦の開催が決定し、一行はぞろぞろと場所を変えるのだった。

光輝の対戦相手は、何とも平凡そうな男だった。高過ぎず低過ぎない身長、特徴という特徴が無く、人混みに紛れれば直ぐ見失ってしまいそうな程、平凡な顔立ち。一見すると全く強そうだとは思えない。刃引きした大型の剣をだらんと無造作にぶら下げており、構えらしい構えも取っていなかった。

光輝は、舐められているのかと些か怒りを抱く。最初の一撃で度肝を抜いてやれば真面目にやるだろうと、最初の一撃は割と本気で撃ち込む事にした。

 

「いきます!」

 

光輝が風となる。“縮地”により高速で踏み込むと、豪風を伴って唐竹に剣を振り下ろした。

並の戦士なら視認する事も難しかったかも知れない。勿論、光輝としては寸止めするつもりだった。

だが、その心配は無用だった様だ。寧ろ、舐めていたのは光輝の方だったと証明されてしまう結果となった。

 

「アッ!?」

 

不意に襲った衝撃に短い悲鳴を上げながら吹き飛んだのは光輝の方であった。

護衛の方は剣を掲げる様に振り抜いたまま光輝を睥睨している。光輝が寸止めの為、一瞬力を抜いた刹那にだらんと無造作に下げられていた剣が跳ね上がり、光輝を吹き飛ばしたのだ。

光輝は地を滑りながらなんとか体勢を整え、驚愕の面持ちで護衛を見る。寸止めに集中していたとは言え、護衛の攻撃が殆ど視認できなかったのだ。護衛は掲げた剣をまた力を抜いて自然な体勢で下ろした。そう、先程の攻撃も動きが余りにも自然すぎて危機感が働かず反応出来なかったのである。

 

「……おい、勇者。元々、戦いとは無縁か?」

 

物理的にも精神的にも衝撃覚めやらぬ光輝に、少し目を眇め、考える様な素振りを見せていた護衛の男は、不意に随分と不遜を感じさせる態度と声音で尋ねた。行き成りの質問になっ光輝は声を詰まらせつつも答える。

 

「えっ?えっと、はい、そうです。俺は元々ただの学生ですから」

「……それが今や“神の使徒”か」

 

護衛の男は、チラッとイシュタル達聖教教会関係者を見ると、不機嫌そうに鼻を鳴らした。此又ごく自然な歩みを以て光輝との距離を詰め始める。

 

「構えな、勇者。これ以上腑抜けている様なら……」

 

光輝の背筋が粟立つ。続きの言葉は言われずとも十分伝わった。強烈な殺気と共にけたたましく警鐘を鳴らすほんのうにしたがい。咄嗟に聖剣を翳せたのは僥倖だった。

 

「っうう!?」

 

ガァン!!と盛大な火花を散らしながら凄まじい衝撃音が響き渡る。跪いた状態で真上から振り下ろされた無骨な剣を受け止めながら、「いつの間に間合いを詰められた!?」と、光輝が驚愕に思考を奪われていると、至近距離から見下ろす護衛の男と目が合う。途端、更に濃密な殺気が光輝の身体を貫く様に叩き付けられた。それは最早、光輝が今までで感じたものと同等、或いはそれ以上であった。

 

「ぁ、っ、うぁわぁああああっ!!!」

 

光輝は、無意識に悲鳴とも雄叫びとも付かない絶叫を上げ、全身から凄絶な魔力の奔流を奔らせた。

護衛の男がその力に押されて体勢を崩す。光輝はその隙を突いて聖剣の一撃を繰り出した。しかし、相手に裂傷を刻もうかという寸前、聖剣の動きが明らかに鈍る。それは、模擬戦だからと言う寸止めの意志が働いたから働いたから、と言うよりもっと無意識的なものだった。

護衛の男の目がスッと細められた。そして……

 

「やめだ」

 

そんな冷めた呟きと共に、崩れていた筈の体勢をあっさり立て直すと、いとも簡単に光輝の一撃を躱して距離を取った。そのまま、剣を鞘に収めてしまう。

 

「え?えっ?」

 

当然、行き成りの事に困惑するしか無い光輝に、護衛の男は冷めた眼差しを向けながら口を開いた。

 

「なぁ、お前さん、一体何と戦うか理解してんのか?」

「え、えと、それは当然、魔物とか魔人族とか……そう言う人々を苦しめているものです」

「“魔物とか魔人族とか”ね。……そんな腑抜けた剣で出来んのか?俺はとてもそうは思えねぇな。まして、俺達を率いて戦うなんざ、まるで夢物語でも語られた気分だ」

 

光輝の返答を含みを持ってリピートしながら、嘲るでも侮るでも無く、ただ淡々と事実を語るかの様に酷評する護衛の男。此には流石の光輝もカチンときた様で、咄嗟に反論を行おうとする。

 

「腑抜けとか夢物語とか……失礼じゃないですか?俺は本気で──」

「傷付ける事も、傷付く事も恐れているガキに何が出来る?剣に殺気一つ込められない奴が、御大層な事言ってんじゃねぇよ。“本気”なんて言葉はな、もうちょい現実ってモンを見てから言え」

 

自分の言葉を遮って放たれた言葉に、光輝は思わず口を噤んだ。直ぐに、「恐れてなどいない」などと反論しよとするが、その前に護衛の男は踵を返してしまう。

勇者に対して不遜な言動を取ったばかりか、自分達の方から模擬戦を申し込んでおいて、真面に戦う事もせず一方的に終わりを宣言するその態度に、王国や教会側の観戦者達も俄にざわつき始めた。それに後押しされる様に、光輝が抗議の声を上げようとする……が、その前に、老成した声音が護衛の男へ注がれた。

 

「ふむ、勇者殿は未だ発展途上。経験が足りぬのは仕方の無い事。そう結論を急ぐ必要も無いでしょう。取り敢えず、今の発現は勇者殿を気遣ったものとして受け取っておきましょう。でなければ、如何に貴方と言えど聖教教会の教皇として信仰心を確かめなくてはならなくなりますからな。分かっておいででしょうな。──ガハルド皇帝陛下」

「……チッ、やはりバレていたか。相変わらず食えない爺さんだ」

 

護衛の男が周囲に聞こえない位の声量で悪態を吐く。そして振り返りながら右耳にしていたイヤリングを取った。すると、まるで霧が掛かった様に護衛の男の周囲の空間がぼやけ始め、それが晴れる頃には全くの別心が現れた。

四十代程の野性味の溢れる男だ。短く刈り上げられた銀髪に狼を連想させる鋭い碧眼、スマートでありながらその身体は極限まで引き絞られたかの様に筋肉がミッシリと詰まっているのが服越しでも分かる。その姿を見た瞬間、周囲が一斉に喧騒に包まれた。

 

「ガ、ガハルド殿!?」

「皇帝陛下!?」

 

そう、この男、何を隠そうヘルシャー帝国現皇帝、ガハルド・D・ヘルシャーその人である。まさかの自体にエリヒド陛下が眉間を揉み解しながら尋ねた。

 

「どう言うおつもりですかな、ガハルド殿」

「これはこれは、エリヒド殿。碌な挨拶もせず済まなかった。ただな、どうせなら自分で確認した方が早いだろうと一芝居打たせて貰ったのよ。今後の戦争に関わる重要な事だ。無礼は許して頂きたい」

 

謝罪すると言いながら、全く反省の色が無いガハルド帝。それに溜息を吐きながら「もう良い」と頭を振るエリヒド陛下。光輝達は完璧に置いてけぼりである。なんでも、この皇帝、フットワークが恐ろしく軽いらしく、この様なサプライズは日常茶飯事なのだとか。

 

「イシュタル殿。勿論、貴方の言う通り、先の発言は危うい様子の勇者殿への助言のつもりだ。我等が神の使徒を侮る筈が無い。粗野な言葉遣いは、国柄と言う事で御容赦を」

 

此又何処か白々しさの滲む声音でイシュタルに謝罪なのか何なのかよく分からない感じの返答をするガハルドに、イシュタルは目を眇めつつも穏やかな表情を崩さずに「分かっているとも」と言うように頷いた。

その後、微妙な雰囲気を散らす様に場が取り繕われ、形式的な会談が為される中で帝国からも将来性を理由に勇者を認めるとの何とも機械的な返答が為された事で、一応今回の訪問の目的は達成された様であった。

その晩、王宮の一室での事。部下に本音を聞かれたガハルドは鼻を鳴らしながら答えた。

 

「ありゃあ、ダメだな。只の子供だ。理想とか正義とかでそう言う類いのものを何の疑いも無く信じている口だ。なまじ実力とカリスマがあるから質が悪い。自分の理想で周りを殺すタイプだな」

「確かに。それに、如何も魔物と魔人を同列に語っている様でした。意識的なら問題ありませんが……」

「まぁ、間違い無く無意識だろうよ。それも、“無知である事を良しとする故に”だ。ある意味、良くあんなあり方で生きてこれたもんだ。そう言う世界だったのか、能力の高さ故か。どっちにしろ、面倒な奴である事には変わりはねぇが、“神の使徒”である以上蔑ろには出来ねぇ。取り敢えず、合わせて上手くやるしかねぇだろう」

 

如何やら、皇帝陛下の中で勇者光輝の評価は零点寄りの赤点であるらしい。ただ、数ヶ月前迄戦いとは無縁の只の学生であったという点と、その能力の高さを思い出してガハルドは肩を竦め、保留を付けて結論を口にした。

尤も、ガハルドが最も興味を持っていたのは、現在行方不明扱いを受けているこの世界に来て早々にメルドを打ち負かし、異質な雰囲気と格好をしていたという狩人という男であった。だが、狩人の失踪については光輝との一件の後、エリヒド陛下によって齎されたものであり、それを聞いたガハルドは軽く肩を落としたのはまた別の話であろう。

 

「まぁ、魔人共との戦争が本格化したら変わるかもな。見るとしてもそれからだろうよ。今は小僧共に巻き込まれないよう上手く立ち回る事が重要だ。教皇には気を付けろ」

「御意」

 

その様な評価を下されているとは露程にも思わず、光輝は、翌日に帰国するという皇帝陛下一行を見送る事となった。用事が済んだ以上、留まる理由も無いと言う事だ。実にフットワークの軽い皇帝である。

因みに、早朝訓練をしている雫を見て気に入った皇帝が愛人に如何だと割と本気で誘ったというハプニングがあった。雫は丁寧に断り、皇帝陛下も「まぁ、焦らんさ」と不敵に笑いながら引き下がった為、特に大事になった訳では無かったが、その時、光輝を見て鼻で笑った事で光輝はこの男とは絶対に馬が合わないと感じ、暫く不機嫌であった。

雫の溜息が増えた事は言うまでも無い。

未だ邂逅は遠く、雫の心労を分かち、労る者は遥か遠い。




遅くなりました、リアルの都合やら時期柄エルデンリングが楽し過ぎて執筆してる時間が殆ど無く、全く筆が進まんかったです。
また、誤字、脱字等の報告もしてくれると幸いです。

狩人の能力値、99のカンストを越えさせる?

  • 越えさせる
  • 越えさせない
  • 任せる
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