今まで読んでくださった皆様には感謝しかないです、本当にありがとうございます。
それでは、どうぞ。
Yu「っ...はぁ...っ...!」
アイツを倒すために振り絞った力が、すべて消え失せた。
体一つ満足に動かせず、地に全身をつけたまま、何もできずにいた。
視線だけをどうにか動かして、アスナたちの方を見る。
キリトが彼女らを縛り付けていた鎖を切り、キリトはアスナと抱擁を交わしている。
Yu「ぁ...俺も、いかな、きゃ」
どうにか体を持ち上げて、なんとかりんの元に行く。
R「あっ...ユイトさん...わっ...!」
Yu「...っはは...だっせぇ、俺」
力が抜けて、りんにもたれかかっている俺。
R「そんなことは、ないです。ユイトさんは、私たちを、守ってくれました」
Yu「...守って、ないじゃん...!りんも、アスナも...あんなに...!...っ?」
R「自分を責めないでください。私もアスナさんも、無事ですから...」
Yu「...っ...!」
りんの言葉で、今まで溜まってたものが、目から滴って吐き出されて行く。
どうにか嗚咽だけは押さえて、声は殺した。
R「大丈夫です。あなたは、よく頑張りましたから...」
Yu「...これ、以上...甘やかさないでくれ...これ以上、りんの前で...泣きたくない...」
頭を撫でられて、耳元で甘やかされているのに、泣かない男はいないと思う。
K「あー...お二人さん、そろそろいいか?」
Yu「...ん、悪い...ありがと、りん。もう、大丈夫」
キリトに声を掛けられ、ようやくりんから離れられた。
K「とりあえず、帰ろうか」
Yu「あぁ。...けど、俺らって自分の意思で帰れるのか?」
K「そこは、俺の裏技だ。...と言うか、たぶんユイトは帰れるぞ」
そう言われて、左手を振ると、慣れ親しんだウィンドウが現れた。
ログアウトボタンを探すと、ちゃんと光っている。
Yu「あ、マジだ。...りんがログアウトしたの見てから、俺も帰るよ」
K「了解。...じゃあまずは、りんりんさんから」
R「はい...」
Yu「りんがログアウトしたら、俺もすぐ落ちる。すぐに、会いに行く」
R「はい...!待って、ます...」
りんの腕に、キリトの青い指先が触れると、りんは青い光に包まれ、足先から消えていった。
Yu「じゃあ、キリト、アスナ。また、後で...になるのかな?」
K「多分な。アスナとりんりんさんの病院一緒だし、たぶんかち合いそう」
As「そうだったら、後でユイトくんも来てね」
Yu「...了解」
左手を振り、ウィンドウを出す。
出てきたログアウトボタンを押す。
Yu「じゃあ、後で」
K「あぁ」
As「うん」
唯斗「...ん...?」
多少の眩暈を覚えながら、ナーヴギアを外す。
唯斗「何してんだ、結奈」
俺の布団の上に乗ってたのは、義妹の結奈だった。
結奈「だ、だって...お兄ちゃん帰ってこないし...」
唯斗「悪かったよ、ゲーマーの兄貴で」
結奈「それは知ってるから大丈夫だよ...えっと...好きな人は、助けられたの?」
唯斗「うん...今からその人のとこ行ってくる」
結奈「ん、行ってらっしゃい」
...本当にいい妹だ。
とりあえず外は寒そうなので、アウターを着て外に出る。
寒そうって言ったけど、訂正。
絶対に寒い。
だって、雪降ってるし。
唯斗「はぁ...さっむ」
病院までの道のりを小走りで行く。
俺はまだ、あの世界でりんを助けたことを現実と思えていない。
いや、現実ではないからおおむね間違っていない。
正確には、事実だと思っていない。
俺はただ偽りの妖精王と切り合ってただけで、束縛を開放したのも、ログアウトさせたのもキリトだ。
正直、俺なんかが会いに行っていいものかとも思う。
唯斗「...関係ねえよ、そんなこと」
俺が会いたいから会いに行くんだ。
そこに理由なんか必要あるか。
そう自分を騙し、病院への道を急ぐ。
このスピードで行けば、ギリギリ面会ぐらいはできるだろう。
そう考えているうちに、病院が見えてきた。
少し駆け足で、敷地内へ急ぐ。
正門を潜り抜け、さらにスピードを上げようとした俺は、なぜかわからないが足を止めた。
何か、寒気がした。
この先、俺のちょうど真横に存在する白いバンを超え、一歩でも踏み出せばやばいと、体がそう忠告していた。
俺が止まると、
「あれ~?なんでバレたのかなぁ...あと、来るのが遅いねぇ...僕が風邪ひいちゃったらどうするんだい?」
と、声が聞こえ、一人の男がバンの影から出てきた。
唯斗「あ、あんたは...オベイロン...?」
目の前に現れた男は、髪が乱れ、ネクタイが解けかけ、その解けているシャツからは何かの跡が浮かんでいる。
それに、この声。
あの樹の上で聞いた声と同じ。
ならば、今ここにいるこいつはオベイロンで、須郷という人間なんだろう。
須郷「そうだねぇ...僕はオベイロンだったよ...お前達ガキのせいでそうではなくなったけどねぇ...!」
そう言うと、須郷はポケットからカプセル入りの瓶を取り出し、そのカプセルを口に入れると、かみ砕きながら言った。
須郷「まだ痛覚が消えないよ...ま、いい薬があるから構わないけどさ...」
唯斗「あんた、まだなんか企んでんのか」
須郷「当然さ!まぁ、もうレクトは使えないけどね。僕はアメリカに行くよ。僕を欲しいって企業はたくさんある、今までの実験で蓄積したデータだってある、あれを使って研究を完成させ、僕は...現実世界の神になる!...あぁ、まぁ、片付けることはいろいろとあるけどね。とりあえず、君は殺すよ、ユイトくん」
そう言い終わるや否や、銀色の物体を持ってこちらに向かってくる。
当たればまずいことになると思い、咄嗟に身を捻って回避したが、バランスを崩したせいで、腕がその物体に掠る。
唯斗「...?...っ」
その物体に当たった場所が熱い。
見ると、その部分のアウターが千切れている。
いや、切られている。
その部分から何かが流れている感覚。
これは、血だ。
とすれば、須郷が持ってるその物体は...。
唯斗「あんた、病院になんてもん持ち込んでんだ...!」
須郷「ほら、立てよ」
俺の脇腹あたりに、須郷の尖った靴が蹴りこまれる。
蹴られた部分と、切られた腕が痛覚を送ってくる。
それより、こいつは殺すと言っていた。
須郷の右手に握られているのは、大ぶりのナイフ。
こいつは、これで俺を刺し殺すつもりだろうか。
それとも、首を搔き切って殺すつもりなのか。
前者なら簡単だ、心臓を貫けばそれで終わり。
後者は難しいが、俺を抑え込めばどうにかなる。
故に、この状態は非常にまずい。
須郷「ほら、立てよ、立ってみろよ。お前、あっち側で散々調子に乗ってたな?2年の結晶だとか?魔法を掴んだだとか?わかってんのか?お前みたいなゲームしか能のないガキは、本当の力なんて何も持っちゃいない、すべてにおいて劣ったクズなんだよ。なのに...僕の、この僕の足を引っ張りやがって...その罪に対する罰は、当然死だ。死以外ありえない!」
須郷が俺の腹の上に足を乗せる。
継続的に、腹と腕から痛覚が送られてくる。
目線をそいつの足から顔の方に移すと、右手を大きく振りかぶっていた。
その手の中には、あのナイフが。
唯斗「っ...!!」
無意味と分かっていながらも、反射的に目を閉じた。
すると、耳元で金属が当たる音がした。
それと同時に、頬を切られたのか、熱を帯びている。
そっちの方を見ると、ナイフがコンクリートを数ミリ抉っている。
そんな威力で降り下ろされたら、俺の顔はどうなってしまっていたのか。
そんなことを考えている間にも、須郷の右腕はもうさっきの場所にはない。
また、大きく振りかぶっている。
須郷「あれ、おかしいな...ちゃんと狙ったはずなんだけど...まぁ、いいや」
ナイフの切っ先が、さっきの衝撃で少し欠けている。
そんな些細なことはどうでもいい。
ここらは逃げる術を探さなければ。
そう思ったとき、ふと腹の重みが消えてることに気付いた。
須郷の足が俺の腹の横に移動している。
チャンスは今しかない。
須郷「死ね、小僧ぉぉぉ!!!」
ナイフが下りてくる。
人間は死の狭間で走馬灯を見るという。
一説によると、今までの経験から、どうにかその死を回避する方法を脳内検索しているとのことだ。
なんでもいい、この状況を打破する何か。
方法は...!
ーー頭の中に、
内容は、最近押し倒してくるエネミーが多いから、それの対処法を考えようというものだった。
そう言えば俺も、それに参加して。
なんか有効打を見つけて。
そんな会話が、あったような...
唯斗「...!!」
須郷「ぐっ!...何!?」
俺は右足を思いっきり叩きつけ、その反動で体を浮かせながら、左足で須郷の背中に蹴りを入れた。
右足は痛むが、この程度、動じるほどじゃない。
対して、俺が避けたことに対し、動揺半分、怒り半分で表情でこちらを見つめる須郷。
唯斗「ほんとの力は何も持ってない...それはそうだよ。俺はまだ学生だし、その手の習い事もしてない。けどさ、あんたはどうなんだよ、須郷さん。あんたは、ナイフ術の訓練でも受けてるのか」
須郷「はっ!うるさいねぇ!ガキが僕に説教なんかしてんじゃないよぉ!!」
唯斗「論点ずらすなよ...この、クズ野郎っ!!!」
俺は怒りのまま、須郷に突撃し、ナイフを持ってる腕ごと掴み、そのまま押し倒した。
ショックでナイフを手放した隙に、それを掴んで突きつける。
須郷「ひぃっ...!」
形勢が逆転したことで、須郷から余裕が消え、代わりに恐怖が現れた。
ナイフをちゃんと握り、そのまま奴の首まで持っていく。
須郷「ヒィッ!!ィィィ!!ヒィィィィ!!!」
奴の奇声で、自分が今何をしようとしているかを理解した。
このままこいつの首を切って殺してしまっては、俺はこいつと一緒、あるいはそれ以下になる。
正当防衛という言葉もあるが、別に俺は瀕死になったわけでもない。
殺すのは過剰防衛になって、それは罪になる。
それだけは、越えてはいけない一線だから。
須郷「ヒィィィィィィ...」
俺の下で、奇声が止んだ。
顔を叩いてみても、反応がない。
あまりのショックで気を失ったらしい。
これ以上乗りかかる理由もないので、とりあえず降りて、ナイフをバンの上に置く。
奴の首からネクタイを取り、手首同士を交差させ、その状態で縛る。
病院側から見えるように寝かせ、一息つく。
この時間ではもう面会の時間は過ぎてしまっただろうか。
そう思ったとき、後ろから足音がした。
和人「...唯斗」
唯斗「何だ、和人か」
そういえば、こいつも面会に行くと言っていたか。
和人「お前、その傷...」
唯斗「...須郷に、やられた」
和人「っ!?大丈夫なのか!?」
唯斗「脅したら気失って倒れたよ。そこで寝てる」
バンの方を指さすと、和人は顔を歪めた。
唯斗「...とどめさそうとか、考えんじゃねえぞ」
和人「...いや、バレたか」
唯斗「二年一緒にいれば、わかるさ。憎い奴を殺したい衝動ぐらい、抑えろよ」
和人「わかってるよ...」
唯斗「さ、二人を迎えに行こうぜ。今頃起きて待ってるよ」
そう言って、自動ドアをくぐる。
唯斗「あの...まだ面会って、大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。何号室でしょうか?」
この場面で、頬の傷に触れられないのは、ありがたかった。
エレベーターを一番上のフロアで降り、和人と途中まで同じ道を行く。
唯斗「アスナは...そっちだっけ」
和人「あぁ。...またあとで、になるのか?」
唯斗「今日は遅いし、リハビリの時にでも見学しに行くよ」
和人「わかった。アスナにも言っとくよ」
そう言って、ちょうど現れた分かれ道を、俺は左に、和人は右に。
病院内は走ることを禁止されているが、今くらいは目を瞑ってほしい。
早く、一秒でも早く。
彼女の元にたどり着きたい。
視線を名前のプレートのところで固定しながら、小走りで抜けていく。
唯斗「...ここだ」
『白金燐子』と書かれたドアの前で止まる。
ドアの右側に設置されたスリットにカードを通し、ドアのロックを解除する。
アンロック状態であることを意味する緑色のランプが光ると、ドアが開く。
何かの花の香りがする。
この香りは、確か薔薇だったか。
嗅いだことは数えるぐらいしかないが、なぜかそう思った。
室内の照明はすでに消え、雪の名残で白い光が外の窓から差し込んでいる。
その部屋の中を、一歩一歩、地面を踏みしめるようして歩く。
カーテンの目の前までたどり着いた。
けれど、ここから腕が伸びない。
カーテンを開けて、なおナーヴギアを被っている姿を見るのが、何よりも怖い。
何度も見てきたその光景を振り払い、腕を伸ばしてカーテンを掴む。
そのまま、一気に開けた。
唯斗「っ...あ...」
上体を起こし、濃い青のヘッドセットを膝に乗せ、外を眺める少女。
今まで望んでいた光景が、今目の前に広がっている。
唯斗「...りん」
小さく、囁きかける。
黒髪の少女はその言葉に反応して肩を震わせ、続いてこちらにゆっくり振り返る。
まだ、どこにも焦点が合ってないような眼が、俺を捉える。
そして、彼女の口が小さく震える。
燐子「ゆいと、さん」
あの世界でずっと聞いた、けど響きの違う声が聞こえる。
左腕をこちらに伸ばしているが、その腕は細く、弱々しい。
その手を支えるように腕を持ち、そのままりんの方へ歩く。
唯斗「全部、全部、終わったよ...」
燐子「はい...あまり、聞こえないけど...ユイトさんのこと、わかります」
右手が俺の頬に触れ、指が俺の傷の上を往復する。
燐子「終わったん、ですね...全部...」
弱い力で、抱きとめてくる彼女に従って、りんの肩口に顔を埋める。
抑える間もなく、涙がこぼれる。
止まらないそれを、どうにか拭って、りんの顔を真正面で見つめる。
唯斗「自己紹介、しておこう?」
燐子「...はい」
息を吐いて、緊張を無くす。
唯斗「...俺から。蒼闇、唯斗」
燐子「私、ですね。白金、燐子です」
どっちからともなく笑いかけ、互いを抱きしめ合う。
唯斗「お帰り、燐子」
燐子「はい...!ただいま、唯斗くん...!」
目を閉じると、金の剣を背中に吊った男と、白い剣を腰に吊った女が、手をつなぎ、向こうへ歩いて行った。
唯斗「...これで、終わった。何も、かも」
燐子「終わって、無いですよ...?ここから、始めるんですから」
唯斗「あぁ、そっか」
前書きでも本編でもこれで終わりみたいな感じ出したけどね、まだ一話だけあるの。ごめんね。
正直、ライブレポート。読んでてどう感じた?
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良かった
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伝わらない、だめだった