...あ、ヨツンヘイムはカットします。
トンキーの話は、またいつか、することがあれば。
今日が何日で、今が昼か夜かなんて言うのはわからない。
だって、ここはゲームの中なんだから。
今は、アスナと共に無機質な廊下を歩いている。
鳥籠のパスワードはアスナが突破してくれた。
自分は役にたっていないのだから、置いて行ってくれと言ったが、アスナは一緒に出ようと言ってくれた。
R「なにも、ない...ですね」
As「そうね...」
本当に何もない。
この脱出を妖精王が知ったらどうなるだろうか。
おそらく、いや絶対に怒り狂い、実験とやらに使われるのだろう。
それは嫌だ。
しかし、ここで引き返せば、一緒に出ようと言ってくれたアスナにも申し訳が立たない。
それに、この世界にいるであろうユイトにも。
だから。
R「...行きましょう」
As「えぇ、行きましょう」
目の前のドアを、またしてもアスナが操作し、ドアが開く。
ドアをくぐると、そのドアは消えてしまった。
戻るつもりのない場所ではあるが、退路を消されたのは痛い。
ドアの先は、緩やかなカーブになっていた。
自分もアスナも、右側の壁に寄って歩くことにした。
しばらく歩いても、何もない。
ここはもしかして、円形の通路で、ひたすらぐるぐるさせられているのか。
あるいは、妖精王は自分たちが脱出を試み、ここで詰ませるように設計したのか。
と考え、後者はあり得ないと捨てた。
後者なら、最初からパスコードを扉の外側に設置して置くだのしておけば最初から出れない。
R「...?アスナさん、あれ...」
As「...?」
目に入ったのは一枚のポスター。
それを見てみると、《ラボラトリー全図 フロアC》と書かれている。
しかし、このフロアは円形の通路以外は何もないようだ。
下のフロアBや、フロアAに行けば様々な施設が存在しているようだ。
フロア間の移動はエレベーターで、そのエレベーターの行く線をたどって下に目線をずらしていくと、《実験体格納室》と書かれていた。
As「実験体...」
R「格納室...」
妖精王のアバターを操っている何者かが非合法な実験をやっていることはこれで確定した。
確かに合理的だ。
仮想世界なら、どんなことをしたってボタン一つでデータ消去など容易い。
そして、《実験体》という言葉。
ここに、自分たちと同じく、旧SAOから出られなくなった約300人ほどのプレイヤーがいるのだ。
少し悩み、足早にエレベーターの方へ向かう。
すると、右側に三角印を付けたスライドドアが現れた。
下向きの三角を押すと、即座にドアが開いた。
それに乗り込み、一番下のボタンを押す。
すると、エレベーターが下がるときに味わう独特の下降感が身を包んだ。
そして、減速感が身を包み、完全に制止すると、目の前の壁に縦線が入り、それが左右に開いた。
R「...!」
どうやら、エレベーターから直通で実験室ではないようだ。
伸びている無機質な廊下を、また右に寄って歩く。
今度は一直線で、向こうには扉らしきものが見えている。
R「...人、いないですね」
As「警戒、されてないんでしょうね。実際、ここから絶対出られる保証もないですから」
そう小声で言いながら、ドアに近づいていく。
もしこのドアがロックされていたら、上の回でログアウトできるツールを探そう...そう考え、ドアに近づいた瞬間に、音もなくドアがさっと開いた。
続いて強烈な光が目に入り、急いで手をかざして光を緩和する。
だんだんと光に慣れてきたその目に入ったのは、巨大な部屋だった。
イベントホールのような、いつかのピアノの発表会で行った時の会場のような、そんな部屋だった。
その中には、等間隔で柱のようなものが設置されており、視野に入る中でも100はありそうだった。
その柱のうち一本に近づく。
思いのほか太さはそこまでではなく、高さもそこまでではなかった。
しかし、柱の上、平面の上に浮かんでいるものは...。
R「うっ...」
人間の、脳髄だった。
理科か何かの資料でしか見たことはないが、脳髄は確かこんな形をしていたと思う。
それが等間隔で並んでいる柱の上全てに浮いている。
もちろん本物ではない。
ホログラムで構成された、仮想の脳髄だ。
R「...?これは...」
脳髄の下にある、謎のグラフ。
そのグラフの横に、詳細なログが流れていく。
《Terror》《Pain》《flee》などの英単語が流れていく。
この脳の持ち主は、苦しんでいる。
直感的にそう思った。
As「待っててね...すぐ助けるから...」
そう言った直後、人間のモノとは思えない声が聞こえ、さっと身を潜めた。
柱の陰から、声がした方向を覗き見る。
R「...!?」
As「...!」
目線の先にいたのは、ナメクジによく似た生物だった。
旧SAO61層は、《むしむしランド》と呼ばれていた。
その名の通り、虫系モンスターが大量に出てくる層だった。
突破するまで自分はユイトの後ろに隠れてやり過ごしたものだが、そんなことは今は良い。
その61層にいたナメクジ系のモンスターにそっくりな2体は、一つの脳髄を見てなにかを言い合っている。
「オッ、またこいつスピカちゃんの夢見てるよ。B13と14がフィールドがスケールアウト。16もかなり出てるねぇ...大興奮」
「偶然じゃないのか?まだ三回目だろ?」
「いやいや、感情誘導回路形成の結果だって。スピカちゃんは僕がイメージを組んで記憶領域に挿入したのに、この頻度で現れるのは閾値を変えてるでしょ」
「うーん、とりあえず継続モニタリングサンプルにあげとくか...」
明らかに人とは思えない会話に、仮想世界なのに思わず鳥肌が立つ。
一つ、また一つの柱を経由するうち、最深部が見えてくる。
黒い立方体。
おそらくあれがシステムコンソールと呼ばれるものだろう。
コンソールの周りには遮蔽物はもうない。
R「...」
As「...」
アスナと息を合わせ、コンソールに向けて走り出す。
足音は出さず、しかし最速で。
後ろから声がかかるかもしれないという恐怖が、足を重くする。
コンソールにたどり着くと同時に、ナメクジの方を見る。
幸い、まだ気が付いていない。
コンソールに刺さっているか-度を祈りながらスライドさせる。
ポーンという音と共に、ウィンドウが開く。
開いたウィンドウは英語がびっしりとある。
端から確認し、《Transport》の文字を見つけ、タップ。
どうやら、広すぎるこの部屋の各所に飛べるものらしいが、もうここに用はない。
別の場所かと戻ろうとすると、アスナが何かを見つけ、それをタップする。
《
その下に表示されているOKに触れようとした時、後ろから何かに引っ張られた。
R/As「...!!」
必死にOKをタップしようとするが、引っ張られている力が強く、一向に押せる気配がない。
「あんたら、誰?こんなとこで何やってんの?」
As「ちょっと下ろしてよ!私たちは須郷さんの友達よ。ここを見学させてもらってたんだけど、もう帰るところよ!」
「へぇ?そんな話聞いてないなぁ?お前なんか聞いてる?」
「いやなんも。てかこんなとこ、部外者に見せたらヤバイだろ」
アスナの言い訳空しく、自分たちはナメクジに絡めとられてしまった。
「ん?...いや待てよ?」
ナメクジが自分とアスナの顔を交互に覗き見る。
「あんたらあれでしょ。須郷チャンが世界樹の上に囲ってるっていう」
「あー。聞いたなそんな話。ずるいなぁ、ボスばっかこんなかわいい子たちを」
R「...!」
足を伸ばしてタップしようとしたが、届くかどうかの時に、ウィンドウが消えた上に足まで絡まれてしまった。
「こらこら、暴れちゃだめだよ」
As「痛っ...やめて...離してったら、この化け物!」
「あーひどいなぁ。これでも深部感覚マッピングの実験中なんだぜ?」
「そうそう。この体操るの結構苦労するんだよ」
As「貴方たちも科学者なら、こんな非合法的な研究に手を貸して、恥ずかしいと思わないの!?」
「んー。実験動物の脳を露出させて電極刺すよりは人道的だと思うけど?」
「そうそう。たまにすっげえ気持ちい夢とか見せてやってんだぜ?あやかりたいぐらいのもんさ」
R「...狂ってます...!」
二人で睨んだところで、どうしようもないのはわかっているが、これくらいしかできることがない。
「ボスは出張中なんでしょ?お前、向こう行って指示聞いてきてよ」
「えー?しょうがねえなぁ。ヤナ、この子よろしく。一人で楽しむなよ?」
そう言って、一体のナメクジが消えた。
それを見て、再び暴れるが、それも空しい行動にすぎない。
As「離して!離してよ!ここから出して!!」
「ダメだよぉ。ボスに殺されちゃうよ?それよりもさ、二人も共、こんななんもないところにいたら退屈でしょ?一緒に電子ドラッグプレイしない?僕も人形相手は飽き飽きでさぁ...」
そう言いながら濡れた触手が近づいてくる。
必死になって追い払おうとするが、手足が封じられているうえ、着ているものがワンピースと非常に薄着のため、簡単に服の中に侵入されてしまう。
不快感をできる限り我慢し、抵抗する気力を無くしたように見せ、反撃する機会を狙う。
触手の一本が口元に近づいてきた。
唇を割って侵入してこようとするので、逆に口を開けて思い切り嚙みつく。
「ギャッ!?いだだだだ!!」
痛がっているところに、ナメクジが戻ってきた。
「お前なにやってんの?」
「なんでもないっす。それよりボスは?」
「怒り狂ってたよ。今すぐ籠の中戻して扉のパス変えてずっと監視しとけって」
「ちぇ、せっかく楽しめると思ったのになぁ」
そう言って、ナメクジの目線が二人から外れた瞬間に、アスナが足でカードを抜き取った。
「ほらほら、暴れちゃだめだよ」
「またねー。チャンスがあったらまた遊ぼうね」
R「もう、勘弁してほしいです」
ナメクジが戻っていくのを確認した後、アスナが抜き取ったカードキーを見る。
今のところ、これが最後の希望だ。
As「...きっと、来るよね」
R「はい。きっと来ます」
あの人たちは、きっと来る。
だって、私たちの、
ナメクジのシーンって、若干凌辱だよね。
あれ、見るの結構つらかった。
正直、ライブレポート。読んでてどう感じた?
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良かった
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伝わらない、だめだった